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『砂上』 桜木紫乃 (角川書店)
評価:
価格: ¥ 1,620
ショップ: 楽天ブックス

札幌近郊の江別市を舞台としたビストロで細々と働きながら作家を目指す40女の柊令央を描いた物語。
本作の出来栄えの優劣は読者によってかなり隔たりがあると思いますが、やはり直木賞という一つの到達点に達した作家だからこそ書ける作品であると思います。

出版業界とりわけ文芸の不況を露呈した作品ともいえますが、桜木作品をコンプリートしている読者とすればなんといってもプロとしてひとかどの作家になるまでの作者の過去の苦悩が主人公に乗り移った感がします。
現実を読者にこれでもかと露呈しながらもちっぽけだけれど夢や希望を見出せるのが桜木作品を読む醍醐味だと感じていますが、本作は作者の原点回帰であって読者にとってはやや消化しずらい内容のように感じた。

編集者である小川乙三の何度も書き直しさせるシビアさが読者にとってスパイスの効いたものとなって、主人公を追い詰めつつも成長させたところが唯一の読み応えであったとも言える。生半可な気持ちでは作家にはなれないという戒め的作品であり、一語一語魂のこもった言葉は桜木作品を読む醍醐味であり他の作家では味わえないことは再認識した。

評価7点
posted by: トラキチ | 桜木紫乃 | 21:52 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『若葉の宿』 中村理聖 (集英社)
評価:
価格: ¥ 1,728
ショップ: 楽天ブックス

作者は小説すばる新人賞を受賞されており、本作が受賞後の二作目の作品となる。

京都の町家旅館の娘として生まれた主人公の若葉の成長物語であるが、父親を知らず祖父母に育てられいつか自分を置いて失踪した母親に会えるかどうかという希望を捨てずに現実にもがきながら生きてゆく様が読者に伝わってきますが、シャキシャキした女性読者が読まれたら多少イライラするかもしれませんが、男性読者は可愛く思えそうなキャラとも言えます。

京都特有の町家旅館で生まれ育った女の子の成長物語ですが、古い伝統を重んじつつも新しいものに徐々に変更していかなければならない葛藤が描かれています。伝わるのはやはり、祖父母の孫に対する愛情であり挫けそうになりながらも立ち向かって行く姿が儚げで胸を打たれます。

京都の宿泊施設の実態がわかる内容であり、祖父の口利きで入った老舗旅館に勉強として働きに出る若葉ですが苦労が絶えません。友達である舞妓や板前見習いの慎太郎に背中を押されて一皮むける姿が清々しい読書となった。母親との再会ができたかどうか、凄く巧みなエンディングにやられた気持ちになった。

評価8点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 21:04 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『夜空に夜空に泳ぐチョコレートグラミー』 町田そのこ (新潮社)
新潮社の「女による女のためのR-18文学賞」受賞作家は過去にも人気作家を輩出しているけれど、本作を読んでとてつもない強力な新人が表れたと感じた。
繊細さと力強さは余程の筆力がなければ相伴わないものであるというのが私の持論であるけれど、自分の作品の世界を構築し終えているレベルに達していると思わざるを得ないのだ。
全5編からなる連作短編集であるけれど、それぞれの編にドラマが満ちています。どの編の人物もまさに崖っぷち状態であってそれをどのように打開していくのかが楽しみでもありますが、何よりも主要人物であるサチコと啓太の生きざまには肩入れしてしまいます。彼女たちの壮絶な人生を堪能するのが本作を読む行為イコールということであります。

冒頭の差し歯が外れたエピソードが秀逸で物語全体に深みを与えています。私はサチコと啓太は恋人同志かなと思いましたが実は親子でした。彼らは一見愛に飢えているように見受けられますが、実は愛に満ち溢れています。それを理解できるのは読み終えたからでありますが、。どのように繋がって行くのかを体感出来るのが読み進めて行く上での楽しみであると感じます。

とりわけ人と接するのが苦手で不器用な人生を歩んでいる自覚している読者が読めば、自分と同様あるいはそれ以上に不器用な人に邂逅し、少しずつですが自分の人生を切り開いて行こうと感じるのでしょう。感動的でもあり実益的でもある本作、是非手に取って欲しいですし、次作以降の作者の期待はとっても大きいものとなりました。

