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『屋根裏の仏さま』ジュリー・オオツカ/岩本正恵・小竹由美子訳、新潮社
 原題“The Buddha in the Attic"岩本正恵・小竹由美子訳。日系人作家によるフィクションでありながら歴史の教科書では教えてくれない大切なことを教えてくれる一冊。

出だしの“船のわたしたちは、ほとんどが処女だった。”という言葉にはハッとさせられたが、読み終えてそれ以上に驚いたのは綿密な下調べを経て書かれたいわば作者の魂のこもった作品であるということである。
20世紀初頭、夫となる男の写真を携え期待に胸を膨らませて渡米した日本の若い娘さんたちが、到着するや否や写真通りじゃなく期待を裏切られながらもほとんどの人が順応して生きて行きますが、戦争という個人ではどうしようもないものに人生を妨げられてゆきます。

抗いがたい理不尽なことに対するやるせなさを淡々と描く作者、これは訳者の日本語力の高さのおかげかもしれませんが、本作には私たち読者に対して尽力を注いでくれた瑞々しい訳文が魅力の岩本さんが志半ばで亡くなられた形だったのですが、アリスマンローの訳者でお馴染みの小竹さんが後を継いで見事なコラボ翻訳を完成させているところも一つのドラマとなっています。

書き忘れてましたが、本作では主語が”わたしたち”という一人称複数の言葉で統一されていて、終盤以外は渡米した女の子ひとりひとりを指していて、作者の意図するところを本当に汲み取ったと感じます。個人的には”わたしたち”の中に性別問わず読者をも参加して歴史を共に体感することによってより深みのある読書体験を満喫してほしいなと思ったりします。

評価9点。
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 10:49 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『風の丘』 カルミネ・アバーテ(新潮社)
原題“La Collina del Vento"関口英子訳。イタリア南部のカラブリアにてニーナベッラロッサルコの丘を守るアルクーリ家の盛衰を四代に渡って描いた大河作品。
時代が第一次大戦前後からと長い年月に渡るのでイタリアのファシズムなどの勉強にもなり、戦争に苦しんだのは私たち日本人だけではないということが身に沁みます。
作中に考古学者パオロ・オルシという実在の人物を登場させたのが亡き英雄に対するリスペクトの表れが如実に出ており、作者の南部出身いわば同郷小説ということも相まって成功を収めていると感じる。

いろんなことが起こりますが、四代に渡って家系の固い結束が表れているのが安心した読後感をもたらせていると感じます。そのあたりミケランジェロのの命名が父の亡き兄弟から取った名前であることが象徴されています。
いわば語り手である四世代目の“僕”(リーナ)が父、祖父、曽祖父の良い意味での自慢話を繰り広げている体裁をとっているとも言え、ロッサルコの丘が彼らに強い意志を与えて彼らの人生の希望となっています。
印象的なのはやはりソフィーやリーナという我慢強い妻たちでしょうか。ミケランジェロの妹のニーナベッラの熱さも圧巻ですよね。故郷の良さを忘れがちな私たち日本人に必読の一冊だとも言えます。
関口さんの訳も素晴らしい。カンピエッロ賞受賞作品。

評価9点。
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 00:55 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『子供時代』 リュドミラ・ウリツカヤ (新潮社)
沼野恭子訳。六編からなる掌編集。ウリツカヤと言えば、以前『通訳ダニエル・シュタイン』を読んで鳥肌が立つ思いの読書を体験できたことが記憶に新しいのであるが、本作のように児童書兼大人のお伽噺のような作品を書かれていたということでより作者の能力の高さを理解できたのは私だけではないはずだと確信している。
物語の舞台となっているのは1949年でちょうど第二次大戦から4年経った時代でやはり戦争の余波で貧困にあえいでいた世相が反映されている。そしてやはり注目したいのは作者自身が1943年生まれであって、冒頭のキャベツの奇跡で登場する6歳の少女とどうしても重なってしまい、それが単なる創作という部分だけでないという重要なものが読者の胸に伝わってくるのである。

ラストの「折り紙の勝利」もとりわけ感動的であって、物語のラストを飾るにふさわしい一編である。母親役の女性がベートーベンの曲をピアノで弾くシーンが印象的であり、現代日本に生きる私たちはベートーベンと言えばやはりヨーロッパの偉大な作曲家という意識していないけれど、当時のロシアにおいてはファシズムの国の偉人という認識で捉えていることにハッとさせられた。

