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『チーズと塩と豆と』 角田光代他 (集英社文庫)2013.10.28 Monday
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舞台となっている国をあげると、角田(スペイン・バスク)、井上(イタリア・ピエモンテ)、森(フランス・ブルターニュ)、江國(ポルトガル・アレンテージョ)になりますが、それぞれの国の地方が舞台であるところと、その国で生まれ育った人(日本人読者から言えば外国人)が主人公となっていて、さもすれば翻訳小説を読んでいるような気分にもさせられます。逆を言えば日本人主人公がそれぞれの国を訪問したことを書かれたものではないことに最大限の特徴があるとも言えるのだと思います。
お腹をいっぱいにして読まなければお腹が空くこと間違いなく、それぞれの作家の個性が如実に反映されているところも見逃せません。
この作品は単行本発売時に、NHKとのコラボ作品として発売されました。それぞれの作家が1週間ほど現地に滞在して書きあげるという画期的な試みが施されたのは記憶に新しい。残念ながら時間の関係もあってNHKの映像も単行本も読めずにいたのであるが、今回文庫化されて読むに際しては、描かれている場所の風景が自分なりに映像化しつつ読むことが出来た。
角田さんと森さんの2編がストレートで感動的である。どちらも料理を通して主人公が成長し離れていた家族への距離が縮まり、自分自身がそれぞれの地方出身だというとこに気づき、そのことに誇りを持つことにより、深い愛情を再確認できる筋書きでやはり安心してこの2人の作品は読めるのであると再認識した。
井上さんと江國さんの作品はどちらも個性的というか変化球的というか、不倫やゲイを題材としていて万人受けしづらいが、そこが逆に印象に残るという読み方も出来るのであろうか。
評価8点。
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『紙の月』 角田光代 (角川春樹事務所)2013.01.21 Monday
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通常、主人公のように陥るまでには気付くのでしょうが作者は主人公の知り合いである3人をサイドストーリー的に綴っている。
3人ともそれぞれの事情があって、いわば主人公の予備軍的要素があるのでハッとさせられる。
読まれた人の大半が梨花が熱くなった大学生をつまらない男だと認識し、梨花の夫や梨花を信じてお金を預けたお客さんに同情、そして明日からちょっとはお金を大事に使おうと誓って本を閉じることであろう。
お金の怖さを十二分に描き切った作品と言えそうで、読んでいて次第にごく普通の女性である梨花が“自分が自分でなくなってゆく過程”が見事に描かれている。
最後にこんなことまでしておいても生きていこうという主人公の意志が見えたのであるが、この人に幸せになる権利ってあるのだろうかと少し厳しい気持ちになった。
そう言った意味では女性読者が読まれた方が共感は無理としても同情はできるのであろうか。作者の意図も聞いてみたくなった次第である。
(読了日12月18日)
評価8点。
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『空の拳』 角田光代 (日本経済新聞出版社)2012.11.13 Tuesday
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角田さんの新境地開拓作品と呼んでよさそうなボクシングを題材とした作品。
百田さんの『ボックス!』は未読ですが(宿題ですね)、想像するにボックス!ほど熱い作品ではないであろうと思っています。
敢えて女性読者の多い角田さんはそのあたりは想定済みですよね。
だから本作は主人公を出版社に勤務する“文科系”のオトコである空也の目を通している点がこの作品のポイントであると思います。
ひたすら一般的な読者レベルに近い視点で語ることによってボクシング自体わかりやすく語られているのです。
そしてもうひとりの主人公とも言えるプロボクサー立花、彼の出自に関する詐称問題も物語の重要な部分を占めています。
あまり深く語られてなかったのですが有田に悪意がどの程度あったのか興味がつきません。
それと立花の実際とリング上での人となりの違いも魅力的ですよね。