評価9点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 18:09 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ニュータウンクロニクル』 中澤日菜子 (ポプラ社)
初出「小説宝石」。作者の作品は二冊目となりますが、タイトルから醸し出される雰囲気は、まるで重松清さんが書きはるようなほのぼのした話というよりもどちらかと言えば問題点を提起するお話を想像するのであるけれど、作者はそこにマイルドさを交えているところが特徴であると言える。

作者は人生というよりも人間の一生における変化を高度成長時代の象徴のひとつであるニュータウンを取り上げて、登場する人たちの人生に彩を添えている。

この物語は全6章からなり、最初は1971年から最後は未来にあたる2021年で終わるのであるが、子供や高校生だった頃の人物が変化を遂げてゆく様が読者にとって心地よい。
いずれもが幸せな人生であったとは言い難いけれど、各時代の世相を反映したシーンを織り交ぜつつ読ませてくれる。
二章目で出てくる風変わりな転校生の正江、三章目のバブルの時代に若い男に貢ぐ陽子などが印象的であるが、主人公格である公務員の健児がニュータウンの栄枯盛衰を理解しつつも誇りを持っている姿が終盤貫かれているところが良く、本を閉じた時にじーんとくるのが心地よい。

重松氏のように踏み込みが深くなく泣けるような話ではないけれど、サラッとリアリティのある話は読者の背中を押してくれ懐かしい気持ちに浸れる。是非コンプリートしたい作家のひとりとなった。

評価8点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 16:44 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『太郎とさくら』 小野寺史宜 (ポプラ社)
評価:
価格: ¥ 1,620
ショップ: 楽天ブックス

小野寺さん三冊目ですが、作風は小路幸也と森沢明夫を足して2で割った感じという形容にしときます(笑)
タイトル名となっている太郎とさくら、2人の関係は異父姉弟で血が半分繋がっている状態であります。
この2人の実の姉弟に勝る愛情を示した作品と言えばありきたりですが、小野寺さんらしい味付けがされていて本当に癒される作品と言えます。

冒頭のさくらの結婚式に、さくらの産みの親である野口さんが登場、その野口さんと太郎、いわば血の繋がりのない二人の関わり合いが周りを変化させるのですが、本当に読んでいて心地良くふわっと包まれたような気持にさせられます。

現実的にこのような話(姉の実の父親と太郎とが同居する)はありえないのでしょうが、やはり太郎の人柄が小説内でとはいえ読者にも伝わっていくのでしょう。当初は野口と関わることはやめておいた方が良いと思ってイライラしましたが、関わることによって世界を切り開いて行くことに成功します。
もちろん、彼女(紗由)との別れなど辛いこともありますが、それも太郎にとっては成長ということになるのでしょう、読者にとっては姉と弟の愛情が伝わることにより癒された読書となったことは否定できません。

評価8点
posted by: トラキチ | 小野寺史宜 | 20:30 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『アキラとあきら』 池井戸潤 (徳間文庫)
700ページを超える大作ながら一気に読ませるところはやはり池井戸さん、只者ではありません。
もともとは10年ほど前に連載されていたものを加筆・修正された文庫オリジナルであるが、その背景としてWOWOWでのドラマ化ということでいきなりオリジナル文庫として出版されたと思われる。
同じ経営者の息子とは言え片や大企業(彬)、片や零細企業(瑛)という2人の同じ年のあきらが主人公であり、当初は2人の競争心を煽った作品であろうかと予想していたけれど、全く違ったふうに展開されるところが本作の特徴である。

過去に接点があった二人が同じ銀行に入社し、お互いの能力の高さを認め合いながら友情を育み相手の窮地を救うのに全力を尽くすところが読ませどころである。
作中でバブル全盛期にロイヤルマリン下田というリゾートマンションが登場します。読者によってはバブル時代の出来事に対して、ああ懐かしいと思われた方も多いかとは思われる。
境遇の違う二人のあきらは、どちらもナイスガイであるところが読み進めて行くうちでのキーポイントともなっているが、とりわけ階堂家の叔父さん二人の浅ましさを見れば単にバブルの時代だったという理由ではなく、やはり経営者の能力の差が大きかったと感じる。
彬には叔父さん2人や弟の龍馬のような浮かれたところがありません。

