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『エミリーへの手紙』 キャムロン・ライト著 小田島則子・小田島恒志訳 (NHK出版) ≪ゆこりんさんオススメ≫2009.09.03 Thursday
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でもこの物語では少なくともこれからの未来をいかに有意義に生きることが大切かを教えてくれます。まるでハリーおじいさんが天国から読者を見守ってくれているように感じられる暖かい作品です。>
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親というのは奇妙で不思議な生き物です。自分が小さいころには親は輝いていて、だれよりも強く見える。ところが大きくなるにつれて、そのイメージは崩れていく。思っていたようなヒーローではないことがわかる日が必ずきます。親だって、君と同じで、できることを精いっぱいやろうとしているただの人間なのだと思い知らされる日が、いつか必ず。たぶん、欺かれた、裏切られた、侮辱されたとさえ感じるだろうね。でもどうか、そのときは、エミリー両親もただの人間であることを許してあげてください。それをわかってもらうために、ひとつ、思い出話をします。(本文より引用)
小田島則子・小田島恒志訳。
この作品はなんというか“人生の指針となりうる一冊”ですね。
誰もが多かれ少なかれ悩みを持って生きています。
本作の登場人物も例外ではありません。
ハリーおじいさんの生き方って本当に素敵ですよね。
毎週金曜日に孫娘のエミリーが訪れるのを心待ちにしていたハリー。
そしてアルツハイマー病に苦しみながらもエミリー宛に手紙を書きました。
彼が残した“手紙”はエミリー当てであるが実は一番読んで欲しかったのは息子のボブだったのでしょう。
エミリーの年齢では当然すべてのことがわかるはずもなく、そして同じものを3冊も作っていますものね。
きっと息子のボブにとっては“偏屈な”父親だったのでしょう。
それがいつのまにやら父親が“奥行きのある”人物に変わっていきます。
この変化を見守りながら読めた一読者として本当に幸せでした。
これは特に男性読者は理解しやすいでしょうね。
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『ヘルマフロディテの体温』 小島てるみ (ランダムハウス講談社) ≪藍色さんオススメ≫2009.08.28 Friday
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この作品は翻訳本よりも難解かなと読み始めて思いましたが、無事読み終えた今、“上手く起承転結をつけて書いているな”と感心しております。
作者の小島さんは、海外に留学をし、そして翻訳業を経てイタリア語で小説を発表したのちに本作を上梓、なんと本作がデビュー作となります。
主人公のシルビオはナポリに住む医大生。女装をするのが趣味でそれを男でも女でもない“真性半陰陽”のデーダ教授に見つかるのですね。
弱みを握られた彼は教授からいろんな課題を与えられます、それにより物語が進行して行きます。
ポイントはゼーダ教授というのは主人公の母親とも関連していまして、これは読んでのお楽しみということで良いのでしょうか。
作中でいくつか課題を与えられたシルビオが物語を創作します。
これがとっても素晴らしいのですね。
まるで創作することによって主人公が一歩一歩階段を上るようにその成長を感じ取ることが出来ます。
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『しずかな日々』 椰月美智子 (講談社) ≪ゆうさんオススメ≫2009.08.26 Wednesday
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この作品は傑作と呼ぶにふさわしい作品ですね。
いちおう児童書ながら、大人でも十分に感動できます。
本作の最大のセールスポイントはとにかく幸せな気分にさせてくれるところ。
文庫化されたらいつでも読み返せるように手元に置いておきたい作品わ。
坪田譲治文学賞は、凄い作家を輩出しておりますね。
重松清、角田光代、いしいしんじ、瀬尾まいこなど。
椰月さんは作品の幅は狭いかもしれませんが、本作を見る限りポテンシャル的には上記作家に負けないですね。
それだけ非のうちどころのない作品と言えるでしょう。
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『長崎くんの指』 東直子 (マガジンハウス) ≪リサさんオススメ≫2009.08.24 Monday
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この物語は現実にちょっと疲れた読者には格好の一冊ですね。
幻想的で非現実的な話を散りばめて楽しませてくれるのですが、胸が少し痛くなったのはやはり舞台である「コキリコ・ピクニックランド」が経営難のために廃園となることですね。
物語の冒頭でこのことが語られているので、読み手にとってはその後のいくつかの物語がすべて想い出っぽく感じられ(時系列的にそうなりますよね)より感慨深いものとなっている点です。
これは作者の素晴らしい技巧だと思います。
作者はきっと人生に対して敏感な人なのでしょう。
この物語は一見“人生の楽しいことは本当に一瞬であり、そしてほとんどが辛いこと”という感じです。
でもそうじゃないのですね、私的には上記言葉を逆のプラス発想で捉え読み終えました。
“人生辛いことがあるからこそ楽しいんだ”と言うように。
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『日の名残り』 カズオ・イシグロ (ハヤカワepi文庫) 《四季さんオススメ》2009.04.27 Monday
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<土屋政雄氏の歴史的名訳による重厚な一冊。人生について深く考えさせられるブッカー賞受賞作品>
『エデンの東』(ハヤカワepi文庫)や『月と六ペンス』(光文社古典新訳文庫)、『アンジェラの祈り』(新潮クレストブックス)の名訳で著名な土屋政雄訳。
ブッカー賞受賞作品。
さて、カズオ・イシグロ初挑戦しました。著作リストはこちら
映画の感想はこちら
これはもう素晴らしいの一語に尽きますね。
あまり小説に男性向け・女性向けという形容を施したくないが、この作品は男性向けの作品だと思う。
