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『3時のアッコちゃん』 柚木麻子 (双葉社)2015.07.16 Thursday
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というのは初出誌の掲載が後半2編の方が先であって、どういう魂胆で書かれたかいささか不満の残るところでもあります。あとは内容に関してですが、神戸(岡本)の町に猪が出たり主人公の名が岸和田であったり(3話目)、梅田の地下街が迷路になっている話(4話目)なんだけれど、関西の特徴をとらえた話のつもりがあんまり作者のノリの良い文章と合ってなく安直に感じられるように思える。というか、読者が読んで満足しづらかったように感じられます。それはキャラがたってないとかというレベルではなく、前作の外伝的な話と比べてはコミカルさが読後残るだけで弱さが目立ったような気がする。それはやはりアッコちゃんという身を委ねることが出来るキャラの有無が、読者にとって安心して身を委ねて読書にいそしむことができる証拠なのでしょう。前作から彼女の身勝手なようではあるけれども、みなぎるパワーとポジティブシンキングにリスペクトしている気持が読者サイドにもあるのでしょう。
読者にとってアッコちゃんがポトフみたいなものなのでしょう。
ドラマの方は蓮沸さんも戸田さんもかなり熱演されていました。原作では三智子が関わらないところを上手く脚色していたと思います。BSだけの放送ではもったいないと思いました。
小説でまたアッコちゃんや三智子のその後が読めるのかわかりませんが、売れっ子の作者だからまた登場させてくれるでしょう。直木賞は今回も残念でしたがいずれ取れると思います。
直木賞は今回も残念でしたがいずれ取れると思います。
評価7点。
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『ランチのアッコちゃん』 柚木麻子 (双葉文庫)2015.05.13 Wednesday
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4編からなるが最初の2編は派遣社員で失恋直後の澤田三智子が主人公で上司であるアッコちゃんこと黒川敦子がメインでふたりがランチを交換(というか三智子の作った弁当をアッコちゃんが食べ、三智子はアッコちゃんの代わりに外食する)する表題作が印象的である。アッコちゃんの知られざる一面(スーパーウーマンぶりと言って良いのであろう)を徐々に知るにつれ三智子が元気を取り戻す過程が共感を呼び読者は元気を貰え背中を押してくれること請け合いである。
一見ほのぼのとしている話でもあるが、随所に散りばめられているリアルな点、たとえば派遣と正社員との違いであるとかあるいはゆとり世代の年代かどうか、あるいは残業問題など、それぞれの立ち位置によってこんなに違うのかということも気づかされる読書となったのであるが、後半の2編に登場する2人の主人公満島野百合と佐々木玲美の存在感も読者にとっては個性的でよりリアルであるとも言える。
とりわけラストに登場するビアガーデンってとっても魅力的であり、社長である雅之との視点の違いがいい勉強にもなった。作者の柔軟性が如何なく発揮された作品集ということで続編もあるということでそれを読まない手はないなという気持ちで一杯である。
連続ドラマの1回目を観たが三智子→連佛美沙子、アッコ→戸田菜穂というキャスティングである。全8話ということで続編をも含めたものとなっているのであろうが、本作で言うところの2人が脇役となって登場する後半の2編がどのように描かれるのかということも含めて楽しみに観たいと思っている。
評価8点。
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『伊藤くん A to E』 柚木麻子 (幻冬舎)2014.01.10 Friday
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直木賞候補作品。今もっとも脂に乗っている作家のひとりといって良さそうな柚木さんですが、遂に直木賞候補となりました。
柚木作品のイメージは、他の作家よりも読みやすい躍動感溢れる文章で女性特有の奥底にある部分をあぶりだすのに長けた作家さんだという印象です。
ターゲットが若い女性読者の為に、登場する自己中心的な伊藤君が不甲斐なく滑稽に語られるのは仕方がないところであるし、現に不甲斐ないのですが、彼にうつつを抜かしている女性陣が男性読者視点からすれば滑稽でもあるが健気にも映ります。
コメディタッチの作品なのでご都合主義に溢れた作品が多い中、本作はピリッとスパイスの効いたところが特徴でもあります。
伊藤君が女性を翻弄しているようにも見えないことはないが本作に関しては登場する5人の女性主人公たちの生きざまに女性読者自身が自分を見つめ直す機会を与えられたとして読むべき作品なのであると考えます。
普通、こんな男にひっかるなんてという気持ちを強めて読んでしまうのですが、それぞれの女性が彼を土台というか踏み台にして前を向くところで各編が終わります。それによりが伊藤君が憎めなく感じられた方も多いかも。
逆を言えば、なんで伊藤君になんか熱をあげるのと思った読者は作者の術中にまんまと嵌っているのです(私もそうですが)。整合性を求める作品ではありませんので(笑)
今回直木賞の候補にあがったことで、本作を読み終えて他の柚木作品を手に取る方も多いと思います。より売れっ子作家として階段を駆け上がって行くことでしょう。
直木賞候補作品としてはあと一歩という予想はしていますが、最終章で描かれるEさん、他章よりも年を取った女性の落ちぶれたところから這い上がって行くであろう姿が結構リアルというかコメディタッチを超越しているところが印象的です。最終章があるから少なくとも引き締まった作品になったような気がします、未読の方、是非確かめてください、そして部屋を片付けましょう(笑)
評価7点。
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『嘆きの美女』 柚木麻子 (朝日新聞出版)2013.02.15 Friday
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ドラマ化の影響で柚木さん初挑戦しました。
男性読者からしたら傍観者的な立場で読めるので決して共感できる作品ではありませんが、まるで劇画の世界のようなストーリーの展開が楽しいです。
一言で言えば世の女性たちへの応援歌的作品と言えばいいのでしょう。
誰もがもっている“耶居子的”及び“ユリエ的”要素を見事にカタルシス一杯に描き物語が進行します。
知らず知らずのうちに耶居子が凄く成長してるのが圧巻です。
作中で食べ物のシーンがよく出てくるのですが、そうですね、本作はあまり空腹な時に読まない方がいいのかも、お腹が一杯の時に読んで心も満たしてくれる作品なのでしょう。
女性読者が読まれることを対象とした作品、ましてや本作のようなコミカルテイストの作品には必ずダメ男が登場します。ご多分に漏れずなのですが、ひとりだけヒガシという男が例外がいました。凄く作品というか主人公にというか、あるいは読者にというか(笑)光明をもたらせてくれます。おそらく作者らしい痛快なエンディングなのでしょうが高揚感を十分に味わえるところがこの作者の特徴だと思います。
それにしても女性の本性を小気味よい文章で書きはります。他作も機会があれば読んでみたいなと思っています。「キックアス」もういちど観ようかな(笑)
評価7点。
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