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『満天のゴール』 藤岡陽子 (小学館)
評価:
藤岡 陽子
小学館
¥ 1,512
(2017-10-26)

書下ろし作品。看護師として勤務しながら小説を執筆されている作者の自らの想いを書き切った集大成的作品だと言える。
今まで10作近く作者の作品は読ませていただいていますが、生き方だけでなく人生のゴールである死について言及しており感動度においてはトップであると言えます。

主人公は33歳で旦那に愛人が出来て離婚を要求されている女性奈緒、彼女が息子涼介を連れて京都北部の丹後半島にある実家に戻るところから始まるのであるが、彼女が看護師の資格を持っているのと
地域柄過疎化(限界集落)が進んでいるところがポイントとなっている。彼女に寄り添う健気な涼介(息子)はもちろんのこと、2人のキーパーソンである医者の三上と隣人の早川との関りがお互いの成長を促し人生に対する希望を読者が見出すことができる。

とりわけ三上と早川との関係が後半明らかになってゆく過程は感涙ものであって、お互いを思いやる気持ちは素晴らしいの一言であって、人生やはり捨てたもんじゃないと思わせてくれます。作中にでてくる医師が往診の度に貼ってくれる星の形をしたシールの話が印象的です。

作者は本作で生きることを常に肯定しています。本来、死というものは悲しいだけのものであるように考えられがちですが、死を人生のゴールとして捉え、苦しいことだけじゃないということを教えてくれます。思えば星空を見上げる機会も逸してきた人が多いと思われます。

自分自身の死を少しでも尊厳あるものにしたい、本書が読者に与えるものは大きいと思います。
少し深読みし過ぎかもしれませんが、女性読者をメインターゲットとして念頭にに置いて書かれていると考えられる本作、もし主人公に看護師としての資格がなかったら、本当に身勝手な夫とその愛人に翻弄された人生となっていたと思われますので、暗に女性の自立を促している面もあるのでしょうか。
いずれにしても、藤岡作品はいつも心に響きます。

評価9点
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 23:10 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『キラキラ共和国』 小川糸 (幻冬舎)
評価:
小川 糸
幻冬舎
¥ 1,512
(2017-10-25)

待望の「ツバキ共和国」の続編。いきなり鳩子が結婚していたのは度肝を抜かされましたが、もっと驚かされたのがレディー・ババこと鳩子のお母さんの登場でしょう。
全体を通して前作の各章ごとの風変わりな依頼人に対する手紙というよりも、お馴染みの登場人物たちのそれぞれのサイドストーリーというところが特徴だと言えそうです。
とりわけ鳩子が、亡くなった前妻美雪に対してあらん限りの敬意を表しているところが胸を打たれる。そしてその気持ちが例え血が繋がっていなくても、実の親子以上にQPちゃんに愛情を注いでいるところが、現実的であるかどうかは置いといて、読者に最も伝わってくるのである。

鳩子にとってはミツローさんの奥さんになるよりもQPちゃんのお母さんになることの方がプライオリティーが高かったように私には感じられ、そこが本作の最大の魅力であると思う。
こういうのを“たかが小説、されど小説”と呼ぶのであろうか。
鎌倉の四季の描写は今回も素晴らしく特に小林秀雄と中原中也との鎌倉ならではの逸話や川端康成の手紙など作者の洗練された文章と相まって心にストンと落ちてゆくし、美雪さんへの手紙に涙しそして男爵の容態を気遣う、まさに胸いっぱいの読書となりましが、それは鳩子が先代の教えを少しずつですが理解してきて成長を遂げているのが読者に伝わるからに違いありません。

評価9点
posted by: トラキチ | 小川糸 | 21:34 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ランチ酒』 原田ひ香 (祥伝社)
評価:
原田ひ香
祥伝社
¥ 1,512
(2017-11-14)

何冊か作者の作品を読ませていただいてますが、その都度次はどんなだろうかとその多彩でユニークな作風に胸を躍らせるのであるが、今回も期待を裏切られなかった。

今回は都会でしか成り立たないような「見守り屋」という仕事に従事するアラサーの祥子が主人公。彼女は離婚し子供を旦那に奪われた状況であるが幼なじみの亀山に誘われ見守り屋に従事する。見守り屋とは夜間帯専門の介護でもなくいわば付き添いの仕事であり、少なくとも眠ることは許されない。

