-
『たそがれどきに見つけたもの』 朝倉かすみ (講談社)2016.04.15 Friday
-
表題作にて人生を80年とし4で割った20年を区切りとし四季にたとえ50だと秋の真ん中であるといういきなりの言葉にドキッとさせられた読者も多いと思いますが、さすが色んな経験を経た作者ですから、シリアスに終始せずに年齢を経ながらも未だに青春真っただ中のような登場人物が表れ、ホッと胸を撫で下ろせるところが朝倉作品を手に取る醍醐味だと言えるのでしょう。
とりわけ滑稽だったのはフリーアナウンサーのバスツアーに参加する「王子と温泉」とラストの男性が主人公で4年前にチラシをもらった居酒屋に初めて行った「さようなら、妻」あたりが面白かった。ほとんどの編に共通しているのは過去の武勇伝に拘ったり、あるいは勘違いが甚だしい人物たちが滑稽であるところ。じーんとくる話ではありませんが、人生を謳歌することの大切さを教えてくれているようでホッとした気持ちで心地よく本を閉じれるのは作者のさりげなくではあるけれど、突出した部分であると感じます。作者の未読の短編集、また手に取りたいですね。
評価8点。
-
『遊佐家の四週間』 朝倉かすみ (祥伝社)2014.10.23 Thursday
-
ごく普通のというかありふれた遊佐家に妻である羽衣子の昔からの友人のみえ子が四週間同居し、それによって遊佐家家族4人が距離を縮めて行く話なのですが、対照的な2人(羽衣子とみえ子)の登場により残りの3人(夫。長男。長女)が心を開いていく過程が読ませどころなのでしょう。ただ決して痛快な話ということもなく、過去を引きずっていて読んでいてつらい部分もあってそのあたりが読者にとっては評価が分かれるのかもしれませんね。
印象的なのは長女で不器量ないずみの恋が語られていて、その行方に関しては思わず応援してしまいました、年の差カップルの幸せが微笑ましくて陰のキューピット役となったみえ子のおおらかな性格が私たち読者にも受け入れられている象徴となっているような気がします。
その反面、良妻賢母で幸せな家庭を目指していた羽衣子にとっては現実を突きつけられた形とも取れる。実際は仮面をかぶった家庭だったのがみえ子の力によって心が開かれ食卓が明るくなってゆくのですね。昔と同様みえ子の力を借りた形となったのが羽衣子にとってどうゆう気持ちだったろうかと少し複雑な気持ちで本を閉じたのであるが、果たして2人の間に熱い友情は存在するのだろうか、女性読者の鋭い読み取りを参考にしたいと思っている。
評価7点。
-
『夫婦一年生』 朝倉かすみ (小学館文庫)2010.04.28 Wednesday
-
それもワンコインちょっとで。テンポのいい文章で読者を惹き付ける朝倉さんは流石ですね。
恋愛の延長線上で新婚生活を送っている青葉と朔郎、微笑ましくって嫉妬しちゃいました(笑)>
“結婚は、ひと昔前には、永久就職といわれていたらしい。その喩えを聞いたとき、そんなばかなと青葉は思った。永久とはまた大きく出たものだな。就職って、と鼻で笑った覚えがある。ところが、結婚してみたら、永久感は確かにあった。永久をやってやろうじゃないのと思う。”
<本文より引用>
『田村はまだか』に続き2冊目の朝倉かすみさん。
この人の特徴はやはりテンポの良い文章で多くの女性読者の共感を呼ぶところなのでしょうね。
ありきたりですが、それ以外に表現の仕様がないです(笑)
本作は青葉と朔郎の新婚カップルの1年を描いた作品ですが、北海道在住の作者のホームグラウンドである札幌が舞台となっております。
結婚して東京から札幌に転勤となって新天地で新婚生活を過ごす2人。
まあいろいろな問題が勃発しますが、基本はコミカルにそして適度にシリアスに描いてます。
このコミカルとシリアスの匙加減がとっても読者にとっては心地よいのですね。
作者の巧みなところは30歳過ぎのカップルを主人公に据えたところですね。
読者も本作の2人のように、いつまでもこのような初々しい気持ちというか思いやりを忘れずにというのはわかっているのですが、現実はそうですね、厳しい人が大半でしょうか(笑)
とくに印象的なのはやはり朔郎の両親、青葉にとっては義理の両親が札幌の2人を訪れて来る第5章ですね。
この章の青葉の微笑ましさと初々しさは特筆もので、読者は朔郎に対する愛情を否応なしに垣間見ることが出来ます。
< 前のページ | 全 [1] ページ中 [1] ページを表示しています。 | 次のページ > |