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『夢を売る男』 百田尚樹 (幻冬舎文庫)2016.09.06 Tuesday
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読者サイドからして、たくさん本を読んでいる人ほど出版界の実情を知ることができ、それが良かったのかどうか考えさせられ、単なるエンタメ作品として割り切って読めていないようにも感じられます。
何はともあれ編集部長の牛河原のキャラが絶大で、まるで作者の移り変わりのようにも感じられ、後半から出てくるライバル社の台頭への対処も含めて苦難を乗り越えてゆきます。
人の弱みにつけこんだ詐欺まがいのことをしているライバル社と丸栄社との差はほとんどないのではないかという気持ちを持ちながら読み進めていきますが、ラストの人間味ある温かい落とし処に少しホッとしたのも事実でもあります。
本作を読んで、やはり作家や出版社そして書店という稼業の大変さは痛感されたかたも多いと思われます。たとえ文庫本一冊でも多く購入して、数十年後にも小説が今以上に衰退することなく提供されることを願ってやみません。
評価8点。
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『フォルトゥナの瞳』 百田尚樹 (新潮社)2014.12.04 Thursday
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主人公の慎一郎は孤独ながらも純真で仕事熱心な青年であり、特殊な能力を持ち合わせていることに気づいてから、恋愛面も含めて試行錯誤を繰り返します。
どうしても不器用さが露呈されているところが読者にとっては気がかりであって、その通りの展開となっていく所が作者の術中に嵌ったようであり逆に物足りない気持ちを助長することにもなったのであるが、それは作者に大きな期待を寄せ過ぎなのかもしれません。
読み方を変えて恋愛小説として読めば、意地らしくて切なさが込みあがってくる場面が後半続出するのであるが、人付き合いが下手な主人公にこの特殊な能力を与えた運命に対してどうにかならなかったのかという気持ちが大きかった。ラストがあんな感じだから主人公の優しさが際立ったという読み方も出来るのであろうが、葵が主人公の分も幸せになれるかどうかに関しては辛い将来が待ち受けているような気がする。
評価7点。
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『海賊とよばれた男』(下) 百田尚樹 (講談社文庫)2014.08.29 Friday
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本作を通して学んだことは、鐡造の逆境に負けない部分はもちろんのこと、現代風の言葉を敢えて使わせていただいたら“何事にもブレない気持ち”が肝要であるということである。
もちろん、解説の堺屋太一さんじゃないけど、それぞれの立場で言えば外資導入になびいた国内石油会社やセブンシスターズもっと言えば官僚たちなどを決して非難しようとは思わない。
彼らの方がより自分に近い人間に近いとも言える。
鐵造という人物を客観的に見ると、英雄と変わり者も紙一重なのかもしれず、裏を返せば本作自体側面的過ぎるかもしれませんが、小説というのは読者にとって現実を知る機会でもあり夢を見る機会でもある。
少なくとも、鐵造のように利権にとらわれずに生きるのは普通は出来ませんよね。
正義を貫くのは本当に難しいのだけど、常に広い視野と志を持って挑戦して行く姿は読者の脳裡にいつまでも焼き付いて離れません。そして私たち読者は戦争や戦後の復興を違った側面から学ぶ機会も得たが、私たち現代に生きる日本人に欠けているのは愛国心なのだということにも気付いたはずである。
物語全体を支配している実年齢に違わぬ若々しさが特徴である鐵造が年老いてゆくに連れ、少しずつ弱音を吐いて行くシーンが人間らしくって印象的である。
いろんな感動シーンが散りばめられているが、やはり感慨深いのはラスト付近の恩人である日田と前妻ユキの死であろうか。日田なしで国岡商店はあらず、そしてユキの信念なしで国岡鐵造という大きな人物はありません。
物悲しい発想かもしれませんが、離縁を通じて鐵造はより成長したのだと信じたいし、離れてても愛を貫いたのでしょう。
やはり愛にはいろんな形があるのですね、いい勉強となりました。人間にとって時に美談というのは必要である、それに努力が伴っていれば余計に・・・
評価9点。
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『海賊とよばれた男』(上) 百田尚樹 (講談社文庫)2014.08.28 Thursday
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出光興産の創業者をモデルとしたいわばノンフィクションと歴史経済小説を足して2で割ったような作品なのであるが、主人公である国岡鐵造の圧倒的な存在感が否が応でも読者に高揚した読書の時間を与えてくれる。もちろん百田氏の少し説教臭いけど熱い文章がより鐵造を魅力的な人物に仕立て上げていることは間違いない。
上巻では焼け野原となった敗戦後すぐの日本において国岡商店を再建させようとする鐵造(一章)と彼の生い立ちから青春時代、そして戦争へと突入する機関の活躍を描いた時期(二章)とが描かれています。
三点ほどサプライズがあったので書き留めておくと、まず鐵造に一緒に乞食になってもいいと資金を提供した日田の存在ですね、彼への感謝の気持ちが鐵造の人格と国岡商店の社風の根底を貫いているような気がします。
次は先妻ユキとの離縁ですね、後妻の多津子も献身的で出来た人間なのですが、そのまま支えあって欲しかったなという気持ちもありますよね。最後は言わずもがなですがあの宮部の登場。百田氏の読者サービスの一貫なのでしょうが大変な時代を生きていたのだなという気持ちが倍増された読者も多いはずです。(→続きは下巻にて)
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『永遠の0』 百田尚樹 (講談社文庫)2013.08.09 Friday
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話は本作に戻るが、本作を通して太平洋戦争のわかりやすい流れはもちろんのこと、それ以上にひたむきに生き抜くことの尊さを多くの読者は身を持って学ぶこととなる。戦記物の作品と言うよりも骨太な人間ドラマと言った方が的を射ているのである。
それはたとえば歴史の教科書などを通しての堅苦しいものではなく、宮部久蔵という勇敢な人の生きざまの真実を知れば知るほど、もっと言えばページを捲れば捲るほど、現代に生きる私たちの心の奥底まで伝わってくるのである。
本作を読み進めるに連れて明らかになってくる祖父の姿、それは日本人である私たちが持っている普遍的な愛に満ちた生きざまであると思える。
この小説の素晴らしいところは他の小説では味わえない、深い愛に満ちた世界を体感できるところだと確信している。
私は神風特攻隊で亡くなったほとんどの方は、国の為と言う大義名分はさておいて、大同小異宮部久蔵同じような気持であったと思う。
現代の平和な私たちの暮らしは彼らが偉大な“志”を持ったからである、歴史は繰り返してはならない。そして人生は向き合わなければならない。
作者は今年本屋大賞を受賞してますます脚光を浴びているが、デビュー作である本作が代表作であることには変わりないはずである。本作が世に出されたのは2006年、健太郎と慶子姉弟が戦争の生き残った人達を訪ねて祖父のことを数人に聞いて回るのであるが、少なくとも生存者の年齢からしてタイミング的にラストチャンスぐらいのことだと思われる。
だから私たちがこうしてこの作品が上梓され、手にとって感動出来ると言う幸せを噛みしめたい。
人生はタイミングである、このことは少しネタばれになるがラストで人生を託した健太郎側から見ると実の祖父から養祖父との関係がズシリと脳裏に焼き付いて離れない。
少し抽象的に述べますが、本作の核心は私的には誠実な人間から誠実な人間に見事バトンタッチされたことであると認識している、これは圧巻。
映画化が決定されているみたいですが、是非劇場で観たいなと思っている。
評価10点。
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