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『象』 レイモンド・カーヴァー (村上春樹翻訳ライブラリー)
評価:
レイモンド カーヴァー
中央公論新社
¥ 1,188
(2008-01)

7編からなる短編集、村上春樹訳。実はカーヴァー作品は数年前に読んだ『ビギナーズ』に続いて2冊目であり、晩年の作家としてピークの時期に書かれているだけあって、胸に迫るものを感じ取ることが出来た。
不倫や家庭崩壊や貧困など重くて不幸な話が多いのが特徴ですが、やはり村上訳なので馴染みやすい文体が功を奏しているような気がします。

圧巻は異色ともいえるラストの「使い走り」でカーヴァーの最後の短編ということでチェーホフの死を題材としている。時代も国も違うけど短編作家の名手ということで恐らくチェーホフのことをリスペクトしていたのでしょう、似たような境遇に置かれた自身をメモリアルな題材でもって綴った心に残る作品であります。
通常、翻訳ものの短編に関してはわかりづらさという部分が出てくるのだけれど、巻末における村上氏による各編ごとの作者の人となりや境遇をも考慮した“解題”により、本作品集がとっても読みやすくなったことは間違いのないところである。少なくとも村上氏の作者に対する想いいれを強く感じることが出来、カーヴァーもっと言えば『1Q84』におけるチェーホフの話など村上作品を読み返すとき、今まで以上に理解力が深まった読みかたが出来そうである。

付け加えるとラストから2編目の「ブラックバード・パイ」もまるでその時の作者の健康状態を知ったうえで書かれたのかが微妙な作品で、夫婦生活の終焉を描いていますが読んでいて凄く余韻の残ります。
総括するとカーヴァーを時系列的に読まれる機会に恵まれた読者にとっては、彼の生涯と合わせて読むことが出来、感極まると言えばオーバーかもしれないが、凄く胸がつかえる短編集と言えそうですね。再読も含めて機会があれば他の短編集にも挑戦したいなと思っている。

評価8点。
posted by: トラキチ | 村上春樹翻訳本 | 00:21 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『恋しくて』 村上春樹編訳 (中央公論新社)
村上氏編訳の10編からなるラブストーリー短編集で最後の一編は村上氏の作品が収められている。
氏が愛読している「ニューヨーカー」に収められているものを中心としていて、アリス・マンロー以外の8人の作家は少なくとも私には全く馴染みのなかった作家であり、そこが新鮮だったりあるいは不可解な部分もあって少し苦戦を強いられた読書となったのも事実であるが、各編のラストに村上氏の簡単な講評(恋愛甘辛度バロメーター付)があって、ああなるほどなと納得したり、そういう読み方だったのかと感心したりして良いアクセントとなったのも事実であるが、作品自体がバラエティに富んでい過ぎる感も否めず、そうかといってそれほど個性的な部分も捉えることが出来なかったので胸のすくような読書体験を期待していると初めの数編だけで残念な結果が生じるかもしれません。

逆に、最後の氏自ら書かれた「恋するザムザ」(カフカの『変身』の後日譚的作品)に至って、作品の内容はさておいて、翻訳文と比べて文章がスッと入り込んできたのは強く感じたことではある。
ただ村上氏が上級者向けと謳っているアリス・マンローの「ジャック・ランダ・ホテル」とリチャード・フォードの「モントリオールの恋人」はドロドロ感があり奥行きの深さが少なからず感じられるけど、決して“恋しくて”という気持ちにはなれないのだが(笑)

個人的な意見であるが、全体を通して深く感動をしたりとかそういったものを求めるよりも、雰囲気を楽しむための作品集であると思ったりする。というのは意図的なことかどうかは別として、最後の「恋するラムザ」に“真打登場”的な要素が強くそれに賛同される読者向けの作品だと言えそうです。
もっと言えば、村上氏自身が他の9人の作家と同様、自分の略歴を書いているのであるが、翻訳家の部分を主として書いていて最後に“時に小説も書く。”で締め括っているのであるが、この部分が本書自体を集約しているような気がする。何はともあれカフカの『変身』数十年ぶりに読み返そうという衝動に駆られたのであるが、これも貴重な読書体験である。

評価7点。
posted by: トラキチ | 村上春樹翻訳本 | 22:54 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『極北』 マーセル・セロー著 村上春樹訳 (中央公論新社)
評価:
マーセル・セロー
中央公論新社
¥ 1,995
(2012-04-07)

原題“FAR NORTH" 村上春樹訳。

極北の秩序なき地で主人公の女性メイクピースが困難や逆境を撥ね退けながらも奮闘する姿は、読者に生きることの素晴らしさを訴える。
時代は近未来なのであろうが、東日本大震災を経験した日本人にとってはフィクションなれどリアルな内容となっていて、“たかが小説”とは思えず小説に入ることを余儀なくされる。
もちろん小説なので無慈悲な世界なれど娯楽性もそこなわれていないのであるが、そのあたりは作者だけでなく村上春樹の名訳がもたらせたものであるとも言えるであろう。
ラストに読者にとって大きなサプライズが用意されていて、“こう来たか”と唸らされる。読者にとっても主人公にとっても希望になりえたのではないだろうか。そのサプライズにより読後感が頗るよくなったことは否定できない。
私たちの未来もそうなることを祈りながら本を閉じることを訳者も願っているのだと確信している。