なぜなら作者は“男の人生”を描いているからだ。
でも女性が共感できないということはありません、逆にこんな男に惚れて欲しいと思ったりします(笑)
あとどうなんだろう、特徴としては作者にとっての母国となるイギリスに対して、ある時は誇り、ある時は辛辣に描いているように見受けれる。
物語の始めに読者は主人が今までの英国人からアメリカ人に変わったことに驚きを隠せずに読み進めたのである。
予想通り全体を支配している重要なことでした。
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『sweet aunt』 さとうさくら (宝島社) ≪ゆうさんオススメ≫2009.03.30 Monday
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<作者の物腰の柔らかさに背中を押された気がする作品。>
作者のさとうさくらは『スイッチ』で2006年第1回日本ラブストーリー大賞審査員絶賛賞を受賞(大賞は原田マハの『カフーを待ちわびて』)、その後『メルヘンクラブ』を上梓、本作が第3作となる新進の女性作家。
まず読み始めて最初に感じたことは、その文章の読みやすさ。
これはまあ簡単明瞭な文章と言えばそれまでだが、普段あんまり読書をしない人でもスンナリと入れるように書かれている。
主人公の実花は18歳で高校卒業を目前に控えていて、服飾の専門学校に入学予定。
だが不慮の事故で両親がなくなり、大嫌いだった母の妹と同居することとなる。
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『平成大家族』 中島京子 (集英社) ≪ゆうさんオススメ≫2009.03.23 Monday
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中島京子著作リストはこちら
<重いテーマを美しい文章で楽しませてくれる極上のエンターテイメント作品。>
初出 「青春と読書」。
ネット上で評判の高い中島京子さん、今回初挑戦しました。
他の著作作品も是非手に取りたい作家に出会えた喜び。
この人の美しい文章で紡げば、大抵は読者に大きな幸福感をもたらせてくれるのでしょうね。
タイトル通り、本作では当初4人家族だった緋田家が8人家族(大家族)となるところから物語が始まります。
初めは龍太郎・春子夫妻に彼らの母(義母)であるタケと長男である克郎の4人。
そこから長女の逸子夫妻と息子さとるが逸子の夫の聡介の商売の失敗からまず転がり込む。
次に次女の友恵が離婚のために転がり込む、それも前夫以外の子供を身籠って・・・
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『朗読者』 ベルンハルト・シュリンク (新潮文庫) ≪四季さんオススメ≫2009.03.20 Friday
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<ヘッセの『車輪の下で』に比肩する心にズシリと響く作品。>
確かヘッセの『車輪の下で』以来のドイツ文学。
まさに懐の深い読書が楽しめる一冊。
本作は1995年に刊行されて以来、数多くの国でベストセラーとなっている。
日本においては新潮クレスト・ブックスにて2000年に刊行、そして2003年に文庫化、翌2004年からは日本の文庫本におけるステータスシンボルと言っても過言ではない“新潮文庫の100冊”にラインアップされている。
読み終えて、新潮文庫の100冊の威厳を保ってる作品であることを確認できて胸をなでおろした次第である。
尚、本作は本年6月『愛を読むひと』というタイトルで映画化される予定。
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『黒百合』 多島斗志之 (東京創元社) ≪ちえこあさんオススメ≫2009.03.14 Saturday
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<本格ミステリーとしても青春小説としても一級品の上質な作品。出来れば2度読みたい。>
このミス7位作品。
メインとなる舞台は1952年の神戸・六甲。
東京で暮らす14歳の寺元進が夏休みに古い父の友人である浅木の別荘に遊びに来たことから始まる。
そこで浅木の息子で進と同じ年の一彦と別荘近くの池に遊びに行った時に運命の出会いが起きる。
美少女(という表現あったかな)でヒロイン・香との出会いである。
その後物語は進の父親が登場する過去(戦前)のベルリンの話に遡ったりで、読者としたら現在(1952年)とどういった関連性があるのだろう、そして現在の恋物語はどうなるのだろうと、ほとんどの読者が二つのことを同時進行形で考えながら、どっぷり読書に嵌ることを余儀なくされるのですね。
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『蟋蟀』 栗田有起 (筑摩書房) ≪リサさんオススメ≫2009.03.11 Wednesday
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<発想の豊かな作家の心地よい短編集。>
動物をモチーフとした奇妙な香りの漂う10編からなる短編集。
栗田さんの作品は5年前『ハミザベス』を読んだことがある。
その後芥川賞に3回ノミネートされ、どちらかと言えば純文学志向なのかなと捉えていたのだが、本作ですごく柔軟性のある部分を読者に誇示しているところは凄いの一言に尽きよう。
本作は最初の4編が雑誌(ウフ、ちくま)やネット(WEBちくま)掲載作品で、あとの6編が書き下ろしとなっている。
女性読者をターゲットとして書かれた作品であることには誰も異論の余地はないであろう。
テンポが良く、起承転結のつけ方が巧みな作家だと思う。
ラストの余韻が読者の印象を厚くしているのだろう。
どれもが20ページほどの短編ばかりなので、飽きずに読める点は読者のニーズに応えれた作者の力量の確かさが窺えるのだ。
ただちょっと残念だったのは奇抜さが売りのはずが、2編目の「あほろーとる」の側転お姉さんが一番印象深くて少し尻すぼみ的な感はいなめなかったな。
男性読者は皆そうでしょう、セクシーだものね(笑)
他で印象に残ったのは性同一性障害を語った「鮫島夫人」、発想が本当に楽しい「猫語教室」、そうそう表題作「蟋蟀」でのタマコさんのキャラも素晴らしいですね。
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