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『政と源』 三浦しをん (集英社)2013.10.14 Monday
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普通っぽい政こと有田国政は大学を出て銀行員として勤めた後、定年退職して現在はひとり暮らし、妻は娘と暮らしていていわば別居中。
もうひとりは個性派である源こと堀源二郎は小学校もろくに出ていないがつまみ簪職人として今も活躍中。
読ませどころはやはり2人の強き友情ですよね。特に若かりし頃のお互いの恋模様が対照的です。
世間一般的に見れば政の方が成功というか勝ち組のように見えますが、そうは問屋がおろしません。
著者の凄いところは、一見ユーモラスなように見えますがやはり2人とも独居老人であるという点でしょうか。
まあ妻がいなくても長年の親友と言って良いであろう存在があるから幸せなのでしょうか。
読者の誰もがいずれ迎えるであろうシルバー世代、いかに生きるべきかを考えさせられるところが一筋縄ではいかないしをん作品の特徴であると思います。
物語に彩りを添えているのは源のもとで弟子として働く徹平とその彼女であるマミ。彼ら2人の存在が政が人生の長きにわたって掛け違えて来たボタンを解消してくれようとします。
読者ひとりひとりが常日頃抱えているわだかまりや不器用な部分が本作を読んで軽減された気もします。
幸せをつかんだ彼ら2人のサイドストーリーも書いてほしいと希望します。
評価8点。
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『舟を編む』 三浦しをん (光文社)2013.08.26 Monday
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辞書を作る(作中ではタイトル名の“舟を編む”という言葉を使っています)ことにより情熱と言うものをお裾分けされた気分にさせられます。
そして特に感じたことは、主役のまじめを筆頭とした編纂に携わったすべての人のライフワークとも言える充実した仕事ぶり。
当たり前のように出来ているように思いがちですが、その忍耐力たるものは並々ならぬものであって、そのあたり作者は西岡という普通キャラ(一般人キャラと言った方が妥当かな)を登場させることによってより際立たせることに成功しています。
会社としては適材適所な人事なのかもしれませんが、読者側からしたらやはり天職の人っているものですよねと痛感させられます。
松本さんや荒木さんをはじめ、魅力あふれる人物が脇を固める本作ですが、何と言っても映画では宮崎あおいが演じましたが、妻役の香具矢さんの魅力に取りつかれた男性読者も多いのではないであろうか。
そして少なからず感じ取れるまじめ君の十数年間にわたる人間的成長、間違いなく香具矢さんの支えがあったからということで微笑ましいですよね。本作においてロマンス部分はマイナーなものかもしれませんが、個人的には印象に残りましたので書き留めておきます。
作者の三浦しをんさん、懐の深い作品を書きはります。本作を通して情熱や希望を持つことを忘れてはいけないと言うことを強く訴えているのですね。そして単行本の装丁、一見地味ですが根気のいる辞書作りの大変さを象徴したものだと感じます。
余談ですが、私が持っている国語辞典はかなり古いもので、最近はほとんどネットで代用しています。本作を読み終えた今、新しい最新版の国語辞典を買いたい衝動に駆られている。残念ながら「大渡海」は売っていないので他から選ばねばならない。
どこの出版社の辞書を買うかは、各社辞書を作るにあたって抱いた思い入れの強さを一番感じたものをと思っている。自分なりに少しでも吟味出来るように感じるのは本作を読み終えて得たものの大きさを表していると思ったりしています。
遅ればせながらも、辞書を引くことによって少しでも感性のアップに努めようと思っている、作者が私に与えてくれたミッションだと受け取っています。
評価9点。
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『神去なあなあ夜話』 三浦しをん (徳間書店)2013.02.04 Monday
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神去村の起源や秘密が明かされて行きます。
前作では臨時雇いだった主人公勇気は、本作では正社員として働いています。
当初、神去村や林業に対して反抗的だった勇気、本作ではそう言った態度や姿は微塵もなく、既に神去村にしっかりと溶け込んでいて、ある意味安心して読めます。
その反面、前作で描かれたお仕事小説的な要素はかなり影を潜めています。
前作では“林業”に、本作では“神去村”にスポットをあてて書かれています。
本作では人と人との信頼関係を重要視して作者は書かれています。
その反面、前作で感じた林業を通じての青春、本作ではほとんど感じなかったのは少し寂しい気がしました。
個人的には楽しみにしていた直紀の恋物語がやや薄っぺらく感じたのですが、やはり根本的に二人がつり合っていないようにも感じられたのですね。
逆に清一とヨキの過去の両親の死にまつわる話や、ヨキとみきの馴れ初め、周りの人が山太のためにクリスマスを催す話は印象的でした。
(読了日1月28日)
評価7点。
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『神去なあなあ日常』 三浦しをん (徳間文庫)2013.02.04 Monday
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物語の主人公は高校を出たてのフリーター志願の勇気という名のいわば現代っ子。その彼がなんと神去という名の三重県の山奥の村にて就職する、職業はなんと“林業”。 本作の成功の大きな要因は主人公勇気の語り口であろう。一年過ぎてから過去を振り返るように語られているのであるが、読み進めていくに連れて、彼の成長ぶりを否応なしに実感することが出来る。 そこが読者にとっても圧巻であり捲るページを止めることが出来ない。
“なあなあ”という言葉に象徴される神去村の気質と普段読者にとって縁遠い臨場感あふれる林業の舞台、まさにしをんさんの独壇場ですね。 四季の移ろいをテンポの良い文章で綴られているので、自然と勇気と直紀の恋も応援したくなります。 続編もすぐに読んでみたい気にさせられたのは私だけじゃないはずであろう。 きっと神去村の住人になりきったより成長した勇気に出会うことが出来るのでしょうね。
実際は勇気のような順応性のある青年は少なくなったのでしょうね。本作にて作者の素晴らしい功績はやはり林業の大切さ、素晴らしさ、大変さをわかりやすく描いているところだと思います。 実はしをんさんのお父さんがモデルとなった村の出身でお祖父さんが林業に従事されてたみたいです。
(読了日1月26日)
評価8点。
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『光』 三浦しをん (集英社)2009.04.07 Tuesday
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小説すばる掲載分に加筆・訂正。
美浜島を襲った津波で生き残った子供3人。
中学生の信之、美花、小学生の輔。
何もかも失った3人はある秘密(罪ですね)を共有していた。
過去を封印し別々の人生を歩んでいた彼らが
やがて大人になって再会する・・・
絶望的な小説である。
誰もが多かれ少なかれ持っている過去の過ち。
それはわかる。
本作の登場人物のそれは多かれ少なかれの範疇を超えている。
タイトルの“光”の意味はまさに絶望的な光なのである。
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『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん (文春文庫)2009.04.07 Tuesday
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だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ。
三浦しをんさんの小説最新作。
出版社からして直木賞、千載一遇のチャンスだと見ている。
表題に書いている友情物語だけでなく、家族のあり方(夫婦や親子問題)も必ず考えさせられる魅力的な作品。
家族のいない登場人物が読者に熱き家族小説をエスコートしている。
演じているのは多田啓介と行天春彦。かつてふたりは高校時代のクラスメートであった。
東京の郊外、神奈川県との境にあるまほろ市で便利屋を営む多田とひょんなところで彼と再会する行天。
行天が多田の事務所に居候しさまざまな事件を解決していくストーリー展開。
便利屋っていっても実際は雑用係。冒頭の病院のお見舞いの代理にはじまりペットの世話や塾の送り迎え代行など・・・
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