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『空色の小鳥』 大崎梢 (祥伝社)2016.01.27 Wednesday
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本作は終盤どのような展開が待ち構えているかかなりハラハラドキドキの読書を余儀なくされましたが、「アッ、こう来たか」というラストがいかにも大崎さんらしいとも言える形なのでニヤリというか胸をなでおろされた方も多かったのではないかと想像します。
亡くなった義兄の忘れ形見である結希を母親の死後に引き取る敏也。彼には思惑があったのは大体予想通りだったのですが、やはり子供に罪はないというかタイトル名や表紙が物語っていることが作者の言いたいことだと感じます。
4人(敏也、結希、亜沙子、しーちゃん)にで暮らしている時の幸せ感が脳裡に焼き付きます。
この作品を読むと善意と悪意が描かれているのですが、意識的なものか否かによって捉え方も違ってくるように感じます。
そしてドロドロな人間関係の中で損得勘定のないしーちゃん、亜沙子の存在が非常に大きいと思います。彼らのおかげで敏也が大きな影響を受け、その結果として結希のしあわせを見込めたことだと強く思います。彼女の存在は世の中捨てたものじゃないと作者が教えてくれているように感じます。
評価8点。
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『配達赤ずきん -成風堂書店事件メモ-』 大崎梢 (創元推理文庫)2013.11.04 Monday
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男性読者視点で言えば、主人公の2人が可愛く感じます。正社員であるしっかりものの杏子(ワトソン役)と、手先は不器用ながらとっても勘のいい女子大生アルバイトの多絵(ホームズ役)、この2人があんまり本に詳しくないというところが読者にとっては少し胸をなでおろせれるというか気おくれしない部分なのでしょうか。
各編素晴らしいのですが、ラストの「ディスプレイ・リプレイ」がいちばんドラマティックで話に奥行きがあるように感じられました。
全編を貫いているのはやはり、本を愛することが人を愛することに繋がるという普遍的な姿勢が貫かれているところでしょう。中には悪意のある話(表題作)もありますし逆に愛に満ちた話(六冊目のメッセージ)もあります。読者としては作者の丁寧に書かれた筆致に陶酔し幸福感に包まれて本を閉じることとなります。
周知の通り“日常の謎シリーズ”と言えば東京創元社のお家芸であって、北村薫、加納朋子、坂木司などを輩出していることは記憶に新しいのであるが、本作でデビューした作者は舞台を“書店”という本好きにとってこれ以上ないシチュエーションを用意しています。このあとビブリアシリーズを筆頭に書店を舞台とした作品が次々と世に生れたのは本作の成功→書店を舞台とした物語に対する需要が非常に高いことが一番の要因であって、先駆者的な作品として語り継がれることであろう。
今回本作を手に取ったのは昨年上梓された『クローバーレイン』の出来の良さが大きかったのですが、嬉しいことに6年ぶりに本シリーズの最新作(第4弾)がもうすぐ刊行されます。なんとか頑張って読まなくちゃと思っているのであるが、まさに忙しい“読書の秋ですね(苦笑)
評価8点。
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『クローバー・レイン』 大崎梢 (ポプラ社)2013.10.19 Saturday
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主人公の工藤彰彦は大手出版社である千石社の編集部に勤めている29歳。パーティでベテラン作家家永と久々に会い、彼の書いた「シロツメクサの頃」と題された小説の原稿を読み上げてすっかり感動した彼は、その作品を是非出版したいと意気込みます。
そこからはまさに作者の真骨頂と言うべき展開が待ち受けています。一冊の本を出し、そしてその売上をいかにして伸ばそうかと情熱を傾けた主人公並びに彼を取り巻く人々の描写には業界の実情が細かく描かれていて本好きとって満足できないはずがないと断言して良さそうです。
とりわけ、主人公である工藤と家永との生い立ちというか家族構成の似ている部分が読者にとって本作をより共鳴できる要因となっているのでしょう、それは読んでのお楽しみと言うことですね。
作者の良いところはやはりその根底にハートウォーミングな部分があって安心して身を委ねることが出来ることでしょう。
終盤は恋愛模様も含めて大きな感動をもたらせてくれること請け合いの作品です。
少し深読みかもしれませんが敢えて書かせていただくと、近年文芸作品に力を入れているポプラ社から出た本作、作品の中では主人公が勤める業界では老舗である千石社(新潮社がモデルだと想像します)に対しての挑戦を突き付けているようにも取れます。これは業界にとっては活性化出来てとってもいいことですよね。いろんな読み方が出来るのが本作の特徴であって、たとえば「シロツメクサの唄」を書いた家永ですが、実在の作家では誰に当てはめることができるのであろうかと思って読んだのですが、もっと脚光を浴びてしかるべき作家が埋もれていることは明らかであると思えるのですね、だからこれからは少しでもマイナーなと言えば語弊があるかもしれませんが、力があるのに読まれていない作家を少しでも応援して行けたらなと思います。一冊の本が出来上がるのにはそれぞれドラマがあります、その発行部数が少なければ少ないほど紆余曲折があり魂がこもっていると言っても過言ではありませんよね。
次の大崎作品は『夏のクジラ』を予定、早く読みたいです(笑)
評価9点。
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『ふたつめの庭』 大崎梢 (新潮社)2013.07.06 Saturday
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舞台は本屋じゃなくて西鎌倉にあるかえで保育園。ヒロインは保育士になって五年目の美南で性格はおっとりしていて控え目な感じですね。
恋のお相手は園児の父親でシングルファーザーの隆平。いろんな難関や強力なライバルが現れますが、二人の恋は成就するのでしょうか。
隆平と対照的なキャラのカツミの行動から恋が急展開します。
残念だったのは作中にいくつか絵本に纏わる話があるのですが、その絵本を知っていたらもっと共感できたことは間違いないです。
最初は謎解き要素が強いのですが、登場人物も安定してからは恋愛要素が強く盛り込まれています。
それとともに、園児たちの親が悩み成長して行くところがハッとさせられます。
子供を育てる大変さが行間から滲み出ています。そして何が大切であるかという価値観ですね、これを作者は子供と接し愛情を深めることによって変わってくると読者に教えてくれているように受け取れました。
最もハラハラさせられたのは、実母が保育園に迎えに来て美南やマリ子と話しあっているシーンです。
恋愛面では最高の火花が散るシーンでしたが、よく考えると旬太が可哀そうですよね。
まあいろいろ側面的に見るとありますが、どうか隆平さんは幸
せにしてやってほしいな、誰をって?それは読んでたしかめて欲しいですよね。
それにしても、いろんな人生がありますよね、自分が美南の父親だったらどう答えるだろうか、快く応援してあげられるのかどうか、迷うところでしょう。
いろんな問題が待ち受けている2人でしょうがどうか旬太を不幸にはしてほしくないなと強く感じました。
私は少しずつですが大崎作品読み進めたいと思っています。
(読了日7月5日)
評価8点。
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