そして何よりそうですね、夢と言ったら大きすぎるでしょうか、人生における自分探しの物語となっているところが読ませどころなのでしょう。
それは他の角田作品同様、登場人物だけではなく読者も身につまされるでしょう。
もちろん角田さんの試合の描写も予想よりも凄く的確でわかりやすいし、他のボクサーである坂本や中神、トレーナーの有田や萬羽それぞれの生きざまも素敵です。
でも私はどちらかと言えば文芸編集部希望だった主人公が隔月出版のボクシング雑誌編集部に追いやられたのにもかかわらず、自らボクシングジムに練習生として入り努力して順応することに拍手を送る物語だと思います。
私はボクシング編集の3年間で空也が成長した姿を終盤に見れたことに大きな喜びを感じました。
面白い(8)
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『なくしたものたちの国』 角田光代 松尾たいこ (集英社)2012.10.03 Wednesday
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その手元に置いて読み返したいという衝動に駆られる読者には松尾たいこさんの素敵な絵が大きな役割を担っていることは間違いのないところ。
松尾さんの絵を見て、そこから物語が始まったということがあとがきに書かれている。
体裁的には連作短編集と言った感じで五編が綴られ、主人公の女性雉田成子の小学生時代から中年にさしかかるぐらいまでが描かれています。
まずは会話の出来るヤギが登場し度肝を抜かれるわけですが、それぞれの話、うしなったものに対するいろんなエピソードが書かれ、そして人間として一女性として成長を遂げて行くのですが、最終編での再会と言うまとめ方はやはり作者の筆力の高さを認めざるをえないと言えましょう。
ゆきちゃんとの再会によって自分の過去を振り返り、そして明日を見つめて前進して行く姿は本当に微笑ましいです。
個人的にはタイトルの“なくしたもの”というよりも自分自身の現在過去を問わず“見失ったもの”を見つめなおす機会を与えてくれた読書であった。
私にとってはやはり“現実感溢れる作家”で、そこを掬い取ることを目的として読んでいるんだなと改めて気づかせてくれました。
評価8点。
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『曽根崎心中』 近松門左衛門作 角田光代翻案 (リトルモア)2012.07.08 Sunday
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舞台は元禄時代の大坂、堂島新地の遊女・お初と醤油屋の手代・徳兵衛は出会って一瞬のうちにお互いに恋に落ちます。
そして心中と言う究極の選択を迫るまでの数日間を描いています。
それにしても角田さん、小説だけでなく翻訳から翻案まで凄いマルチな才能ですよね。 現代に生きる私たちには決して真似をすべきでないものだけど、江戸時代であれば究極の恋愛の姿として幅広く受け入れられたのでしょう。 どれだけアレンジしているかは定かではないですが、わかりやすい角田さんの文章でお初の遊女でありながら一途で純粋な気持ちがが描かれています。
女性の気持ちを熟知している角田さんはやはり女性読者を念頭に置いて書かれていると思われます。
見方によってはダメ男だと言っても過言ではない徳兵衛に対して命をささげるお初。
心中する直前に一瞬、徳兵衛の話が本当がどうか疑うシーンが印象的ですね。
これはやはり読者に対して凄くインパクトがあるシーンだと思います。
読者もずっとそのことが引っ掛かって読んできたわけですね。
でも恋に生きるお初。彼を信じます。
その生きざまがとっても男性読者として健気で美しいと思いました。
ネットで調べたらこの物語は実話であって徳兵衛がだまされてたみたいですね。
まあその真実はこの物語にはあまり問題ではないのかもしれません。
なぜならどちらにしてもとっても哀しい物語なのですから。
でも哀しいんだけど悲しくはないのですね。
というのはお初は夢を実現したのですから。
そして角田さんにかかれば徳兵衛も彼女の小説に出てくる男性と同じく手玉にとられるのですわ(笑)
現代に生きる私たち、お初の真似はできませんが人を愛することをもう一度根本的に見直さなければいけないような気もします。
私は 取り巻く遊女たちのなれのはてよりはきっと幸せだったと信じて本を閉じました。きっと来世で出会って愛し合っているのでしょう。 結末は暗いのですがなんか読み終えた後に恋をしたくなるような気持ちにさせられます。
