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『アキラとあきら』 池井戸潤 (徳間文庫)
700ページを超える大作ながら一気に読ませるところはやはり池井戸さん、只者ではありません。
もともとは10年ほど前に連載されていたものを加筆・修正された文庫オリジナルであるが、その背景としてWOWOWでのドラマ化ということでいきなりオリジナル文庫として出版されたと思われる。
同じ経営者の息子とは言え片や大企業(彬)、片や零細企業(瑛)という2人の同じ年のあきらが主人公であり、当初は2人の競争心を煽った作品であろうかと予想していたけれど、全く違ったふうに展開されるところが本作の特徴である。

過去に接点があった二人が同じ銀行に入社し、お互いの能力の高さを認め合いながら友情を育み相手の窮地を救うのに全力を尽くすところが読ませどころである。
作中でバブル全盛期にロイヤルマリン下田というリゾートマンションが登場します。読者によってはバブル時代の出来事に対して、ああ懐かしいと思われた方も多いかとは思われる。
境遇の違う二人のあきらは、どちらもナイスガイであるところが読み進めて行くうちでのキーポイントともなっているが、とりわけ階堂家の叔父さん二人の浅ましさを見れば単にバブルの時代だったという理由ではなく、やはり経営者の能力の差が大きかったと感じる。
彬には叔父さん2人や弟の龍馬のような浮かれたところがありません。

この作品は他の池井戸作品のように痛快なものではないかもしれないが、ふたりのあきらの幼少期から語られており、少年が成長を遂げる青春小説として読むとより楽しいと感じる。
とりわけ子供の時の家業の倒産から“人の為に金を貸せ”というモットーを持って銀行を選んだ山崎瑛の心意気が最も伝わった読者が多かったのかと思われる。
彼は子供の時、銀行が手を貸してくれていたら倒産しなかったのにという悔しさをバネに成長を遂げた。そして裕福である階堂家のことを羨ましいという気持ちも心の中にあったはずだと思う。
いろんな葛藤を持ちながらも自分に忠実に生きて行く瑛の姿に心を揺さぶられた。
様々な価値観がある昨今ですが、やはり私たちは大切なものを見失っていないかという自問が出来る作品であったと思う。

評価8点。
posted by: トラキチ | 池井戸潤 | 20:07 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『朗読者』 ベルンハルト・シュリンク (新潮文庫)
評価:
ベルンハルト シュリンク
新潮社
¥ 1
(2003-05-28)

松永美穂訳。
本作は1995年に刊行されて以来、数多くの国でベストセラーとなっている。
日本においては新潮クレスト・ブックスにて2000年に刊行、そして2003年に文庫化、翌2004年からは日本の文庫本におけるステータスシンボルと言っても過言ではない“新潮文庫の100冊”に都合七回ラインアップされた。

読み終えて、新潮文庫の100冊の威厳を保ってる作品であることを確認できて胸をなでおろした次第である。
この作品は私的には“反戦小説”と“恋愛小説”の融合作品であると思っている。
そしてどちらに重きを置くかは読者に委ねられているのであろうと解釈するのである。
少なくとも年上の女との火遊びを描いた作品ではありません。恐ろしく奥が深い小説です。


2人の年齢差は21歳。恋愛に年齢差がないように読書に国境はないということを痛感した。
なぜなら読み終えて2人の気持ちが本当に切なすぎるほどよくわかるからである。
おそらく再読すればもっともっとわかるであろう、離れていてもお互い心を開いていたことを・・・
何度も読み返したい名作に出会った喜び、それは読書人にとって究極の喜びにほかならないのである。
キーポイントは、21歳差は戦争を経験している世代とそうでない世代の差とも言える点である。

物語は三部構成になっていて、終始主人公であるミヒャエル・ベルクのモノローグ的なもので語られている。

まず第一部、主人公のミヒャエルは15歳。ひょんなことから21歳年上で車掌をしているハンナと恋に落ち官能的関係に陥り逢瀬を重ねる。
ハンナはミヒャエルに頻繁に本を朗読して聞かせて欲しいと求めるのであるが、ある日突然失踪する。

