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『ランチ酒』 原田ひ香 (祥伝社)2017.12.21 Thursday
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今回は都会でしか成り立たないような「見守り屋」という仕事に従事するアラサーの祥子が主人公。彼女は離婚し子供を旦那に奪われた状況であるが幼なじみの亀山に誘われ見守り屋に従事する。見守り屋とは夜間帯専門の介護でもなくいわば付き添いの仕事であり、少なくとも眠ることは許されない。
彼女の元夫や娘との関わり合いとあとはそれぞれのエピソードで登場する依頼者たちのドラマが心地よい。そしてタイトル名ともなっているランチ酒であるが、まさに美味しい料理とお酒、これは主人公が深夜の仕事を終えてホッとリラックスが出来るひと時のことを表わしている。
彼女は自由に会うことが出来ない愛する娘への想いを育むひと時でもある。読者それぞれも抱えているものがあっても、本作を読むと主人公に共感し一緒にお酒を嗜む気持ちになることで人生ってそんなに悪くないよねと自問自答出来る作品に仕上がっている。続編希望します。
評価8点
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『ラジオ・ガガガ』 原田ひ香 (双葉社)2017.06.19 Monday
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六編からなりますが、いずれの主人公も人生において大切なものをラジオから得たり、影響を受けています。
よく言えばテレビよりも直にリスナーに語りかけてくれていて優しく感じられますよね。そう言ったラジオの利点をそれぞれの物語の主人公たちは、良い教訓や心の糧として生かしています。
良い意味で、ラジオを聴くことによって懸命に生きているところが切実に読者に伝わります。
ただ、すべての話が読者の琴線に触れるかは個人差があってしかりだと思われます。
個人的には、ラジオドラマのコンクールに応募し続ける姿を描いた「音にならないラジオ」、夫がM1グランプリのファイナリストの古くからの友人であり、売れない時の彼らに援助していたことがある夫の姿を描いた「昔の相方」あたりでしょうか。
伊集院光やナイナイ、そしてオードリーなど、実在する(した)ラジオ番組をも具体的に言及していて、作者の経歴などを鑑みて、尊大なラジオに対する作者の愛情を感じとりました。本作は作者にとって楽しい執筆であったことは想像に難くありません。
評価8点。
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『虫たちの家』 原田ひ香 (光文社)2016.07.22 Friday
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九州の孤島にある「虫たちの家」というグループホームが舞台で、そこに住む女性住人たちは訳ありな人生を送ってきました。物語はそのグループホームにアゲハ親子が入所するところから始まり、テントウムシという古参の女性の視点から語られるのですが、十代であるアゲハの行動が気になり禁忌を犯してしまうテントウムシが愛おしく感じられたのは、グループホームに対する深い愛情の結果だったと同情できるか、それともやっぱり余計なことをしたからと突き放すかは読
者に身を委ねるところなのでしょうか。
途中で過去のアフリカにおける描写が出て来て、いったい誰のことなのかとその関連性を模索しながらのやや複雑な読書となったけれど、一男性読者としてはやはり彼女たち全体に対して共感は出来ないけれど同情の気持ちは禁じ得ず、幸せになって欲しいなと切に願ったところである。
ネットの世界の氾濫により、悪意がはびこりいろんな犯罪行為が増幅されているけれど、節度と良識を持っての利用方法を作者は切に訴えかけているようにも取れた。非常に評価のし辛い作品で読み手泣かせかもしれないけれど、作者の挑戦意欲は大いに称えたいし、後年にターニングポイントとなった作品であったと語られる日が来るのであろうと期待している。最後になったけれど、作者は女性読者に対して自分自身を見失うことのないように警鐘を鳴らしているのであろうと受け取っています。
評価7点。
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『復讐屋成海慶介の事件簿』 原田ひ香 (双葉社)2016.01.28 Thursday
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タイトル名ともなっている成海慶介とはイケメンでセレブ専門の復讐屋と、最初は男性読者を敵に回したようなキャラ立ちだったけれど次第に慣れと彼の生い立ちが明らかになるに連れて、心地よさが伴って来ます。もちろん、相手役で主人公とも言える美菜代が強引に秘書入りするきっかけとなった出来事も滑稽であり、彼女が次第に能力を発揮して行って取りようによっては軽薄な慶介を引っ張って行くような姿が微笑ましくもありました。
原田さんらしいのはやはり復讐の仕方ですね、必殺仕事人とは真逆であり本作の凝った作りが如実に表れています。“復讐するは我にあり”という聖書の言葉が使われていますが、復讐しないことにより依頼人の事件を解決してゆきます。
その方法も慶介の前述した生い立ちが引き金となっており、彼に対する理解を深めることとなります。
ただ、原田作品に求める一本筋の通った読ませるストーリーを求められた方には物足りなさがあるかもしれません。逆に読みやすさという点ではエンタメ度高く一押しかだとも言えます。シリーズ化として2人の活躍を願う読者も多いのではないかと容易に想像できます。
評価8点。
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『ギリギリ』 原田ひ香 (角川書店)2015.11.04 Wednesday
