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評価:
村山 由佳
文藝春秋
¥ 648
(2014-09-02)
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おいしいコーヒーシリーズなどの青春小説寄りの恋愛小説作家的なイメージがつきまとう作者であるが、本作のような大人の官能小説を上梓することによって作風の広さを広げたり、あるいはそのイメージの脱皮を図ることにより、一層の高い極みへの挑戦ともとれることが確認できる読書となった。
実は本作より以前にも『ダブル・ファンタジー』という同系統の大作も書かれていて、少し読む順序を間違えたかもしれないのだけれど、いずれにしても直木賞受賞作品である『星々の舟』以降、毛色の変わった作品群を文藝春秋からは書かれていて幅広い年齢層の読者から支持を得ていると言っても過言ではないと思える。
さて本作ですが、官能小説なんだけれど上品な佇まいを維持しているといって良いのではないかなと思う。その一因として舞台が東京と京都という歴史のある街であることと、四季の移ろいを端正な文章で描写していることがあげられる。4人の男女(2組の夫婦ですね)が順番にそれぞれの気持ちを綴ることによって不倫が進行してゆきますが、読ませどころは自分の配偶者が陥っている姿をそれぞれが勝手に想像している部分が読者にとっては面白かったのではと思います。
ただ主人公役というべき結城麻子は4人の中でもっとも純粋に相手を愛しているように感じられ、逆に言うと罪深いのかもしれませんがその捉え方が読者に委ねられていて作者の余裕を感じたりもしました。
麻子と対照的な桐谷千桜は幼い頃の体験のトラウマを引きずっており、性癖が段々とエスカレートして麻子の夫を翻弄してゆくところが最も読ませどころかもしれません。2組の不倫は方や純愛に近い部分に、方や肉欲に陥っている部分に特化されてとても対照的であって、どちらが正しいかは別として、夫婦のあり方や価値観について大胆な考察を施した読み応え十分な作品だと捉えています。
評価8点。