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『手のひらの音符』 藤岡陽子 (新潮文庫)
再読。作者は新刊が出るたびに手に取りたい作家の一人の代表作とも言える作品であり、初めて読まれる方にはこの作品を紹介している。
新聞記者の経験や看護師の資格を持っている作者は誠実に人間観察をし端正な文章に転換し、必ず読者に考えさせる機会を与えてくれる作品を提供してくれるということがあげられる。

本作は作者の5作目として新潮社から2014年1月に書下ろし作品として上梓され、その後2016年9月に文庫化され今回再読をした。
本作以降も、歴史小説をやタイムスリップ小説も含めて守備範囲の広さを読者に提供してくれているが、どの作品にも生きることの意義を問う部分が繊細かつ力強く読者に訴えかけるところが大いなる魅力であると言える。

タイトル名となっている『手のひらの音符』の“音符”という言葉がとっても示唆的な含みのある言葉だと考えます。笑顔、生きがい、夢、希望、愛、人生、青春、あるいは現実、いろんな意味合いが込められていて読者それぞれが当てはめる言葉が違って然りの。

主人公である水樹は45歳独身の服飾デザイナーであるが、会社の経営方針で転職を余儀なくされそうな状況であるのだが、貧しかった子供時代に共に生きた幼なじみの信也と音信不通になったままでいる。
恩師の病気をきっかけとして現在と過去を交錯させつつ語られていくストーリーと言えば簡単ですが、彼女ら(彼ら)を取り巻く家族、兄弟、友人、そして恩師たちの存在がとてつもなく大きいのですね。
信也以外にも憲吾という同級生も登場、彼の存在感も絶大であって主人公にとっては人生は信也の方、仕事は憲吾の方に影響を受けたと言っても過言ではないともいえましょう。
圧巻は信也の兄と弟、3兄弟の話です。彼らの兄弟愛には胸を打たれますし、あとは恩師の遠子先生の生徒たちに与えた影響の大きさも読ませどころですね、ラストもちょっとびっくりでしょうか。

本作は主人公の幼少期や学生時代、貧しかったり苦しかったりした場面が多いのが特徴で、そういった経験が主人公の岐路に立った今、前を向かせてくれる勇気を与えてくれているのでしょう。
ここで語るにはもっと奥が深いものがありますが、私は誠実に生きたものがちっぽけかもしれないけど幸せを掴むのであるというメッセージを作者から受け取りました。
、主要登場人物のそれぞれのいろんな誠実さが溢れた本作、ある一定の年齢以上の方(40歳ぐらいかな)が読まれればは心に響き勇気づけられる物語であると確信しています。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 17:14 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『テミスの休息』 藤岡陽子 (祥伝社)
評価:
藤岡陽子
祥伝社
¥ 1,620
(2016-04-12)

初出小説「NON」。着実に読者数を伸ばしていると感じられる作者の最新刊を手に取ったのであるが、やはり次の作品も読んでみようという気持ちにさせられた読者は多いのではなかろうかと思われる。

前作『おしょりん』は大正時代の伝記作品を描き作風が広がったと感じたのであるが、本作は作者の正攻法的な作品であると言え、個人的には現時点で代表作と言っても過言ではないのではなかろうか。舞台は横浜にある小さな法律事務所で、現代社会に潜む問題点を抉りつつも弁護士と事務員との言わば年齢は重ねているけれど淡い恋愛模様が描かれていて、じれったさが心地よく読者としては2冊分の読書を楽しませてもらったという気持ちにさせられる。

まるで作者の人柄が登場人物(涼子)に反映されているように感じられ、芳川の方は理想の男性像とも思われます。
作者の魅力はやはり誠実に生きることの大切さを謳っていて、他の作品でもそうなのですが本作では特に感じられました。印象的だったのはやはり弱者に対しての暖かいまなざしなのでしょうね、こんな弁護士事務所現実的には存在しにくいのかもしれませんが、依頼人も後悔はしないところが素敵です。
とりわけ涼子の息子の友達の母親の再婚相手のとった誠実な行動がとっても印象的です。あとはとんかつ屋の大将、なかなかやりますよね。