彼女の元夫や娘との関わり合いとあとはそれぞれのエピソードで登場する依頼者たちのドラマが心地よい。そしてタイトル名ともなっているランチ酒であるが、まさに美味しい料理とお酒、これは主人公が深夜の仕事を終えてホッとリラックスが出来るひと時のことを表わしている。

彼女は自由に会うことが出来ない愛する娘への想いを育むひと時でもある。読者それぞれも抱えているものがあっても、本作を読むと主人公に共感し一緒にお酒を嗜む気持ちになることで人生ってそんなに悪くないよねと自問自答出来る作品に仕上がっている。続編希望します。

評価8点
posted by: トラキチ | 原田ひ香 | 21:17 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『シネマコンプレックス』 畑野智美 (光文社)
初出「小説宝石」。南部芸能シリーズが完結し、次のステージへと進んでいる作者の勢いが感じられる連作短編集。
タイトル通りシネコンが舞台となっていますが、作者が作家を志す前にシネコンでフリーターとして働いていたということで、作者の夢が登場人物ひとりひとりに込められた力作だと感じます。

シネコンにはいくつかの部署があり、シネコンの裏側もたっぷりと語られます。
各章それぞれの視点で語られますが描かれているのはクリスマスイブの一日というのがドラマティックでもあります。ただそれぞれの登場人物の過去が重ねられているところが物語に奥行きがあって読みごたえがあります。
バイト間の人間関係など、そのリアルさは他の小説では味わえないでしょう。

印象的なのは加藤君という小柄なイケメンの存在で彼がとっても魅力的に感じられ、彼をとりまく女性たち(映画女優も含む)の描写が巧いです。
作者のストロングポイントである、群像劇&恋バナモードが全開作品と言えそうです。
主人公格の島田さんと岡本さんとの五年前の出来事がミステリーテイストで、彼らベテランアルバイトの頑張りがあって10年間シネコンが続いてきたと思いますね。いずれにせよ、各読者にとって等身大の登場人物たちがリアルに描かれた本作、重めの作品も手掛けだした作者の王道的作品として語り継がれる日もそう遠くなさそうに思える。

評価8点
posted by: トラキチ | 畑野智美 | 21:26 | comments(0) | trackbacks(0) |-
 『たゆたえども沈まず』 原田マハ (幻冬舎)
評価:
価格: ¥ 1,728
ショップ: 楽天ブックス

アート小説と言えば作者の十八番であり、アート小説と言えば原田マハ、原田マハと言えばアート小説という言葉がしっくりと来ると読者の方も認識しているのだが、本作も代表作であると言える『楽園のカンヴァス』に勝るとも劣らぬクオリティの高い作品に仕上がっている。

『楽園〜』や『ゲルニカ〜』はミステリーを融合した作品であったけれど、本作はミステリーテイストは皆無であると言ってよく、史実に基づく正統派の文芸作品であると言って良く新たなステージに上り詰めたといってよいのではないのでしょうか。

物語の軸となっているのはゴッホとその弟テオ、そしてパリで浮世絵の販売に携わる日本人画商の林忠正と助手の加納重吉。おそらく重吉は架空の人物であると思われ、重吉とテオとの熱き友情の描写とタイトル名ともなっている当時のパリを形容した言葉の重みが、読者にとっていつまでも心に残る読書となる要因であると思え割れる。

有名画家というのは総じてドラマティックな生涯を過ごしている人が大半であるが、ゴッホもその御多分に漏れず波乱万丈の生涯であり、弟テオの支えがなければ歴史に残る画家として後世に名を残すことはなかったと思われる。
そして本作では二人の日本人の画商のパリで浮世絵を広めようと努力する心意気も熱く描かれ、ゴッホが浮世絵の影響を強く受けていることをも作者は伝えている。

作者の他のアート小説同様、ネットで絵を参照しながら読み進めてゆくと感慨深さが増す読書となるのであるが、ゴッホとテオも日本人同様、彼らにとっては異国であり生死をかけた戦いであったと思われる。
そうしてネット上ではあるが、ゴッホの作品を見ると少し理解が進んだように思えるが、作者の願いが読者に伝わった証であろうかと思うのである。
成功した人は苦難の道を歩んでいるのでしょう。読後表紙の『星月夜』を見た率直な感想である。