この作品は他の池井戸作品のように痛快なものではないかもしれないが、ふたりのあきらの幼少期から語られており、少年が成長を遂げる青春小説として読むとより楽しいと感じる。
とりわけ子供の時の家業の倒産から“人の為に金を貸せ”というモットーを持って銀行を選んだ山崎瑛の心意気が最も伝わった読者が多かったのかと思われる。
彼は子供の時、銀行が手を貸してくれていたら倒産しなかったのにという悔しさをバネに成長を遂げた。そして裕福である階堂家のことを羨ましいという気持ちも心の中にあったはずだと思う。
いろんな葛藤を持ちながらも自分に忠実に生きて行く瑛の姿に心を揺さぶられた。
様々な価値観がある昨今ですが、やはり私たちは大切なものを見失っていないかという自問が出来る作品であったと思う。

評価8点。
posted by: トラキチ | 池井戸潤 | 20:07 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『朗読者』 ベルンハルト・シュリンク (新潮文庫)
評価:
ベルンハルト シュリンク
新潮社
¥ 1
(2003-05-28)

松永美穂訳。
本作は1995年に刊行されて以来、数多くの国でベストセラーとなっている。
日本においては新潮クレスト・ブックスにて2000年に刊行、そして2003年に文庫化、翌2004年からは日本の文庫本におけるステータスシンボルと言っても過言ではない“新潮文庫の100冊”に都合七回ラインアップされた。

読み終えて、新潮文庫の100冊の威厳を保ってる作品であることを確認できて胸をなでおろした次第である。
この作品は私的には“反戦小説”と“恋愛小説”の融合作品であると思っている。
そしてどちらに重きを置くかは読者に委ねられているのであろうと解釈するのである。
少なくとも年上の女との火遊びを描いた作品ではありません。恐ろしく奥が深い小説です。


2人の年齢差は21歳。恋愛に年齢差がないように読書に国境はないということを痛感した。
なぜなら読み終えて2人の気持ちが本当に切なすぎるほどよくわかるからである。
おそらく再読すればもっともっとわかるであろう、離れていてもお互い心を開いていたことを・・・
何度も読み返したい名作に出会った喜び、それは読書人にとって究極の喜びにほかならないのである。
キーポイントは、21歳差は戦争を経験している世代とそうでない世代の差とも言える点である。

物語は三部構成になっていて、終始主人公であるミヒャエル・ベルクのモノローグ的なもので語られている。

まず第一部、主人公のミヒャエルは15歳。ひょんなことから21歳年上で車掌をしているハンナと恋に落ち官能的関係に陥り逢瀬を重ねる。
ハンナはミヒャエルに頻繁に本を朗読して聞かせて欲しいと求めるのであるが、ある日突然失踪する。

第二部ではなんと法廷で二人は再会する。
ここではナチ問題が取り上げられ、ハンナが戦犯者として取り上げられる。ミヒャエルは法学部の学生として裁判を傍聴します。
ハンナはナチの看守として罪を背負ってゆきます。
結果として重い罪を課せられます。
ここで問題となってくるのはハンナがミヒャエルの存在を知ってこそ、重い罪を背負ってしまったこと。
愛する人に知られたくないこと、それは彼女が文盲であることでした。
ハンナがなぜ、文盲(もんもう)であることを隠したのかこの奥の深さがこの小説を読む醍醐味だと言えそうです。
簡単に言えば、背後にある貧しい生い立ち、さらに無教養を知られたくないプライドであったのでしょう。
そしてもっと言えばミヒャエルに対する切ない愛の証のようにも感じます。

そして第三部、これはもう衝撃的な展開としかいいようがないですね。
ミヒャエルはテープに朗読したものを録音をしてハンナのいる刑務所に送り続けます。
それは世界で唯一の彼女への理解者としての行動に違いありません。
そして念願が叶って、恩赦が下り釈放される運びとなりました。
そのあとの悲しみは他の作品では味わえないレベルのものです。

この小説の最も魅力的な点は多様は解釈ができることで、実は感想も書きにくい。
私は作者も含めて、ドイツ人は戦争に対して自分たちのとった行動を深く反省していると感じます。
ハンナは戦犯者のように語られていますが、実は彼女は戦争の犠牲者なのです。
とりわけ、少なくとも同じ“同盟国”として第二次世界大戦を戦った日本の国民として生まれた読者にとって、忘れつつある過去を思い起こさせる一冊であると言える。
ハンナの切なさや苦しみ、ミヒャエルの一途な気持ち、それが朗読という行為によって読者の胸に突き刺さります。
朗読テープを聴くことによって、ハンナが独房で文字を覚えて行くシーンを頭の中で巡らせる読書、その行為が切なくて
胸が痛いのである。

