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『記憶の渚にて』 白石一文 (角川書店)2016.07.06 Wednesday
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それだけ物語自体が壮大であることが読者にとっても伝わるのであるが、それは物語自体が三部構成となっているところが大きいと思われる。
第一部にて語り手となる古賀純一、読者の大半が物語を通して彼が主人公を演じ、彼の人生哲学いわゆる白石哲学が語られると予想されたことだと思う。それが良い意味で期待が裏切られたところが、他の白石作品では味わえないようなスケールの大きさを感じるのである。
物語全体をミステリーテイストが漂っているのが特長である。登場人物ひとりひとりが謎に包まれているわけであるけれど、彼らひとりひとりの生い立ちがキーポイントとなっていて、いかに彼らが生きてきたか、先祖を遡って謎が謎を呼び、最終的にはピースのパズルが完結します。
その読み終えた時の爽快感は他の作家の作品では味わえないような感覚に満ちていて、それは裏返せば、誰も悪くなく一生懸命生きてきた証としてこうなったのだと読者に知らしめしてくれているように感じられます。その一生懸命さが読者の明日への活力となることは請け合いで、まさに作者が願っていることだと強く感じました。機会があればまた読み返したいと思っています。新たな収穫が得られると確信しています。
評価9点。
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『ここは私たちのいない場所』 白石一文 (新潮社)2015.11.11 Wednesday
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本作の主人公である芹澤に関しても少し変わり種ではあるけれど、やはり落ち着きがあるところが魅力的なのでしょうか。
幼い頃の妹の死をずっと引きずっており、彼が普通でない人生を歩むことを余儀なくさせているのであり、常に人生において振り返る習慣づけがされています。彼のポリシーは決して家族を持とうとしないことだと言え、仕事人間として生きてきたのですが、作者は物語の冒頭において大手食品メーカーの役員という肩書で仕事人間として生きてきた彼に対して仕事を辞するという試練を与える。彼は他の白石作品の主人公ほどではないが、それなりに過去に恋愛を経験はしているのであるけれど、職をなくするきっかけとなった過去の部下である珠美という女性と再会することによって再び色んなことを振り返りますが、その振り返りが前向きなものとなります。
珠美に関しては離婚問題の渦中にあって、こんな女なんかやめておけという気持ちも強かったのですが、読んでいくうちになんとなく二人は合うのだなという白石マジックにやられてしまいそこが心地良いのですね。
タイトル名についても考えたのですが、二人が踏み出すべきジャストタイミングであるという示唆的な意味合いだと捉えてますがどうなのでしょう。
評価8点。
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『ほかならぬ人へ』 白石一文 (祥伝社)2010.02.15 Monday
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むしろデビュー作『一瞬の光』のインパクトの方がずっと印象的で切ないながらも首尾一貫しているところが個人的には受け入れれたのだけど。
テーマ自体は愛で深いのですが、私にはそれほど深遠な作品には感じられなかったのが残念です。>
第142回直木賞受賞作品。
前作の『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を受賞、そして本作で直木賞を見事受賞。
これで文壇のスターダムへとのし上がった白石さんですが本作を読む限り、果たして直木賞の受賞が妥当だったのかどうか甚だ疑問を感じた私である。
過去の直木賞の受賞作を振り返ってみても、なぜこの作品が選ばれたのだろう、なぜあの作家じゃなくてこの作家が選ばれたのだろうともちろんいろんなタイミングが合るのでしょうが。
もちろんいろんな作風があってしかりなのであるが、やはり内省的で思慮深いのが白石さんの登場人物への共感が白石さんの一番の魅力なんだなと思ったりするのですね。
たとえ少し道をはずれていようが。
本作は全体的に焦点がぼやけている印象は拭えませんわ。薄っぺらいというか。
