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『サラバ!(下)』 西加奈子 (小学館)2017.02.10 Friday
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圷家の崩壊と再生の話が展開されるのですが何といっても姉の再生が読者にとってはサプライズでそう来たかと思われた読者も多かったのではないでしょうか。そして歩の外見の劣化をも含めた脱落してゆく姿が読者にとっても痛々しいのですが姉弟のいわば逆転現象がとりようによっては爽快ともとれます。
これは作者が主人公に与えた試練であって、自分に溺れてしまった歩は落ちるところまで落ちます。姉のことを素直に話せる2人の男女の友達が恋人になったことを素直に喜んであげれないほどにまでになります。
そして下巻においては二つの大きな感動が待ち受けています。ひとつは物語の謎的な部分ともなっていた父母の離婚の原因が明確にされますが、それを知った男性読者の大半はなんと立派な父親であろうと感服されると思われます。あと一つはヤコブとの再会であって、これは読者の希望が叶ったという感じでしょうか。立派になったヤコブを見て再生しようとする歩が痛々しくもあり微笑ましくもありますが、要するにこの世に生を受けたものは苦楽が詰まった人生が待ち受けているということを読者に伝えたかったのだと思います。
人間っていうのは脆いものですが、本作を読めば多少なりとも逞しくなるエネルギーを注入された気にさせられます。
評価9点。
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『サラバ!(上)』 西加奈子 (小学館)2017.02.09 Thursday
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作者の特徴でもある繊細さと力強さを併せ持った作品であるところは間違いのないところであろうが、読み進めていくうちに読者は歩ほど波乱万丈ではないにしても、自分自身の過去を振り返ることを余儀なくされる。
特に印象的なのはエジプトで別れることとなった親友のヤコブとの邂逅は、歩の人生にとってその後多大な影響を与えることだと容易に想像できるのである。作中でタイトル名ともなっている“サラバ!”という言葉が使われるけれど、“グッドバイ”という意味と“ガンバレ”という相手を鼓舞する意味合いとを併せ持った言葉であるように感じられ心に沁みた。これから歩がどのような成長を示すのか、いかに人生に立ち向かってゆくのか期待しながら下巻に向かいたいなと思う。
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『i(アイ)』 西加奈子 (ポプラ社)2017.02.01 Wednesday
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タイトル名ともなっているアイはシリア生まれでアメリカ人の父と日本人の母の養女となる主人公の名前でもあり、冒頭の言葉でもあり作中で頻繁に使われるi×i=-1→“この世界にアイは存在しません”という言葉が読者の脳裡に焼き付いて深い読書を強いられるのである。個人的にはタイトル名となっているアイとはアイデンティティのアイとloveのアイとを兼ねていて、主人公であるアイの強烈で魅力的な個性がどのような着地点をつけてくれるかという期待を持って読み進めるのであるけれど、作者は期待以上の着地点を読者に披露し読み終えた後の充実感は他の作家の追随を許さないレベルだと言っても過言ではないであろう。
作者の深遠な世界観にほど遠い読者である私は、日本の高校で親友となるミナと主人公アイとの究極の友情物語として読んでみるときっと何かを掴める読書になるであろうと、これから読まれる若い女性読者にオススメしたいなと思ったりする。本作は手元においてある程度期間を経て再読すればまた新たな発見をすることができるであろう。それはまるで自分自身の成長変化を確かめる行為のようでもある。
評価9点。
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『漁港の肉子ちゃん』 西加奈子 (幻冬舎文庫)2015.05.28 Thursday
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とはいえ、本作も決して万人受けするかと言えばそうでもないかもしれない。その決して万人受けしないところが西作品の魅力とも言える。そこには作者でしか表現できない領域の究極の愛が描かれている。
西作品すべてを読んでいるわけではないけれど、本作は作者のもっている愛情が文章に乗り移り読者に提供されている。いささか羽を伸ばし過ぎた箇所もあり、バランスが取れていない所も見受けれるが、作者の伝えたいところは十二分に伝わり感動的な読書となった。
菊子こと肉子ちゃんのキャラが絶大であり、読者にとってはほっこりとしていて憎めない。語り手は娘であり小学校五年生の喜久子で、親子二人がわけ合って北国の漁港に来たところから物語は始まる。
2人を取り巻く人々たちのキャラも良く、語り手である喜久子の成長物語としても飽きさせずに読ませてくれる。
しかしながらラスト50〜60ページぐらいから感動の嵐がやってくる。これは読んでいてある程度は予想はしていたのであるが、その予想をはるかに凌ぐものであり作者の類まれな才能を感じずにはいられなかった。
私の中では一人でも多くの人にこの感動を伝え共感したいという気持ちも読後一杯である。
補足するとあとがきがあり宮城県石巻市をモデルに書いたということであり、この小説の誕生の前の段階でもドラマがあるといことであり、作者自身も思い入れの深い物語のようだ。
世の中には不幸な境遇の人がたくさんいるけれど負けてはいけないということですね、この2人のようにしあわせいっぱいに生きなければなりません。文庫版の帯の“迷惑かけて生きていけ。”という言葉がやけに勇気づけられた読書となりました。
なお、表紙のカバーイラストも作者作成です。
評価9点。
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『円卓』 西加奈子 (新潮文庫)2014.01.13 Monday
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近年の傑作と言われている『ふくわらい』に通じる奇想天外な部分もあるのであるが、いい意味で少しこじんまりとまとめてくれているところが読者にとって距離感の近さを感じさせてくれる作品である。誰もが失なわれつつある“童心に帰る”という大切な気持ちを大阪弁を交えて語ってくれているのですが、なにわともあれタイトルとなっている“円卓”という言葉が素晴らしく胸に響きます。これは実際に8人家族の渦原家に置いてあるテーブルなのですが、物質的なものよりも一家の精神的支柱としての役割が大きい。