現代ドイツ文学翻訳の第一人者と言って良い松永氏の端正で簡潔な日本語翻訳も素晴らしいことも付け加えておきたい。
いかに人間って潔白に生きれるかどうか。ハンナが最後にとった行動はその証であったのか。
愛を貫くことも心を打たれるのであるが、潔白に生き抜くということは本当に尊くて難しい。

あと付け加えたいのは、加齢による人間の変化というか成長ですね。
第一部で15歳の時のハンナがミヒャエルに取ったいきなり失踪という行動。
辛かったに違いありません。でも心の糧としてずっとその後踏んばるんですね。
そして第三部での出来事、もっともっと辛いはずなのに年齢を重ねて成長したミヒャエルは、結末を強く受け止めているように感じられるのですね。
これはミヒャエルの確かな成長の軌跡の物語とも言えそうです。


尚、本作は2008年に『愛を読むひと』というタイトルで映画化されたが、原作をほぼ忠実に再現しており感動的な作品に仕上がっているので機会があれば是非ご覧になって欲しいなと思う。
主演のケイト・ウィンスレットはアカデミー主演女優賞を受賞しています。

評価10点。
posted by: トラキチ | 翻訳本感想 | 19:26 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『コンビ』 畑野智美 (講談社)
評価:
畑野 智美
講談社
¥ 1,674
(2017-06-14)

いよいよ最後となりました。感慨深い読書となりましたが清々しさも漂っています。

毎年初夏の時期になるとこのシリーズが読めるということで、小路さんのバンドワゴンシリーズのように楽しみにして待っていた読者も多かったと思われます。
しかし、敢えて作者は物語に終止符を打ちました。ただ読者サイドも登場人物それぞれの通過点であることはわかっていて、あとはバトンを渡されたような気がします。

作者サイドからすれば、本シリーズは作者自身を叱咤激励する創作であったと思われます。
このシリーズを読む楽しみとして各章の視点が代るということが上げられます。
前作『オーディション』ではすべて男性視点で語られ、それはそれで熱く語られてよかったのだけれど、女性視点の話がなかった点が物足りないと感じた読者も多かったと思われます。

今回、最終巻で津田及び鹿島両ヒロインが登場、二年間待たされた甲斐がありました。
作者の作品は前作読んだわけではないけれど、ドラマ化もされた『感情8号線』で開花された女性のリアルな恋バナの巧みさは、個人的にはこの人の右に出るものはいないと言って過言ではないと思っているので(多少肩入れしてるかもしれませんが)
同様の話を津田及び鹿島両名視点で読めたのは感慨深い。

思うに、彼女たち2人の想いが物語全体にもたらす深さは計り知れないと感じます。
話が横道にそれましたが、メリーランド、ナカノシマ、インターバル、それぞれの面々はまだまだ成長途上です。
彼らがそれぞれ現実にもがきながらも未来を見据えている姿を明日の糧として本を閉じた読者が大半であると思います。
作者の次のステップに期待します。
尚、本シリーズは声を大にして映像化希望します。

評価8点。
posted by: トラキチ | 畑野智美 | 19:22 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『氷の轍』 桜木紫乃 (小学館)
評価:
桜木 紫乃
小学館
¥ 1,728
(2016-09-27)

現代作家で好きな作家を個人的に5人挙げよと言われたら必ずその中に入るであろうという桜木さんであるが、本作は桜木作品の中でもミステリー仕立てとなっているのが大きな要因であろう、少し読者の胸の内に響く度合いが少ない作品となっているように感じる。

舞台は作者十八番の北海道・釧路。いきなり身元不明の老人男性の死体があがります。捜査するのは『凍原』の松崎比呂刑事の後輩大門真由刑事。彼女の父親も元刑事であるのですが、現在闘病中であり元婦警の母親が自分の娘ではない真由を受け入れて生活しているのがポイントとなっている。
釧路→札幌→釧路→青森と事件の捜査は定年間近の片桐とと
もに追いかけてゆきます。
途中から明らかになる老人男性とある母娘との接点が作者得意の人間ドラマ風に語られて行きます。
ただ、捜査を絡めながら迫る必要性があったのかというところが母娘たちの悲しい人生をあぶりだす点において他の桜木作品ほど描かれていなかったように思えます。
あとは、殺人の動機が弱かったことにつきます。ミステリー仕立てにすることにより、主要人物の人間としての骨格がややぼやけてしまっていることが残念です。

