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評価:
窪 美澄
新潮社
¥ 1,470
(2010-07)
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初出第1話「小説新潮」、第2〜4話「ケータイ文庫」、第5話書き下ろし。
第24回山本周五郎賞受賞作。
5編からなる連作短編集と言うことですが本作が掲載そして出版された経緯から事情(第1話が第8回女による女のためのR−18文学賞大賞を受賞)があるのはわかっていますが、初めの2編は本当に性描写が生々しすぎて少し引きました。
読み終えて最初の2編は生よりも性、最後の3編は性よりも生を主題としているような気がします。
それぞれ独立した読み物としたら楽しめるとは思いますが、作品全体としてラストで命の尊さを謳ったいるところや息子(斉藤)を想う母親の気持ちを描いていますが、帳尻を合わせたというかインパクトが弱いような気がします。
なぜなら私的には2〜4編目の登場人物の方が共感というか同情できました。
だからラストの斎藤君の母親が主役を張るところも少し共感ができませんでした。最終編では斎藤君の父親のエピソード等が語られ、通常はグッとくるところなのでしょうが、どうしても斎藤君は悩んでいるのでしょうが生きざまとして努力がなんだか足りないような気がしました。
いわばふがいなさすぎるのですね。
タイトル名は秀逸で“ふがいない僕は空を見た”の“僕”って読者のことでもあると解釈しています。
作中の登場人物ほどではないにせよ、誰しも持っている自分自身のふがいない部分をレクチャーされたような気がします。
私たちも空を見なければいけません。
結論としては個性的で斬新で読みごたえはあるんだけど、少し過大評価されすぎている印象は拭えないかなと思います。
この作品は読者の性別によってかなり感じ方に差が出てくると思います。
まず女性が読めばあんずが加害者で卓巳が被害者のような図式で読まれるんじゃないかなと思います。
私はそうは思いませんでしたそこが大きいですよね。
そこで斉藤の家が助産院をしていることが重要なポイントとなってきます。
助産院の仕事の手伝いをすることがある卓巳なのですが、女性読者だとそのことでかなり同情的な気持ちになるんじゃないだろうかと思います。
男性読者の私は、家でそんなことをして生の苦しみを知っているのになんであんなことをするのかなと思うわけです。
まして15歳でね、早すぎますよね。普通母親の苦労もっとわかるでしょと言いたいんですね。
だから通常もっとも理解できないであろう松永の兄(3編目)よりも理解できないです。
最後に泣いてもあんまり許したくないような気持ちにさせられます、ちょっと曲解かもしれませんが。
もっとも感動的なのは第4話の「セイタカアワダチソウの空」。貧困にあえぐ良太がいとおしく感じられます。
とりわけ斉藤のビラをまいて悪意のあった良太とあくつが田岡の言動によって改心されるところが印象的ですね。
私はどうしても斉藤と良太を比べてしまい、良太の方に感情移入してしまいました。
ただ私の捉え方もひとつの捉え方だと思います。
それだけ生きることが難しくって不条理な世の中なのでしょう。
総括すれば本作は現代に生きる日常の不条理を世に問うビビッドに描写した問題作だと言うことでしょうか。
敢えて傑作だとはいいません、問題作だと言っておきますね(笑)
ただ今後もっともっと成長する余地のある作家であることは間違いないと思います。
評価7点。