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評価:
瀬尾まいこ
筑摩書房
¥ 1,470
(2010-02-10)
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<2年ぶりの新刊は本当の“優しさ”とは何かを問う中学生隼太の成長物語。
テーマはDVなのですが重苦しくなくってジーンと来て暖かな気持ちで本を閉じることが出来ます。
平易な文章で最大限の感動を呼び起こす“瀬尾ワールド”、これがある限り寡作でもファンはずっと新刊の発売を待ち続けますよね。それにしてもいろんな愛情がありますよね、いい勉強となりました。>
僕は誰にも誓っていない。だけど、病める優ちゃんを誰よりもたくさん知っている。イエス・キリストは愛が大事だって言ってるし、きっとマザーテレサとかリンカーンとか、世の中のすごいって言われているような人も愛が全てだって言ってる。愛が尊いことなのは僕にだってわかる。愛がどういうものなのかはわからない。だけど、もし人を許すことが愛ならば、僕は優ちゃんを誰よりも愛している。アクエリアス1リットルで、トイレに直行してしまう器の小さい僕だけど、その容量の全てを使って、優ちゃんのどんなことでも許してしまえる。
(本文より引用)
坪田譲治文学賞を受賞した
『戸村飯店青春100連発』以来、約2年ぶりの待望の新刊。
従来の瀬尾さんの作品パターンは主人公の“再生”物語がメインだったのですが、前作は趣を変えて“成長”物語に変貌したのですね。
そして本作はもっと贅沢になり、主人公の隼太(中学2年生)の成長物語を見守りながらも隼太の母親の再婚相手であり隼太にとっては新しい父親である優ちゃんの“再生物語ともなっています。
いわば、1冊で瀬尾作品を2冊読んだ感覚にさせてくれる作品なのです。
わずか230ページあまりの中に読者に大きなメッセージを与えてくれる小説、滅多にお目にかかれません。
中学校教諭でもある瀬尾さんにしたら、主人公はまさに自分自身の教え子と同年代ですね。
ですから、本当に自分の生徒たちに読んでもらいたいという想いが文章に乗り移っている感じがします。
話の内容を少し紹介すれば、幼いころに父親と死別してずっと母親と二人暮らしで育った中2の隼太が主人公です。
母親のなぎさがずっとスナック経営のために晩にひとりで過ごすことを余儀なくされてきた隼太ですが、母親の再婚を機に再婚相手の優ちゃん(昼間は歯科医)と一緒に夜を過ごせるようになったのです。
けれども新しい父親である優ちゃんが普通ではないのですね、突如暴力を隼太に振るうのですね。
隼太はそれに耐えて、優ちゃんのDVを治そうと努力して行きます。
そうなんです、とっても健気な中学生なんですわ。
最初は夜のひとりぼっちの寂しさやあるいは母親に対する気づかいで我慢していたようにも取れるのですが、次第に隼太が成長してゆく過程で優ちゃんに対する愛情が芽生えて来るのですね。
その背景としていくつかの出来事が起こります。
先輩の靴を捨てた事件、あるいは数学の苦手な宮城さんに問題を教えたりもします。
でもなんと言っても関下との初恋(と言っていいのでしょうね)がもっとも大きかったのでしょうね。
中学生ぐらいの年代の時って体だけじゃなく心の成長というか変化も速いですよね。
隼太の優ちゃんに対するいたわりが増すにつれて、優ちゃんの隼太に対する接し方も変わってくるのですね。
読者の誰もが抱いていた最初イライラしていた優ちゃんに対する気持ちも徐々に緩和されます。
瀬尾さんの凄いところは次の点に尽きますね。
それは他の作家が描けば凄く重いテーマ(DV)をややもすればコミカルともとれる描写で書いている点ですね。
そしてエンディングですね、読者によってはそうじゃない方もいらっしゃったと思いますが、私にはほぼ予想通りでした。
これは読んでのお楽しみなのですが、暗く終わっているようで数年後の幸せを暗示するというか、瀬尾ファンならば誰しもがつかみ取ることの出来る最高のエンディングです。
最後は単行本の帯の言葉通り“切なさで胸がいっぱいになる。”ことができました。
本作を読めば否応なしに寛大な気持ちを持つことの大切さを再認識できます。
これだから瀬尾まいこのファンはやめれませんわ。
超オススメ(10)