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『キラキラ共和国』 小川糸 (幻冬舎)2018.01.01 Monday
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全体を通して前作の各章ごとの風変わりな依頼人に対する手紙というよりも、お馴染みの登場人物たちのそれぞれのサイドストーリーというところが特徴だと言えそうです。
とりわけ鳩子が、亡くなった前妻美雪に対してあらん限りの敬意を表しているところが胸を打たれる。そしてその気持ちが例え血が繋がっていなくても、実の親子以上にQPちゃんに愛情を注いでいるところが、現実的であるかどうかは置いといて、読者に最も伝わってくるのである。
鳩子にとってはミツローさんの奥さんになるよりもQPちゃんのお母さんになることの方がプライオリティーが高かったように私には感じられ、そこが本作の最大の魅力であると思う。
こういうのを“たかが小説、されど小説”と呼ぶのであろうか。
鎌倉の四季の描写は今回も素晴らしく特に小林秀雄と中原中也との鎌倉ならではの逸話や川端康成の手紙など作者の洗練された文章と相まって心にストンと落ちてゆくし、美雪さんへの手紙に涙しそして男爵の容態を気遣う、まさに胸いっぱいの読書となりましが、それは鳩子が先代の教えを少しずつですが理解してきて成長を遂げているのが読者に伝わるからに違いありません。
評価9点
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『ツバキ文具店』 小川糸 (幻冬舎)2017.12.05 Tuesday
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主人公の雨宮鳩子はすれ違った育ての親でもある亡き祖母の後を継ぐところから物語は始まる。
祖母のことを“先代”と呼ぶところが2人の隔たれた距離感を明確に表わしており、その二人のわだかまりがいかになくなりお互いの愛情がわかりあえるまでが克明に描かれているところは素晴らしいの一言に尽きます。
じわじわと読者に伝わるのはやはり登場人物ひとりひとりの個性的な魅力と心を込めて書かれるそれぞれの手紙に尽きます。
鳩子は代書をする機会毎に、何故代書を依頼してくるのであろうというそこにまつわる人間ドラマを考察することにより成長してゆきます。そしてその成長が祖母との距離感を縮めて行ったのでしょう。
読者にとって、本文中に挟まれる肉筆の文字が圧巻でありより感動度が増したような気がします。鳩子の境遇を自分に重ねて読まれた方も多かったと推測されます。続編も出たので是非読んでみたいと思いますし鎌倉にも無性に行きたくなりました。
評価9点。
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『つるかめ助産院』 小川糸 (集英社文庫)2012.09.10 Monday
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NHK火曜ドラマ原作。ドラマほど主人公のキャラは立っていませんが却って読者に訴えかけるところが強いような気がします。
小川さんの作品はすべてを失った人が再生して行くというパターンが多いのですが、本作もそれに近い感じで物語が始まります。
まりあ自身、両親の顔も知らずに捨てられた過去があり里親に引き取られます。
そしてなんとか好きな男性と結婚するのですがその夫が失踪してしまいます。
夫を探しに南の島までやってきたまりあ、そこで彼女は自身の妊娠を告げられます。
物語はタイトル通り助産院での話なのですが(南の島での)主人公まりあがつるかめ先生はじめパクチー嬢や長老、サミー、エミリーなど、過去を引きずっても強く生きている周辺の人に触れ合って再生して行く過程が心なごみます。
周りの人にいろんな辛いことを告白して行くことによって気持ちが軽くなっていきます。
私はまりあと里親お互いの心が通い合ったシーンがもっとも感動的でした。
そして本作、印象的なのはへその緒という言葉が何回も出てきます。そう愛だけでなく命の尊さも謳った作品なんです。
妊娠・出産という貴重な体験を通して成長したまりあ、男性読者として女性の大変さを改めて思い知った作品でもあります。
ラストシーンで小野寺君がかなり唐突に出て来たときは驚きました。賛否両論ありそうですが、小川さんらしい結末ですね。人生幸せに越したことはありません。お裾分けして欲しいですね(笑)
評価8点。
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