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『カンパニー』 伊吹有喜 (新潮社)
評価:
伊吹 有喜
新潮社
¥ 1,836
(2017-05-22)

初出「小説新潮」。作者の作品は三冊目でありどうしても「四十九日のレシピ」の良い意味での地味なイメージが強かったのであるが、本作を読み終えて新たな代表作に邂逅できた喜びに浸れた気持ちで一杯である。
私は本作を読んで、この作者はエンターテイメントの舞台で勝負できると確信しました。個人的には本屋大賞ノミネート希望します。

老舗製薬会社の総務部で永い間勤め上げたものの妻子に逃げられた47歳の青柳、そしてオリンピックを目指していた選手に電撃引退されたトレーナーの由衣。彼らに新たな使命(舞台「白鳥の湖」を成功させること)が与えられるのですが、主役に男女二人を配置することが読者の共感を大いに呼び込むことになったと感じる。
男性読者は青柳に、女性読者は由衣に自分自身の日頃の苦しみや悩みを投影し、そして逆に男性読者は由衣に、女性読者は青柳に心をときめかせる。

作者がいかに二人に道を拓かせるのか、予想通り順風満帆とは行きません。高野という世界的なバレリーナが彼らに試練を与えるのですが、高野自身もバレリーナとしてのキャリア終盤に来ており自分自身の最後の居場所を探します。
彼のような天才にも悩みがあるのだと、読者は否応なく知らしめられることにより肩の荷がおれる気分に
浸れ、より青柳や由衣に対して励ましながらページをめくります。

本作は青柳と美波、由衣と高野との淡い恋も描かれていて清々しい気持ちで読めるのも特徴であるが、やはりバレエ団に出向してからいかに誠意を持って取り組んだ様が男性読者の私に突き刺さったことは書き留めておきたい。
彼にとって、徐々に娘が自分の方に寄り添ってきてくれたことが彼の成功に大きく繋がったことだと感じる。
そしてこの物語は脇役陣の充実が凄まじいです。青柳の元妻、社長の娘紗良、那由多など、彼らのサイドストーリーも読んでみたい気がしますが、やはり本作の魅力はタイトル名に集結されると思います。
会社、そしてバレエ団のこともカンパニーと呼び、作者も掛け合わせてネーミングしているのかもしれませんが、私は“仲間”という意味合いで捉えています。

というのは本作で最も印象的なシーン、それは新宿アルタ前でのそれであり、やはり脳裡に焼き付いて離れません。まあ読ませどころ満載の本作、是非手に取って欲しいですし、続編でまた彼らに会いたいですね。新たな苦難に出会っていたとしてもきっと切り抜けてゆくことでしょう。

評価9点
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 22:05 | comments(0) | trackbacks(0) |-
 『セシルのもくろみ』 唯川恵 (光文社文庫)
連ドラ化ということで約10年ぶりに作者の作品を手に取ったのであるが、思ったよりドロドロ感がなく爽やかな作品であったとも言える。
その要因として二つのことが考えられる。まず、連載が「story」という光文社の40歳ぐらいをターゲットとした月刊誌で、いわば業界内のことを小説化したものでありあまりな内容を書けばイメージダウンを避けることが出来ないであろう点。もう一つは唯川氏以降出てきた女性作家、いわゆるイヤミス系を得意とする面々はもっと人間の弱くて醜い部分の描写に長けていて、読者もそれに慣れていて唯川氏のドロドロ度が低く感じられる点。
ただ本作は文章の読みやすさは他の女性作家よりも一日の長があるように思える。

もちろん、女性の嫌な部分も描写されているが、読み方によってはサクセスストーリーという捉え方も出来爽快感が漂う背中を押してくれる作品であるとも言える。
男性読者の私は、その背中を押してくれる流れとやはり主人公であり専業主婦から雑誌の読者モデル、そしてプロのモデルへと変貌してゆく奈央の人柄と女性的魅力に惹かれて一気に読み切った感が強かったと言える。
それはやはり、少し控えめで容姿的にも飛びぬけていないながらも、現状に満足せず(現状も決して幸せでないことはありません)に前向きに生きて行こうという姿が可愛くもあります。

