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『大きくなる日』 佐川光晴 (集英社)2016.06.02 Thursday
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中心となるのはやはり横山太二一家で、物語の初めは保育園卒業でしたがラストは中学校卒業ということでほのぼのした語り口ですが、親子の愛情だけでなく社会問題にも言及したところが読ませるところだと感じます。
とりわけ印象に残ったのはフィリピンから日本で住んで運動会を体験する「水筒の中はコーラ」、少年サッカーチーム内での問題を描いた「どっちも勇気」などでしょうか。作者の描写する物語の根底には世の中に対する肯定的な優しさというものが常にあって、読む終えたあとホッとするところが特徴だと感じます。
本作は小学生高学年ぐらいのお子さんからも読解可能だと感じます。是非親子で手に取っていただけたらと思います。それが作者の願いでもあろうと感じますので。
評価8点。
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『おれたちの故郷』 佐川光晴 (集英社)2014.08.18 Monday
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タイトルにもなっている陽介たちの“故郷”である児童養護施設魴鮄舎(ほうぼうしゃ)にたいして閉鎖問題が浮かび上がります。
動揺する陽介そして卓也、そして恵子おばさんはどう思っているのか、捲るページが止まりません。
読みやすい文章とページ数の薄さが若干物足りなさを感じるのは私だけでしょうか、まあ主人公と同年代の人が読めば最も肥やしになっるような話なので仕方ないですがあっという間に読み終えてしまいました。
今回の読ませどころはバレーボールをやめると言い出した卓也と恵子との再会のシーンでしょうか。これは本当の親子以上の意地の張り合いと裏に潜むお互いの愛情を読み取ることが出来ました。それとバレーボールの応援シーンですね。勇気が湧いてきます。
これがあるから署名が集まり、魴鮄舎の存続も可能になるのでしょう。ちょっとしたことで挫けることに慣れた読者の代表である私にはカンフル剤となる作品でした。
ほぼオールスターキャスト登場ですが、陽介の父親の影が薄いような気がしました。大竹君のことも気になりますので続編希望します。
余談ですが、先日札幌旅行を楽しんだのですが、魴鮄舎が所在するであろう付近を訪問する機会を逸してしまいました。
次回訪問の際は4冊読み返し、そして陽介の3年間の成長を感じ取ってから付近を訪れたいと思います。
評価8点。
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『おれたちの約束』 佐川光晴 (集英社)2013.10.04 Friday
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陽介は札幌を離れて仙台にある東北平成学年高等学校に進学、新たな出会いや経験を通してさらなる成長を遂げます。
その根底にはやはり恵子おばさんによって鍛え上げられた精神力の強さがあるのがしみじみと伝わって来ます。
印象的なのは生徒会選挙の演説で、自分の父親のことを皆の前で話したことです。そのことが中本や菅野という素晴らしい友人と関係を深める大きなきっかけとなります。
そして地震を体験して父親との再会まで語られます。
短編のほうは恵子おばさんのある1日が語られていてほっこりとした話です。前2作を読まれた方でないと他の人との繋がりがわかりづらいかとは思います。
逆にある程度の年齢の人が読むのには、陽介の話よりも恵子おばさんの話の方が爽やかさにはもちろん欠けますが、落ち着くというか読み応えがあるというのも事実です。
シリーズが今後どうなるかわかりませんが、陽介と恵子おばさんという好キャラ2人がいる限り読者が楽しみにして待っているということは間違いのないことだと思います。
今後の展開としては陽介の父母の関係やあるいは陽介と波子の恋愛模様はどうなるのか、恵子の年をとっても夢を追い続けるところなどまだまだ書ける題材はあると思います。
とりわけ“俺”と“おばさん”の2人の成長する姿を励みにしている読者が多いということを作者に伝えたいと切に思っています。
評価8点。
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『おれたちの青空』 佐川光晴 (集英社)2013.08.19 Monday
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次の「あたしのいい人」は恵子伯母さんが語られていてそうですね、ある一定以上の年齢の読者にとっては恵子伯母さんが主人公とみなして読まれている方も多いのではないでしょうか、彼女の紆余曲折しながらも自分の道を真っ直ぐに貫き通している姿は陽介始め施設の子供たちの生きる源となっていることが確認できます。新たに入所した女の子2人の話、そして陽介の母親である妹令子とのやりとりなどが語られるのですが、何と言っても別れた夫である善男の存在がいまだに彼女を根底から支えているところが窺える点が読者にとっては人間らしい一面を見せつけられた気持ちにさせられる。
本シリーズの良いところは悲しい環境に置かれながらも前向きに生きる少年少女たちを通して清々しい気分に浸れるところにつきると思うのですが、読み終えた時に一抹の寂しさも感じます。その寂しさが読者にとっては明日への糧となっているのでしょう、なぜなら私たち読者も彼らと同じ空の下に生きているのですから。なにわともあれ、最新作早く手に取りたいと思っております。
評価8点。
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『おれのおばさん』 佐川光晴 (集英社文庫)2013.07.23 Tuesday
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物語は主人公であり東京の進学校に通う中学2年生の陽介、彼の父親は福岡に単身赴任中の銀行員なのですが愛人に貢ぐために顧客のお金を横領してたことが発覚して逮捕されます。
陽介は東京に残る母親と別れ、札幌市内で児童福祉養護施設を運営する伯母の恵子のもとに送られます。
通常、本作のような環境に置かれたおかれた人達はどうしても物悲しさが漂って暗い話になりがちなのですが、登場人物ひとりひとりが凄くキャラ立ちしていて逞しいのですね。
なんといってもタイトル名にもなっているおばの恵子さんの逞しさは圧巻で読者も元気を貰えること請け合いですね。
ほとんどの読者が手に汗握りながら、陽介に対して“応援モード”でページを捲ることであろうがその心地良さは重い話ながらも爽快さを約束してくれるものです。
誰もが望んで養護施設に入るわけではないのだけど、陽介は他の子供たちに対する配慮→理解を深めて行きます。そして嬉しいのは私たち読者も本を閉じる時に陽介の確固たる成長ぶりを感じ取ることが出来るのです。
サブストーリーとして陽介の母親と恵子との姉妹の確執があります。お互いにわだかまりのある人生を過ごしてきた2人ですが、微妙に似ているところがあって読んでいて見出すごとにニンマリかつホロッとさせられます。
そして妹であり陽介の母親である玲子の究極の内助の功的な生き方にエールを送りたくなりました。
嬉しいことに本シリーズは第3作まで出ています。淡い恋の続きも含めて作者の看板シリーズとしてできるだけ長く読み続けたいなと思いますし、そして本作が集英社の夏の風物詩“ナツイチ”に選ばれています。AKBのメンバーだけでなく、ひとりでも多くの方に手にとって欲しいなと願ってやみません。
評価9点。
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