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『見知らぬ場所』 ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳 (新潮社)
原題"UNACCUSTOMED EARTH"(2007) 小川高義訳。

再読。今や超寡作と言って過言ではないラヒリの3作目で2008年クレストブックスにて刊行ですが最新作にあたる作品。 ちなみにこの作品で第4回フランク・オコナー国際短篇賞を受賞しています。 2部構成からなり第1部は独立した短編で5編からなり、第2部は3編からなる連作短編といって良い構成。

1部の短編の特徴は『停電の夜』ではインドとアメリカどちらにも視点をおいた作品がおおかったのですが、本作は移住した2世の話が主流となっているところが月日の流れを感じさせます。ほとんどアメリカでの生活基盤が出来ているために デビュー作ほど祖国に対する愛情は感じられないのですが、強く生きることの意志表示がひしひしと伝わってきます。 それは移住を決断した親に対する葛藤する気持ちというよりも感謝し自立しなければいけないという気持ちの表れた作品群であると思います。

2部はヘーマとカウシクというベンガル人同志の男女の愛を語った感涙ものの作品です。幼いころに出会いそして別れ、月日を経て再会する感涙ものの作品です。
時の流れとともに人の気持ちも移ろいますが、結末はどうであれ2人の愛は深遠だったと思いたいです。 とりわけ、男性読者として愛していた母親が亡くなった後に後妻をもらおうとする父親に対する気持ちなど、カウシクの気持ちはよくわかりました。 日本人であれベンガル人であれ、アメリカ人であれ“愛は世界共通”です。
ちなみに最後はローマが舞台となります(笑)

400ページ強の作品ですが、ファンにとってこの二部構成は短編集と長編との2冊読んだ感じがするぐらいボリューム感に溢れ、必ず満足出来る作品であると確信します。
個人的には“世界中から取り寄せました”という新潮クレスト・ブックスの中で代表的な作家をひとりあげよと言われたら私は間違いなくジュンパ・ラヒリをあげます。
それは彼女の文章が本当に“上質”で愛に満ちているからです。

訳者の小川さんですが、他の作者の訳本も何冊か読みましたがラヒリの文章がもっとも簡潔かつ静謐で素晴らしいと感じています。
早く4冊目出て欲しいですね、そして早く本作の文庫化も希望、多くの人に味わって読んでもらいたいと切に願います。

評価9点。
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 13:27 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『オラクル・ナイト』 ポール・オースター著 柴田元幸訳 (新潮社)
評価:
ポール オースター
新潮社
¥ 1,890
(2010-09)

原題"ORACLE NIGHT"(2003) 柴田元幸訳。

『ブルックリン・フォリーズ』のように楽しくは読めないけど物語の緻密さはこちらに軍配があがります。
読者の背中を押してくれると言うより、人生の奥の深さを教えてくれる一冊だと言えそう。
作者得意の物語内物語が展開され、それぞれの人物に作者の人生観が反映されているのでしょう、登場人物をメモしながら読みました(笑)

これも捉えようによっては100ページぐらいは物語内物語、すなわち閉じ込められたボウエンの話が多少は気になったのですが、物語は現実というか実在している人物を中心に語られます。
そこに少し不満を感じる人もいらっしゃるかなとは思いますが、私的にはこれでよかったと思います。
ニック・ボウエンの物語はシドニーに現実をわかりしめさせるためのメソッドに過ぎないのだと私は解釈しています。
エンターテイメント的にはもっと話の展開があれば面白かったのですが、そこを広げると悲しい物語が終結しなかったような気がします。
この物語は“こじんまりした”ところが特長なのですから。

それにしてもラストの物悲しさは特筆ものですよね。
オースターの小説は基本的に“大団円”というより“予定調和”の物語だと思います。
シドニー、グレースとジョンの3人の気持ちに立って読み進めなければ悲しみは一層広がるような気がします。
それぞれの人間が持っている秘密がそれぞれの人生に大きく自制心を持ちつつもドラマティックに影響を及ぼしています。

作品全体を通して考えれば主人公であるシドニーを中心として読み進めるとやはり彼の再生の物語だったのだと納得のいく読書に帰結して本を閉じれるのでしょう。
物語の多彩で複雑な展開のために私たち読者は、シドニーが生死をさまよったのち病院から退院して物語が始まったことを忘れてはなりません。彼はまだ34歳なのです、作品内では少し老成しすぎですよね(笑)

