-
『水声』 川上弘美 (文藝春秋)2014.11.12 Wednesday
-
都と陵、2人の姉弟の読者が決して真似の出来ない愛の物語なのだが、作者が描くと緊張感とほんわか感がミックスされていて心地よく読者の胸に響くから不思議なものだ。
物語は姉妹の愛の形の行方と、彼らの両親の生い立ちというか真実の究明という2つの軸で進められていく。時間軸が過去に遡ったり現代に戻ったりで少し混乱させられたのは事実であるが、親の存在感が人格形成に影響するということや、誰しもが訪れる死というか死を見据えた人生の過ごし方、不思議な物語の中にも勉強することが多く盛り込まれています。
読ませどころはやはり、父親に関する真実を知りそれを自分自身で上手く吸収して生きて行くところでしょう。
母親が亡くなった年齢を過ぎて、育ての父親に同居しようと提言するところがこの物語の根幹をなしている姉弟の強い絆のように感じられましたが、読み違いかもしれません。
とにかく作者独自の世界に浸れたと感じたことは充実した読者だったという証だと思います。
評価8点。
-
『どこから行っても遠い町』 川上弘美 (新潮社)2009.04.14 Tuesday
-
<川上弘美の世界観が十分に表現された作品。>
初出小説新潮及びyom yom。
心地よく流れるような文章に身を委ねれる時間。
本好きにとって最も至福の時なのであるが、川上さんの作品を読むと知らぬうちにその世界に入り込んでいる自分に気づく。
舞台は東京の下町の商店街。
11編からなる連作短編集といったらいいのでしょうね。
いろんな人の視点から物語が語られます。
川上さんは人間の不思議さ・滑稽さを引き出すのが巧みですね。
嫁の不倫相手だった男と一緒に住む男(平蔵さんと源さん)。
あるいは何回も別れてはまた引っ付く女性が15歳も年上のカップル(廉ちゃんとおかみ)。
個性的な登場人物が賑わせてくれますね。
少し難点を言えば、私の読解力不足かもしれないんだけど、登場人物が少しずつリンクしているのがわかりづらかった点かな。
でもそういった部分も作者が意図しているのですね。
そのほのかなリンクをかすりとるのが気持ち良いのすわ。
途中まではそう思っていて読み進めたのです。
-
『夜の公園』 川上弘美 (中央公論新社)2009.04.14 Tuesday
-
(2006/06/20)
二人を比べることはできない。二人は違う種類の人間である。
二人は、私という人間の中にある幾つかの種類の「私」のうちの、それぞれ違う「私」とつきあっているのだ。
とっても危険な小説だ。
言い換えれば、女性の怖さを思い知らされた1冊でもある。
内容的には自由奔放に行われている不倫小説と言えよう。
リリと幸夫という夫婦がいる。
幸夫には春名、リリには暁という不倫相手がいる。
ちなみに春名とリリは親友同士。
いわば“妻”と“愛人”の関係。
春名は幸夫以外にも悟という男もいる。
独身同志だから不倫ではないが・・・
悟と暁は実の兄弟でもある。
春名は男性依存症的人物として描かれているが、本当に好きなのは幸夫であり、そのことが物語のキーポイントとなっている。
-
『古道具 中野商店』 川上弘美 (新潮文庫)2009.04.14 Tuesday
-
川上弘美さんの作品は『センセイの鞄』以来読んでなかったが、本作も読者が数年後に再読したくなるような気分をもたらせてくれるであろう傑作に仕上がっている。
なぜなら彼女の作品を読めば必ず幸福感に包まれるからである。
舞台は東京の古道具屋の中野商店。
古道具であって骨董屋ではない。
ここでバイトする私(ヒトミ)が主人公。
年齢は二十代後半である。
主人の中野さんは五十を過ぎているのだが3度目の妻をもらっているも不倫中(笑)。
はっきり言って“女にだらしない男”なのである。
しかし憎めないから不思議だ。
中野さんと姉であるマサヨさんとの距離感も読者にとっては奇妙で心地よい。
-
『センセイの鞄』 川上弘美 (文春文庫)2009.04.14 Tuesday
-
誰にでも思い入れの強い作品というものがあるであろうが、私にとってはこの作品はとっても思い入れの強い一冊である。
読書好きのあいだでは読まれた方の方が多いと思えるが、敢えて文庫化に伴い再読してみた・・・
何回読み返しても心に響く名作である。
< 前のページ | 全 [1] ページ中 [1] ページを表示しています。 | 次のページ > |