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作者は人間関係の微妙さを描くことが上手く、本作でもその才能を十二分に発揮していると感じます。
主要な登場人物はシナリオライターの健児、彼の再婚相手であり同窓生の瞳、そして瞳の亡くなった夫の母親である静江の3人で、5編からなりますが語り手が入れ替わっているところが読者にとっても目新しく感じます。
ポイントとなっているのは健児と静江が懇意にしていることと、その懇意にしていることがきっかけでシナリオの案が出来上がり後半は健児も忙しくなり瞳との間にすれ違いが生じるところですね。
それぞれ3人ともに共感できる点が折り込まれていて、作者の巧妙さが光る作品となっていますが、読ませどころはやはり人に頼ってばかりいてはいけないという自立を促している点だと強く感じます。その根底には男性目線で言わせてもらえれば、健児の人柄というか懐の深さが妻にも静江にも伝わり結末にも繋がったように感じます。
ありえない話のようでありますが、よく似たことが読者のまわりでも展開されているような気にもさせられ背中を押してくれる一冊となりました。作者の作品は4冊目となりますが、未読も含めて積極的に読んで行こうと思っております。
評価8点。
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『三人屋』 原田ひ香 (実業之日本社)2015.07.27 Monday
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喫茶店(三女)、うどん屋(次女)、スナック(長女)とそれぞれ時間帯によって形態を変えた商売がとってもユニークでありネーミングの由来となっていますが、それなりに親が残してくれたものに対して三人の姉妹間で確執があります。
男性読者としては三人の姉妹たちの魅力はもちろんのこと、彼女たちを取り巻くお客さんたち、すなわち男性陣が各編の語り手となって彼らの抱えているものを晒しながらも、三人の姉妹たちの内面と実情が露わになってくるところが読んでいて頗る楽しいと感じました。
印象的なのは次女の夫である勉の優柔不断でしょう、妻のまひるがしっかり者だから余計に滑稽さが目立ちます、幸せになれるといいのでしょうが難しいかな(笑)あとはモテ男と言って良いでしょうスーパーの店長である大輔ですね、彼はキャバ嬢に迫られているのですが長女にまだ未練があるのでしょうね。
個人的には長女に対する魅力が乏しく、最終編が整合性というか説得力に欠けているようにも感じられるが、まあ三人を団結させたのは父親に対する確固たる愛情が共通していたからでしょう。でも本作のようなお店があれば行ってみたい気がしますし、通う人たちの気持ちもよくわかります。地が固まったように見えますが個性的な三姉妹、これからもいろんな問題が起こるのでしょうが、応援したいなと思います、続編希望。
評価8点。
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『彼女の家計簿』 原田ひ香 (光文社)2014.03.15 Saturday
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原田さんと言えば原田マハさんがまず第一に浮かぶ読者の方が多いと思いますが、ひ香さんもなかなかの実力派作家だと言えると思います。
桜木紫乃さんのような力強さには欠けるかもしれませんが、繊細なタッチで迫り、桜木作品同様内容が濃く、女性の自立を読者に訴えかけます。
本作も現代に生きる2人の女性(里里と晴美)が描かれていて、どちらも背負っているものがありますが一生懸命に生きていて読者の共感を得ることは間違いのないところだと思われます。
ひょんなことから2人は知り合うのですが、そのきっかけとなったのは里里の祖母である加寿が残した家計簿なのですが、その加寿の日記がところどころで挿入されそれが読者にとってミステリアスでもあり興趣が尽きません。
とりわけ里里にとっては血が繋がっているので、彼女には強く生きるという影響を与えているところが読みとれるところが本作を読む醍醐味のひとつとも言えるのだと思います。
終盤に里里と母親である律子との再会の場面があり、じーんと来たかたも多いんじゃないでしょうか、そして未来のある娘である啓に対してのひたすら幸せを願う気持ちと、里里と晴美との絆が深まったことを味わえた読書は有意義だったということを強く認識しました。作者の筆力の高さに脱帽です。
評価9点。
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『アイビー・ハウス』 原田ひ香 (講談社文庫)2014.03.11 Tuesday
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その一樹がラストで家の裏に生えそろう蔦に驚きますが、そこが彼のターニングポイントとなって行くような気がしました。一男性読者としても、彼がもう少し社会に順応してゆくことを期待して本を閉じました。 35歳でリタイアするには若すぎますよね。
原田ひ香さん、初挑戦でした。本作は「はじまらないティータイム」で小説すばる文学賞を受賞した彼女の5作目の作品にあたりますが、ひとことで言えば読者に対して“問題提起”に長けた作家だと言えます。 その問題とは一言で言えば“人生における価値観”ということになります。 大きな感動や共感を味わえる作品ではありませんが、自分自身の現在の立ち位置を確認するのには格好の一冊だと思います。 斬新な読書を体験できる作家だと思います。他作も手に取る機会を設けたいですね。
(読了日2013年4月15日)
評価7点。
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