第二部ではなんと法廷で二人は再会する。
ここではナチ問題が取り上げられ、ハンナが戦犯者として取り上げられる。ミヒャエルは法学部の学生として裁判を傍聴します。
ハンナはナチの看守として罪を背負ってゆきます。
結果として重い罪を課せられます。
ここで問題となってくるのはハンナがミヒャエルの存在を知ってこそ、重い罪を背負ってしまったこと。
愛する人に知られたくないこと、それは彼女が文盲であることでした。
ハンナがなぜ、文盲(もんもう)であることを隠したのかこの奥の深さがこの小説を読む醍醐味だと言えそうです。
簡単に言えば、背後にある貧しい生い立ち、さらに無教養を知られたくないプライドであったのでしょう。
そしてもっと言えばミヒャエルに対する切ない愛の証のようにも感じます。

そして第三部、これはもう衝撃的な展開としかいいようがないですね。
ミヒャエルはテープに朗読したものを録音をしてハンナのいる刑務所に送り続けます。
それは世界で唯一の彼女への理解者としての行動に違いありません。
そして念願が叶って、恩赦が下り釈放される運びとなりました。
そのあとの悲しみは他の作品では味わえないレベルのものです。

この小説の最も魅力的な点は多様は解釈ができることで、実は感想も書きにくい。
私は作者も含めて、ドイツ人は戦争に対して自分たちのとった行動を深く反省していると感じます。
ハンナは戦犯者のように語られていますが、実は彼女は戦争の犠牲者なのです。
とりわけ、少なくとも同じ“同盟国”として第二次世界大戦を戦った日本の国民として生まれた読者にとって、忘れつつある過去を思い起こさせる一冊であると言える。
ハンナの切なさや苦しみ、ミヒャエルの一途な気持ち、それが朗読という行為によって読者の胸に突き刺さります。
朗読テープを聴くことによって、ハンナが独房で文字を覚えて行くシーンを頭の中で巡らせる読書、その行為が切なくて
胸が痛いのである。

現代ドイツ文学翻訳の第一人者と言って良い松永氏の端正で簡潔な日本語翻訳も素晴らしいことも付け加えておきたい。
いかに人間って潔白に生きれるかどうか。ハンナが最後にとった行動はその証であったのか。
愛を貫くことも心を打たれるのであるが、潔白に生き抜くということは本当に尊くて難しい。

あと付け加えたいのは、加齢による人間の変化というか成長ですね。
第一部で15歳の時のハンナがミヒャエルに取ったいきなり失踪という行動。
辛かったに違いありません。でも心の糧としてずっとその後踏んばるんですね。
そして第三部での出来事、もっともっと辛いはずなのに年齢を重ねて成長したミヒャエルは、結末を強く受け止めているように感じられるのですね。
これはミヒャエルの確かな成長の軌跡の物語とも言えそうです。


尚、本作は2008年に『愛を読むひと』というタイトルで映画化されたが、原作をほぼ忠実に再現しており感動的な作品に仕上がっているので機会があれば是非ご覧になって欲しいなと思う。
主演のケイト・ウィンスレットはアカデミー主演女優賞を受賞しています。

評価10点。
posted by: トラキチ | 翻訳本感想 | 19:26 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『コンビ』 畑野智美 (講談社)
評価:
畑野 智美
講談社
¥ 1,674
(2017-06-14)

いよいよ最後となりました。感慨深い読書となりましたが清々しさも漂っています。

毎年初夏の時期になるとこのシリーズが読めるということで、小路さんのバンドワゴンシリーズのように楽しみにして待っていた読者も多かったと思われます。
しかし、敢えて作者は物語に終止符を打ちました。ただ読者サイドも登場人物それぞれの通過点であることはわかっていて、あとはバトンを渡されたような気がします。

作者サイドからすれば、本シリーズは作者自身を叱咤激励する創作であったと思われます。
このシリーズを読む楽しみとして各章の視点が代るということが上げられます。
前作『オーディション』ではすべて男性視点で語られ、それはそれで熱く語られてよかったのだけれど、女性視点の話がなかった点が物足りないと感じた読者も多かったと思われます。