作者は、女性読者に対してタイトル名ともなっている“もくろみ”を持つように示唆しています。
このもくろみとはやはり前向きに生きる生き甲斐のようなものだ私には感じます。女性読者の心の内に届きやすい作品であると感じます
ドラマでは真木よう子が主人公を演じますが、脇役陣も豪華で楽しみにしてます。

評価8点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 17:02 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『神様からひと言』 荻原浩 (光文社文庫)
13年ぶりの再読となる。再読のきっかけとなったのがNHKでのドラマ化であったのであるが、ご存知のように放映中止となったことは残念でならない。
昨年、念願が叶って直木賞作家となった作者がユーモア作家として人気を博していた初期の代表作と言って良い本作。
短気で喧嘩っ早い性分が災いして大手広告代理店を辞め、中堅食品メーカーに中途入社した佐倉涼平だが、新しい会社でもトラブルを起こしお客様相談室へ異動させられる・・・

広告制作会社勤務歴のある作者なので、主人公と作者がオーバーラップされた読者も多いはずです。自身の経験をいかんなく発揮した作品といえるでしょう。


単行本の帯にかつて“会社に人質取られてますか?”という言葉があり、それにドキッとした方も多いと思いますが、内容はそんなに深刻なものではありません。現代社会に起こりうる事を軽妙洒脱な文章で綴ってます。
コメディータッチながらもサラリーマンにとっては、結構真剣に読まざるをえない作品ですが、日頃のストレスの解消には恰好の1冊と言えそうです。
なんといってもお客様相談室のメンバーのキャラが素晴らしい。特に、上司のギャンブル(競艇)狂の篠崎さん、いい味出してます。篠崎さんを主人公とした小説も読んでみたい気になりますよ。

登場人物を自分の身の回りの人間に置き換えて読むだけでもストレスの解消となる本作は、現実では出来そうもない事を主人公がやってくれるので、その過程を楽しめるだけでも読む価値があるでしょう。

普段、“忍耐強く勤めてる人”に是非読んで貰いたい作品です。又、カップ麺やギャンブル好きな人、心して読んで下さい(^O^)
本書を読めば会社内における自分の位置づけや立場を再認識できるかもです。

最後にラストの終わり方もよく、“涼平とリンコの幸せを心から祈って本を閉じた”ことを付け加えておきます。

評価7点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 18:47 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『罪の余白』 芦沢央 (角川文庫)
評価:
芦沢 央
KADOKAWA/角川書店
¥ 648
(2015-04-25)

作者初読みです。スクールカースト制と言って良いのでしょう、そのイジメが原因で若き命を絶った女子高生。彼女の父親で娘を溺愛してた心理学者の安藤と彼女を死に追いやった女子高生二人(咲と真帆)とのそれぞれの心の動きが語られて行きます。父親の怒りと苦悩、そして女子高生の自分たちの保身が交互に描かれるのですが、最後まで緊迫感が途切れることがありません。

キーパーソンとなってくるのが安藤の同僚でもあり彼の世話をする早苗でしょうか。コミュニケーション障害がある彼女の視点のパートが本作をより深みのある作品としていることは明白であり、ラストのサプライズにも繫がります。母親が自分の命を捨ててまで生んだという設定は男手ひとつで育てたという加奈に対する愛情の深さと共に、早苗という存在をより際立たせるための計らいであったと感じます。それにしても咲の自分自身を守るために取った陰湿な行動は想像を絶するほどで許しがたいですよね。女性作家ならではの繊細さと力強さを併せ持ったセンセーショナルな作品だと思います。

読者サイドからすると、やはり加奈や真帆が咲からなぜ離れられなかったのだろうかという疑念が残りますが、これは当事者にとっては難しい問題なのでしょう。
本作読了後、映画化されたDVDを鑑賞しましたが楽しめました。咲役の吉本実憂の悪魔ぶりが原作顔負けで印象的でした。次期朝ドラ主役の葵わかなも脇役ですが出ています。

評価7点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 10:52 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『海の見える理髪店』 荻原浩 (集英社)
評価:
荻原 浩
集英社
¥ 1,512
(2016-03-25)