読者それぞれ自分の子供時代と照らし合わせて、似た経験もあるであろうがやはり戦後生まれであれば自分自身の生い立ちの方が平和であることにも気づかされ、ちょうど終戦に近い時期に読め、忘れてはならないことを再認識できたことが感慨深いのである。
つけ加えておくが、本作はところどころに効果的な絵が散りばめられていてまるで二人三脚のような素敵な一冊に仕上がっている。新潮クレストブックスシリーズの底力を見た読書となったことを書き留めておきたい。

評価9点、
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 13:35 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『メモリー・ウォール』 アンソニー・ドーア (新潮社)
原題“Memory Wall"、岩本正恵訳。記憶をテーマとした6編からなる短編集ですが、カートリッジに記憶を保存して自由に再生出来る装置が存在する未来の時代に生きる認知症の女性を描いた表題作とナチス政権下の孤児院で育った少女の記憶を描いたラストの「来世」はとりわけ素晴らしく読者の心に刻まれる作品集だと言えます。
各編の舞台はアメリカだけでなく、南アフリカ、韓国、中国、ドイツ、ウクライナなど多岐にわたるのであるが、たとえ記憶がおぼろげになろうとも、どこの街も風景は美しく登場人物の心に根差しています。時代も過去から未来までと柔軟性のある作品の中にも一貫して読者に生きることの尊さを知らしめてくれるところが素晴らしいと感じますし、作者のポテンシャルの高さと引き出しの多さを感じるのですが、簡単に言えば作者の魅力とは“リアルではあるのだけど夢見心地にさせてくれるところ”だと感じます。
本作を読むとやはり翻訳でしか味わえない奥行きの深さを感じます。世界は広いんだけど人間が抱える不安や恐怖は万国共通ですよね。

訳者である岩本さんが昨年末に永眠された。新潮クレストブックスの創刊から活躍されている翻訳家でこれからますますのご活躍をと思っていた矢先なので非常に残念に思っている。岩本さんの特長である瑞々しい訳文がもう読めないかと思うと非常に残念であるが、これからも折に触れて本作を含めて他の訳書も堪能したいと思っている。
心からご冥福をお祈りしたいと思っています。

評価9点。
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 03:21 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『パリ左岸のピアノ工房』 T.E.カーハート (新潮クレストブックス)
村松潔訳。再読、原題“The Piano Shop on the Left Bank"
そこはかとないピアノ愛が描かれているノンフィクション作品。私自身、残念ながらピアノ自体にはほとんど興味がないのであるが、初読の時に感じた本作独自の世界をもう一度体感したくて再読。ピアノに関する知識がないので深く読解は出来なかったのは残念であるが、今回の読書は作者がパリ在住するもアメリカ人なのでアメリカ人から見たフランス人の気質を感じ取ることが出来、違った楽しみ方が出来たと思っている。

家にピアノがない読者にとって(苦笑)、ただ読み進めるにあたって理解できない用語などがあり、部分的に流し読みになってしまったのであるが、フィクション作品では味わえないリアリティや臨場感を得ることが出来たのは流れるような村松氏の訳文の功績によるものだと思う。

ピアノの歴史等についても語られているが、それよりももっとも個性的な登場人物である酒好きの調律師の方が印象深いのは少し気恥ずかしい気もするのであるが、やはり作者の人生にとってピアノがいかに大切なものとなっているかを感じ取る作品であり、置き換えれば読者の人生にとって本作のピアノにあたるものが果たして何であろうかと己の人生を見つめ直す機会を与えてくれた作品でもあると言えるんじゃないでしょうか。
私的には作者が本作を執筆するにあたり、一般的に他の作家がフィクション作品を執筆するよりも楽しい時間であったように思えます。

余談ですが、本作を読む際に大半の時間をBGMとしてビル・エバンスのジャズピアノを聴きながら過ごした。ビル・エバンスはどのメーカーのピアノを演奏していたのだろうという思いを馳せながら、いつもよりもお洒落な読書を堪能させていただきました。作者並びに訳者に感謝です。

