|
評価:
垣谷 美雨
新潮社
¥ 1,680
(2013-01-22)
|
書き下ろし作品。東京郊外の駅からバスで5分のニュータウンでバブルの頃に5千2百万円で購入した4LDKのマンションの住宅ローンのことで一杯で、毎晩返済表を眺めて溜息をつく一家の物語。
とってもリアルで読者によってはかなり息苦しいかもしれませんが、最後まで読まれたらホッとする作品であると思えます。
作者の素晴らしいところは大半の読者に対いて否応なしに現実的で身につまされる読書をもたらせつつも、多様化する価値観を提示している点だと思われます。
とりわけダブル主人公である織部親子(母娘)をほぼ交互に登場させることによって、母には老後の生きがいを模索させ、娘には結婚に対する考え方を娘を含めて三人の女性の価値観を照らし合わせることに成功しています。幅広い読者に受け入れられることが可能な作品で、
女子3人の仲良し組がお互いの幸せを求めた結果が三者三様で面白かったのですが、個人的には友情が崩れつつあるのが残念でしたが主人公である琴里がとった行動が最も賢明と言うか共感出来たのも事実です。
母親の頼子はやはりニュータウンの理事をすることによって成長し、人間としての幅が広がったような気がします。
そして現在出向中で収入が激減した夫、全体的には惨めな役回りなのですが娘の婚約者がローンの返済を申し出た際にとった言動が印象的です。
このあたり人間としての矜持が溢れていて、娘への確かな愛情も感じました。それによって妻の頼子がより成長したのだと捉えています。
前半が少し読みづらいかもしれませんが、金持ち男の実態が明らかになってくる後半あたりから少しウィットに富んだという部分も見られ案外楽しく読めます。現実を突きつけつつも、多少気楽に行こうよというところも見られ、安心して本を閉じれるところが魅力的な作品でした。
深読みするとタイトル名も含めて、主人公が住む高齢者中心のニュータウンは現代の日本社会の縮図ともとらえられます。何よりもローンを組むことによってその子供にまで影響が及ぼされるところが現実的であります。一番現実的なのは建て替え見積もりした5社が全部撤退したことでしょうか。
作者の垣谷さんの作品は初めて読みましたが、読みやすい文章と納得のいくエンディングは評価したいと思います。明治大学文学部卒で2005年に「竜巻ガール」で第27回小説推理新人賞を受賞、秋クール「夫の彼女」がTBSで連続ドラマ化されます。シリアスな題材を描いた社会派小説が得意とのことで機会があれば一冊ずつ読みつぶして行きたいなと思っています。
評価8点。