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評価:
津村 記久子
集英社
¥ 1,260
(2011-03-25)
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<津村さんお得意のリアルな会社員小説ですが、本作は男性が読んでも女性が読んでも同じぐらい共感できるように、敢えて同じ年で同じ姓の主人公を2人登場させてます。
少し字余り的な説得力のある文章は読者にとっても心地良く、読み終えて日頃のイライラが緩和され、辛いのは俺(私)だけじゃないという気にさせてくれること請け合いの一冊です。>
初出 小説すばる。
芥川賞作家である津村さんの作品は『ポトスライムの舟』と『八番筋カウンシル』に次いで本作で3冊目ですが、本作が一番上手く書けてるような気がします。
男女の主人公の様子が交互に書かれている本作、働いているといろいろありますよね。
ひとことで言えばそういう読者の気持ちを代弁してくれる作品です。
2人の佐藤さんの名前は奈加子と重信。
奈加子はお肌のくすみが気になり、重信は薄毛が気になっています。
2人とも不器用ですよね。
32歳の2人は会社でも微妙な位置で、奈加子は同僚のあいだとの気持ちのわだかまり、重信はクレーマーへの対応。
その2人が序盤に仕事上で出会います。
津村さんの持ち味は“適度にユーモラスで、適度にグッとくる”ところだと思うのですが、作者の特徴がよく表れた作品だと思います。
そして舞台がほとんど大阪なのです。だから関西人は親近感を持って読めます。
とりわけカレー好き、ヨーロッパサッカー好きには(笑)まあ読んでのお楽しみですね。
まあこの作品ほど働くことの意義を考えさせられる作品はないと思います。
たとえば少しでも現実逃避という気持ちを持って、この作品に取りかかった読者がいればそのリアルさに仰天するでしょう。
私はまるで作者が“どんな理不尽なことがあっても人生慌てず焦らずに生きなさい”と教授してくれているような作品に感じられました。
最後にこの作品は恋愛小説的側面はほとんどありません。
そこで敢えて発展的に捉えてみますね。
読者にとっては2人の佐藤さん、前述したように序盤でちょっと会って最後に再会するのですが、2人のその後の幸せを願って本を閉じられた方が多いのだと思います。
私は2人が悩みながらも前向きに生きているから、そのご褒美として再会できたと捉えております。
作者の計らいに感謝したいです、でもちょっと飛躍して考え過ぎかな(苦笑)
短編の「オノウエさんの不在」も学閥から外れている主人公が、先輩をリスペクトしている気持ちが伝わってよく書けてると思います。
オススメ(9)