少し難点を書きましたが、逆に桜木作品は読者にいろんな読み方を示唆してくれるのも事実であります。
たとえば両母親(真由の母の希代と行方佐知子)との比較はほとんどの読者が感じとれることだと思います。
方や自分の娘を売る母親、そして方や自分の夫が外で作った女の子を自分の実子のように育てる母親。

男性読者の私はどうしても天涯孤独の滝川老人が最も不幸に思えました。
彼が北原白秋の詩に自分の魂を込めて書いた手紙は涙を誘います。
悪意もなく報われない人生だった彼でしたが、そっとしておいた方が良かったのでしょうが、桜木作品に登場する男性はそこまで強くありません。

桜木作品、幸せの形は多様であり奥が深いのは承知の上で言わせていただけたらやはり小百合の心の内が隠されていたのが心残りだったのですが、やはりそこは読者に委ねたのでしょうか。
ひとつの作者の解答として、彼女の息子と商売を一生懸命にしている姿が読者にはくっきりと伝わったことであろうか。
やはり小百合は幸せであると信じて本を閉じざるを得なかったのが私の読み方であった。

余談ですが、本作は柴咲コウ主演でドラマ化されておりますが設定等かなり違いがあります、ドラマはドラマでそこそこ楽しめますが。

評価7点。
posted by: トラキチ | 桜木紫乃 | 19:07 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『カンパニー』 伊吹有喜 (新潮社)
評価:
伊吹 有喜
新潮社
¥ 1,836
(2017-05-22)

初出「小説新潮」。作者の作品は三冊目でありどうしても「四十九日のレシピ」の良い意味での地味なイメージが強かったのであるが、本作を読み終えて新たな代表作に邂逅できた喜びに浸れた気持ちで一杯である。
私は本作を読んで、この作者はエンターテイメントの舞台で勝負できると確信しました。個人的には本屋大賞ノミネート希望します。

老舗製薬会社の総務部で永い間勤め上げたものの妻子に逃げられた47歳の青柳、そしてオリンピックを目指していた選手に電撃引退されたトレーナーの由衣。彼らに新たな使命(舞台「白鳥の湖」を成功させること)が与えられるのですが、主役に男女二人を配置することが読者の共感を大いに呼び込むことになったと感じる。
男性読者は青柳に、女性読者は由衣に自分自身の日頃の苦しみや悩みを投影し、そして逆に男性読者は由衣に、女性読者は青柳に心をときめかせる。

作者がいかに二人に道を拓かせるのか、予想通り順風満帆とは行きません。高野という世界的なバレリーナが彼らに試練を与えるのですが、高野自身もバレリーナとしてのキャリア終盤に来ており自分自身の最後の居場所を探します。
彼のような天才にも悩みがあるのだと、読者は否応なく知らしめられることにより肩の荷がおれる気分に
浸れ、より青柳や由衣に対して励ましながらページをめくります。

本作は青柳と美波、由衣と高野との淡い恋も描かれていて清々しい気持ちで読めるのも特徴であるが、やはりバレエ団に出向してからいかに誠意を持って取り組んだ様が男性読者の私に突き刺さったことは書き留めておきたい。
彼にとって、徐々に娘が自分の方に寄り添ってきてくれたことが彼の成功に大きく繋がったことだと感じる。
そしてこの物語は脇役陣の充実が凄まじいです。青柳の元妻、社長の娘紗良、那由多など、彼らのサイドストーリーも読んでみたい気がしますが、やはり本作の魅力はタイトル名に集結されると思います。
会社、そしてバレエ団のこともカンパニーと呼び、作者も掛け合わせてネーミングしているのかもしれませんが、私は“仲間”という意味合いで捉えています。

というのは本作で最も印象的なシーン、それは新宿アルタ前でのそれであり、やはり脳裡に焼き付いて離れません。まあ読ませどころ満載の本作、是非手に取って欲しいですし、続編でまた彼らに会いたいですね。新たな苦難に出会っていたとしてもきっと切り抜けてゆくことでしょう。

評価9点
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 22:05 | comments(0) | trackbacks(0) |-