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『空に牡丹』 大島真寿美 (小学館)2015.11.08 Sunday
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時代は明治の御一新に入ったころ、地方の名家の次男である可津倉静助の人生が語られるのであるが彼の人生とはタイトルと表紙が示している通り、花火に捧げた人生であった。
事実として身を持ち崩した人生であったけれど、彼の人生に悲壮感はひとかけらもなく、逆に充実したロマンのある人生であったように語られているところが花火のように儚げでもあるが、清々しいと捉えることができる。
一見すると単なる道楽者だとも捉えられる危惧もあるのだけれど、彼の時としてのほほんと生きる姿が周りに受け入れられるのは、やはり時代も相まって、花火の周りの人にエネルギーをもたらす効果が十二分にあったと推測できる。
あとは兄である欣市や幼なじみである了吉との人生におけるスタンスの違いが読者にとっては好印象である。良い意味でいわゆる花火以外では野心の一切ないところが彼の人となりを表わし語り継がれているようである。
少し余談になるけれど、本作では作者が本来描くのが得意であるはずの女性たちが脇役としてだけれど物語に深く彩を添えている。母親である粂、兄の嫁となった琴音、そして兄の愛人である葉。現在オンエアーされているNHKの朝ドラが同時代なので彼女たちひとりひとりにスポットライトを当てると深い読書ともなるのでしょう。
個人的には終盤に兄が失踪してから葉を訪ねる場面が印象的なのですが、葉と琴音どちらが幸せな人生だったのでしょうか作者いや女性読者にも聞いてみたい気がする。琴音にとっては静助の存在こそが彼女の強い忍耐力を維持させたような気がする。彼女の忍耐力は敬服に値すると強く感じた。
評価8点。
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『ビターシュガー 虹色天気雨2』 大島真寿美 (小学館文庫)2015.06.29 Monday
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今回は前作よりも物語に変化が起こるのですが、そこにはやはり市子という人物の良い意味での人柄というものが影響しているように感じます。奈都が美月を預けたりするのも彼女のおおらかな人柄に安心して委ねることが出来るのでしょう。そこには長い年月に培われた友情というものがどっかりと座っていて、読者サイドにとっては市子と友人であることが奈津にとっては凄く誇らしく感じていることが伝わってきます(これはまりが市子に対する気持ちにも通じると思います)
彼女たち3人の関係って理想的なものに近いのでしょう。女性読者に聞いてみたいです。男性目線でも彼女たちの関係はお互いの距離感が素晴らしいが故、これからも続いて行くのでしょう。
そしてまりについて付け加えると、今回は新たな恋を進行中で人間的にグッと成長したように感じ物語に幅を持たせてくれていると感じます。これからは是非幸せをつかんでほしいですね。そして市子側が3人を中心として連帯感を持って生きていて読み手にとっては凄く心地よいのですが、対極をなす房恵の存在も忘れてはなりません。現実にも彼女のような無意識なようでしたたか(取りようによってはしたたかなようで無意識)な存在はきっといますよね。女性の現実と理想ってかけ離れているのでしょうか。少しでも模索して生きたいという人たちに送る応援歌のような小説です。美月が彼女の母親やその友達たちに囲まれ、そして母親に似た道を進んで行く所は微笑ましくもあれど焦れったくもありますが、母親以上にしあわせいっぱいに生きて欲しいな。それが現実的な私の願いでもあります。
評価7点。
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『虹色天気雨』 大島真寿美 (小学館文庫)2015.06.28 Sunday
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男性読者サイドで言わせてもらえば、かなり肩身の狭い読書を強いられるのだけれど(苦笑)、それがなかなか楽しいのはやはり滑稽に見える男性陣と、女性の友情の深さを体感できたからではないかと思うのである。
唯一の既婚者である奈津から夫が失踪したので娘を預かってほしいと主人公格の市子に連絡が入るところから物語が始まるのであるが、やはり女性たちは弱々しいようで逞しい。
そして失踪した憲吾はだらしないことこの上ないがそれは本作にとっては決まりごとのように感じる。途中で房恵という3人とは違ったタイプの女性を登場させ、憲吾の失踪の謎についてよくない疑念が浮かび上がるけれど、その真相が明らかになるところが驚かされるんだけれど、彼女たちの友情をより深めた事件でもあったように捉えるのは読み間違いなのだろうか。
いずれにしても、男性間の友人では味わえない女性間(これも幼いころからお互いに知っているからだと思いますが)の結託の強さに少し呆れつつもかなり感心せざるをえなかった。これが理想的な女性観の友情なのでしょう。そして奈津の娘である小学生である美月がこのまま素敵な大人に成長することを願って本を閉じた読者が大半であると思われる。それでは続編も続けて読みます。
評価7点。
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『ワンナイト』 大島真寿美 (幻冬舎)2014.04.15 Tuesday
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ステーキハウスのオーナー夫妻が妹の結婚を危惧して開いた合コン、そこに登場する男女6人の人間模様がどちらかと言えばコメディタッチに語られます。
初めは変わり者の妹である歩が中心となって語られるのかと思ってましたが語り手がバトンタッチされて行き楽しさが倍増されています。
語り手が変わるためにいろんな結婚観や恋愛観を楽しめる作品となってますが、とりわけ男性陣で既婚者なれど参加した米山が最も滑稽に描かれていて女性読者側から見れば痛快な話に仕上がっています。
登場人物の年齢設定が35歳過ぎとなっていて、そうですね近年の晩婚全盛時代から言えばちょうど適齢期の年代と言っても過言ではないのかな、結婚はもちろんのこと、人生においてのターニングポイントとなった6人の顛末を楽しみにして読まれたら面白いのでしょう。