今回、最終巻で津田及び鹿島両ヒロインが登場、二年間待たされた甲斐がありました。
作者の作品は前作読んだわけではないけれど、ドラマ化もされた『感情8号線』で開花された女性のリアルな恋バナの巧みさは、個人的にはこの人の右に出るものはいないと言って過言ではないと思っているので(多少肩入れしてるかもしれませんが)
同様の話を津田及び鹿島両名視点で読めたのは感慨深い。

思うに、彼女たち2人の想いが物語全体にもたらす深さは計り知れないと感じます。
話が横道にそれましたが、メリーランド、ナカノシマ、インターバル、それぞれの面々はまだまだ成長途上です。
彼らがそれぞれ現実にもがきながらも未来を見据えている姿を明日の糧として本を閉じた読者が大半であると思います。
作者の次のステップに期待します。
尚、本シリーズは声を大にして映像化希望します。

評価8点。
posted by: トラキチ | 畑野智美 | 19:22 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『氷の轍』 桜木紫乃 (小学館)
評価:
桜木 紫乃
小学館
¥ 1,728
(2016-09-27)

現代作家で好きな作家を個人的に5人挙げよと言われたら必ずその中に入るであろうという桜木さんであるが、本作は桜木作品の中でもミステリー仕立てとなっているのが大きな要因であろう、少し読者の胸の内に響く度合いが少ない作品となっているように感じる。

舞台は作者十八番の北海道・釧路。いきなり身元不明の老人男性の死体があがります。捜査するのは『凍原』の松崎比呂刑事の後輩大門真由刑事。彼女の父親も元刑事であるのですが、現在闘病中であり元婦警の母親が自分の娘ではない真由を受け入れて生活しているのがポイントとなっている。
釧路→札幌→釧路→青森と事件の捜査は定年間近の片桐とと
もに追いかけてゆきます。
途中から明らかになる老人男性とある母娘との接点が作者得意の人間ドラマ風に語られて行きます。
ただ、捜査を絡めながら迫る必要性があったのかというところが母娘たちの悲しい人生をあぶりだす点において他の桜木作品ほど描かれていなかったように思えます。
あとは、殺人の動機が弱かったことにつきます。ミステリー仕立てにすることにより、主要人物の人間としての骨格がややぼやけてしまっていることが残念です。

少し難点を書きましたが、逆に桜木作品は読者にいろんな読み方を示唆してくれるのも事実であります。
たとえば両母親(真由の母の希代と行方佐知子)との比較はほとんどの読者が感じとれることだと思います。
方や自分の娘を売る母親、そして方や自分の夫が外で作った女の子を自分の実子のように育てる母親。

男性読者の私はどうしても天涯孤独の滝川老人が最も不幸に思えました。
彼が北原白秋の詩に自分の魂を込めて書いた手紙は涙を誘います。
悪意もなく報われない人生だった彼でしたが、そっとしておいた方が良かったのでしょうが、桜木作品に登場する男性はそこまで強くありません。

桜木作品、幸せの形は多様であり奥が深いのは承知の上で言わせていただけたらやはり小百合の心の内が隠されていたのが心残りだったのですが、やはりそこは読者に委ねたのでしょうか。
ひとつの作者の解答として、彼女の息子と商売を一生懸命にしている姿が読者にはくっきりと伝わったことであろうか。
やはり小百合は幸せであると信じて本を閉じざるを得なかったのが私の読み方であった。

余談ですが、本作は柴咲コウ主演でドラマ化されておりますが設定等かなり違いがあります、ドラマはドラマでそこそこ楽しめますが。

評価7点。
posted by: トラキチ | 桜木紫乃 | 19:07 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『カンパニー』 伊吹有喜 (新潮社)
評価:
伊吹 有喜
新潮社
¥ 1,836
(2017-05-22)

初出「小説新潮」。作者の作品は三冊目でありどうしても「四十九日のレシピ」の良い意味での地味なイメージが強かったのであるが、本作を読み終えて新たな代表作に邂逅できた喜びに浸れた気持ちで一杯である。
私は本作を読んで、この作者はエンターテイメントの舞台で勝負できると確信しました。個人的には本屋大賞ノミネート希望します。

