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『楽しい夜』 岸本佐知子編訳 (講談社)2016.04.19 Tuesday
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これは初出が唯一、「新潮」からということで翻訳権がからんでそうですがやはり貫禄の作品だと感じました。飛行機で大スターの隣に乗り合わせてもらった電話番号の紙切れが切なく主人公の人生を変えていきます
もっとも他の編も冒頭の「ノース・オブ」にボブ・ディランもどき(?)が出てきたり、奇想天外で突飛なものや国内作品で同内容では受け入れられない内容のものまであって、読者としては次はどんなのが来るのかとワクワクしながら読めるというのはやはり読書の醍醐味なのでしょう。
そこにはやはり岸本訳という安心感というものが読者の念頭にあり、やはりテンポの良さが読書リズムに合っているように感じます。
ジュライの作品以外では感動度では他の作品群には落ちるものの、ぶったまげた発想が素晴らしい「アリの巣」と「亡骸スモーカー」が余韻が残る。どちらもアリッサ・ナッティングという若手作家が書いたものでこの作者覚えておきたいと思っています。
岸本さんもただ一人だけ2作品選ばれているのでそれなりに推しているのでしょう。
全体を通して、どちらかと言えばアメリカという国を象徴しているのか、穏やかな中にも自由奔放な展開が楽しい作品集であると感じます。国内作品の間に挟んで息抜き(というか頭の体操)には格好の一冊だと感じます。
評価8点。
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『ノリーのおわらない物語』 ニコルソン・ベイカー著 岸本佐知子訳 (白水社)2011.10.01 Saturday
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<この本の面白さは何よりもまず、九歳という子供と思春期の境目のような微妙な年齢の子供の<声>が、まるですぐ隣にいて、こちらに向かって話しかけてくるようにいきいきと再現されていることだ。>(訳者あとがきより)
岸本佐知子訳。
岸本さんは個人的にはもっとも安心して読める翻訳家の一人に挙げたいと思います。
作家で手に取ったというよりも、岸本さんが訳してはるのだからきっと面白いんだろうという期待感を抱かざるを得ないのですね。
作者のニコルソン・ベイカーは1957年生まれのアメリカの男性作家で、本作以外に『もしもし』『中二階』『フェルタマーク』などの作品を発表してるのですが、いずれもユニークな作品みたいですね。
本作も視点が9歳の女の子というユニークな作品で、まるで読者が9歳の女の子の脳の中に入り込んだような感覚で読めます。
もちろん前述したように、訳者の力も大きいのですけども、作者もまるで女性作家であるがごとく繊細な気持ちを巧みに描写しています。
9歳のアメリカ人少女ノリーがイギリスの小学校に転校して活躍する様を描いています。
本作は作者のベイカーの娘の実話に基づいて作られており、親としての愛情が所々に滲み出ている微笑ましくもありグッとも来る秀作ですね。
そして岸本さんの名訳。原文を読んでなくても、間違いなく言えることはこんなに上手く訳せるのだろうかという賛辞の声が必ず湧きます。
まるで日本語でノリーが語ってるがごとく訳せてます。
子供目線のために漢字の少なさ、語り口が絶妙ですね。
冒頭を少し引用しますね。
“エシノア・ウィンスロウはアメリカから来た九さいの女の子で、おかっぱの髪の毛は茶色、目も茶色だった。しょう来の夢は、歯医者さんかペーパーエンジニアになることだった。”
この調子で最後まで語られます。
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『オレンジだけが果物じゃない』 ジャネット・ウィンターソン著 岸本佐知子訳 (国書刊行会)2010.04.19 Monday
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日本人的な発想で見れば、通常書きにくいことをよく書いたなと思うのですが、作者の才能は陳腐なそういった見方を超越して、読者の心の中にいつまでも根ざすであろう勇気を与えてくれる作品です。さあ、未読の方、とりわけ女性の方是非ご一読あれ。>
原題 "ORANGES ARE NOT THE ONLY FRUIT"(1985)、岸本佐知子訳 。国書刊行会の文学の冒険シリーズの一冊。
まず単行本の裏表紙のあらすじを引用させていただきますね。
<たいていの人がそうであるように、わたしもまた長い年月を父と母とともに過ごした。父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった・・・>
(単行本背表紙から引用)
熱烈なキリスト教徒の母親から、伝道師になるための厳しい教育を叩き込まれた少女ジャネット。幼いころから聖書に通じ、世界のすべては神の教えに基づいて成りたっていると信じていた彼女だが、ひとりの女性に恋したことからその運命が一転する・・・。
『さくらんぼの性は』の著者が、現代に生きる女性の葛藤を、豊かな想像力と快活な諷刺を駆使して紡ぎ出した半自伝的作品。
“何もかも、わたしが間違った種類の相手を愛してしまったことに端を発しているらしかった。いや、わたしの愛した人たちに“間違った”ところなど一つもなかった、ただ一点を除いてはーーー女が女を愛すると、もうそれだけで罪になるのだ。”
(本文より引用)
<2010年3月 MONTHLY BEST作品>
またまた素晴らしい作家に邂逅しました。
ウィンターソンのことはこちらに詳しく書いてます。
この作品を私なりのとってもありふれた言葉で表現すると、“構成、内容ともにパーフェクトな作品”ということになります。
いわゆる国内のベストセラー作品は多少評判が悪くとも、情報量も多いがゆえに手にする機会が多いであろう。
だが本作のようにたとえイギリスのベストセラー作家であろうと、知名度に関しては国内作家のそれと比べて著しく劣ることは否めず、ましてや原書が刊行されて25年、邦訳されて8年も経つ作品となれば、ささやかながらでもインターネットいう便利な媒体を通じてその魅力を伝えたいと思うのです。
あらすじは前述したとおりなのですが、読んでいくにあたってポイントはありますね。
わたしがもっとも頭に入れて読み進めたポイントは、やはり主人公のジャネットと猛烈な母、このふたりの血が繋がっていないという点ですね。
私的にはすごくこのことを重要視しています、これは日本の作家が同じような内容を書けばそんなに共感出来ないのでしょうが、この作品における母親のシチュエーション(養母、そして猛烈なキリスト教の信者であること)からして、一部非難の声が上がることを認めつつも、深い愛情を持って育てているんだなという気持ちが伝わってくるのですね。
そして読まれたすべての方が同じように感じるであろう各章にちりばめられた寓話の数々ですね。
この構成は読む者の心を和ませるとともに、すごく印象深い読後感が強烈に残ります。
もし、この寓話の挿入がなければこの作品自体もっと堅苦しく感じたのだと私は推測しています。
明らかに本筋は自伝的な作品なのですが、寓話を挿入することによってユーモア性とそして作品の内容自体に深みを与えていますね。
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