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『出会いなおし』 森絵都 (文藝春秋)2017.04.13 Thursday
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まるで処方箋のような作品集であり、読み終えたあとには背中を押してくれたり、肩が軽くなるのは作者の愛が詰まっている所以であると言える。 特に印象的なのは「カブとセロリの塩昆布サラダ」、デパートでカブと思って買ったサラダが実はダイコン、怯まずに立ち向かう主人公が痛快で、これは作者特有のこだわりが読者に伝わって来て励まされます。滑稽な話なんだけれど肝心なことは譲れないという主人公の気持ち伝わります。 自分の過去を振り返ることは自分の成長に不可欠であるということを噛み締めた方が多いと思います。
あと感動的なのはやはり「むすびめ」とラストの「青空」で、この2編は涙を誘うこと請け合いの傑作短編だと言える。 タイトル名ともなっている「出会いなおし」は本作のモチーフともなっていると捉えて読むと効果てきめんであり、私たち読者は後悔していることが多く、本作を読むことによって自己途上するきっかけとしたいですね。
評価9点。
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『みかづき』 森絵都 (集英社)2016.10.22 Saturday
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吾郎にとっては蕗子は血が繋がっていないが、他の2人の実の娘(蘭・菜々美)同様、いやそれ以上に可愛くてその気持ちが全編を通して貫かれている。途中でいろんな紆余曲折があるが、一筋縄ではいかないのが人生であるが必ず努力すれば報われるのであるということを教えてくれる。
全体を通して語り手が吾郎から千明、そして最後は蕗子の息子である一郎へと変って行き、時の流れを強く感じる作品であるけれど、当初補習塾の理念を掲げて始めた塾経営がやがてやむを得ずに進学塾へと変わり、また巡り巡って補習塾的なことを掲げているところが素晴らしい。ラスト付近で著者からタイトル名となっている“みかづき”という言葉の意味合いも明らかにされるが、それを知って離れ離れになっていた吾郎と千明はやはり志が同じであったということを理解できた。また、一郎の恋人が千明に似た性格であることは一目瞭然であり、微笑ましく感じられた読者も多かったのではなかろうか。そして私たち読者、とりわけ学校に通っているお子さんがいらっしゃる方は学校教育の意義を根本的に見つめ直すきっかけとなると確信しています。そう本書は感動だけじゃなく、実用書に負けないぐらい有益な一冊なのです。
評価10点。
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『君と一緒に生きよう』 森絵都 (毎日新聞社)2009.06.05 Friday
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<犬が大好きな人なら涙なくしては読めないノンフィクション作品。
途中から難病から保健所での処分状況まで取り上げられている。
ここで取り上げられているのが幸運な一握りの犬たちであることを認識できる点が特に素晴らしいですね。森さんの別の一面を見れて感慨ひとしお。>
初出 毎日新聞2007年10月5日〜2008年9月19日。私は特別に愛犬家でもなく、そして家で犬を飼っているわけでもない。
でも、森さんの熱き想いは伝わってくるのですね。
たとえ、愛犬家のひとたちのわずか10分の1でさえも。以前はノンフィクション作品と言うだけで敬遠し、いわば天邪鬼状態だったのだが、最近その良さを再認識することができそして視野が少しずつだが広がっている気がするのである。
本作もしかり。
まず、森さんの犬好きがわかる文章を少し引用しますね。もう飼わない。自ら決めておきながらも、犬のいない日々はなんとも冴えないものだった。町で見かける犬連れの人々が羨ましくてたまらない。いい車に乗った人よりも、いい服を着た人よりも、いい男連れのどんな美人よりも、犬を連れた人が私には一番の幸せものに思えた。
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『架空の球を追う』 森絵都 (文芸春秋)2009.02.20 Friday
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まがりなりにも三十数年を生きてきた今の私たちは知っている。答えはひとつじゃないことを。結婚に生きても仕事に生きても、子供がいてもいなくても、離婚をしてもしなくても、セックスに愛があろうとなかろうと、そんなことは別段、人間の幸せとは関係がなさそうなことを。
オール讀物2007年2月号〜12月号にわたって掲載されたものを単行本化。
『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞して2年半。
表題作がNHKでドラマ化も決定している森さんの短編集ということで期待して読んだのであるが、正直なところ読後ちょっと肩すかしを喰らった感は否めない。
ちょっと私の偏見かもしれないが、どちらかと言えばオール讀物より別冊文芸春秋に掲載された作品の方がクオリティが高いような気がするのである。
単行本化された時に前者(オール讀物)の方が“寄せ集め的”な印象が強い。
本作はあまりにも作品集としてのコンセプトがはっきりしないように感じる。
内容的には“文芸誌”じゃなく“女性雑誌”に掲載すべきだったと思うのは私だけであろうか。
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『風に舞いあがるビニールシート』 森絵都 (文芸春秋)2009.02.20 Friday
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別冊文藝春秋に連載されてたものを単行本化したもの。
全6編からなるが、ひとことで言えば人生の喜怒哀楽が詰まった作品集と言えそうだ。
近年、別冊文藝春秋に連載された作品で直木賞を射止めるケースが非常に多い。
『星々の舟』、『邂逅の森』、『対岸の彼女』など。
本作は短編集であるが作品集としての完成度は非常に高く、上述した作品にも引けをとらない。
全6編、どの作品も軽く書かれていないがために、長編を6冊読んだような充実感を味わえるのである。
まだノミネート作品が決まっていないが、地の利(文春作品)も含めて本作を本命、三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』を対抗と推したい。
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『いつかパラソルの下で』 森絵都 (角川文庫)2009.02.20 Friday
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前作『永遠の出口』から約2年の沈黙を経て森絵都さんが何と前作以上に“心に残る一冊”をもたらせてくれた。
『永遠の戸口』はジャンル的には青春小説だと言えそうだが、本作は少し恋愛面が加味された家族小説に分類される作品なのであろう。
前作は圧倒的に女性読者向けの作品だと言えそうだが、本作は性別・世代を超えて楽しめる作品に仕上がっている。
絵都さんの素晴らしい点は何はともあれ表現力の豊かさに尽きよう。
登場人物ひとりひとりの人物造型の的確さ。
読者は安心して作品に身を委ねられるのである。
この物語では過去に絵都さんが書かれた児童書では想像もつかない大人の世界を描写している。
いきなりの冒頭のシーンに驚愕された方も多いはず。
達郎には噛み癖があって、それは遠慮がちな甘噛み程度のものにすぎないけれど、達する一瞬だけは制御不能になるらしく、歯と歯のあいだを鋭い痛みが駆けぬける。それは私の痛みだ。
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