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評価:
千早 茜
新潮社
¥ 1,470
(2013-06-21)
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初出「小説新潮」。6編からなる連作短編集。
読者の体をもちくりちくりと刺すような感覚で読んでしまいます。刺されて痛いんだけど結構何と言ったらいいのだろう、自分自身と向き合うための痛みと言ったら良いのでしょうか、貴重な読書体験をしたと感じます。最初の自殺する中年男性から群像劇的に繋がって来ます。正直、最初はつまらないと思って読んでいましたが杞憂に終わりました。2編目からはその中年男性に関連する人達が出てくるのですが、まるでその中年男性の存在感をあぶり出してくれるかのごとく作者の描写は輝き始め、いつしか読む終わるのが惜しいような気持ちにさせられます。
それぞれの登場人物、心に傷や他人には知られたくない秘密ごと持っているどこか自然体で生きれないといっても言い過ぎではないような人達が登場し、彼らの時に弱い行動にため息をつき、少し前向きな気持ちになっている彼らに胸をなでおろします。
作品を通して、中年男性の死を無駄にしてはいけないという気持ちが貫かれている点がやはり素晴らしいのでしょうか。登場人物も読者層に合わせて、後半登場する若い男女(松本とサキ)や不倫をしている人妻やそれに気づかない夫などバラエティに富んでいますが、個人的には最後の恋人に過去の堕胎を隠しているフィドル弾きの女性が一番印象に残りましたが、若い読者が読まれたらサキと松本の重いけど前向きな話が印象に残ると思います。
作者のイメージからしてもっと幻想的な作品かなと思っていましたがそうでもなく、身につまされるとまではいいませんが、生きていく上で何が必要か考えさせてくれる作品であると思います。本を閉じたあと、スッキリとした気持ちに包まれました。
作者の千早さんの作品は今回初めて読みますが、北海道出身で幼少期をザンビアで過ごした経歴を持ち立命館大学を卒業後、デビュー作「魚神」で小説すばる新人賞及び泉鏡花賞を受賞しています。
本作は島清恋愛文学賞をも受賞され今回直木賞の候補作となっています。本作での受賞は多分厳しいとは思いますが持っているポテンシャルは極めて高い作家であると言えましょう。
評価8点。