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評価:
重松 清
日本経済新聞出版社
¥ 1,785
(2013-07-23)
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初出 日本経済新聞夕刊。久々に重松氏の肩の凝らない読み応えのある作品に出合った気がします。
50歳前後の3人の男性が登場しますが、3人とも訳ありというか難題を抱えていまして居場所のない順で言えば一博(雑誌編集者)→陽平(中学教師)→康文(弁当屋)となるのでしょうか。
現状では唯一の再婚者である康文が一番現状幸せなような気がします。
タイトル名となっている「ファミレス」はもちろん“ファミリーレストラン”という意味もありますが本作では“ファミリーレス”という意味合いで使われていてこの物語の主題となっています。
登場人物も個性的な人ばかりで巧みに組み合わせて楽しませてくれますし、家族というくくりだけでなくその人の人生というもっと広くて大きな世界に言及した物語である点が奥行きの深さを感じさせます。
物語の着地点もほぼ読者の納得の行く形であったような気がしますし、離婚という形で収まった人もいますが新たなスタート地点に立ったまでです。
そしてそれぞれの登場人物が少しでも幸せに近づいて行くであろうと予想し、本を閉じれるということはやはり幸せな読書を体験できたということだと思います。
女性読者にとって、本作ほど勇気をもたらせてくれる作品はないように感じられます。
美代子(陽平の妻)や桜子(一博の妻)、そしてエリカ先生やあとは康文の母親など個性的で自立した面々が多いので生きていく上で大きなヒントをくれるというか背中を押してくれる作品だと思います。
それぞれの人のいいところを取り入れて欲しいですね。
もし女性読者で共感出来なかった人はやはりその読者は配偶者が非の打ちどころのない人に恵まれて、本当に幸せなんだと思います。
そして逆に男性陣の物悲しさというか哀愁感の漂いがこれはこれで心地良いのです、男性読者にとって。それはやはり3人の友情が最終的により強固になったからだと感じます。
重松氏の近年の代表作と言われている『とんび』のような圧倒的な感動作品ではありませんが、食べることの素晴らしさを気づくことによって人生がより楽しくなるということがよく理解できたような気がします。
人生に正解はありませんが、常に温かい気持ちを持って生きたいですよね。
余談ですが、作中で陽平の妻が離婚届けをアン・タイラーの「歳月の梯子」という本に隠しています。
重松氏が作中で取り上げているので興味が湧いたのですが、残念ながら文庫版は絶版となっています、図書館で単行本を借りて読んでみようかなと思います。
評価9点。