本作品で描かれている芳川事務所は『ホイッスル』にも登場していて、未読の方はそちらも読まれることをお勧めします。とにかく芳川と涼子の幸せを願ってうるうるして本を閉じたことを書き留めておきたい。まるで幸せをお裾分けされた気分に浸れる読書であった。

評価9点。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 16:59 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『おしょりん』 藤岡陽子 (ポプラ社)
評価:
藤岡 陽子
ポプラ社
¥ 1,728
(2016-02-15)

書下ろし作品。新刊が出るたびに手に取りたい作家の一人である作者の新境地開拓作品であると感じる。作者に対しては真っ直ぐに生きることの尊さや、理不尽なことに対する憤りを描写することに長けた作家だという認識が強かったのだけれど、本作においてはさらにしなやかさと力強さに磨きが掛かったと感じられるのである。

物語は明治30〜40年代の福井を舞台とし、眼鏡づくりに人生を賭けた増永兄弟(五左衛門と幸八)と兄嫁のむめが中心となって描かれているが、逆境をものともせず真摯に立ち向かう姿の描写が素晴らしい。冒頭は嫁の視点で語られていて、嫁に来るまでの経緯で兄と弟が間違えられていたように描かれていて、その後の大きな物語内でのうねりも期待した読者もいたかもしれないけれど、実話に基づいた話なのであまり起伏に富んだ話に成り得なかったのは少し残念なような気もしたけれど、作者の現在持っている力を出し切ったという作品であり、後年ターニングポイントとして語られる作品であると思いたい。

最も感動的な逸話は、末吉の娘であるツネの話で目が悪いために黒板の字が写せずに学校に行けなくなっていた話ですね。末吉が協力してくれなかったら今の福井県の眼鏡生産日本一はなかったような気がします。
そしてタイトル名となっている“おしょりん”、これは田んぼも畑も川も農道もすべてが雪に覆われ、その雪が硬く凍りつき、けっして割れたりしない状態を言い、言い換えれば希望が繋がっている姿ともとれるとともに寒い地方の方の忍耐力の強さを表わしている言葉だと思います。藤岡陽子さん、ますます目が離せません。

評価9点。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 11:29 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『晴れたらいいね』 藤岡陽子 (光文社)
評価:
藤岡 陽子
光文社
¥ 1,296
(2015-07-17)

書下ろし作品。藤岡作品は6作品目となりました。看護師の資格を持った作者らしく、前作同様命の大切さを読者に訴えかけていますが、本作では平和になりすぎた国である日本という国に対して警鐘を鳴らしているように感じます。

彼女の作品の特徴である命の大切さが本作でも貫かれています。今年は戦後70年ということで戦争を題材とした作品の上梓が多く、そのどれもが秀逸であってメモリアルな年となったと感じている。リアルな描写のみで書かれたものが多いのであるが、本作は現代(ヘイセイという国という言葉が使われています)に生き看護師として活躍している高橋紗穂という女性が主人公で、入院中の95歳の女性を見回っている時に地震に見舞われ、気付いた時は戦時中(昭和19年)のマニラに戦地にて日赤から従軍看護婦として派遣されていた雪野サエにタイムスリップした少し奇を衒った作品とも言えます。

やはり時は流れていますよね、今は看護師という言葉が使われていますが当時は看護婦という言葉がピッタシで、紗穂は戸惑いつつもサエに成りすまし行動を共にしますがやはり転進の場面が圧巻ですよね。
彼女は命を粗末にしてはいけないということを訴え続けます、タイトル名ともなっているドリカムの歌を歌いながら周りを励まします。読者は知らぬうちに皆が生きのび、無事に帰還できるように願いつつページをめくります。ただ決して当時の人は命を粗末にしたわけではありません、お国のために捧げたのです。作者は当時の沢山の人が犠牲になったことを教訓として現代の平和があることを読者に訴えていると感じます。繊細なタッチながら読者にいろんなことを考えさせてくれる作者の作品は、とりわけ女性の立場から訴えていることが多いと感じます。

