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『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と『ライ麦畑でつかまえて』2009.06.25 Thursday
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ご存知新訳ブームの先駆的作品となった村上春樹訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』読み始めました。
比べるとかなり違います。
訳文はやはりかなり風化しますよね。
決して野崎さんの訳をまずいとは言いたくありませんが、日本人の顔が50年前から全般的に変わったのと同じで訳文も風化&変化するのでしょう。
世相を反映したリズム感のある村上さんの訳文はいいですね。
ちょっとこの作品について補足説明させていただくと、累計発行部数は全世界で6000万部、アメリカで1500万部を超え、2003年時点でも全世界で毎年25万部が売れているらしいです。訳本(講談社英語文庫)は参考程度でしばらく読むひまはなさそうです。
原文
Chapter1
[If you really want to hear about it,the first thing you'll probably want to know is where I was born,and what my lousy childhood was like,and how my parents were occupied and all that David Copperfield kind of crap,but I don't feel like going into it.In the first place,that stuff bores me,and in the second place,my parents would have about two hemorrhages apiece if I told anything pretty personal about them.](講談社英語文庫版より引用)
野崎孝訳(1964年)
第一章
『もしも君が、ほんとにこの話を聞きたいんならだな、まず、僕がどこで生まれたとか、チャチな幼年時代はどんなだったのかとか、僕が生まれる前に両親は何をやってたかとか、そういった<デーヴィッド・カパーフィールド>式のくだんないことから聞きたがるかもしれないけどさ、実をいうと僕は、そんなことはしゃべりたくないんだな。第一、そういったことは僕には退屈だし、第二に、僕の両親てのは、自分たちの身辺のことを話そうものなら、めいめいが二回ぐらいずつ脳溢血を起こしかねない人間なんだ。』(白水社『ライ麦畑でつかまえて』より)村上春樹訳(2003年)
第一章
『こうして話を始めるとなると、君はまず最初に、僕がどこで生まれたとか、どんなみっともない子ども時代を送ったかとか、僕が生まれる前に両親が何をしていたかとか、その手のデイヴィッド・カッパフィールド的なしょうもないあれこれを知りたがるかもしれない。でもはっきり言ってね、その手の話をする気になれないんだよ。そんなこと話したところであくびが出るばっかりだし、それにだいたい僕がもしそういう家庭の内情みたいなものをちらっとでも持ち出したら、うちの両親はきっとそろって二度ずつ脳溢血を起こしちゃうと思う。』(白水社『キャッチャー・イン・ザ・ライ』より)原文
Chapter3
[I'm the most terrific liar you ever saw in your life. It's awful. If I'm on my way to the store to buy a magazine,even,and somebody asks me where I'm going,I'm liable to say I'm going to the opera. It's terrible. So when I told old Spencer I had to go to the gym to get my equipment and stuff,that was a sheer lie. I don't even keep my goddam equipment in the gym.](講談社英語文庫版より引用)野崎孝訳(1964年)
第三章
『僕みたいにひどい嘘つきには、君も生まれてから会ったことがないだろう。すごいんだ、かりに雑誌を買いに行く途中なんかでもさ、誰かに会って、どこへ行くんだってきかれるとするだろう。僕は、オペラへ行くって答えかねないんだな。ひでえもんだよ。だからさ、スペンサー先生に、いろんな装具やなんかをとりに体育館へ行かなきゃなんないと言ったのも、あれはまっかな嘘だったんだ。装具だって、僕は、体育館には置いてやしないんだよ。』(白水社『ライ麦畑でつかまえて』より)村上春樹訳(2003年)
第三章
『僕はとてつもない嘘つきなんだ。まったく救いがたいくらい。たとえば僕がただ雑誌を買うためにどっかの店に向かって歩いていたとするね。そしてもし誰かに「やあ、どこに行くんだい?」と尋ねられたら、「ああ、今からオペラを見に行くんだよ」とかつい言っちゃったりするわけだ。とんでもない話だよね。だからスペンサー先生に、今からジムに行って私物を取ってきますと言ったとき、それはまるっきりの嘘だったわけだ。僕はだいたいジムに私物なんてまったく置いてないんだもの。』(白水社『キャッチャー・イン・ザ・ライ』より)村上春樹・柴田元幸『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を語る
http://www.hakusuisha.co.jp/topics/rye1.php『ライ麦畑でつかまえて』解説
http://www.hakusuisha.co.jp/topics/rye20.php角田光代エッセイ「ホールデンと私」
http://www.hakusuisha.co.jp/topics/rye11.php2人のホールデン、どちらが反抗的か見極めたいですね(笑)
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停電の夜に - Interpreter of Maladies【講談社英語文庫】2009.05.22 Friday
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正直原文を読んだというより、訳本と照らし合わせて読んだと言ったほうが正しいでしょうね。
直前に訳本をひととおり読んでいるので内容がわかっているので小川高義さんの訳文を堪能したと言っていいのかな。
最近英文を読んでないので他と比較できないのでなんともいえませんが、ラヒリの文章は比較的シンプルなんでしょうね。
翻訳本の感想はこちら
ちょっとだけ訳文と照らし合わせますね。
もっともお気に入りの最後の"The Third and Final Continent"の冒頭より
"The Third and Final Continent"
I left India in 1964 with a certificate in commerce and the eqivalent,in those days,of ten dollars to my name. For three weeks I sailed on the SS Roma,an Italian cargo vessel,in a third-class cabin next to the ship's engine,across the Arabian Sea,the Red Sea,the Mediterranean,and finally to England. I lived in north London,in Finsbury Park,in a house occupied entirely by penniless Bengali bachelors like myself,at least a dozen and sometimes more,all struggling to educate and establish ourselves abroad.