ラストに歩の姪が登場し、合コンから数年後が描かれています。いろんな人生がありますが、まるで読者に悔いのない人生をともっと言えば男性選びは慎重にと説き伏せてくれているかのように感じられました。
評価7点。
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『戦友の恋』 大島真寿美 (角川文庫)2014.03.01 Saturday
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タイトル名ともなっている“戦友”という言葉を“親友”という言葉と比べて読むだけでも価値のあるひとときを過ごしたと言えそうである。
物語はいきなり主人公である佐紀が亡くなった玖美子の生前を偲ぶ描写から始まるところが印象的である。それは佐紀にとってはずっと持ち続ける辛い“喪失”感の表れでもあり、戦友の分までしっかりと生きなくちゃという誓いの言葉のようにも感じられる。
各編ごとに穏やかに月日が流れて行くように感じられるのであるが、それは作者の定評のある人生観というか価値観に基づく展開に読者も安心して身をゆだねられるからであると推測する。
本作には決してダメ男ではない2人の男性が登場します、新しい編集者の君島と幼馴染の木山達貴です。彼らが物語に素敵な彩りを添えているのは否定のしようがないのであるが、何と言ってもワタルくんと玖美子との関係がこの物語の清々しさを象徴していると思います。
あとは想い出の地であるリズの律子さんに作者の他の物語にも登場する大和屋の美和ちゃんですね、本当に密度の濃い物語です。
読者が本作を読んで感動できるのは常に佐紀の中に“玖美子のいない世界を生きている”という気持ちが読みとれる点につきるのだと思う。
玖美子とは一緒におばさんにはなれないけど、一緒に過ごした日々があるからスランプも切り抜けられるのですね。
そして佐紀と玖美子の関係は一見ダラダラしているようにも感じられます。そのダラダラ感は物語を通しても貫かれているように感じられ、それが読者に伝わるのですが、そうですね、女性読者の方がやはり吸収しやすいのでしょう。
少し支離滅裂になりましたが、大島さん凄い作家です、佐紀だけでなく読者をも再生させてくれそうなじわーっとくる小説でした。
評価8点。
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『ピエタ』 大島真寿美 (ポプラ社)2014.01.06 Monday
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この作品の優れたところを簡単に述べると、舞台が海外(バロック時代の水の都ヴェネェツィア)で史実に基づいた作品でありながらミステリー要素を織り込み、読みやすく読者を導き、終盤に感動的な場面をこれでもかというように畳み掛けている点に尽きると思います。
ピエタというのは実在した孤児院の名前であって、主人公であり語り手のエミーリアも赤ん坊の時に捨てられてピエタで育っています。物語はピエタで長年指導をしていた“四季”で著名な作曲家ヴィヴァルディがウィーンで亡くなったという知らせが届いた時点でスタートします。
ヴィヴァルディが亡くなったことによって、彼に返したはずの一枚の楽譜、この楽譜が後々大きな感動をもたらすのですが(読んでのお楽しみですね)、物語は主人公の周囲のピエタ及びヴィヴァルディに関わる人達との過去及び現在の関わりを描くことによって緩やかに進んで行きます。
当初、その緩やかさにいささか退屈な物語かと思った読者も多いでしょう、ところが中盤に本作のキーパーソンであるクラウディアの登場によって一気に物語が読者サイドにたなびいてくるのです。彼女の登場はヴィヴァルディ自体を読者に対して身近なものとして、あたかも1700年代のヴェネツィア共和国に居合わせているかのような感覚にさせられます。作品を通して感じた著者の素晴らしいところは、作品全体にヴィヴァルディに対してリスペクトした気持ちを漂わせているということを根底として、やはりこの世に生を受けたものに対する命の尊さが十分に読者に対して伝わってくる点だと思います。
主人公の出自も含めて、これは誰もが強くそして深く読みとれることだと思います。
それにしても、後半のクラウディアの病気に対する看病の場面やロドヴィーゴさんの歌の場面等、凄く印象的でいつまでもくっきりと読者の脳裏に焼き付いて離れないシーンが盛りだくさんの作品です。人と人との繋がりの大切さを思い起こさせてくれる本作、名作という名にふさわしい作品であると確信しています。それとともに巻末の参考文献の多さ、著者に本作を書きあげた敬意を改めて表したいと思う。
(読了日2013年12月28日)
評価10点。
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『三月』 大島真寿美 (光文社)2013.12.13 Friday
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文体はリズム感があり読みやすく、話の展開も万人受けするものだと思います。
万人受けと書きましたが、繊細なタッチの女性心理描写はとりわけ女性が読まれたらほぼ間違いのない感動と共感が約束されるでしょう。
女性が読まれたら登場人物の誰かに自分を置き換えて読むことが出来、読書の楽しさが倍増します。
物語は短大を卒業して20年が経過し、同窓会の案内状を受け取ったノンが当時に亡くなった男子のことを思い起こし、仲のよかった女友達に連絡を取ることから物語は始まります。
人それぞれいろんな人生があり、時には振り返り想いを馳せることも必要でしょう。それによって心が軽くなって明日への糧へとなりますから。
5編目の再会、そしてラストのニューヨークからの美晴の想いの描写は本当に圧巻。
単なる友情の大切さを描いただけでなく、生きることの大切さを物語の根底にどっしりと据え、読者に平凡に生きることの素晴らしさを問いかけている筆致は鮮やかというほかありません。
現実を見据えつつも夢を忘れてはいけないことを思い起こさせてくれる本作、オススメです。卒業のシーズンにプレゼントしたい本です。人生の岐路に立つ人にピッタシです。さて次は『ピエタ』ですね(苦笑)
評価10点。
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