本来の白石作品というのはあくまでも個人的な意見ですが、10人が読めば2〜3人の人に大きな共感を得てもらうというところ。
前作でも強く感じたのですが、やはり作者の倫理観・世界観がちょっとはずれているような気がするのですね。
本作で言えば女性の容姿に対する人生における損得が生じる描写。
女性読者が読まれたらどう感じるのでしょうかね。
思えば以前の直木賞は良かったです。
かつて金城一紀がデビュー作の『GO』で受賞されたのが約10年前ですね。
本作が直木賞受賞できるなら、デビュー作の『一瞬の光』でもよかったのじゃないかなと強く思いました。
読者が少なくともどっぷり嵌れるレベルの作品かどうかで言えばデビュー作の方が上だったと思います。
逆に本作は普段あんまり本を読まない人は読みやすくっていいかもしれません。
少なくとも言えるのは白石作品は直木賞は取れても本屋大賞は取りにくいでしょうね。
そこら辺りが一番の直木賞の現状の問題点じゃないかなと思ったりします。
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『一瞬の光』 白石一文 (角川文庫) ≪再掲載≫2010.02.15 Monday
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本作の単行本が上梓されたのは2000年1月。
今までどうしてこの作品を手に取らなかったのだろう・・・
読後の率直な気持ちである。
このレビューを読み終えた方、後悔させませんので是非手にとって欲しいなと強く思う。
確かに性別によって感じ方・受け止め方が違うかもしれない。
たとえば男性が読めば“共感”できる小説、女性が読めば“感動”できる小説と言えるかな。
世に男性向けの恋愛小説って少ないが本作は狭義では“男性向けの恋愛小説”とも言えそうだ。
過去に『対岸の彼女』を“現代に生きる女性必読の書”と評した私である。
本作を性別問わずに“現代人必読の書”と評したく思う。
女性読者からの主人公の生き方についての率直な御意見を聞きたいなと思う。
主人公は日本を背負って立つ企業の人事課長の橋田浩介38才。
外見も良く東大卒の高学歴、高収入で女にももてる。
3拍子揃った理想的な人物である。
一見、順風満帆に見える彼にも苦悩があるのである。
そこで2人の彼をとりまく女性の登場である。
20歳の短大生で心に病みを持ち続けている香折と、浩介の社長の姪である恋人の瑠衣。
彼女たちが意図的であるかどうかは別問題として、まさしく対照的な方法で主人公に“人を愛することの尊さ”を教え変えていくのである。
「浩さん、人の世話ばかりしていると自分の幸せ逃しちゃうよ。たまには思い切り他人に頼ったり甘えた方がいいって、いつも浩さんが私に言うことじゃない。なのに浩さんは、絶対、絶対誰にも頼らないでしょ。そんなの矛盾してるよ。きっと瑠衣さんにだって甘えてあげてないでしょう」
途中で仕事面において窮地に立たされる主人公。
企業の非情さと瑠衣の献身的な愛情が印象的だ。
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『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』(上・下) 白石一文 (講談社)2009.06.04 Thursday
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<山本周五郎賞受賞作品。現段階での白石さんの集大成的な作品と言って良さそうですね。白石さんの世界観は出てるのですが、ちょっといろんなことを詰め込み過ぎて主題がおぼろげになっている感は否めない。小説とエッセイをミックスしたような作品のような印象ですね。>
書き下ろし作品。
正直、凄いなと唸らされる部分と、もったいないなと思える部分とがありちょっと複雑な感じで読み終えました。白石さんの思想がとっても表現できた作品なのであるけど、小説の中に評論が混じっていて、評論の方が主人公が語っているのか白石さんが語っているのかが読者にとってわかりづらいのですね。
もちろん、洞察力の鋭い方なので読んでいてとっても勉強になる部分は大きいのですが、どうしても小説部分に集中できなかったのですね。
敢えて2巻組にしなくても良かったんじゃないかな。
あと100ページぐらい削って一冊にまとめた方が読者も感動度が増すし、求めやすいし良かったのでしょうけど。
まあそれは出版社の意向もあるのでしょうが。
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