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評価:
重松 清
講談社
¥ 700
(2012-12-14)
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9吉川英治文学賞受賞作品。数々の名作を輩出している作者だけれど、『その日のまえに』以降少しクオリティが低くなったかに感じていたのだけれど、本作は『とんび』と並び称されるべく完成度の高い作品だと感じる。
『とんび』が究極の親子愛(家族愛)を語った作品であれば、本作は読者に人生に向き合うことの大切さを訴えた究極の作品だと言え、読者の胸にズシリと響くのである。
本作は他の作家が一般的に描きがちなイジメ死に対する社会的な発生原因の考察や、イジメの悲惨な描写やそれに対する家族の苦悩を描くシーンはほとんど皆無であって、イジメ苦により一人の中二の少年が自殺し、遺書が残されるところから物語が始まる。
遺書に親友と書かれたユウが語り手で紡がれてゆくのであるが、彼以外にも迷惑を掛けた(自殺した少年の片思いの相手)と書かれたサユリと、彼ら二人と対峙する自殺した少年の両親と弟との関係が描かれて行く。いわば自殺した当事者の周りの人間がタイトル名ともなっている十字架をいかに背負って生きていくか、それぞれの立場で描かれているのが素晴らしいと感じる。
最も感動的なのは、主人公が“あのひと”と語っている自殺した少年の父親に対する気持ちというかわだかまりが、自分が成長して結婚して子供が出来、年を重ねることによって氷解してゆく過程がじーんと来ます。
当初はユウもサユリも被害者的な見方が出来、同情しながら読み進めた読者も多かったとも思えるのだけれど、そこが重松氏らしいところでもあって、決してイジメの当事者に対してはあまり触れず(ある程度は触れていますが)にユウとサユリが約20年背負った十字架の重さを読者に描くことによって、イジメを見て見ぬふりをしている現状を打破して欲しいという気持ちを強く感じます。
そういった意味合いにおいても、途中で恋人関係にもなるユウとサユリがお互いを意識しつつも別々の人生を選択するところが切なくもあるけれど妥当な着地点のつけかただと感じました。
彼らにとっては苦しい人生だったかもしれませんが、より成長出来た人生だったとも言えると信じたいです。
本作は単館系で2月6日より公開、主演は小出恵介と木村文乃です。
評価9点。