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『家族シアター』 辻村深月 (講談社)2014.12.26 Friday
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読者によって好みが分かれると思われますが、個人的には年の近い姉妹が描かれている編がギュッと心を鷲掴みされたような気がして楽しめましたが女性読者にも聞いてみたいなと思ったりしています。
まずは冒頭の「「妹」という祝福」」ですね、真面目な姉とイケてる妹の対比がリアルですが、姉の結婚式に妹に送られる手紙を振り返る構成が絶妙で思わず唸らされます。
あとは最大の感動が約束される「1992年の秋空」、うみかとはるか姉妹の物語ですが逆上がりが2人のまるで友情のようは姉妹愛を育みます。
残りの編もすべてがそれぞれ上手くまとめられていますがアメリカ帰りの孫と祖父とのつながりを描いた「孫と誕生日」が秀逸でしょうか。
本作は書下ろしも含めて様々な雑誌に掲載された物語の寄せ集め的な作品に見えますが、一冊を読み終えた後のまとまりは作者の力量の高さを誇示されたような気にさせられます。ラストの短い物語は作者が敬愛する藤子不二雄ファンの夫婦の物語で、ファンサービスとして捉えたら良いのでしょうね。ディープな辻村ファンにとってはこれ以上ない締めくくりの物語であることが容易に想像できます。
評価8点。
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『島はぼくらと』 辻村深月 (講談社)2013.07.20 Saturday
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直木賞受賞というプレッシャーを撥ね退け、さらなる成長を見事に遂げた直木賞受賞第一作長編。
辻村さんの作品はそんなに読んでませんが、皆さんの過去の作品の感想を照らし合わせて考えるとより作品の幅が広がり、確固たる成長を遂げた作品だと言えよう。
それはまさに本作で登場する高校生4人(朱里、衣花、源樹、新)のキラキラした個性の描写と彼らの成長とにオーバーラップしてしまいます。
瀬戸内海に浮かぶ本土からフェリーで20分というロケーションにある冴島という火山のある離島を舞台とした愛情と友情を骨格とした青春小説。
Iターンやシングルマザーと言う社会問題を含め、島という環境がもたらすものや登場人物それぞれの境遇による違いや大人の事情など、いろんな要素が盛り込まれていますが作者は見事なまでに料理して読者に差し出してくれています。
ただし読者によっては少し物足りなく感じるかもしれません。それは高校生4人それぞれが、痛々しい過去を背負っていないこと、宿命は背負ってますがね、いわば環境の違いによってキャラクタライズされている点であろう。
今回直木賞受賞作の『鍵のない夢を見る』と合わせて読む機会を得たのであるが、個人的には直木賞受賞作を踏み台として一皮むけた作者の力量を発揮できた作品だと考えます。
それはやはり読者にとって夢を与える作品に邂逅できた喜びに浸れるからである。
なぜならどんなに毒がはらんでいようがあるいは現実を突き付けられようが、どこかに清々しくて胸をなでおろすところが盛り込まれた作品が作者の一番の魅力であると考えます。
余談ですが辻村さんはファンサービス旺盛な作家さんで、終盤に他の辻村作品に出てくる赤羽環が登場させる。
個人的には他の作品にヨシノの元気な姿を登場させてほしいなと思ったりする。
読了日7月12日
評価9点。
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『鍵のない夢を見る』 辻村深月 (文芸春秋)2013.07.20 Saturday
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各編田舎で起こった事件を第三者的な視点で語られていて工夫が凝らされていますが、決して読者に夢を見させてくれる作品ではなく、逆に現実を突きつけられた気がします。
窃盗、放火、殺人など決して共感は出来ないのだけど、誰もが陥る危険性をはらんだ展開が待ち受けています。
辻村さんが描くと人生における希望と絶望は紙一重ということに気づかされ読み応えがあります。
そして描かれている男性陣のだらしなさ、これが女性読者にとっては一番の快感だったりして本来滑稽に読んで欲しいのですが、女性の登場人物も精神的に余裕がなく危険なので、やはりどこか身につまされる物語になるのでしょうか。
構成的には徐々にエスカレートして行き、4〜5編目は内容的には圧巻と言って良いのでしょう、特にしかし男性読者視点で言わせてもらえばやや一貫性に乏しく、登場人物の自意識過剰が目立って読後感は良くありませんが、良識のある女性読者が読めば本作のような作品で人生において“踏みとどまること”を学ぶのでしょうか。