老舗製薬会社の総務部で永い間勤め上げたものの妻子に逃げられた47歳の青柳、そしてオリンピックを目指していた選手に電撃引退されたトレーナーの由衣。彼らに新たな使命(舞台「白鳥の湖」を成功させること)が与えられるのですが、主役に男女二人を配置することが読者の共感を大いに呼び込むことになったと感じる。
男性読者は青柳に、女性読者は由衣に自分自身の日頃の苦しみや悩みを投影し、そして逆に男性読者は由衣に、女性読者は青柳に心をときめかせる。

作者がいかに二人に道を拓かせるのか、予想通り順風満帆とは行きません。高野という世界的なバレリーナが彼らに試練を与えるのですが、高野自身もバレリーナとしてのキャリア終盤に来ており自分自身の最後の居場所を探します。
彼のような天才にも悩みがあるのだと、読者は否応なく知らしめられることにより肩の荷がおれる気分に
浸れ、より青柳や由衣に対して励ましながらページをめくります。

本作は青柳と美波、由衣と高野との淡い恋も描かれていて清々しい気持ちで読めるのも特徴であるが、やはりバレエ団に出向してからいかに誠意を持って取り組んだ様が男性読者の私に突き刺さったことは書き留めておきたい。
彼にとって、徐々に娘が自分の方に寄り添ってきてくれたことが彼の成功に大きく繋がったことだと感じる。
そしてこの物語は脇役陣の充実が凄まじいです。青柳の元妻、社長の娘紗良、那由多など、彼らのサイドストーリーも読んでみたい気がしますが、やはり本作の魅力はタイトル名に集結されると思います。
会社、そしてバレエ団のこともカンパニーと呼び、作者も掛け合わせてネーミングしているのかもしれませんが、私は“仲間”という意味合いで捉えています。

というのは本作で最も印象的なシーン、それは新宿アルタ前でのそれであり、やはり脳裡に焼き付いて離れません。まあ読ませどころ満載の本作、是非手に取って欲しいですし、続編でまた彼らに会いたいですね。新たな苦難に出会っていたとしてもきっと切り抜けてゆくことでしょう。

評価9点
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 22:05 | comments(0) | trackbacks(0) |-
 『セシルのもくろみ』 唯川恵 (光文社文庫)
連ドラ化ということで約10年ぶりに作者の作品を手に取ったのであるが、思ったよりドロドロ感がなく爽やかな作品であったとも言える。
その要因として二つのことが考えられる。まず、連載が「story」という光文社の40歳ぐらいをターゲットとした月刊誌で、いわば業界内のことを小説化したものでありあまりな内容を書けばイメージダウンを避けることが出来ないであろう点。もう一つは唯川氏以降出てきた女性作家、いわゆるイヤミス系を得意とする面々はもっと人間の弱くて醜い部分の描写に長けていて、読者もそれに慣れていて唯川氏のドロドロ度が低く感じられる点。
ただ本作は文章の読みやすさは他の女性作家よりも一日の長があるように思える。

もちろん、女性の嫌な部分も描写されているが、読み方によってはサクセスストーリーという捉え方も出来爽快感が漂う背中を押してくれる作品であるとも言える。
男性読者の私は、その背中を押してくれる流れとやはり主人公であり専業主婦から雑誌の読者モデル、そしてプロのモデルへと変貌してゆく奈央の人柄と女性的魅力に惹かれて一気に読み切った感が強かったと言える。
それはやはり、少し控えめで容姿的にも飛びぬけていないながらも、現状に満足せず(現状も決して幸せでないことはありません)に前向きに生きて行こうという姿が可愛くもあります。

作者は、女性読者に対してタイトル名ともなっている“もくろみ”を持つように示唆しています。
このもくろみとはやはり前向きに生きる生き甲斐のようなものだ私には感じます。女性読者の心の内に届きやすい作品であると感じます
ドラマでは真木よう子が主人公を演じますが、脇役陣も豪華で楽しみにしてます。

