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評価:
本多 孝好
集英社
¥ 575
(2005-09-16)
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再読、ナツイチ2015セレクト作品。単行本刊行が2002年であり、当時寡作が特長の新進気鋭の作家として注目されていた時期の本多さんの3作目の作品で、4編からなる連作短編集です。
彼の作品のテーマとなっている“死”に直面する人たちを描いている。今回読み返してみて作者の良い所が集約された作品であると感じ、初読時の懐かしさを強く感じたのである。
主人公の神田が清掃員としてバイトしている病院には死を目前にした人の願いを最後に1つだけ叶えてくれる人がいるという噂があるのだが、いつのまにか主人公がその役割を演じるようになります。死に直面する患者を見て主人公の神田も死について考え学んでいきます。
少しおっとりとした感じの彼は誠実さを持ち合わせていて、そこがどこか作者自身を彷彿させ、読者サイドの私たちの心にも残ります。
物語のシチュエーションとしたら、死の直前という事で暗くて重い印象ですが決してそんな事はありません。切ないけどライト感覚で読めます。
本多さんの文章には、なるほどなあというような表現が随所にあって筆力の高さが覗えます。特に、森野との会話のキャッチボールは心底楽しめました。
展開が読めそうで読めないところがとってもいいですね。
特に2編目の「WISH」と3編目の「FIREFLY」は秀逸で、最後に思いがけない事実が明らかにされ人生綺麗なことばかりではないと教えてくれるところが胸が締め付けられます。
今回ナツイチの時期ということと手に取ったのであるがグッドタイミングだったと思っている、読者自身の私も初読時よりも死に近づいているのである。読み残している続編2冊この夏が終わるまで読んでみたい衝動に駆られている。
評価8点。