角田さんには脱帽ですね。
評価8点。
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『さがしもの』 角田光代 (新潮文庫)2012.06.25 Monday
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再読。本にまつわる話を綴った短編集。 自称本好きの人って多いでしょうが、角田さんほど本を好きな人が作家を生業とすることができるのかと納得させられます。 それぞれの話、恋愛話を絡めて淡々と紡いでいるようですが実は結構奥が深いです。 作者の他の短編集はほとんどメインが恋愛ですが本作では恋愛がサブなところがよいですね。 その奥の深さはどれだけ読者が本を好きかのバロメーターともなっているような気がします。 あたかも本好きのための指南書のようであるけれど、実はテストを受けているような気持ちにさせられますね。
ただそのテストも心地の良いものですが(笑) 全9篇中冒頭の「旅する本」と「ミツザワ書店」が秀逸。 ともに古本を扱っています、本好きの彼氏のいてる方、バレンタインにチョコレートよりも本作をプレゼントしてください(笑) あらためて恋人同志で本の素晴らしさを実感できることだと確信しています。
どの話も本を読むこと、本に携わることによって人生が変わったという話がドラマティックに語られています。
ある時は自分の変化のものさしとして、ある時は自分の過去を振り返る格好のパーツとして登場します。
一見したところ、本によって人生を翻弄されているという風にもとれません。
でもそこが本好きの読者たち、作者の暖かい眼差しが伝わってくるのですね。
そう、本と関わることによって心だけでなく人生も豊かになっているのです。
本を読むのが好きな人は読んでいる時って本当に幸せを感じますよね。
本作は圧倒的な感動度は薄いかもしれませんが、内容が内容であるだけに幸せを感じざるを得ません。
まるでこの本と出会ったのが運命であったかの如くです。
それは作者の本に対する愛情や世界観が読者に大きく伝わったからだと思います。
そしてどの短編だったかな、年月を経たら同じ本でも感じ方が違うということが書いてありました。
凄く的を射た言葉なんだけど、この本に関してはそうじゃないと思います。
なぜならこの本は本好きのための“共感小説”だと思うからです。
いつ読んでも本作の内容には納得できるものだと思います。
もっと言えば本好きの気持ちを代弁してくれている作品集なのです。
作者の傑作短編集『Presents』の本のテーマ版だと思ったらちょうどいいかな。
だから他の作品集のような女性特有のどろどろした話を期待しないでください。
それは他の作家そして別の機会でも書けますので(笑)
作者は本作を通じて読書との距離感を凄く近いものにしたと思います。
それは9つの短編のあとに収められている巻末エッセイで確かなものとなりました。
この本を読んだ他の読者と友達とまでは言えないけど“同志”って気持ちにさせられます。
作者の本に対する愛情がぎっしり詰まった本作、読後感の良さ、内容からして今年も「新潮文庫の100冊」に是非入って欲しいなと切に思います。
評価9点。
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『12星座の恋物語』 角田光代・鏡リュウジ (新潮文庫)2009.06.01 Monday
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<稀代の恋愛小説作家と占星術研究家の第一人者とのコラボレーション。
角田さんの「彼と私の物語」24篇と鏡さんの納得のホロスコープガイド。
これを読まずして恋愛は語れませんわ。
一冊で恋愛小説プラスホロスコープの入門書を読んだ気分にさせられること請け合い。
角田さんの見事な24通りの書き分け、プロの作家の真髄を見た気がします。
是非あなたも堪能して下さいね。>
初出 雑誌ミスティ。2006年10月新潮社より単行本として発売。
まるで夢のような贅沢な作品集である。
私にとっては記憶に残る一冊となった。
日頃、角田さんのことを“読者を選ばない作家”だと思っている。
彼女の素晴らしい点は肩肘張らずに書けているところ。
本作は占い雑誌に2年間連載された星座小説集。
ちなみに私自身、占星術自体まるっきり信じているわけじゃありません。
不安を抱いて読み始めたのであるが、全くの杞憂に終わった。