圧巻なのは自決用の手榴弾の使い方の練習を拒む主人公のシーンですね。ただ前述したように主人公はヘイセイという国が当時の人々がうらやむような国ではないということも伝えていたように感じます。そこが読者に対する訴えかけだと感じます。ラストが少しあっけなかったようにも感じますが賛否両論あると思います。凛とした女性達は素敵ですよね。藤岡陽子さん、ますます目が離せません。

評価9点。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 22:40 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『闇から届く命』 藤岡陽子 (実業之日本社)
評価:
藤岡 陽子
実業之日本社
¥ 1,728
(2015-01-31)

書下ろし作品。新作が出ればすぐに読みたくなる作家の一人に数えられる作家の藤岡さんであるが、藤岡作品の特徴として必ず読者に考えさせる機会を与えてくれる作品を提供してくれるということがあげられるのであるが本作もご多聞に漏れない。ただ本作に関しては彼女の最も得意な部分の作品であるがゆえに却ってメッセージを詰め込みすぎたきらいがあると感じられる。

それはやはり描写がリアルで、読んでいて思わず目をそむけたくなるシーンがしばしばあって、とりわけ女性読者が手に取れば、物語に入り込める人であればあるだけ、凄く共感するかそれとも下手をしたら嫌悪感が漂うかもしれないと思う。そこが紙一重なだけに本作における評価は甚だ難しいと感じるのである。
物語の舞台は私立の産婦人科医院で、主人公である美歩は助産師として忙しい日々を送っているのですが、忙しいというか忙しすぎるというか過酷な毎日が目につきます。

これが実態だとまでは思いたくはないのですが凄い労働環境です。そして生まれてくる赤ん坊や病院内で働く人の善悪が少し強調されすぎてるかなという気もしますが、そうしなければ物語の後半が成り立たなくなるのですね。
事件は中盤にもあって、そうです、冒頭部で生まれた赤ん坊が衰弱して救急車で運ばれるのですが、そこに至るまでの佐野の姿が予想はついていましたがミステリータッチで楽しめます。そして後半は後輩である理央が休みがちになる事件ですよね。

これはすべての読者が腹立たしく感じることであって、少し冷めた目で見ると本当にこんな人(院長、息子、師長)っているのかなと思ったりもしますし、小説の中だけであってほしいそう願いたいとも思いますし複雑すぎてやはり辛いなと思ったのが実感としてあります。

出生率減少、高齢者社会が問題となっている我が国ですが、赤ちゃんが安心して生まれてくるためには本作で取り上げられている助産師などの過酷な労働環境の改善が必要です。もし本作を妊婦さんなどが読まれたら、安心して産めないかもしれないという危惧があります。それだけフィクションとはいえリアルだということで捉えていますが、作者が美歩の姉である美生で描写しているように、命の大切さはもちろんのこと、いろんな幸せの形があるということを学び取った読書となったことは書き留めておきたいと思うし、“無事に生まれて来ることが決して当たり前なのではない”作者はそのことを最も伝えたかったんだと思う。

評価7点。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 12:09 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『波風』 藤岡陽子 (光文社)
評価:
藤岡 陽子
光文社
¥ 1,728
(2014-07-18)

書下ろしを中心とした7編からなる短編集。藤岡作品を手にするのは4作品目となりますが、初めての短編集ですね。どちらかと言えば長編でじっくりと読ませる作家というイメージだったのですが、いい意味で覆されました。
重松清というよりも浅田次郎の短編のスタイルに近いのでしょうか、どれもがドラマチックな人生が展開が待ち受けていて読者の背中を押してくれます。浅田作品よりも強く感じるのはひたむきに生きることの大切さでしょうか。
新聞記者の経験や看護師の資格を持っている作者は誠実に人間観察をし端正な文章に転換します。