評価8点。
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 00:17 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ペンギンの憂鬱』 アンドレイ・クルコフ (新潮クレスト・ブックス)
再読、沼野恭子訳。新潮クレスト・ブックスの初期の傑作のひとつと言って良いであろう作品。ウクライナのキエフを舞台とした作品で書かれたのが1996年ということで、ソ連崩御から5年後であり国家としての不安定さの象徴として通常南極に住むペンギンと同居する作家ヴィクトルの姿を描いた作品である。ある日から存命の人の追悼記事を書く仕事を始めることにより彼の人生は豹変します。どうにも出来ない国民のやるせない気持ちを代弁した作品と言えばいいのでしょうか、読者にとって哀しげなペンギン・ミーシャを愛おしく思う気持ちが徐々に盛り上がり後半病に倒れるところでヒートアップします。

人間の都合によって翻弄されて行くペンギンはすごく深刻な世界なのだけど、のほほんとした性格と言ってもよいであろうヴィクトルの行動と混沌とした実情が末恐ろしいのである。
凄く感想が書きにくいと物語なのでとにかく読んで下さいということに尽きるのであろうか。読めば読むほど味のある作品であることは間違いなく読者の読解力を試す作品であるとも言えると思います。

私的には4歳の女の子や内縁の妻よりもペンギンを慕う閉鎖的な主人公のキャラが作品の根底となっていて、そこが読者にとっては心地良いのですね。
ウクライナという国は私たち日本人にとっては縁遠い国と言っても良いのでしょうが、ウクライナ語ではなくロシア語で書かれた作品ということが作者の苦悩→国家の混迷の表れでもあると感じます。

評価9点。
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 21:42 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『見知らぬ場所』 ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳 (新潮社)
原題"UNACCUSTOMED EARTH"(2007) 小川高義訳。

再読。今や超寡作と言って過言ではないラヒリの3作目で2008年クレストブックスにて刊行ですが最新作にあたる作品。 ちなみにこの作品で第4回フランク・オコナー国際短篇賞を受賞しています。 2部構成からなり第1部は独立した短編で5編からなり、第2部は3編からなる連作短編といって良い構成。

1部の短編の特徴は『停電の夜』ではインドとアメリカどちらにも視点をおいた作品がおおかったのですが、本作は移住した2世の話が主流となっているところが月日の流れを感じさせます。ほとんどアメリカでの生活基盤が出来ているために デビュー作ほど祖国に対する愛情は感じられないのですが、強く生きることの意志表示がひしひしと伝わってきます。 それは移住を決断した親に対する葛藤する気持ちというよりも感謝し自立しなければいけないという気持ちの表れた作品群であると思います。

2部はヘーマとカウシクというベンガル人同志の男女の愛を語った感涙ものの作品です。幼いころに出会いそして別れ、月日を経て再会する感涙ものの作品です。
時の流れとともに人の気持ちも移ろいますが、結末はどうであれ2人の愛は深遠だったと思いたいです。 とりわけ、男性読者として愛していた母親が亡くなった後に後妻をもらおうとする父親に対する気持ちなど、カウシクの気持ちはよくわかりました。 日本人であれベンガル人であれ、アメリカ人であれ“愛は世界共通”です。
ちなみに最後はローマが舞台となります(笑)

400ページ強の作品ですが、ファンにとってこの二部構成は短編集と長編との2冊読んだ感じがするぐらいボリューム感に溢れ、必ず満足出来る作品であると確信します。
個人的には“世界中から取り寄せました”という新潮クレスト・ブックスの中で代表的な作家をひとりあげよと言われたら私は間違いなくジュンパ・ラヒリをあげます。
それは彼女の文章が本当に“上質”で愛に満ちているからです。

訳者の小川さんですが、他の作者の訳本も何冊か読みましたがラヒリの文章がもっとも簡潔かつ静謐で素晴らしいと感じています。
早く4冊目出て欲しいですね、そして早く本作の文庫化も希望、多くの人に味わって読んでもらいたいと切に願います。

評価9点。
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 13:27 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『いちばんここに似合う人』 ミランダ・ジュライ著 岸本佐知子訳 (新潮社)
<読者の想像力を掻き立てる作品集>