評価8点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 17:02 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ロング・グッドバイ』 レイモンド・チャンドラー著 村上春樹訳 (ハヤカワ文庫)
本作は1953年に上梓されチャンドラーの長編七作品の内で最も有名な作品として知られている。
日本名のタイトルは『長いお別れ』(清水俊二訳)で1958年に翻訳され多くのファンの支持を受けてきた(村上氏もこの作品を清水氏の翻訳で楽しんできた)のであるが、今からちょうど10年前に村上氏の手によって新訳完全版として刊行された次第である。
ここで完全版と呼ぶのは、清水氏の訳がかなり原文が省略されたものであるということである。

村上氏が生涯最も影響を受けた三冊(本作以外は「グレート・ギャツビー」と「 カラマーゾフの兄弟」)の作品の内の一冊である本作は、村上氏の手によって選ばれた言葉や表現の古さをリニューアルし、格段と読みやすくなっているように感じられる。
村上氏は現在に至るまで、約70冊余りの翻訳を行っていて(その内私は20冊程度しか読んでいませんが)、小説と翻訳を交互に実施することによって自分自身をリラックスさせ、それにより自身の高みを極める創作活動を行って来たと言えるのである。
そのあたり、本篇のあとのあとがき(解説)約50ページに想いが込められていて圧巻である。

本作の魅力は村上春樹流にフィリップ・マーロウの魅力を十分に発揮できたことと、あとは普段ハードボイルドを読まない人でも入り込めやすい敷居の低さだと思います。
清水訳と両方読んで、清水訳の方が良かったと思われる方がいても不思議じゃなく、それも小説談義のひとつでもあると思われる。
翻訳小説はとりわけ文芸作品においては翻訳者の能力や知名度が読者に与える影響も大きいのだけれど、ミステリにおいてもその例外ではないと思われる。
現に、他の翻訳者が本作を新訳して同じぐらいの読者がつくかは甚だ疑問であり私自身も手に取ってなかったと思われる。

この小説は犯人は誰であったかというより、犯人が誰だったのかというよりも、登場人物それぞれの関係や気持ちを読みとるのが面白い小説である。
とりわけ、マーロウとテリーとの親しくなないのだけれど友情が芽生えます。タイトルの「ロング・グッドバイ」とは、長い 別れに対するさよならではなくて、さよならを中々言い出せない長い時間のことを指していると理解します。

作者のチャンドラーの長編には必ずフィリップ・マーロウが出て来て、その歯に衣着せぬ言い回しはハードボイルド小説における私立探偵の代名詞のようになっている。例えばフィリップマーロウばりのという言葉が沢山の小説で使われています。

本作を読むといかに村上氏 がチャンドラ―の影響を受けたかわかります。まるで村上氏が書いた(訳したではなく)ハードボイルド小説を読んでいる気がする。
小説は色々な楽しみ方があって然りであるけれど、本作の魅力はフィリップ・マーロウが演出する男の美学に尽きる。ギムレットでなくてもいい。ビールでもアルコールをお供にして夜に読んで欲しい。
ちなみにもっともキザなセリフは「アルコールは恋に似ている。最初のキスは魔法のよう、二度目で心を通わせて 、三度目で決まりごとになる。あとはただ服を脱がせるだけだ。」だった(笑)

評価9点。
posted by: トラキチ | 村上春樹翻訳本 | 16:10 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ラジオ・ガガガ』 原田ひ香 (双葉社)
評価:
原田 ひ香
双葉社
¥ 1,512
(2017-05-17)

ラジオを題材とした短編集。学生時代はよく深夜ラジオを受験勉強の友として聴いたものだが、大人になるとめっきりお世話になることがなくなったのも事実であり懐かしい感覚で読むことが出来た。
六編からなりますが、いずれの主人公も人生において大切なものをラジオから得たり、影響を受けています。
よく言えばテレビよりも直にリスナーに語りかけてくれていて優しく感じられますよね。そう言ったラジオの利点をそれぞれの物語の主人公たちは、良い教訓や心の糧として生かしています。

