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評価:
原田 マハ
毎日新聞社
¥ 1,836
(2009-09-16)
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初出「本の時間」。総じて読まれた人の評判が良いということは知っていたものの、原田作品の中では文庫化もされていないし2009年の作品でかつ分厚めということで手に取るのは後回しにしていたのであるが、作者の才能が全面的に開花された作品だと感じずにいられない大作かつ傑作である。
史実でもある“ニッポン号”の世界一周の話をベースとして、作者得意のロマンティック&サクセスストーリーと言ったら良いのでしょうか。創作部分の構成の妙が本当に素敵で非の打ち所がない作品に仕上がっている。
エイミーのモデルであるイアハートの話は知っていましたが、ニッポン号の話は全然知らなかった。アメリカでかなり歓迎されたことやあるいはヨーロッパの航路を変えざるを得なかったところであるとか、リアルでもあるのですが、読み進めていくうちに戦争に対してもう少しなんとかならなかったのかという気持ちにもさせられました。
小説内では8人目の乗組員の役割を演じるのはエイミーですが、実際は読者が8人目の乗組員と言ってよいのでしょう。力が入ります(笑)エイミーの行動が読者の期待する方向にほぼ取られたところが作者の本作に対する思いいれの強さと出来栄えの良さを反映しているものだと感じます。
フィクションでしか語れない感動というものがあると思うのですが、私たち読者も本作を通して大きな翼(勇気)をもらえたと思います。世の中平和になりましたが山田を含めた乗務員とエイミーとのヒューマンドラマが、戦争が勃発する直前に起こったとはある意味残念なことですが、彼らが戦闘機として飛行機が使われることを最も嫌がっていたということが良く伝わった。この作品の価値を一層高めることとなっている。
余談ですが、本作の版元である毎日新聞社が自社文庫がないことが文庫化が遅れている原因だと感じますが、一人でも多くの人に手に取って欲しい作品です。
自社(ニッポン号のモデルは毎日新聞社である)の偉業を知らしめることにもなるのであるから1日も早い文庫化を望みます。
評価10点。