『ブルックリン・フォリーズ』が私たちが住む世界を考えさせてくれる物語だとすれば、本作はまさに人生について考えさせる物語だと言えそうです。

全体をとりまく物悲しさをもって読者にカタルシスを味わせるのがオースターの最大の魅力だと信じてやみません。オースター恐るべし。
そしてすごく翻訳しづらいと思われる本作、長い注釈というか補足説明のオンパレードです、いつも以上に柴田さんの名訳を味わいながら読ませていただきました、訳者にも感謝ですね。

評価9点。
posted by: トラキチ | 柴田元幸翻訳本 | 10:21 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『天国はまだ遠く』 瀬尾まいこ (新潮文庫) <再読>
初出「小説新潮」2004年4月号。単行本 2004年6月 新潮社より。文庫化2006年11月。

(再読時の感想)

当時小説新潮を買って読み、2か月後に単行本を買ってまた読みました。
瀬尾さんの3作目の作品で、前2作はマガジンハウスからだったのですが、今回は大手の新潮社からということでその期待の大きさが窺えファンの一人として大喜びしていたのが昨日のことのようです。
その後加藤ローザ主演で映画化もされました、今回良い機会なので観てみようと思っています。

再読。自殺志願の23歳の女の子・千鶴の再生の物語。本作の田村さん、『図書館の神様』の垣内君とどちらもそれぞれの主人公が癒され再生して行くのに大きな役割を演じるのですが、本作の場合は主人公が田村さんに対して少なからず恋愛感情を抱いているのが違いとなります。
田村さんのこだわりがなく心の広いところは男性読者も見習わなくては(笑)
ラストでどうなるか気になりつつ読み進めましたが瀬尾文学の予定調和ということだと理解しています。
それは適度に距離を置くことによって物事が円滑に進むということなのでしょう。民宿のマッチに田村さんの最大の愛情が詰まってるはずです。
わずか21日間で自殺志願の23歳の女の子がこんなに変わるとは、田村さんの懐の深さがそうさせたのだと思います。
『図書館の神様』と比して、感動度では落ちますが、読者も自然と励まされて日頃の鬱屈したものをリセットしてくれる効果があるように思われます。
きっと明日への活力へとなる部分は本作の方が強いのでしょう。
とってもシンプルだけどグイグイ読者を引き込んでくれる作品ですね。

評価9点。

(初読時の感想)
2004年6月18日

本好きにとって“一心不乱”に読書に耽る時間って本当に幸せである。
それは瀬尾まいこが読者を“瀬尾ワールド”にエスコートしてくれるからにほかならない。

瀬尾まいこの小説に“トリック”という変化球はいらない。
なぜなら、直球勝負で十分に読者を魅了させることが出来るからである。

本作においては“自殺志願”の23才のOL千鶴が主人公である。

前2作品(『卵の緒』、『図書館の神様』)との大きな違いはやはり文体であろう。
テンポのいい軽やかな文体から、本作は叙情感溢れる落ち着いた文体となっている。
そのあたり少し戸惑われる方がいらっしゃるかもしれないな。
逆に一貫性のある面もある。それは“人とのふれあい”の大切さを読者に教えてくれてる点である。
彼女の小説の一番の読ませどころと言っていいんじゃないかな。

本作も自殺しようと思ってさびれた田舎の民宿に滞在した約3週間の間に主人公は自分の人生を見つめ直す。
本作においても、『図書館の神様』の垣内君のような存在の男性が登場する。
民宿の主、田村さんだ。
彼の心の広さと目に見えない気配りが、千鶴の心の中を清めてくれたのは間違いない。

でも、恋愛模様を模索するのもどうかなあと思うが、少し結末を変えて欲しかったなあと思ったりするのは瀬尾作品に魅了された証なのかなあ・・・
女性が読まれたら最後の別れのシーンの田村さんの態度、余計に惚れちゃうのかも知れません(笑)
読まれた方しかわからないでしょうが、きっとちっぽけなマッチ箱は田村さんの最大の愛情表現だったのでしょうね。

“心の機微”ってむずかしいですね。
瀬尾さんの作品を読むといつもそう感じます。
ページをめくりながら、一緒に悩み、考え、共感し・・・そして本を閉じる

正直、本作は読み終わると少し寂しい気分になる。
それはしばらく瀬尾さんの作品を読めないという素直な気持ちの表れかもしれない。

本作を読んだあと“今日からは私ももう少しひたむきに生きてみよう!”と思われる方が多いと思う。
誰も“こんな薄い本にこんな大きなエネルギー源が詰まっている!”とは予期していないはずだ。