岸本佐知子訳。16編からなる短編集。
フランク・オコナー国際短編賞受賞。
作者のミランダ・ジュライは1974年生まれのパフォーマンス・アーティストで、映画監督や脚本家としても活躍しています。
読者の想像力を掻き立てる作品集なのですが、やはり女性向きと言えるのでしょう。
凄く感性豊かな作家だと思うので、一般的に感受性の強い女性が読まれたら満足できるのでしょうか。
そして女性が読まれたら各登場人物に自分の中の似た部分を感じ取り投影出来るでしょう。
そうですね、作品中に“自分の物語”を見つけることができる楽しみがあるのでしょう。

逆に男性読者の私はちょっと共感できないところがあったのですが、どの編の主人公も自分の世界というものを持っていて、その自分の世界というのが孤独という言葉と紙一重であって、そこをどう見極め楽しめるかがこの作品の
評価が決まるのだと思われます。
作品の内容が肌に合うかどうかは別として、作者の発想の斬新さには度肝を抜かれます。
そうですね、お洒落と感じるか退廃的すぎると感じるか微妙ですね。
作者本人がきっとキュートな人なのだろうという先入観があって、登場人物が総じてキュートじゃない点が。
男性読者は贅沢です(笑)
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posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 15:40 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ボート』 ナム・リー著 小川高義訳 (新潮クレスト・ブックス)
<新潮クレスト・ブックスお得意の移民系作家のデビュー短編集。ただしとっても評価の分かれる作品集だと思いますので覚悟してお読みください(笑)>

新潮クレスト・ブックスは過去にジュンパ・ラヒリを筆頭にしてたくさんの新人作家を発掘し紹介して来ました。
その多くが短編集であることはご存じの方が多いことでしょうね。

作者のナム・リーはベトナムで生まれるものの生後3ヶ月めに両親とともにボートピープルとして国外へ脱出、マレーシアの難民キャンプを経由してオーストラリア・メルボルンで育ったのち、アイオワ大学に学んで作家の道を歩みはじめました。本作がデビュー作品集となります。

この作品の評価って正直本当に難しいですね。
ラヒリの訳者で有名な小川高義さんが訳しているのですが、たとえばラヒリの訳文のような静謐さも感じないし、そして文章の流暢さも感じないのですね。

共通点はやはり移民系作家ということなのでしょうが、やはり両者のあいだには“愛国心”ということでは大きな開きがあると思われます。
いわば、本作の作者は“母国を捨てた人”なのですね。
移民系作家の本質的な特徴としては、母国語ではないが故に書きたいことを書けるという部分は大きく、読者の共感を呼ぶのでしょうね。

ここで敢えて“共感”と“共鳴”という言葉を使い分けたいのですが、私なりには次のように解釈しています。
ラヒリの『停電の夜に』には“共感”を、そして本作には“共鳴”を覚えることが出来るのですね。
これは言葉では説明しにくくフィーリングで感じ取るものだと思うのですが、なんとなくふたつの言葉の違いが微妙にふたりの作家の特徴を表しているような気がします。

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posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 22:35 | comments(2) | trackbacks(0) |-
『初夜』 イアン・マキューアン著 村松潔訳 (新潮クレスト・ブックス)
<時代を超えてそして国境を越えて、マキューアンは人を純粋無垢な気持ちで愛することの素晴らしさを本書を通して教えてくれる。たとえどんな不可解なことが起こっても、決してひるんではいけないのですね。読者は人生において一所懸命生きることの大切さを再認識するのである。>

原題 “On Chesil Beach”,村松潔訳。

私自身マキューアンの作品は『土曜日』、そして代表作だと目される『贖罪』に次、本作で3作目となる。
いずれもが素晴らしい作品であることに違いないのであるが、本作は今までの作品にない繊細な物語。
それは日本語タイトルからしてもおわかりであろうが、少なくとも性の解放がなされてなかった時代においては、人生の最大のイベントと言って過言でない日の出来事を赤裸々に語っています。

時代は1962年のイギリス。
愛し合っているふたり・・・エドワードとフローレンスはつつがなく結婚式を終えます。
結婚式のあとのビーチにあるホテルでの出来事なのですが、今までベッドをともにしたことがなかったのですね。
だからその緊張感が読者にも伝わってきます、否応なしに・・・
たとえば並みの作家が描けば滑稽な出来事として映るのかもしれませんが作者の力量、そして村松さんの訳文、ともに冴えわたっています。
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posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 19:16 | comments(0) | trackbacks(1) |-