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『あきない世傳金と銀 奔流篇』 高田郁 (ハルキ文庫)2018.01.26 Friday
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なるほど、最初は五年後の江戸出店という目標に対して力を合わせてという感じでやっていきます。幸は決してしたたかという感じではないのですが、自然と男性陣を凌駕していくところに逞しささえ感じたりしますよね。少しずつ歯車が崩れていく過程を楽しむべき作品なのでしょうか、取りようによっては商売上手のはずの惣次が滑稽にも思えるラストですが、自分の妻の予想以上の聡明さについて行けなくなったが故の結果だと思います。
幸の良い所はやはり常に情というものを持ち合わせていて、そこを物事の判断する際に優先しはるところだと思います。惣次の度量の狭さが目立った半面、幸の今後がますます目が離せませんが、菊枝の再登場ににんまりしたことも書き留めておきたい。
夫を超えてしまったように見受けれるが惣次との関係、そして江戸出店への布石となる近江での仕事の今後の展開、次巻に取り掛かりますね。
評価9点
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『想い雲 みをつくし料理帖』 高田郁 (ハルキ文庫)2017.05.30 Tuesday
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まずは行方不明中の佐兵衛に情報が出ますが、それにしても富三って腹立たしいですよね。他の人物が基本善人ばかりだから目立ちます。あとは各編に最低一編出てくる野江がらみの話も見逃せません。
?作者はつる屋に様々な試練を与えます。途中食中毒事件にはハラハラしましたがそれらを乗り越えることによって澪だけでなく登場人物一人一人が成長してゆくのでしょう。りうさんの再登場も心が和みます。
最も印象深いのはふきと健坊姉弟の話ですが、それ以外にも意地らしい美緒の存在感も物語に彩を添えていますが、やはり読者にとっては澪が小松原を想う気持ちが心の中に閉じ込められているところがもどかしくもありますが、彼女の前向きに生きるエネルギーになっていると信じて本を閉じました。
評価9点
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『花散らしの雨 みをつくし料理帖』 高田郁 (ハルキ文庫)2017.05.03 Wednesday
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第一弾に登場していなかったふき、清右衛門、りう、美緒が現れ今後どのようにお話にからんでくるのか。とりわけ下足番として雇われ密告をしたのにも関わらず、それを許した澪。今後ふきを澪が自分の過去と重ね合わせてどう成長させててゆくのか目が離せません。
印象的なのは清右衛門に店の裏に住み替えるように打診されていた澪が麻疹で倒れたおりょう親子を介抱するうちに裏店の人たちの家族同然の繋がりを感じ、そのまま住み続けることを決意したことでしょうか。
あとは全編に貫かれている澪の恋の予感の話ですね。小松原よりも源斉の方が合うのではないかと思われた読者も多いと思いますが、これは作者が納得の行く答えを出してくれると信じて読もうと思っています。
“私の恋は決して相手に悟られてはならない。”一緒に小松原と花火を見ながら語った健気な澪の言葉が本シリーズが大きな共感を得ている証とも言えると思います。
評価9点。
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『八朔の雪 みをつくし料理帖』 高田郁 (ハルキ文庫)2017.04.21 Friday
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評価:
高田 郁
角川春樹事務所
¥ 596
(2009-05-18)
苦労をしながらも成功を収めるであろう一人の女性の奮闘記と言えば簡単であるが、作者特有の細やかな描写が読んでいて頗る楽しいことが本作の成功を象徴していることのように思える。
ヒロインの澪は下がり眉が特徴であり、幼なじみで美貌が持ち主の野江とは対照的であるところが女性読者のハートを掴むのでしょう。外見はともかくその性格というか何事にもくじけない気持ちが素晴らしいの一言に尽きます。
本作では主な登場人物が一通り登場し、澪が江戸に出てきたいきさつ(大坂での出来事)が読者に披露され、江戸のつる屋という蕎麦屋で奉公しているところから描かれます。その時澪は18歳でした。全4編のサブタイトルともなっている料理名が拵えられる過程もほっこりしていますが、如何に荒波を乗り越えつつ主人公が成長してゆくか、周りを取り囲む人たちとの温かいふれ合いを感じながら読み進めて行きたいと思います。
武士の小松原や医者の源斉との恋模様も楽しみですが、第一弾の後半では、軌道に乗ってきたつる屋が何者かによって火をつけられて屋台から再出発します。苦労に翻弄されつつも健気に生き、立ち向かって行く姿は見習わなければなりません。
評価9点。
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『あきない世傳金と銀 早瀬篇』 高田郁 (ハルキ文庫)2016.09.12 Monday
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評価:
高田 郁
角川春樹事務所
¥ 626
(2016-08-09)
今回は月のものが来ていない幸を相手にしない徳兵衛に少しホッとしつつも、彼がますます馬鹿さ加減を増幅してゆく姿には呆れ返りますがラストでの彼の突然の死には驚かされた読者が大半であると思われます。あとは幸が少しずつですが五鈴屋の商売について知識を得て行き、冷酷であるけれども商才がある次男の惣次の人となりが少しずつわかってきます。
分家すると思われていた惣次が、ラストで後継ぎとなる条件をお家さんに告げるのですがそれがなんと幸を嫁に迎えたいということです。これは兄よりはマシだとは言え、窮地に追い込まれた五鈴屋には先に色んな試練が待ち受けているのは火を見るよりも明らかであり、幸にとってはいろんな試練が待ち受けていることでしょうが、その試練を乗り越えてゆく様がこのシリーズの醍醐味であることも読者も作者もわかっています。
今回、印象的なシーンはやはり合ってなかった母と妹との再会でしょうか。あとは三男の智蔵との再会や終盤での治平衛の息子である賢吉が五鈴屋に奉公に上がりますが、彼らが今後の物語のキーパーソンとなって来そうです。いずれにしても、幸の成長が体感できるところが本シリーズを読む喜びであり、ふと自分の娘のように見守っている読者も多いのではないでしょうか。それにしても読者の予想を超える展開が繰り広げられ、作者の筆力には舌を巻きます。次巻の発売を心待ちにしたいと思っています。
評価9点。
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『あきない世傳金と銀 源流篇』 高田郁 (ハルキ文庫)2016.09.05 Monday
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何といっても主人公の幸の好感度抜群のキャラが良い。物語の冒頭では9歳で本篇では14歳までを演じます。利発で健気な彼女は、摂津の国の津門村に学者の家に生まれるのですが家の事情で
9歳で大坂天満の呉服商に奉公に出されます。五鈴屋に奉公されてからは周りの人たちに影響を受けつつも、持ち前の芯の強さと番頭役の治兵衛に商才を見抜かれて少しずつ成長してゆく姿が描かれています。
読ませどころは五鈴屋の3兄弟の個性豊かぶりな存在が、幸の今後の人生にどう影響をもたらせるかだと感じます。おそらく一筋縄ではいかない展開が待ち受けているのは作者の力量からして間違いのないところだと思われます。
本篇でも船場から長男の嫁に来て、幸のお姉さん的な存在として居座ると感じていた菊栄が離縁して戻りましたがかなりのサプライズでした。
家を出た三男の智蔵と幸とが幸せになれればという淡い期待を抱きながら第2巻、そしてそのあとを楽しみに待ちたいと思います。
評価9点。
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