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評価:
ポール・オースター
新潮社
¥ 907
(1997-09-30)
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原題“MOON PALACE"、柴田元幸訳。柴田氏の名訳が冴え渡るオースターの代表作。他の作品のような難解さはほとんどなく、スッと読者の中に入り込んでくるのは作者の自伝的要素を取り入れていることが大きな要因であると言えよう。
主人公のフォッグは作者と同じコロンビア大学生であり、彼は父を知らず、母とも11才の時に死別し、唯一の血縁だった伯父を失います。その伯父さん(ビクター伯父さんと言います)からもらった段ボールに入っていた数多くの本はずっと読まずにいたのですが、伯父さんが亡くなってから段ボール箱から取り出して読み始めます。
その読書で得たエネルギーを持って何とか神さまが生きのびさせてくれたのでしょう。セントラルパークでホームレス同然の暮らしをしていた彼にキティという素敵な女の子が手を差し伸べます。
そこから、物語は一変して彼のルーツ探しということで2人の男性が登場します。フォッグ以上に数奇な人生を渡ってきたエフィングとバーバー。実はフォッグの祖父と父親なのですが、フォッグは彼らと知り合うことにより精神的に成長します。
タイトルとなってるムーンパレスとはコロンビア大学の近くに実在した中華料理屋の名前ですが、物語においてムーンとは主人公たちを温かく見守ってくれる存在のようにも感じられます。
少し出来すぎ感を感じられる方もいらっしゃると思いますが、偶然を積み重ねて人生をかたどっていくのがオースター作品の常道だと言えそうです。
キティとの別れはとっても切なくて胸が苦しいところでしたが、ラストで全てを失ってでもなぜか清々しさが漂っているところは主人公がまだ若く、回想された出来事をステップとして人生を邁進して行く力が溢れていると感じます。
再読を繰り返しても、新たな発見がありその奥の深さはオースターのストーリーテラーとしての一つの到達点を示した記しであると強く感じました。
評価10点。