個人的にはやはり本作単独では高く評価し辛い作品だと考えます。他の辻村作品と合わせて考えるべき作品なのでしょう。
いろんな方の感想を他の作品と比べて本作での直木賞受賞は決してベストの作品であったかに関しては少し否定的な考えは否めないと思いますが、今後のさらなる活躍が見込めると言った意味合いにおいての直木賞受賞ということで納得がいくことが出来るのでしょう。
そのあたり、最新作『島はぼくらと』の上梓によってさらなる才能が開花されたと言って過言ではないのであろう。
評価7点。
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『ツナグ』 辻村深月 (新潮文庫)2012.10.14 Sunday
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吉川英治新人文学賞受賞作品。決して辻村さんの良い読者ではない私ですが、本作を通して作者の確かな力量を感じ取ることが出来ました。
抽象的な表現であるが、作家として読者に1.夢を与える、2.現実を知らしめる、3.生きること(命)の尊さを教える・・・以上の3点が伝わって来ました。
5編からなる連作短編集の形をとっていますが構成が素晴らしいのです。
物語の配置としての構成と、そして使者である歩美と親友の心得で登場する歩美と女子高生との関係とのバランスが絶妙です。
1〜4編目にて依頼人4人が登場しそれぞれの依頼人の視点から描かれます。そして最終章では使者である歩美の視点から語られ、使者となったいきさつを含めた彼のバックボーンと1〜4話の話をより深く掘り下げることにより読者により一層の感動をもたらせてくれます。
ジュンヤワタナベのコートを着ていることぐらいしかわからなかった歩美ですが、凄い過去を背負っていたのです。
それぞれの話の種明かしというか裏事情が語られ読者はなるほどこう言ったことだったのかと思わずにいられません。
一番読み応えのあるのはやはり女子高生の友情の話でしょうね。最終編での“伝言”についてのくだりはハッとさせられます。
少し曖昧で決してハッピーな終わり方でないところが却って心に残りますが、私は背負ったものが大きい嵐ちゃんにも深く同情します。
それはやはり彼女の生きていくことの厳しさを少しは感じ取ったからかもしれませんね。
あとは歩美の両親の死に関する真相が最後にあきらかにされるシーンも印象的ですね。
私たち読者は物語の登場人物である依頼人を自分に置き換え、そして自分だったら誰と会うだろうかということを考えてしまいます。
簡単に選べる人もいるでしょうし、そうでない人もいますよね。
それを考えることが生きているという証しでもあると思いますし、本作を読むことによって自ずから生きるということはどんなことか考えてしまう機会を与えてくれているのです。
人間誰しも後ろめたい気持ちを持っていて、この作品はちょっと言葉が適切かどうかわかりませんが、その後ろめたさを緩和してくれるような効能があるような気がします。
原作が素晴らしいのでどのように描かれているか映画も観たいですね。
本多孝好さんの印象的な解説も見事のひとことにつきます。
さすがプロですね。
評価9点。
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辻村深月著作リスト。2009.03.22 Sunday
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ジャンル的にちょっと苦手なんだけど、月一冊ぐらい手に取ればかなり楽しめると思います。
まだ一冊しか読んでないけど、結構構成力もあってストーリーテラーですね。
まだまだのびしろのある作家だと思っています。
ようやく講談社以外からも出版、今後かなりのオファーがあるんじゃないでしょうか。
『太陽の坐る場所』 文藝春秋 (2008/12) <既読>
『ロードムービー』 講談社 (2008/10)
『名前探しの放課後』 講談社(上/下) (2007/12)
『スロウハイツの神様』 講談社ノベルズ(上/下) (2007/01)
『ぼくのメジャースプーン』 講談社ノベルズ (2006/04)
『凍りのくじら』 講談社ノベルズ (2005/11)文庫化(2008/11)
『子どもたちは夜と遊ぶ』 講談社ノベルズ(上/下) 2005/05文庫化(上/下)(2008/05)
『冷たい校舎の時は止まる』 講談社ノベルズ(上/中/下) (2004/6〜8)文庫化(上/下)(2007/08)
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