初出「小説すばる」、直木賞受賞作。6編からなる短編集で貫かれているのは人と人との繋がりの大切さ。
直木賞受賞作ということで期待して読んだんだけれど、『明日の記憶』のようなインパクトは感じず、後年作者の代表作として語り継がれるような作品とまでは言えず、個人的には佳作だという評価であり、どちらかと言えば今までの功績を評価しての受賞のように感じる。

とはいえ、表題作と最後の「成人式」は特筆すべき作品であり、全盛期(と言えば失礼だろうか)の浅田次郎を彷彿とさせる高いレベルの作品であると言え、読者に対して読んで良かったと思わせるのは流石であると言えよう。
表題作は店主が海辺の小さな町にある理髪店にやってきた青年に、自らの人生を語っていきます。予定調和的作品ですが非常にまとまりのある作品であると感じます。

「成人式」は15歳で事故で亡くなった愛娘への悲しみをずっと引きずって生きている夫婦が娘の成人式(生きていたら出たであろうという意味です)に二人で代わりに出ようとします。滑稽にも見えますが、あの時こうしてたら事故が防げたのにと思い続ける父親の気持が身に沁みます。式での娘の友達の協力的な反応が涙物であり、夫婦としての結束がより強固になったと感じられた読者が多かったと容易に想像できます。やられたーと思い本を閉じました。

評価8点
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 13:46 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『この世にたやすい仕事はない』 津村記久子 (日本経済新聞社)
評価:
津村 記久子
日本経済新聞出版社
¥ 1,728
(2015-10-16)

初出 日本経済新聞電子版。日経新聞に津村さんの小説と来れば、まさにお仕事小説の決定版と思われる方が大半だと思われますが、本作は半分当たっていて半分外れているというのが解答のような作品だと言える。
バリバリと働くOLが対象ではありません。燃え尽き症候群によりある職を辞した三十代半ばの女性が、風変わりというか読者がこんな仕事あったのかと思われるような仕事をこなすことによって自分らしさを取り戻して行く過程が読ませどころの作品ですが、それは通常の津村作品の定番ともいえる、個性的なれど等身大的なキャラの人物を描いているのではなくて、普通よりも悪く言えば精神的に弱いキャラの人物を描いている点が目新しく感じる。

それによりタイトル名ともなっている、“この世にたやすい仕事はない”という言葉がじーんと読者に伝わてくるような気がして、読者の常日頃持っている“労働観”が覆ったり、あるいは大きく変わったりするところが本作の一番魅力とも言えそうです。
基本的には、主人公が少なくとも全力かつ真面目にそれぞれの仕事に取り組んでいく姿を少しでも吸収して読むべき作品のように決定づけたいと思っている。

相談員でもある正門さんがとってもユニークであり、本作を読むきっかけともなったNHKでのドラマ化でどのように描かれているか楽しみである。

評価7点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 19:30 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『美しい距離』 山崎ナオコーラ (文藝春秋)
評価:
山崎 ナオコーラ
文藝春秋
¥ 1,458
(2016-07-11)

初出「文學界」。島静恋愛文学賞受賞作品であるが、恋愛小説というよりも夫婦小説と言った方が良さそうでいろいろなことを考えさせてくれるという作品であると言える。
老年期に入ってどちらかが癌に侵される夫婦は数多いであろうけれど、本作では侵されるのが40代の妻である点と夫婦の間に子供がいないという点が少し変わったシチュエーションだと言えます。
タイトル名となっている″距離”という言葉を念頭に置いて読むと色んな事を考えさせられ、読者自身の身の回りのことも想像された方も多いであろう。

語り手である夫は仕事をもセーブし、余命短い妻の介護に献身的になります。ある時は妻の母親や妻の仕事関係の人と距離を保ちながらというか、妻と自分以外の人との距離を調整してあげているようにも感じられます。
その妻を大切に思う気持ちが穏やかに書かれているのですが、その奥底に潜む葛藤している気持ちが読んでいて見え隠れします。妻サイドの痛みや苦しみはほとんど描かれてないだけに、逆にまだ若すぎるという気持ちが強く伝わって来ました。