良いところだけを信じて楽観的に読むのがベターですわ。
逆に私は凄く達観して本作を読みました。
たとえ、欠点めいた彼(彼女)がいてもそれは占星術の占いのせいなんだと。
何年も作品を上梓出来ない作家、あるいは一年に一冊ぐらい上梓してもそんなに大した出来じゃない作家。
それに比べ年間3〜4冊常に単行本を上梓し、アンソロジーにも常に顔を出している角田さん。
今や直木賞作家の称号だけでなく、国民的作家のひとりとして不動の地位を築いているといっても過言ではないのである。
この5〜6年、常にコンスタントに高いクオリティの作品を楽しませてもらっている読者にとって、本作のような豪華なプレゼント的作品は本当に読むにあたって感激ひとしおである。
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『しあわせのねだん』 角田光代 (新潮文庫)2009.03.04 Wednesday
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今回はエッセイですね。
たとえば小川洋子さんが夢を売る作品を読者に提供しているのであれば、角田さんは身につまされる作品を書いて読者から共感を呼ぶ。
言い換えれば、小川さんの作品を読むとき読者は現実を離れて作品に没頭し、角田さんの作品を読むときは否がおうにも現実を直視するのである。
とっても対照的であるが、現在私が見ている限りでは、お二人は“双璧”というかその道のトップを突っ走っていると言って過言ではないような気がする。
2人に共通して言えることは、“2人とも他の作家から目標とされる作家になった”ということである。
どちらかと言えば、本当の本好きは小川さんの作品を好む傾向にあると自分なりに分析している。
まあ趣味の域を超えた本好きですね(笑)
逆に角田さんの作品は、普段本を読まない方の入門書として限りなく適していると思い、今回この作品も複数冊買い、懇意にしている方に本当にささやかであるがプレゼントした次第である。
先に述べた小川洋子さんの『海』も同時に文庫化されていて、こちらも数編読んだのであるが素晴らしく、お互いの特徴を隈なく発揮している点はまさに驚愕ものである。
特にこの『しあわせのねだん』は主婦的な発想の作品で、良い意味で所帯じみているところが女性、特に主婦層からは親近感を抱かれること間違いないと確信しています。
感想は初読の時のものをアップさせていただきます。
くしくも、bk1で今週のオススメ書評で取り上げられた記憶がある。
今書いてもこれ以上の文章は書けないのでご容赦ください。
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『Presents』 角田光代 (双葉文庫)2009.01.18 Sunday
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その精力的な執筆活動とレベルの作品群は他の追随を許さないと言っても過言ではないと考えています。
角田さんの作品は文庫化されれば必ず購入するようにしています。
本作は大好きな角田作品の中の1冊で文庫化に伴い再読しました。
感想は初読時のものですが、当ブログで角田さんの作品をたくさんアップしたいので掲載します。
ご了承ください。
<角田さんから読者への最高の贈り物>(2006/09/22)
近年、直木賞を受賞後、より一層の飛躍を遂げている作家の代表例として角田さんを挙げたいと思っている。
元来、直木賞というのは作家にとっての最高の目標であるとは思うのであるが、決して到達点ではないはずの賞であると認識している。
さらなる飛躍と言う期待を込めて送られる通過点的な賞だと理解しているつもりだ。
たとえ人気作家の絶賛されている作品であれ、中には否定的というか辛口の感想や読後感を持たれている人がいても決して驚かない私であるが、もし本作品集を読まれてつまらないとかくだらないという感想を持たれた方がいれば、その方は読書をして少なくとも心を豊かにしたいという向上心に欠けている方だと思いたいのである。
それほど本作に収められている物語は宝物のように貴重な財産となるはずである。
角田作品、まだ半分も読んでいない私であるが、初めて読まれる方には是非この作品集をオススメしたい。
涙を流して読まれたあなたは角田さんから感動と言う大きなプレゼントを受け取り幸せをかみしめることとなるであろう。
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