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『太郎とさくら』 小野寺史宜 (ポプラ社)2017.10.20 Friday
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タイトル名となっている太郎とさくら、2人の関係は異父姉弟で血が半分繋がっている状態であります。
この2人の実の姉弟に勝る愛情を示した作品と言えばありきたりですが、小野寺さんらしい味付けがされていて本当に癒される作品と言えます。
冒頭のさくらの結婚式に、さくらの産みの親である野口さんが登場、その野口さんと太郎、いわば血の繋がりのない二人の関わり合いが周りを変化させるのですが、本当に読んでいて心地良くふわっと包まれたような気持にさせられます。
現実的にこのような話(姉の実の父親と太郎とが同居する)はありえないのでしょうが、やはり太郎の人柄が小説内でとはいえ読者にも伝わっていくのでしょう。当初は野口と関わることはやめておいた方が良いと思ってイライラしましたが、関わることによって世界を切り開いて行くことに成功します。
もちろん、彼女(紗由)との別れなど辛いこともありますが、それも太郎にとっては成長ということになるのでしょう、読者にとっては姉と弟の愛情が伝わることにより癒された読書となったことは否定できません。
評価8点
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『家族のシナリオ』 小野寺史宜 (祥伝社)2016.07.22 Friday
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物語は一見普通に見えるのだけれど普通じゃない安井一家が描かれている。具体的に言うと、一家は夫婦と子供二人(男女)の4人家族なのだけれど、父親が離婚した元父親の弟(母親が離婚した夫の弟と再婚)であり、叔父→父親となった構図であります。
まあ一見平和そうに見えるのだけれど、母親がある日家族ではない男の人を看取りたいというところから物語が始まり高1で長男役の想哉が語り手となります。
通常、本作のような状態の家族はあくまでも家庭第一ということでしょうが、なかなかそうはいきません。元女優である血を引いた息子が難題を抱えつつも演劇に取り組み、見事成長を果たしてゆく姿は清々しく感じます。
読ませどころはやはり、母親が看取っている相手に息子や反抗期の妹が会いに行き交流を図るところなのでしょう。この交流が家族全体の結束を高めたことは明らかで微笑ましく感じられた方が多いのではないでしょうか。
一見いい人に見える叔父(現在の父親です)のAC/DCや息子のヒッチコックに傾倒している姿もユーモアと熱意に溢れていて、心地よい気分で本を閉じることが出来ます。作者の暖かいまなざしが十分に詰まった青春&家族小説を2冊読んだような気持にさせられる完成度の高い作品だと感じます。
評価8点。
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『近いはずの人』 小野寺史宜 (講談社)2016.06.17 Friday
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主人公の北野俊英は33歳で数か月前に妻を交通事故でなくして意気消沈の日々を送っているところから物語が始まります。妻の遺品となった携帯の暗証番号を毎日ビールを飲みながら打ち込む毎日だったのですが、その後暗証番号が判明後、いろんな秘密が露呈され彼の人生や価値観も変わってきます。
やはりこの物語は夫婦のあり方を問うていると思います。良く知っているようでいて元々は他人である夫婦ですが、自分自身の落ち度にどうしても甘くなっているのが普通かもしれませんね。男性読者サイドからして、俊英というのはかなり現実的というか等身大キャラだという認識を持って捉えることが出来、亡き妻の浮気(?)相手を探るシーンなどもかなり同情かつ共感しながら読むことが出来ます。そしてラスト前のバドミントンのシーン、爽快感にあふれています。捉えようによってはモヤモヤ感の残る読書かもしれませんが、作者が敢えて読者にバトンを委ねたという捉え方が妥当なのかなと思います。
実際同じ立場にたったらかなり苦しいこと請け合いだと思われます。ほんのわずかかもしれないけれど、勇気を踏み出す大切さを教えてくれた一冊だと思われます。他の作品も機会があれば読んでみたいなと思っております。
評価7点。
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