そして娘に先立たれた義母の悲しみも伝わって来ます。現実はもっと生々しい話になるのでしょうが、落ち着け落ち着けと作者から教えられた気持です。読者にとって自分自身の夫婦関係の根本的な見直しや、自分の身の廻りの近い将来も含めての介護問題を見つめ直す指針となる一冊だと言えそうですね。

評価8点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 22:01 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『松田さんの181日』 平岡陽明 (文藝春秋)
評価:
平岡 陽明
文藝春秋
¥ 1,750
(2016-11-09)

オール讀物新人賞を受賞した表題作を含む6編からなる短編集で初読み作家です。人間というものの奥深さをよく観察し丹念に描いているといった印象で文章も読みやすい作家さんです。
表題作とラストが登場人物も繋がっていて(脚本家の寺ちゃんが出ます)どちらも余命短い人と周囲の人との暖かい繋がりを描いていて感動的な作品となっています。この作家の只者ではないところはそれ以外の4編も読ませるところだと感じます。夢を見ることと現実を見ることの大切さを謳っています。

とりわけレッスンプロゴルファーとゴルフ雑誌記者との交友を描いた「床屋とプロゴルファー」、リストラされる側とする側の悲哀を描いています。とりわけ首切りジョージという人の誠意ある行動には驚かされました。どの編も登場人物がキャラ立ちしていて適度にユーモアがありそして泣かせる話。作者のしっかりとした人生観と人間観察の鋭さが文章に乗り移った感が強く、他の作品も手に取ろうと思わずにいられない作家だと感じました。
  
評価8点
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 21:41 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『テミスの求刑』 大門剛明 (中央公論新社)
評価:
大門 剛明
中央公論新社
¥ 1,944
(2014-08-22)

WOWOWでドラマ化された作品で作者初読みです。警官であった父親が殺害された過去を持つ検察事務官の星利菜が主人公で彼女の目線が多少ふら付いたところがあるのが気になる読書となった。但し重厚感のある話ではないのでスラスラと読めるのも間違いのないところであろう。彼女に対する読者の感じ方が大きく読後感に関わってくるとも言えるのであるが、逆に脇を固める個性的な検事や弁護士たちに対して振り回されているようでにも感じられる。

というのも主人公にはどうしても父親の死という辛い過去があるにも関わらずその悲壮感が漂ってこないのだ。作者には滝川と深町をメインに据えた話があるそうですがやはり本作においては田島の存在感は絶大であろう。ストーリー自体は田島検事の逮捕など現実的にはありえないような話ではあるのだろうけれど、冤罪が深いテーマとなっているところはやはり目を背けてはならないところであり、ラスト近くの法廷シーンはかなり読み応えがあって二転三転するところがとってもスリリングである。主人公が弁護士に接触し過ぎているところも気になり、卒なくまとまっているようであって逆に作者にとって課題の残る作品であると言ったら言い過ぎであろうか。

評価7点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 22:05 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ぼくたちの家族』 早見和真 (幻冬舎文庫)
著者初読みですが思わぬ秀作に邂逅できた喜びに浸れる作品であると感じる。家族の在り方を問う作品であるが読者に訴えかけるのは家族だけじゃなく物事にしっかりと向き合うことの大切さを教えてくれる作品だと言える。
若菜家はほぼ破産状態に近いのですが、母親の病気がきっかけで息子2人と父親が力を合わせて立ち向かってゆきます。著者の実話に基づいた話みたいで、長男と次男の対照的な性格が印象的で思わず作者はどちらに似ているのだろうと考えてしまいましたが、父親が息子たちによって再生してゆく姿が一男性読者としては最も印象的であったとも言える。

結局一命はとりとめたものの、そんなに長く生きられなかった玲子であるが、世間一般的に富は得られなかったものの立派な子供二人を世に授けたという点では幸せだったのであろうと強く感じるし、著者の母親に対する愛情が滲み出た一冊であることが強く伝わったことは書き留めておきたい。なお本作は妻夫木聡主演で映画化もされており原作にほぼ忠実に描かれている。

評価8点
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 21:54 | comments(0) | trackbacks(0) |-