“主人公以上に読者の心も浄化される”から瀬尾まいこのファンって幸せである。

きっと読者と瀬尾作品との関係って作中の千鶴と田村さんとの関係に等しいと言えるんだろう。

海も山も木も日の出も、みんな田村さんが見せてくれた。おいしい食事も健やかな眠りも田村さんを通して知った。魚や鶏を手にすることも、讃美歌を歌うことも、絵を描くことも、きっと田村さんが教えてくれた。そう思うと、胸が苦しくなった。
ここで生きていけたら、どんなにいいだろう。きっと、後少し、後1ヶ月だけでもここで暮らしたら、私はもっと確実に田村さんのことを好きになったはずだ。田村さんと一緒にいたいと、もっと強く思えたにちがいない。・・・・(本文より引用)


嬉しい情報があります。
『卵の緒』に収録されてる「7's blood」がNHKでドラマ化されるらしい。
文芸雑誌での連載も増えてきている。
瀬尾さんのさらなる活躍を願ってるファンの数が増える事を願ってやまない。
posted by: トラキチ | 瀬尾まいこ | 22:47 | comments(2) | trackbacks(0) |-
『アンダスタンド・メイビー』(上・下) 島本理生 (中央公論新社)
デビュー10周年記念書き下ろし作品。

島本さんのヒロインは男性読者として、いつもその恋を応援したい気持ちを持ちながら読んでしまうのだけど、本作の主人公黒江はついていけない部分が多く、その家庭環境を斟酌しても同情の余地が少ない。 物語が進むにつれて選ぶ男が悪くなっていく感が強く、第2章ではかなり転落してしまいます。下巻は師匠によって救いがもたらされるのでしょうか、それとも彌生君との復活があるのかな。手紙に入っていた過去の写真の真相も気にはなりますよね。 とにかく胸が締め付けられる展開を希望(笑)。ただし島本作品の文章の美しさは折り紙つき。

下巻に入って、過去のいろんなことが露わになり、上巻で感じた黒江に対しての少なからずの不快感は緩和されたけど払拭までには至らなかった。
ただ読者によっては払拭されたことであろうとも思われる。それは読者の性別・年齢・環境、もっと言えば考えや読解力によって違うと思います。
作者の読者層が広がっているのも事実かなと思います。たとえば今までの作品になかった子供の育て方に関して考えることを余儀なくされた作品でもありますし、幼児虐待・カルト宗教問題にも触れていますよね。
触れているというか主題にもなっているような気がします。

男性の登場人物は本当に多彩ですよね。
彌生君のような“神様”のような人は別として(笑)、でも私は浦賀仁師匠も神様のような人だと思います。
そして前半の写真部の光太郎も好人物です、あとは羽場先輩に賢治君。この2人の区別は本当に読んでのお楽しみかな。
どうしてもふらふらしているというか、男に頼り過ぎなんだという気がするのですよね。

結果としてハッピーエンドに近い形(?)で終わりましたが、決して黒江の経験したことを自分の子供に体験させたくないですよね。
少なくとも同情はしますが、共感出来たかと言えばやはり疑問ですかね。

それを少し説明するとこうなります。
この物語の大きな主題は“家族の絆”だと思います。
家庭環境によって黒江という人物が形成されたと解釈すればそれまででしょうが、そうなれば恋愛観っていうのが異なって当然のような気がします。
作者はそれ(家庭環境の悪さ)によって上巻の転落ぶりを説明したかったのだと思いますが、少しいろんなことを詰め込み過ぎて男性読者としての意見を言わせてもらえれば、彌生君は黒江にはもったいないというような気が強くしたんです。
だからエンディングは最高だったと個人的には思います。

作者の代表作だと思われる『ナラタージュ』をリアルタイムで読んだファンとしては、本作の1200枚という今までにない長い作品(そして書き下ろし)のため、若干風呂敷を広げ過ぎたような気もします。作者にとって、他作にない問題提起をした作品だとは言えると思います。
個人的には決して満足できる作品とは思えませんが、作者の成長が窺えた作品であると言うことは間違いないですね。
少し辛口となりましたが作者の素晴らしい作中の言葉を綴ります、女性の感受性の豊かさには心が揺さぶられます。
この文章を読めただけでもやはり幸せな読書タイムだったなと思わざるをえませんし、やはり作者には“恋愛小説の神様”を目指して欲しいなと思います。
敢えて“神様”という言葉を使わせていただきました。読まれた方には賛同していただけると確信しています(笑)