小川さんの訳文(新潮文庫より引用)、
『三度目で最後の大陸』
私がインドを離れたのは1964年のことだ。商科での勉強を終え、当時で十ドル相当の金を持って出たのだった。ローマ号というイタリアの貨物船に乗って三週間、エンジン室の隣の船室で、アラビア海、紅海、地中海を越え、ようやくイギリスに着いた。行った先は北ロンドンのフィンズペリー・パークというところにあった寮である。私と似たり寄ったりの、金のないベンガル系の独り者ばかりが、少ないときでも十何人かは住んでいて、異国で苦学し身を立てようと頑張っていた。
日本語で読んでみると簡単ですが、英語で読んで自分でこのように訳すのは大変です(笑)
ちょっと話が飛躍しますが、今注目している翻訳家が自分の中では5人いて、それぞれの訳文の特徴を形容詞で表すと次のようになります。
もちろん、作品によって違うのでしょうがあくまでもファーストインプレッションということで。
小川高義さん 簡潔で美しい文章。
村上春樹さん 個性的な文章。
柴田元幸さん 読みやすい文章。
土屋政雄さん 重厚な文章。
岩本正恵さん 瑞々しい文章。
これは原文を少しでも読んだりとか、あるいは同一作品で他の訳者が訳されている文章を読んだりしたら余計にわかるでしょうね。
まあ、いずれにしても今回とってもこの"Interpreter of Maladies"(『停電の夜に』)によってこうして原文も読めたしまた翻訳本をもっと読んでいこうという気にさせられました。
改めて、著者のジュンパ・ラヒリさんと日本語に翻訳された小川高義さんに感謝したいなと思う。
読書が何倍も楽しめました。時間かかったけど(約2ヶ月半)。
次はサリンジャーの"NINE STORIES"行きます。
ちょっと読みかけですが・・・
そのあとはカズオ・イシグロの"NEVER LET ME GO"ですね。
後者はまだ買ってません。
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『ナイン・ストーリーズ』と『NINE STORIES』2009.04.24 Friday
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さて、講談社英語文庫の『Interpreter of Maladies』【停電の夜に】が残り2編ぐらいになったので(遅すぎるって)、行きつけの図書館でまだ入ってない柴田元幸新訳『ナイン・ストーリーズ』(サリンジャー著)の翻訳本と同時にまたまた講談社英語文庫で『NINE STORIES』を買ってきました。
実は私にとって生まれて初めて翻訳の単行本を買いました(笑)
文庫本やペーパーバック版はありますけど。
少し余談ですが、サリンジャーと言えば先日、TBSドラマ『スマイル』の中で新垣結衣ちゃんが本屋で万引犯と間違えられるシーンがあるのですが、『ライ麦畑でつかまえて』を持ってましたね。
柴田元幸翻訳本と新潮文庫版(野崎孝訳)と少し読み比べましたが、やはり柴田さんの新訳の方が読みやすいです。
歯切れが良いのでしょうね、柴田さんの文章は。
帰って9編中1編だけ読みましたがいい感じですね。
ちなみに『ナイン・ストーリーズ』は35年ぶりの訳書らしいです。
原書は短編しか現状読めませんね。
実は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と迷ったのですが・・・
それも辞書を引かずに(笑)2ページほど読んで翻訳本と照らし合わせてますわ。
まあ翻訳本を2回読む感覚に近いですが。
新潮クレスト・ブックスの最新刊『最終目的地』の発売も間近で本当に月日の経つのは早いですね。
でも新潮クレスト・ブックスって高いよね。2520円です(汗)
この作品は映画も完成したらしいので読むの楽しみにしてます。
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『Interpreter of Maladies』 STORIES BY Jhumpa Lahiri (講談社英語文庫)2009.02.25 Wednesday
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左(講談社英語文庫)、右(新潮文庫翻訳版)
先日、小川高義訳で新潮文庫版の翻訳本『停電の夜に』を読んで感銘を受けた。
そこで、その感動を原書で何倍も感じようということで講談社英語文庫版を購入した。
通常のペーパーバックとの違いは2点ある。
まず、サイズが日本の文庫本サイズであるという点。
もうひとつは巻末にNotesという注釈がついている点。
原書を読むのは約15年ぶりとなる。
辞書を引きつつ読む気はない。
かなり時間がかかるからだ(笑)
1ページ読んでは翻訳本で確認という感じで読み進めるつもりである。
感覚的には次のように考えている。
たとえば映画を例にとろう。
字幕と吹き替えがある。
臨場感においては字幕に勝るものはないと考える。
小説を翻訳本で読むのはある意味吹き替えで映画を見るような行為と言えよう。
それに対して原書で読むのは字幕なしで映画を見るようなものだと思う。
ただし、原書だけでは理解できないので翻訳本でチェックということになる(笑)
それによって、次の3点を確認したい。
まず、原文に触れることによって作者の本当の姿を直に触れる。
次に、自分の現在の英語力の確認とレベルアップを図る。
最後に、訳者の素晴らしさを再認識する。
予定的には日に5ページずつぐらいになるであろうが(笑)
さあ Read between the lines!
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