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『わたしの宝石』 朱川湊人(文藝春秋)2016.02.29 Monday
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もっとも印象に残ったのは「ポコタン・ザ・グレート」。主人公の柔道が強い女の子のキャラが最高に憎めないのはもちろんのこと、当時の世相を反映してくる題材が素敵の一語に尽きます。たとえば“チッチとサリー”。恥ずかしながらクスッと笑ってしまいました。あまりにもポコタンに似つかわしくないので・・・、逆にチッチとサリーに関して知っているからこその感情です。そのあと「燃えよ剣」で新選組にとりわけ沖田総史にはまりますが、実は父親は近藤勇に似ていてということです(笑)その後、感動的で勇敢なエピソードが待ち受けています。まあ読んでのお楽しみですね。
他はこれまた天地真理の曲名でもある「想い出のセレナーデ」も感動的な結末が印象的ですが、作者の昭和というかあの頃に対する蘊蓄の深さは、誰しも戻りたくとも戻れないだけに深い読書体験となっていつまでも残るのだと感じます。
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『かたみ歌』 朱川湊人 (新潮文庫) <再読>2013.09.11 Wednesday
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個人的には『なごり歌』よりも完成度が高い作品集であると思います。作者が『花まんま』で直木賞を受賞した直後に出された作品集であり、最も勢いがあった時期に創作されたと言っても過言ではなく、読者にとっても印象深いものだと思います。
完成度の高さの要因として、古本屋である幸子書店が舞台となっている点があげられると思います。各編の主人公の視点で古本屋の芥川龍之介似の主人が語られますが、やはり本好きの読者にとっては本屋が舞台と言うのは落ち着くのですね。安心して読めると言ったら良いのでしょうか。
全7編中、お気に入りはやはり「栞の恋」でしょうか、ある程度予想がついた展開ではありましたが読者にロマンを忘れてはいけないということを教えてくれます。
そして何よりも最終編で、本屋の主人の正体を始め、うまく全体を絡ませつつまとめあげている点が評価できるのであって読者サイドからしたらホロットさせられたというか癒された形で本を閉じることができるのですね。人間の一生って死に直面しているためにどうしても物悲しいけれど、決して捨てたものじゃないということを教えてくれた一冊であると捉えています。また数年後に手に取りたいと思わせるのが作者の真骨頂なのでしょう。
お得意の古い歌(タイトル名ともなっているそれぞれの編の“かたみ歌”)のオンパレードも健在なので、たとえば30才以下のお若い方が読まれたら時代背景を感じ取りにくく臨場感が出ないのかもしれないなと思う。
逆にそれぞれの歌をご存知な方が読まれたら、感慨ひとしおで歌同様それぞれの物語も記憶にいつまでも残りそうであるし、またいつか読み返してみたいという気にさせられるはずです。忘れかけていた懐かしいあの頃、あの気持ちを切なく思い起こさせてくれる朱川作品。たまにドップリ浸かってみるのも読書の醍醐味と言えるのでしょう。
評価8点。
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『なごり歌』 朱川湊人 (新潮社)2013.08.12 Monday
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昭和40年代に東京郊外に出来た虹ヶ丘団地を舞台とした7編からなる連作短編集。
舞台は違うのですが『かたみ歌』の続編と言って良いノスタルジックホラー作品であり昭和の郷愁感を体感できます。
朱川作品は初期の頃、ちょうど直木賞を受賞された前後はよく手に取りましたが随分ご無沙汰してました。
どのような作品であるかはある程度予期出来るので、過去の作品のようなインパクトは薄かったのは否定できません。
しかしながら、少なくともこの系列の作家としては自他共に認める第一人者であることは間違いなく、安心して物語に入り込めることも間違いありません。
ある一定以上の年齢の読者が読めば、懐かしいあの人やあの歌、そしてあの事件が必ず登場し思わずニンマリしてしまいます。
朱川作品を手に取ると今の時代の方が自由で平和なのかもしれませんが、あの頃(昭和の時代ですね)の方が希望があったなと言うことがわかります。
ただ、私の読解力不足かもしれませんが、主人公自体が分散されていて、物語の肝心な部分が少し曖昧というか焦点がぼやけている感じかな、読者にとっては印象深さがない物語だとも言えるような気がします。
その要因としては登場人物ひとりひとりの魅力が乏しい点があげられると思います。まあそれよりも、マリア事件の真相も含めていかに登場人物が連鎖していくかを楽しむべき作品なのでしょう。
私的には作中に出てくる“ゆうらりと飛ぶ飛行機”が作者の言いたいことの象徴なのかなとは受け取っていますが、他の読者の意見も聞いてみたい不可思議な物語でしたが、その不可思議感がに身を委ねれるところが朱川作品の魅力なのでしょうね。
評価7点。
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『わくらば日記』 朱川湊人 (角川文庫)2009.05.18 Monday
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昨年、『花まんま』で直木賞を受賞した朱川さんであるが、本作でまたレベルアップしたような気がする。
読まれた方ならご賛同していただけると思うのであるが、他作よりキャラが立っている点が見事である。
前作『かたみ歌』と同時代の昭和30年代の東京が舞台。
前作は少しミステリー的な要素もあったが、今回は完全な連作短編集という形をとっており古いエピソードから順に語られている。
前作よりも楽しめた大きな要因は登場人物の人間関係の変化が楽しめる点であろう。
読み進めていくうちに少しづつ身近になっていく展開も読書の醍醐味だと言えそうである。
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