作者の人柄が滲み出た作品集であると感じますが、やはり最も感動的なのは「月夜のディナ−」でしょうか。別れた父の妹に育てられた姉弟の物語なのですが、産みの親よりも育ての親に対して究極の愛情を表現した作品であるのですが、翌日結婚式を控え成長した弟の感謝の言葉がいつまでも記憶に残ります。

あとは意外かもしれませんがラストの「デンジソウ」、これは作者の略歴が生かされた医療関連を題材とした作品で社会派要素が強かったですが、新聞記者の男が意外と人間臭いところが印象的で、平凡だけど健気な主人公との幸せな未来を思い描いて本を閉じた方も多いと思います。

個人的には作者には長編中心で書いていってほしいとは思っていますが、たまに短編集を読むとその資質の高さを窺い知ることが出来ます。
「結い言」は2006年に宮本輝氏が北日本文学賞に選奨された作品ですが、それ以外はそれ以降に書かれた作品なのでしょう。これからも作者特有の奥行きのある作品を上梓して読者を釘付けにして欲しいなと切に願っています。

評価8点。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 20:56 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『トライアウト』 藤岡陽子 (光文社)
評価:
藤岡陽子
光文社
¥ 1,575
(2012-01-18)

初出「鉄筆」。3冊目の藤岡作品、題名からして男性主人公の野球小説かなと思い読む進めましたがいい意味で見事期待を裏切られました。
本作は親子のあり方を問う物語です。
主人公の可南子は新聞社で働くシングルマザーで数年ぶりに運動部に配置換えとなり物語が動き出すわけです。
作者の人間の弱さをあぶりだし、人生を見つめ直す描写に長けているのはきっと作者の誠実な人柄と文学に真摯に向き合っている結果だと思います。
本作は主人公以外に魅力的な登場人物が多く、途中木下監督の話など少し焦点がぼやけたようにも思いましたが終盤、予想以上の収束のつけ方が待っていて読後感が頗る良かったのが印象的です。

男性読者として可南子には同情はあるけど共感はあまりなく、逆に息子である考太を不憫に思ったり、妹である柚奈の生き方に賛同したり、孫を育てる両親の苦労が偲ばれたり感じ取ることの多かった読書でもありました。そして時には主人公の息子に対する愛情が希薄であると感じたりもしたのであるが、そこは作者の術中に嵌ったわけで杞憂に終わります。第2主人公とも言える戦力外通告を受けたプロ野球選手の深澤の生きざまが途轍もなくカッコよく感じられ、彼の行動が主人公の息子に対する愛情を読者に浮かび上がらせたような構図が素晴らしい。
いろんな人生があり、私たち読者も決して楽なことばかりではないのは良く分かっているのであるが、自称“不器用な生き方をしている人”には心に響く読み応えのある作品だと思います。
可南子に親子のあり方を教えたかつての甲子園優勝投手深澤の“ビリからのスタート”という言葉、私には“初心忘れるべからず”という気持ちを思い起こさせてくれました。
そして前述したように恋愛小説ではないんだけど、深澤にまた挑戦させる勇気を可南子が逆に与えたのも事実だと思われます。
続編が出れば是非読んでみたいですね。

評価8点。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 23:24 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『手のひらの音符』 藤岡陽子 (新潮社)
評価:
藤岡 陽子
新潮社
¥ 1,470
(2014-01-22)

書き下ろし作品。前作『ホイッスル』に続き2作目の藤岡作品ですが、じっくり書き下ろされたのが功を奏し、読者が登場人物を自分の人生に照らし合わせることが出来る感動度の高い物語となっている。
タイトル名となっている『手のひらの音符』の“音符”という言葉がとっても示唆的な含みのある言葉だと考えます。笑顔、生きがい、夢、希望、愛、人生、青春、あるいは現実、いろんな意味合いが込められていて読者それぞれが当てはめる言葉が違って然りの。

