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『R.S.ヴィラセニョール』 乙川優三郎 (新潮社)2017.05.03 Wednesday
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どちらかと言えば読後感として、ノンフィクション的事実に対する驚愕感がありすぎてフィリピン人に対する同情感が強まった読書となった。
本作を読めばやはり血というものの大きさを感じずにはいられない。父親の深い愛情を心に留めながらメスティソという運命を受け入れている主人公に背中を押された読者も多いはずである。
正直、フィリピンの歴史のただ乙川文学は時代物も含めてその長編は奥が深すぎて一度では消化しにくいので、機会があれば再読したなと思う。また新たな発見があるであろうから。
評価7点。
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『ロゴスの市』 乙川優三郎 (徳間書店)2017.02.16 Thursday
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再読。ビブリアバトル発表用に再読したのであるが、タイムリーなことに島清恋愛文学賞を受賞されたことはファンの一人として喜びこの上ないことである。
ちょうど一年ぶりの再読であったので、おおまかな内容は覚えているものの、初読み時と変わらないぐらいの新鮮な読書に酔いしれることが出来たのは、作品の持つ奥の深さ所以かと感じる。
今回は悠子の心の動きにスポットを当てて読んだけれど、読めば読むほど魅力的に感じた。主人公の弘之が惚れるのも無理のないところであろうか。
ただ、女性としての幸せはどこか掴み損ねているようにも強く感じられた。それ故に余韻の深い読書となったのであろうか。作者の次の作品が待ちどおしい限りであるがその前に向田邦子の作品にも触れたいなと思う。
きっと悠子の面影を浮かべながらの読書となるであろう。
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『ロゴスの市』 乙川優三郎 (徳間書店)2016.02.19 Friday
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直木賞作家ながらも、時代小説という兎角敬遠されがちなジャンルのためにセールス的にも少し伸び悩んだ感も否めなかったのだけれど、根強いファンがいたのも事実で作者が現代小説に挑戦した時にはがっかりした人も多かったのではないかと想像する。
先輩である偉大な山本周五郎と藤沢周平を足して割ったような作風であり、文章に関しては先輩たちよりもより端正さ・静謐さが増していると感じていたけれど、寡作であるのとエンタメ度が足りなかったのがセールス面で苦労した要因かもしれない。
本作は現代ものの4作目であって評判が良いので初めて手に取ったのであるが、評判に違わぬ傑作であると断言したいと思う。
まさか、作者からジュンパ・ラヒリの作品についての蘊蓄が聞けるとは夢にも思わずとっても感動的な読書となり、山本氏や藤沢氏の現代もののような違和感は全く感じなかった。
逆に本作を読んで作者の過去の時代小説に挑戦してより作者の凄みを味わってほしいと感じる。
過去を振り返った青春恋愛小説の形態をとっているけれど、翻訳と同時通訳についての作者なりの大いなる奥の深い考察が積み重ねられていて、本が売れにくくなった時代の実態を知るとともに重みのある読書となった。
男性読者サイドから言わせてもらえば、ヒロイン役のせっかちな悠子が素敵であり、のんびりな弘之を自分に置き換えて読むと楽しくもあり儚くもある。
2人が結婚して生活を送っていたらどうなったかは定かではないけれど、お互いが同志のように励みにし合って成長していく過程は印象的であり、決してすれ違っていたわけではないとわかるラストのサプライズを堪能してほしい。
前述したラヒリだけでなく、向田邦子に対するリスペクトも作者ならではのもので、現代小説においても十分に一流であることを証明した。翻訳小説が好きな方には是非一読して欲しい作品である。
評価10点。
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『闇の華たち』 乙川優三郎 (文芸春秋)2009.06.06 Saturday
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<思わず目頭が熱くなる作品集。乙川さんは寡作な作家の代名詞的存在の直木賞作家であるが、本作を読み終えてその寡作な理由がわかった気がする。
読者サイドにとっては早く新作を読みたい気持ちはあって然りであるが、乙川作品は本来何回も繰り返し読むべき作品なのである。
繰り返し読めば読むほど味が出てくる、今回それに気づいたのである。クオリティの高い名人芸的な作品を手に取れた喜び、明日への心の糧としたいなと思う。>
乙川さんの作品を読むのは何年ぶりであろう。
藤沢周平さんほど器用に書き分けれる人ではないが、その静謐な文章はある意味においては藤沢さん以上だと思います。
たとえば宇江佐真理さんの作品と比べてみての違いは、乙川さんの場合は、特に男性読者の場合は自分に置き換えて読めるのですね。
乙川作品を読むにあたっては、宇江佐作品のように江戸情緒に浸っている場合じゃありません。
自分の身に降りかかっている出来事に置き換えて読めるのですわ。
敢えて男性読者と記したのは、本作は逆に“女性読者”が熱くなれるように作られているからである。
タイトル名が本当に素晴らしいですね。
“闇の華たち”
本作の主人公たちを表す言葉ではあるが、私たち読者にも当てはまるのである。
まるで私たち読者を鼓舞してくれてるかのようなタイトル。
乙川作品の主人公たちは概ね、不幸を背負っています。
まあ、それは現代人における悩みと通じるのですね。
そして読み終えたあと、読者である私自身が“闇の華たち”の仲間入りを果たしたような気分に陥るのですね。
これはそれだけ、小説の中に入り込めた結果であると私は思っております。
いや、それにしてもこの洗練され丹念に書かれた文章。
文章の奥行きの深さで言えば現役トップといっても過言ではないでしょうね。
ただ、あまりにも乙川作品は話自体が切なすぎて、続けて何作品も読むのは辛い時があるのですね。
薬が効きすぎるというか(笑)
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