物語は主人公のこっここと琴子を中心に語られ、いろんな出来事を通して成長して行く姿が微笑ましい限りであるが、彼女の自由奔放さを取り巻く幼馴染のぽっさんや三つ子の姉たちなど個性あふれる面々によってシリアスな面も含めながら楽しく語られていることを忘れてはならない。
本を閉じ終える頃、私は家族がもう一人増える時に円卓も新しい住家に持って行って欲しいなと切に感じました。
本作品は芦田愛菜主演で映画化が決定しているのであるが、西作品の世界を実写化するのは本当に難しいと思ったりする。
原作の良さを損なわずにどうか楽しい映画に仕上がって欲しいなと思う。文庫本の解説は津村記久子さんが担当しているのであるが、西さんと親交の深い津村さんならではの解説文はさすがのひと言である。
私たち読者も西さんのように三つ目の目を持ったような視野の広い感覚で楽しく人生を旅したいものであると感じた。
評価8点。
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『ふくわらい』 西加奈子 (朝日新聞出版)2013.02.04 Monday
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この作品は新たな西さんの代表作と言える作品だと思う。
それは奇想天外な設定であるにもかかわらず、読者に作家としての言いたいことをしっかりと伝えているからだと思います。
そして読者は他の西さんのどの作品よりも、もっと言えば他の作家のどの作品よりも印象深い作品として心に留めておくこととなるでしょう。
私的には作者は本作を通して“自分の殻に閉じこもっては行けない”ということを伝えたいんだなと思っています。
そして様々な愛の形を読者に提供してくれています、このあたりもう少しじっくり読み込めたらもっとグッとくるのかもしれません。
例えばもっとも印象的な人物であるプロレスラー守口、彼は敗者の象徴的な人物として一見描かれているように見えますが、実は違います。
定にとって最も重要であることを気づかせてくれたのです、それは亡き父母の愛情です。
主人公である定だけでなく、登場人物すべてが個性的というかアブノーマルな面々ばかりですが、唯一普通(ノーマル)だったと言える小暮しずかと友達になれたということが最もリアルに主人公を成長させた証しだと捉えています。
それにしても作中の会話文、本当に楽しいですよね。読者をも昇華させてくれるラストも含めて有意義な読書を約束してくれる一冊だと確信しています。
映画公開された「きいろいゾウ」とは180度違ったいわば“黒西加奈子”的作品ですが、作者の本来の作家としての資質は本作のような作品でより発揮出来るのだと思う。本屋大賞取れるかもね。2013キノベス1位作品、本屋大賞候補作品。
(読了日1月31日)
評価9点。
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『うつくしい人』 西加奈子 (幻冬舎文庫)2011.09.14 Wednesday
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久しぶりに西さんの作品を手に取った。
この人の作品の特徴は飾らない文章で飾らない人を描写し、読者に共感を呼ぶ点だと思うのですが、
いつも読後に自分自身と向き合わせてくれるところは凄い手腕だなと思います。
本作は関西弁じゃなくって標準語バージョンですね(笑)
さて本作、ひとことで言えば“自己再生の物語”と言えるのでしょう。
主人公は32歳の独身女性・百合。単純なミスがきっかけで会社を辞めて一人旅にでます。
その舞台は瀬戸内海の高級リゾートホテル。
数日間の滞在ですが主人公はバーテンダーの坂崎とドイツ人マティアスと出会い大切なものをつかみとるのですね。
彼ら2人は風変わりな人物ですが、風変わりゆえに主人公にとって“癒しの存在”となるのです。
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西加奈子著作リスト。2009.04.21 Tuesday
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関西の私立大学OBという共通点があるのと、飾らない文章がとっても共感しやすい西加奈子さん。
実は初期の3作品しか読んでませんが、応援したい作家さんです。
あと『きいろいゾウ』の文庫版で宮崎あおいちゃんが“いつの日にかツマを演じてみたい。”というコメントを寄せてましたね。
デビューのいきさつからして小学館のイメージが強かったですが、これからはどんどん他社からも出版されるでしょう。
作家の読書道はこちら
新潮クレストブックスもかなり読まれたみたいです。
小説&エッセイ
『ミッキーたくまし』[エッセイ] 筑摩書房 (2009/06予定)
『きりこについて』角川書店 (2009/04予定)
『うつくしい人』 幻冬舎 (2009/02)
『窓の魚』 新潮社 (2008/06)
『こうふくみどりの』 小学館 (2008/03)
『こうふくあかの』 小学館 (2008/03)
『ミッキーかしまし』[エッセイ] 筑摩書房 (2007/10)
『しずく』 光文社 (2007/04)
『通天閣』 筑摩書房 (2006/11)
『きいろいゾウ』 小学館 (2006/03)<2008/03文庫化> ≪既読≫
『さくら』 小学館 (2005/03)<2007/12文庫化> ≪既読≫
『あおい』 小学館 (2004/06)<2007/06文庫化> ≪既読≫
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『きいろいゾウ』 西加奈子 (小学館文庫)2009.04.21 Tuesday
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作者の西加奈子さんは1977年生まれ。昨年2作目の『さくら』がベストセラーとなったのは記憶に新しい。
本作が3作目となる。
読者である私達が普段、どうしても大切な人に伝えられなくてじれったい気分に陥ることってないであろうか。
少しのことで生じる気持ちのすれ違い、あるいはどうしても相手に聞く勇気が起こらないことなど。
人生は乗り越えなければならない試練がたくさんある。
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