主人公である水樹は45歳独身の服飾デザイナーであるが、会社の経営方針で転職を余儀なくされそうな状況であるのだが、貧しかった子供時代に共に生きた幼なじみの信也と音信不通になったままでいる。
恩師の病気をきっかけとして現在と過去を交錯させつつ語られていくストーリーと言えば簡単ですが、彼女ら(彼ら)を取り巻く家族、兄弟、友人、そして恩師たちの存在がとてつもなく大きいのですね。
信也以外にも憲吾という同級生も登場、彼の存在感も絶大であって主人公にとっては人生は信也の方、仕事は憲吾の方に影響を受けたと言っても過言ではないともいえましょう。
圧巻は信也の兄と弟、3兄弟の話です。彼らの兄弟愛には胸を打たれますし、あとは恩師の遠子先生の生徒たちに与えた影響の大きさも読ませどころですね、ラストもちょっとびっくりでしょうか。

本作は主人公の幼少期や学生時代、貧しかったり苦しかったりした場面が多いのが特徴で、そういった経験が主人公の岐路に立った今、前を向かせてくれる勇気を与えてくれているのでしょう。
ここで語るにはもっと奥が深いものがありますが、私は誠実に生きたものがちっぽけかもしれないけど幸せを掴むのであるというメッセージを作者から受け取りました。
、主要登場人物のそれぞれのいろんな誠実さが溢れた本作、ある一定の年齢以上の方(40歳ぐらいかな)が読まれればは心に響き勇気づけられる物語であると確信しています。是非未読のあなたも感じ取って欲しいなと思っています。

評価9点。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 21:14 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ホイッスル』 藤岡陽子 (光文社)
評価:
藤岡 陽子
光文社
¥ 1,680
(2012-09-15)

作者の作品は初読みです。内容的には悪意が描かれていて、読む込みの深い人ほど読んでいて苦しい部分があると思われますが、逆に逆境をいかに跳ね返していくかという観点から読めば救われた気分になる一冊であると確信しています。
物語は妻子る70歳を過ぎた老人の身分で、20歳以上も若い看護師に唆されて離婚をし財産を奪われた石巻章が亡くなるシーンがプロローグとして始まり、それまでに至る過程を時系列的に語って行く構成を取っています。
面白いのは、いろいろな立場の数人の人間が立ち替わり各章で語っている構成でしょうか。主人公と言ってよいであろう妻である聡子、そして娘の香織に姪である優子、芳川弁護士にそこの事務員である沢井、章を騙す和恵と和恵サイドの人間など。裁判の過程を中心に描かれているので内容的には重苦しい部分もありますが、和恵が追い詰められていくシーンは胸のすく思いもしました。あとは、脇役ですが弁護士と事務員の2人、その後どうなったのでしょうか、幸せを願わずにいられません。

読者にとって感動的なのは、やはり夫に厳しい仕打ちをされた聡子が立ちあがって行く姿につきます。もちろん周りの人々のフォローも借りていますが、彼女のある種凛とした態度が上手く人生を切り開いているような気がして、唸らされました。あとつけ加えておくと、凄く達観した読書が出来る人には夫である章がとっても滑稽に思えるはずです。

現実的にこんなことになれば、作品内以上にもっとドロドロしたものがあるのでしょうが、作者は小説で描き得る範囲内で読者に問題点を突きつけてくれます。その問題点を表したのがタイトルの「ホイッスル」という言葉であって、読者である私たちも何か苦しいことや悲しいことがあって、自分自身に警鐘を鳴らすことが出来そうな気がします。少しでも強く生きることを願って書かれたであろう本作、私の中では結構グッと来た作品であって、ささやかながら応援して行きたい作家の一人であります。

作者の藤岡陽子さんは同志社大学文学部を卒業後、新聞記者を経てタンザニアの大学に留学、その後看護師資格などを得ています。デビュー以後4作が上梓され、本作は最新作にあたります。女性作家ならではの繊細さと大胆さを持ち合わせた文章は結構魅力的で、コンプリートを目指して読んでみようかなと思っております。

評価9点。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 09:56 | comments(0) | trackbacks(0) |-