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『嵐のピクニック』 本谷有希子 (講談社)2014.04.27 Sunday
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13編のショートストーリー集ですが、読んでいてずっと翻訳本を読んでいるような気持でした。以前読んだ、ミランダ・ジュライのように奔放で、そしてミルハウザーのように幻想的な文章そして内容です。
本作の素晴らしさは作者の発想の豊かさに尽きると思われます。私たち読者は得てして、真実は一つだけだと思い込んでますが、作者にかかれば真実はいくつにも広げられます。
作者の作品は概して、ある年齢層より下の女性に広く受け入れられやすいのでしょうが、本作を読む限り以前読んだ作品(『生きてるだけで、愛』)よりもっと突き抜けた感がし、ある一定以上の年齢の読者が読んでも楽しめるんじゃないだろうかと思います。
とはいえ、何編かは一読ではわかりづらいものもあるのですが、逆にその研ぎ澄まされた感性が見事開花したようなものにも邂逅することが出来ハッとさせられたのも事実です。
心に残ったのは冒頭のピアノレッスンの話「アウトサイド」、妻がボディビルに励む「哀しみのウエイトトレーニー」、ラストの試着室の話「いかにして〜」あたりで作者の柔軟性があって奇抜な展開は読者の想像を超えています。
くしくも村上春樹の『女のいない男たち』を読み終えたあとに読んだ本作であるが、村上氏の作品のように海外で売れる作家が続々と出て業界全体がもっと活性化されることを強く望んでいます。
多分本作のような作品は日本でよりも海外のほうが評価されるのかもしれませんね。
評価8点。
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『生きてるだけで、愛』 本谷有希子 (新潮文庫)2011.09.05 Monday
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評価:
本谷 有希子
新潮社
¥ 340
(2009-02)
コメント:人間誰しも自分のことをわかってもらいたいと思いますよね。その孤独感を上手く描いた恋愛小説という範疇を超えたニート小説。
“あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ。25歳の寧子は、津奈木と同棲して三年になる。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活に割り込んできたのは、津奈木の元恋人。その女は寧子を追い出すため、執拗に自立を迫るが……。誰かに分かってほしい、そんな願いが届きにくい時代の、新しい“愛”の姿。芥川賞候補の表題作の他、その前日譚である短編「あの明け方の」を収録”
(文庫本裏表紙より引用)
劇作家、演出家、女優、声優としても活躍されている本谷有希子さん、初読みです。
中年読者の感想として多少の斟酌をお願いしたい。
とにかく最初はこのメンヘルの主人公である25歳の寧子にはイライラさせられます。
そこから作者の本谷有希子さんの術中にハマっているのでしょうが(笑)、なかなか一筋縄では収まりません。
最初は説教をしたくなるようなキャラの主人公が、知らぬうちに必死に生きている様に応援したくなる気分にさせられるのですね。
同じぐらい強烈な個性の持ち主である、津奈木の元恋人の登場で話の展開は面白くなります。
元恋人がきっかけでイタリアン・レストランでバイトするようになる主人公。
このイタリアン・レストランで働く人々が本当に普通の人々で(笑)、否応なしにホッとさせられるのですが、そのあとの展開が強烈です。
結局、男性読者としては恋人であり同棲相手の津奈木の魅力が浮き彫りにされた形で終わるこの作品に対して、ホッとしたような気持ちにさせられます。
彼がすごく寛大な人のように描かれてるのですね。
本来はあんまり魅力ある人物ではないように感じられるのですがやはり“等身大”と感じるのでしょうか。
少し胸をなで下ろしたのも事実です。
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