ちなみに作者のマーセル・セローは『ワールズ・エンド』(村上春樹訳)で著名な旅行作家ポール・セローの次男であり本作はは全米図書賞及びアーサー・C・クラーク賞の最終候補となった。
機会があれば『ワールズ・エンド』も読破したいと思っている。

読了日10月15日。

評価9点。
posted by: トラキチ | 村上春樹翻訳本 | 16:00 | comments(0) | trackbacks(0) |-
村上春樹翻訳本リスト(文春文庫版)
★『ニュー・クリア・エイジ』 ティム・オブライエン
★『本当の戦争の話をしよう』 ティム・オブライエン
★『世界のすべての七月』(6月新刊) ティム・オブライエン 
★『心臓を貫かれて』(上・下)マイケル・ギルモア
★『最後の瞬間のすごく大きな変化』 グレイス・ベイリー
★『人生のちょっとした煩い』(6月新刊) グレイス・ペイリー  
★『Sudden Fiction』R・シャパード&J・トーマス・編 小川高義さんと共訳
★『誕生日の子どもたち』(6月新刊) T・カポーティ 

文春文庫もかなり充実してます。
中央公論社の翻訳ライブラリーはこちら
posted by: トラキチ | 村上春樹翻訳本 | 16:02 | comments(0) | trackbacks(0) |-
村上春樹翻訳本リスト(中央公論社翻訳ライブラリー)

★『私の隣人、レイモンド・カーヴァー』 村上春樹編訳
★『滝への新しい小径』 レイモンド・カーヴァー
★『バビロンに帰る―ザ・スコット・フィッツジェラルドブック2』 スコット・フィッツジェラルド
★『犬の人生』 マーク・ストランド
★『必要になったら電話をかけて』 レイモンド・カーヴァー
★『熊を放つ』(上・下) ジョン・アーヴィング
★『英雄を謳うまい』 レイモンド・カーヴァー
★『象』 レイモンド・カーヴァー
★『ワールド・エンド(世界の果て)』 ポール・セロー
★『ウルトラマリン』 レイモンド・カーヴァー
★『ザ・スコット・フィッツジェラルドブック』 スコット・フィッツジェラルド
★『ファイアズ(炎)』 レイモンド・カーヴァー
★『大聖堂』 レイモンド・カーヴァー
★『水と水とが出会うところ』 レイモンド・カーヴァー
★『グレート・ギャツビー』 スコット・フィッツジェラルド
★『偉大なるデスリフ』 C・D・B・ブライアン
★『愛について語るときにわれわれの語ること』 レイモンド・カーヴァー
★『マイ・ロスト・シティー』 スコット・フィッツジェラルド
★『頼むから静かにしてくれ供戞.譽ぅ皀鵐鼻Εーヴァー
★『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』 村上春樹編訳
★『頼むから静かにしてくれ機戞.譽ぅ皀鵐鼻Εーヴァー
★『バースデイ・ストーリーズ』 村上春樹編訳 

抜けがあったり、あるいはオススメがあれば教えてください。
コンプリートしてる人いるのかな?

posted by: トラキチ | 村上春樹翻訳本 | 22:27 | comments(4) | trackbacks(0) |-
『ティファニーで朝食を』 トールマン・カポーティ著  (新潮文庫)
評価:
トルーマン カポーティ
新潮社
¥ 580
(2008-11-27)
“第二次世界大戦下のニューヨークで、居並ぶセレブの求愛をさらりとかわし、社交界を自在に泳ぐ新人女優ホリー・ゴライトリー。気まぐれで可憐、そして天真爛漫な階下の住人に近づきたい、駆け出し小説家の僕の部屋の呼び鈴を、夜更けに鳴らしたのは他ならぬホリーだった・・・・。表題作ほか、端正な文体と魅力あふれる人物造形で著者の名声を不動のものにした作品集を、清新な新訳でおくる。”(文庫版裏表紙から引用)

<かつてこの作品を読まれた方も是非手に取って欲しい、なぜなら村上氏の斬新な新訳により忘れつつある青春が蘇ってくるからである。>

村上春樹訳。
オードリー・ヘッブバーンによる映画化で有名なトールマン・カポーティの代表作。
さて、以前滝口龍太郎訳で読んだのは25年ほど前であろうか。
その時は映画と比べて読むことは出来なかったのであるが、今回はそこをポイントにして読んでみた。
大筋は同じであるが、やはり映画はロマンティックラブストーリー、小説は生きざまを問う作品となっている。

村上氏が打破したかったのは、やはり映画でのヘッブバーンのイメージ。
それは訳者あとがき“『ティファニーで朝食を』時代のトルーマン・カポーティ”を読んでいただけたらよくわかります。
村上氏にとっては著者をかなり擁護している節があり、それがわれわれ読者にも伝わってくるのである。
私としてはこのあとがきの熱さは本文より面白く読めた。
おそらく私だけじゃないとは容易に想像できるのであるが・・・
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posted by: トラキチ | 村上春樹翻訳本 | 14:28 | comments(2) | trackbacks(0) |-