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評価:
トマス・H・クック
早川書房
¥ 1,836
(2011-10-07)
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村松潔訳。翻訳ミステリは普段あまり読まずに馴染みの薄いジャンルであるが、たまに手に取ると結構しっくりと心に馴染むものである。クック作品は約10年ぶりで2冊目なのでほとんど自分自身の中では作者の作風に関してはイメージ出来ず、それがかえって新鮮な読書体験に繋がったと思われる。
歴史学者をしている主人公のルークの前に講演先のセントルイスで姿を現したのが、昔父親の愛人であったと思われるローラ・フェイ。
20年前の事件によって両親を次々と失いその後故郷を捨てたルーク、彼の人生を根本的に覆させた張本人ローラと過去を振りかえり、真実が露わになってゆくのであるが作者のストーリーテラーぶりが心地よい。
ただほとんどが会話が主体の作品であり、過去を振り返るのであるが、ふと現在に戻るときにやや混乱を来したのも事実だがそのあたり翻訳ミステリに馴染んでないからかもしれません。
全体的には綺麗に出来過ぎ感も否めませんが、人生に光明をもたらせてくれる暖かい読後感は頗る良いと言えよう。
ルークは頼りなくしがないイメージが付き纏うが、逆に本作をローラ側から眺めてみると見方によればルークよりも悲劇的であることがわかり痛々しい。作品の背景にあるアメリカ南部(アラバマ州)特有の地域制が、少しわかりづらかったのが残念であるが、フェイとの再会により残りの主人公の人生が素敵なものとなることを願って本を閉じたのであるが、尊大な父親の愛情を手にした今、それは可能になったと思われます。
思えば私たち読者の周りにもいろんなすれ違いがあるのでしょうね、良い教訓となりました。
評価8点。