“女の人というのは、たぶん僕らが思ってるよりもずっと多くのものから傷つけられて、生きている。”
(本文より)

評価7点。
posted by: トラキチ | 島本理生 | 19:49 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『図書館の神様』 瀬尾まいこ (ちくま文庫) <再読>
初出2003年12月、マガジンハウス社より。
「雲行き」は『鳩よ!』(2002年5月号、マガジンハウス)に掲載。
2009年7月ちくま文庫にて文庫化。

(再読時の感想)

再読。懐かしく読めました。。過去の事件にて心に傷を負い、悩まされつつ海の近くで高校の講師をしている22歳の主人公清(きよ)の再生&成長小説。
瀬尾さんお得意パターンですね。
そしてその心の傷がラスト付近での三通の手紙により主人公の成長と相まって見事に洗い流されます。
その感動的で胸のすく展開が瀬尾文学の真骨頂と言えるのでしょう。。
かつてこんなに心が洗われる小説があったでしょうか。清が垣内君に感謝したように読者が作者に感謝したい気分にさせられます。
なにわともあれ、読者の体内にスッと入り込めるテンポの良い文章が心地よいです。
そして少し自慢話ですが(笑)、作中に出てくる山本周五郎の『さぶ』の話、私自身が詳しく知っているので得意げにニヤリとして読めました。
逆に川端康成の作品などは読んでみようかなという気持ちに強くさせられます。
自然と読者にも刺激を与えてくれる作品ですね。
少し余談ですが、デビュー作の『卵の緒』と本作はマガジンハウスから単行本が出ていますが前者は新潮文庫、本作はちくま文庫ですね。
『卵の緒』は夏の風物詩になっている“新潮文庫の100冊"に選ばれています。本作も新潮文庫から出ていれば選ばれてたのになとファンのひとりとして少し残念に思いました。
文庫版にはボーナストラックとして単行本未収録の短編「雲行き」が収録されています。解説の山本幸久さんの文章も楽しく読めます。私は夏目漱石の『夢十夜』読み返さなくっちゃ。

評価9点。

(初読時の感想)2003年12月21日

まさに、“人生の分岐点となる1冊”なのかもしれません。
デビュー作の『卵の緒』で独自の瑞々しいタッチでその才能を世間に知らしめた瀬尾さんの第2弾ですが、デビュー作以上にその持ち味を発揮してるような気がする。

過去のトラウマや不倫に悩みつつも地方の高校で講師として働く清(きよ)。
顧問となった文芸部において柿内君と知り合い、文学にも馴染む事によって彼女の人生観は変化していく・・・

瀬尾さんの描く主人公ってしっかり物のようで気弱な人物が主流となっている。
本作は浅見さんとの不倫に悩む姿は少しリアルな面もあって、前作(『卵の緒』)より深い踏み込みを感じた。
あいかわらず食べ物の描写のたとえなんかは絶品で、楽しく読めることは間違いのないところだと思う。
主人公の一年を通して成長して行く姿が私にはいいクリスマスプレゼントとなりました。

瀬尾さんのいいところは他の女性作家にありがちな“現実離れしすぎた描写”じゃなくって、“新鮮な発想によってもたらされる瑞々しい描写”だと思う。
誰もがちょっとした気持ちの持ちようで叶うようなことを読者に教えてくれる点は称賛に値する。
あと、文体が溌剌としていて非常に読みやすい点も歯切れが良く好印象だ。

そう、タイトルに図書館って書いてあるけど決して図書館で借りないでいつも本棚に飾って読み返して欲しい作品だ。
本好きな人のというか小説好きな人の考えを瀬尾さんが代弁してくれてるシーンを引用したく思う。

文学を通せば、何年も前に生きてた人と同じものを見れるんだ。見ず知らずの女の人に恋することだってできる。自分の中のものを切り出してくることだってできる。とにかくそこにいながらにして、たいていのことができてしまう。のび太はタイムマシーンに乗って時代を超えて、どこでもドアで世界を回る。マゼランは船で、ライト兄弟は飛行機で新しい世界に飛んでいく。僕は本を開いてそれをする。(本文より引用)


今回は驚くべき感動の結末が用意されている。長編ならではのはからいだ。
最後のせつない手紙にジーンと来た人のすべてが、明日からの前向きな生活を迎えられることを願って書かれたと信じてやみません。

愛する女性がいる人は是非プレゼントしたい作品です。自信を持ってオススメします。
posted by: トラキチ | 瀬尾まいこ | 16:31 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『樅ノ木は残った』(上・中・下) 山本周五郎 (新潮文庫)
初出 日本経済新聞 昭和29年7月〜30年4月、つづいて昭和31年3月〜9月に連載、その後講談社より昭和33年に刊行。

