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『ナインストーリーズ』における新訳の必要性。


サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』が本年3月に柴田元幸さんの手で約35年ぶりに訳された。
翻訳物に疎い私であるが、柴田さんが日本を代表する翻訳家であることぐらいは知っているつもりである。
そして旧訳の野崎孝さん。どちらも東大卒ですね(汗)

好き嫌いは別として、お二人とも翻訳家としての能力が突出していることは誰も否定しないであろう。

そこで『ナイン・ストーリーズ』。柴田訳を読み終えて、昨日新潮文庫版の野崎訳を買って来た。
柴田訳を買った時に講談社英語文庫で原書を買ったので1時間ぐらいかけて読んで比べてみた。
いい機会なので最初の1節を比較したいと思う。


原文
"A Perfect Day for Bananafish"

There were ninety-seven New York advertising men in the hotel, and, the way they were monopolizing the long-distance lines,the girl in 507 had to wait from noon till almost two-thirty to get her call through. She used the time though. She read an article in a women's pocket-size magazine,called "Sex Is Fun--or Hell." She washed her comb and brush. She took the spot out of the skirt of her beige suit. She moved the button on her Saks blouse. She tweezed out two freshly surfaced hairs in her mole. When the operator finally rang her room,she was sitting on the window seat and had almost finished putting lacquer on the nails of her left hand.
(講談社英語文庫版より引用)


野崎孝訳(1974年)
“バナナフィッシュにうってつけの日”
ホテルにはニューヨークの広告マンが九十七人も泊まり込んでいて、長距離電話は彼らが独占したような格好、五〇七号室のご婦人は、昼ごろに申し込んだ電話が繋がるのに二時半までも待たされた。でも彼女はその間を無為に過したわけじゃない。ポケット判の婦人雑誌の「セックスは楽しーーもしくは苦し」と題する記事を読んだ。櫛とブラシを洗った。ベージュのスーツのスカートの汚点(しみ)をとった。それからサックスで買ったブラウスのボタンの位置もつけ変えたし、黒子のとこにまたまた生えてきた二本の毛を毛抜きを使って抜きもした。そして、窓辺に作りつけたソファに坐り、左手の爪のマニキュアももう少しで終るというとこへようやく交換手からの呼び出し電話がかかってきたのである。
(新潮文庫版より引用)

柴田元幸訳(2009年)
“バナナフィッシュ日和”
ホテルにはニューヨークの広告マンが九十七人泊まっていて、長距離電話を独占しているものだから、五〇七号室の女の子は電話がつながるまで正午から二時間半近く待たねばならなかった。でもそのあいだの時間はしっかり活用した。ポケットサイズの女性誌で「セックスは楽しいーーそれとも地獄?」と題した記事を読んだし、櫛とブラシも洗った。ベージュのスーツのスカートについた染みも抜いた。サックスで買ったブラウスのボタンの位置を変え、ほくろに新たに出現した毛二本も抜いた。オペレーターがやっと電話してきたとき、女の子は窓際の作りつけの椅子に座って、左手の爪にマニキュアをほぼ塗り終えたところだった。
(ヴィレッジブックス版より引用)

柴田さんの訳文は滑らかですよね。
“誰もが読みやすいように施された文章”という形容をつけたいほど読む者の立場に立った翻訳だと言えそうです。
ただ、野崎さんの方が原文に忠実だとは思いますが。決して2人の訳者の優劣をつけているわけではありません。
原文がレシピだとすれば、野崎さん訳はレシピに寸分も狂わずに作られた料理、柴田さんはレシピを自分なりに修正し手直しした料理と言ったところでしょうか。

それにしても日本語も変化してますよね。
☆ポケット判の婦人雑誌→ポケットサイズの女性誌
☆ご婦人→女の子
☆交換手→オペレーター

たとえば35年前に柴田訳が出てたらその当時の世相よりもずっと進んだ柴田訳に対して“未来の言葉”のように受け入れられていたように思えるのである。

逆に、現代の若者が今、野崎訳を読みはったら野崎訳はかなり違和感を感じるのではないだろうか。
私以上に柴田訳の方が読みやすいと感じるでしょうね。

柴田氏の本の帯に“2009年のサリンジャー”と書いてある。
この言葉が新訳の必要性を象徴した言葉だと思うのである。

こうして新訳と旧訳を比べれるのも古典翻訳物を読む大きな楽しみである。
そう、新旧最高の翻訳家の競演を・・・
posted by: トラキチ | 訳者 | 05:42 | comments(3) | trackbacks(0) |-
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とても興味深く拝見しました。
こんなに違うものなんですね。
サリンジャーを原文で読めたら一番いいのですが(^^;
| ゆこりん | 2009/05/15 8:30 PM |
ゆこりんさん、こんばんは♪
結構違うでしょ。
時代の流れですよね。
私も少し訳してアップしようと思いましたが、ひどいので見せれません(爆)

時間を見つけて一ページずつ英語で読んで、訳本と照らし合わせていこうと思ってます。

コメントありがとうございました。
| トラキチ | 2009/05/15 9:30 PM |
こういう新旧比較は面白いですね。
私は逆に、野崎孝さんのは滑らかな意訳で、柴田元幸さんのは原文に忠実に感じました。
たとえば:

She used the time though.

でも彼女はその間を無為に過したわけじゃない。
 →少し難しめの言い回しで書かれた普通の日本語に感じます。意訳。

でもそのあいだの時間はしっかり活用した。
 →言い回しは会話的だけど反面「時間を活用する」は書き言葉的というか説明口調に感じます。原文を活かそうとする翻訳体。
| まめ | 2020/03/17 11:13 AM |









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