評価9点。
posted by: トラキチ | 原田マハ | 20:08 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ツバキ文具店』 小川糸 (幻冬舎)
評価:
小川 糸
幻冬舎
¥ 1,512
(2016-04-21)

作者の新たな代表作と言えそうな究極の再生物語。舞台は鎌倉の文具店で副業として代々代書屋を営んでいる。
主人公の雨宮鳩子はすれ違った育ての親でもある亡き祖母の後を継ぐところから物語は始まる。
祖母のことを“先代”と呼ぶところが2人の隔たれた距離感を明確に表わしており、その二人のわだかまりがいかになくなりお互いの愛情がわかりあえるまでが克明に描かれているところは素晴らしいの一言に尽きます。
じわじわと読者に伝わるのはやはり登場人物ひとりひとりの個性的な魅力と心を込めて書かれるそれぞれの手紙に尽きます。

鳩子は代書をする機会毎に、何故代書を依頼してくるのであろうというそこにまつわる人間ドラマを考察することにより成長してゆきます。そしてその成長が祖母との距離感を縮めて行ったのでしょう。
読者にとって、本文中に挟まれる肉筆の文字が圧巻でありより感動度が増したような気がします。鳩子の境遇を自分に重ねて読まれた方も多かったと推測されます。続編も出たので是非読んでみたいと思いますし鎌倉にも無性に行きたくなりました。

評価9点。
posted by: トラキチ | 小川糸 | 17:12 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』 宇江佐真理 (文春文庫)
“主人公は髪結い床(店舗)を持たない廻り髪結いの町人・伊三次(いさじ)で、北町奉行所同心・不破友之進(ふわ とものしん)の小者としての裏の顔を持つ。芸者の恋人・お文(おぶん)と所帯を持って髪結い床を持つ夢を叶えるため、仕事に励みながら、小者として様々な事件の解決の糸口を見つけていく。”(ウィキより引用)

早いもので作者の宇江佐さんが亡くなられて早や二年が過ぎ去りました。デビュー作であり直木賞候補作であった本作を改めて読むと、思い出のアルバムをめくっているような感覚となる。本作が出て既に20年の日々が過ぎ去り、直木賞候補として6度ノミネートされ(歴代トップタイの回数)、惜しくも直木賞の受賞は叶わなかったけれど、亡くなる直前まで上梓を重ねられ都合67作品(内髪結いシリーズは16作品)私たち読者を楽しませてくれました。各作品のクオリティの高さは個人的には藤沢周平のそれに匹敵するものだと思っています。思うに作者も直木賞を受賞されなかった悔しさをばねとして頑張ってこられたように思うのである。
本作が時代小説全体に残した功績は甚大であると思います。それは読者層も含めて数年前の“みをつくしシリーズ”にも繋がっていると思います。一番の特長はどちらも市井物でありチャンバラ(武術)シーンがないことが上げられると思われます。
みをつくしシリーズは完全に主人公に読者が乗り移って読み進め、感情移入する作品として成功しましたが、本作は主人公の伊三次だけでなく恋人役(のちに妻となります)お文(おぶん)をはじめとするサブキャラクターが伊三次以上に魅力にあふれている点で、各編主人公が変って行き読者を楽しませてくれます。
作者は、「(このシリーズは)編集者がもう要らぬと言わない限り、書かせていただくつもりである」「伊三次とともに現れた小説家なので、伊三次とともに自分の幕引きもしたいと考えている」と述べているほどで、いわば作者のライフワーク的作品とも言え、登場人物の成長や変化が作者だけでなく読者の変化をも気づかせてくれるところが凄いなと読み返しながら強く感じました。

シリーズ序盤は共に25歳の伊三次とお文の恋模様が気になりますが、基本的には恋だけでなく泣けて笑えます。
とりわけお文のキャラが素晴らしく、そのいじらしさは圧巻で可愛く思わない男はいないと思いますし、シリーズの成功の最大のポイントとなっているのでしょう。
ディープな宇江佐ファンなら他の作者の作品の女性と比べてみて楽しむこともできるでしょう。

気風の良い江戸っ子言葉が再読しても印象的であり、天国にいる作者とお文を重ね合わせて読むと本当に目頭が熱くなる読書となりました。
少しずつ再読して、何年たっても読み継がれて行けるように少しでも尽力したいと思っています。

