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評価:
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幻冬舎
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(2016-09-21)
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直木賞受賞作品。作者の良い部分が堪能できる渾身の青春群像劇であり、作者の代表作として永年語り継がれるべく作品であると感じる。
キャリアの長い作者は独自の恩田ワールドと呼ぶべく作品群を展開しているが、敢えて悪く書かせていただければ風呂敷を広げ過ぎて上手く伏線が回収されていなかったり、幕切れが中途半端であったりとした作品もあったのだけれどそれらを払拭するべく本作は満を持して発売されたと思われる。
わずか10日間ほどのピアノコンクールの世界が描かれているのだけれど、まさに作者の独壇場であり主要登場人物が生き生きと描かれているところが読者に伝わって来て、序盤であれどクライマックス的な描写が後を絶たなくてハイテンションな気持ちを持って読み進めることを余儀なくされる。
文字だけで臨場感をこれだけ出せるとは、まるで読者を映像の世界に連れて行ってくれると言えば言い過ぎでしょうか。
序盤はギフトという言葉に焦点を当てて読んでいたけれど、四人のメイン演奏者の個性が魅力的過ぎてそういうことも忘れました。
そして一次→二次→三次→本線と勝ち進んでいかなければならないので余計にハラハラドキドキします。女性読者にしたらマサルと塵のカッコ良さや亜夜を自分に置き換えたりして読むことが楽しめるのだろうし、男性読者、とりわけ中高年の読者は天才肌の3人よりもどちらかと言えば努力型の明石を応援して読まれた方も多かったのかもしれない、ちなみに私は明石派です(笑)あとはサイドストーリーとして離婚した審査員側のふたりとかの話も面白くてこの作品の魅力を語れば枚挙にいとまがありません。
最後に本当に素晴らしいのは作者の描写力の凄さで、これはコンクールの結果が分かっていても再読してその世界に浸りたいと思われた方も多いと思われます。それは作者が読者の背中を押して励ましてくれているようにも感じられました。まるで登場人物たちが相互的に背中を押しあっているのと同様に思われます。
評価9点。