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評価:
オラフ オラフソン
白水社
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(2011-04-06)
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<アイスランド人作家によるOヘンリー賞受賞作を含む12編からなる恋愛短編集。特筆すべきなのは、いずれも甘い内容じゃなくって身につまされる内容であるということ。 恋愛をモチーフにして“人生を描いている”っていう感じですね。>
“オラフソンの作品を読んでいると、ひんやりとした希薄な空気と透明な光が行間に広がるのを感じます。それは抑制のきいた文章だけでなく、登場人物たちが感情を胸にしまい、行動を慎みがちなところからも生まれています。(中略)この抑制のきいた端正さは、荒涼とした自然のなかに人間が点々と点在しているアイスランドの風土と深く結びついている印象を受けます。”
(訳者あとがきより)
白水社の《エクス・リブリス》シリーズの一冊、岩本正恵訳。
タイトル名の『ヴァレンタインズ』(Valentines)、日本語に訳すと“恋人たち”ということですが、敢えてカタカナとしているところが作品の内容を如実に表しているのですね。
そう、この作品の内容はそんなに甘酸っぱい恋愛模様を描いたものではありません。
愛の破滅というか破綻、そして終焉を描いてます。
そうですね、辛い話がほとんどです。
でも内容が内容であるだけに郷愁感が漂っています。
女性作家だともう少しドロドロ感があるか、それとも男性を滑稽に描くんでしょうが、本作には緊張感が漂ってます。
だからどちらかと言えば共感できるという意味合いにおいては男性向きの作品なのかもしれません。
抱えているものが多い人ほど共感できると確信しています。
事実、社会的に地位のある職業につく主人公たちがほとんどで、まわりから見たらどこに不満があるのって感じなのでしょうが、やはり隣の芝生は青く見えるのですね。
すべての登場人物に共通して言えるのは、人間の脆弱性を持ち合わせていることですね。だから他人事と思えずに共感できます。 タイトル名が1月から12月までで季節感が端的に表れていて、日本人には受け入れやすいです。
全12編はずれはなくどの物語も甲乙つけ難いほど素晴らしいのですが、最初の「一月」がもっとも印象的というか私には挑戦的に感じられました。
ラストで過去の恋人の見舞いに病院に行くか行かないかというシーンがあるのですが、私の読解力不足かもしれませんが、行ったか行ってないかはっきりわからないのですね。
たぶん行かないということだと思うのですが、逆に読者に委ねられていているように感じられ、まるで自分が試されてるかのような錯覚に陥ります。
そしてその部分(委ねられている)がこ作品集全体を凝縮してるようなところがあると、私的には捉えています。
そう、読者が13番目の主人公なのですね。
まるで私にとっては人間は自分が一番かわいいんだけど、それでいいのかい?傷つくの恐れてないかい?と作者が問いかけてくれているような気にさせられました。
自分の弱い部分を見つめなおすのにはチャンスとなる読書だったと言えるでしょう。
胸の中につかえているものが多い人ほど身につまされます。
これから生きていく上で岐路に立たされた時にきっと思い出させられることだと思います。
驚いたのは作者のオラフ・オラフソンが超一流のビジネスマンということ。
天は二物を与えますね(笑)
それにしても訳者の岩本正恵さんの訳文、素晴らしいです。
女性がこんなに巧みに男の儚さを日本語で描写できるとは、恐れ入りました。
これからの季節にぴったしの一冊だと自信を持ってお勧めします。ぜひ一編ずつ味わってお読みください。
オススメ(9)