評価9点
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posted by: トラキチ | 宇江佐真理 | 22:45 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『砂上』 桜木紫乃 (角川書店)
評価:
価格: ¥ 1,620
ショップ: 楽天ブックス

札幌近郊の江別市を舞台としたビストロで細々と働きながら作家を目指す40女の柊令央を描いた物語。
本作の出来栄えの優劣は読者によってかなり隔たりがあると思いますが、やはり直木賞という一つの到達点に達した作家だからこそ書ける作品であると思います。

出版業界とりわけ文芸の不況を露呈した作品ともいえますが、桜木作品をコンプリートしている読者とすればなんといってもプロとしてひとかどの作家になるまでの作者の過去の苦悩が主人公に乗り移った感がします。
現実を読者にこれでもかと露呈しながらもちっぽけだけれど夢や希望を見出せるのが桜木作品を読む醍醐味だと感じていますが、本作は作者の原点回帰であって読者にとってはやや消化しずらい内容のように感じた。

編集者である小川乙三の何度も書き直しさせるシビアさが読者にとってスパイスの効いたものとなって、主人公を追い詰めつつも成長させたところが唯一の読み応えであったとも言える。生半可な気持ちでは作家にはなれないという戒め的作品であり、一語一語魂のこもった言葉は桜木作品を読む醍醐味であり他の作家では味わえないことは再認識した。

評価7点
posted by: トラキチ | 桜木紫乃 | 21:52 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『若葉の宿』 中村理聖 (集英社)
評価:
価格: ¥ 1,728
ショップ: 楽天ブックス

作者は小説すばる新人賞を受賞されており、本作が受賞後の二作目の作品となる。

京都の町家旅館の娘として生まれた主人公の若葉の成長物語であるが、父親を知らず祖父母に育てられいつか自分を置いて失踪した母親に会えるかどうかという希望を捨てずに現実にもがきながら生きてゆく様が読者に伝わってきますが、シャキシャキした女性読者が読まれたら多少イライラするかもしれませんが、男性読者は可愛く思えそうなキャラとも言えます。

京都特有の町家旅館で生まれ育った女の子の成長物語ですが、古い伝統を重んじつつも新しいものに徐々に変更していかなければならない葛藤が描かれています。伝わるのはやはり、祖父母の孫に対する愛情であり挫けそうになりながらも立ち向かって行く姿が儚げで胸を打たれます。

京都の宿泊施設の実態がわかる内容であり、祖父の口利きで入った老舗旅館に勉強として働きに出る若葉ですが苦労が絶えません。友達である舞妓や板前見習いの慎太郎に背中を押されて一皮むける姿が清々しい読書となった。母親との再会ができたかどうか、凄く巧みなエンディングにやられた気持ちになった。

評価8点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 21:04 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『夜空に夜空に泳ぐチョコレートグラミー』 町田そのこ (新潮社)
新潮社の「女による女のためのR-18文学賞」受賞作家は過去にも人気作家を輩出しているけれど、本作を読んでとてつもない強力な新人が表れたと感じた。
繊細さと力強さは余程の筆力がなければ相伴わないものであるというのが私の持論であるけれど、自分の作品の世界を構築し終えているレベルに達していると思わざるを得ないのだ。
全5編からなる連作短編集であるけれど、それぞれの編にドラマが満ちています。どの編の人物もまさに崖っぷち状態であってそれをどのように打開していくのかが楽しみでもありますが、何よりも主要人物であるサチコと啓太の生きざまには肩入れしてしまいます。彼女たちの壮絶な人生を堪能するのが本作を読む行為イコールということであります。

冒頭の差し歯が外れたエピソードが秀逸で物語全体に深みを与えています。私はサチコと啓太は恋人同志かなと思いましたが実は親子でした。彼らは一見愛に飢えているように見受けられますが、実は愛に満ち溢れています。それを理解できるのは読み終えたからでありますが、。どのように繋がって行くのかを体感出来るのが読み進めて行く上での楽しみであると感じます。

とりわけ人と接するのが苦手で不器用な人生を歩んでいる自覚している読者が読めば、自分と同様あるいはそれ以上に不器用な人に邂逅し、少しずつですが自分の人生を切り開いて行こうと感じるのでしょう。感動的でもあり実益的でもある本作、是非手に取って欲しいですし、次作以降の作者の期待はとっても大きいものとなりました。

評価9点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 18:09 | comments(0) | trackbacks(0) |-