良い意味で、ラジオを聴くことによって懸命に生きているところが切実に読者に伝わります。
ただ、すべての話が読者の琴線に触れるかは個人差があってしかりだと思われます。
個人的には、ラジオドラマのコンクールに応募し続ける姿を描いた「音にならないラジオ」、夫がM1グランプリのファイナリストの古くからの友人であり、売れない時の彼らに援助していたことがある夫の姿を描いた「昔の相方」あたりでしょうか。

伊集院光やナイナイ、そしてオードリーなど、実在する(した)ラジオ番組をも具体的に言及していて、作者の経歴などを鑑みて、尊大なラジオに対する作者の愛情を感じとりました。本作は作者にとって楽しい執筆であったことは想像に難くありません。

評価8点。
posted by: トラキチ | 原田ひ香 | 21:35 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『風の向こうへ駆け抜けろ』 古内一絵 (小学館)
書下ろし作品。映画会社に勤務の経験がある作者が精魂を込めて書かれた作品で映像を目に浮かべながら読むことが出来る感動的な作品であると言える。
舞台は寂れた地方競馬で、新人女性ジョッキーの瑞穂が潰れそうな厩舎に配属され、風変わりな面々と出会い最初は戸惑いながらも成長してゆく姿を描いています。
彼女の成長=厩舎の成長ということが読者にとって心地よさこの上ないのであるけれど、一頭の馬との出会いが物語に彩りを添えます。
その馬の名はフレッシュアイという名で、中央競馬をはじき出されたその馬が救世主的存在として厩舎の人達と心を通わせます。

地方競馬の現状や女性ジョッキーの扱われ方など、いろいろと勉強となることもあったのですが、壁に立ち向かって行く姿が清々しいと言えるのでしょう。
途中で厩務員や調教師の視点に代わるところから物語は一層深みが増したような気がします。そして読者は瑞穂はいい馬だけでなく、いい人達と出会ったのだと感じずにはいられませんでした。桜花賞まで出場できたので一応夢は叶ったのかもしれませんが、続編でその夢がどうなったのか楽しみでなりません。新たな試練を乗り越えてゆく瑞樹の姿が目に浮かびます。

評価9点。
posted by: トラキチ | 古内一絵 | 20:22 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『神様からひと言』 荻原浩 (光文社文庫)
13年ぶりの再読となる。再読のきっかけとなったのがNHKでのドラマ化であったのであるが、ご存知のように放映中止となったことは残念でならない。
昨年、念願が叶って直木賞作家となった作者がユーモア作家として人気を博していた初期の代表作と言って良い本作。
短気で喧嘩っ早い性分が災いして大手広告代理店を辞め、中堅食品メーカーに中途入社した佐倉涼平だが、新しい会社でもトラブルを起こしお客様相談室へ異動させられる・・・

広告制作会社勤務歴のある作者なので、主人公と作者がオーバーラップされた読者も多いはずです。自身の経験をいかんなく発揮した作品といえるでしょう。


単行本の帯にかつて“会社に人質取られてますか?”という言葉があり、それにドキッとした方も多いと思いますが、内容はそんなに深刻なものではありません。現代社会に起こりうる事を軽妙洒脱な文章で綴ってます。
コメディータッチながらもサラリーマンにとっては、結構真剣に読まざるをえない作品ですが、日頃のストレスの解消には恰好の1冊と言えそうです。
なんといってもお客様相談室のメンバーのキャラが素晴らしい。特に、上司のギャンブル(競艇)狂の篠崎さん、いい味出してます。篠崎さんを主人公とした小説も読んでみたい気になりますよ。

登場人物を自分の身の回りの人間に置き換えて読むだけでもストレスの解消となる本作は、現実では出来そうもない事を主人公がやってくれるので、その過程を楽しめるだけでも読む価値があるでしょう。

普段、“忍耐強く勤めてる人”に是非読んで貰いたい作品です。又、カップ麺やギャンブル好きな人、心して読んで下さい(^O^)
本書を読めば会社内における自分の位置づけや立場を再認識できるかもです。

最後にラストの終わり方もよく、“涼平とリンコの幸せを心から祈って本を閉じた”ことを付け加えておきます。

評価7点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 18:47 | comments(0) | trackbacks(0) |-