(上巻)
いわゆる伊達騒動を描いたものでかなり登場人物が多く複雑で頭の中を整理しながら読むことを余儀なくされます。
主人公と目される原田甲斐だけでなく、それぞれの登場人物の人間ドラマが描かれているところが特徴となるのでしょう。
作者のひとりひとりの人物造形の巧みさが十分に表現されていて読者に伝わり本当に楽しめます。
特に殺された遺族である宇乃姉弟と新八が気になりました。あとは妻の律が不憫でしたね。さあ中巻、どんな展開が待っているでしょうか。

(中巻)
冒頭での甲斐と“くびじろ(大鹿)”と対決がとっても印象深く、甲斐の本性というか人間性への理解を深めるとともに作者のエンターテイメント精神にも頭が下がる思いである。
あと印象的なのは酒井雅楽頭との対面シーンというか対決シーンですね。
それと宇乃です、彼女を本当に大事にしているのが甲斐の大きなイメージアップというかこの小説自体の大きなバックボーンとなっているような気がします。
いろんな人物の思惑が入り混じり、本当に読ませる作品であるのですが、最終的にどういった形で収斂させるのか興味がつきません。いよいよ下巻ですね。


(下巻)
決して難解ではないが登場人物が多すぎて頭の整理が常に必要となる読書であったことは間違いないが、わが身を犠牲にして伊達藩を守り抜いた原田甲斐、その潔さと男らしさの象徴として樅の木(伊達藩)は残ります。
この作品は作者にとってはもっとも長い長編小説であるだけでなく、歴史小説として大きな挑戦を施ししています。
歴史的事実を変えずに解釈を変えたのです。それは悪人だと思われていた原田甲斐を敢えて違った描き方への挑戦です。
時には人間らしく時にはストイックに甲斐を描くことにより大きな感動を読者に与えてくれます。主人公だけでなく個性的な脇役たちが本当にドラマチックで共感しまくりです。
宮本新八・おみや・柿崎六郎兵衛・伊東七十郎・中黒達弥・おくみ、そしてなんといっても上意討ちとして殺された藩士の娘である宇乃ですね。
ラストシーンの宇乃の行動、悲しみと幸せは紙一重であるということを読者に知らしめてくれます。
近年の読書でこれだけ読み終わるのが辛かった読書はなかったような気がする。でも読者より甲斐の方がずっと辛かったのですよね。
読者の人生において必ずプラスになる一冊(三冊ですが)。

(総括)
本作は作者の3大長編(残りは『虚空遍歴』と『ながい坂』)の初めの作品でご存じのとおり代表作と言われている作品で、ちょうど50歳代にさしかかった頃で作者の円熟期の最初の作品と言っていいのでしょう。

作者の力量からしてより人間らしいと言って過言ではない脇役たちのサイドストーリーを読んでみたくなった読者は私だけじゃないはずです。
それぞれが極限状態におかれつつも、葛藤しながら儚いけれども一生懸命生きて行きます。
もちろん、本作品内だけでも十分に満足なのですがどちらかと言えば作者の作品を読まれる方は、光のあたらないというか苦労している人間たちにスポットライトを当てて手を差し伸べる作者の得意技に浸りたいと思うのですね。

この作品の素晴らしいところはやはり、驚嘆すべき忍耐力もさることながら普遍性を持たせているところだと思われます。
手法的には“断章”と呼ばれる兵部側の会話文だけでのパートですね、全部で15場面ありますがこれはとっても斬新で臨場感があり面白かったです。

最後になりますが、“樅の木”は作中においてはたとえば宇乃にとっては甲斐の魂とも受け取れますし、もっと広く考えれば残った伊達藩とも取れると思います。
そして私たち読者の人生においては“大事で譲れないもの”ということなのでしょう。
この作品は私たち読者に大きなヒントを与えてくれた人生観を変える指南書でもあるのですね。

評価10点。
posted by: トラキチ | 山本周五郎 | 19:59 | comments(0) | trackbacks(0) |-
2012年7月に読んだ本。
7月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2620ページ
ナイス数:441ナイス

樅ノ木は残った (中) (新潮文庫)樅ノ木は残った (中) (新潮文庫)
冒頭での甲斐と“くびじろ(大鹿)”と対決がとっても印象深く、甲斐の本性というか人間性への理解を深めるとともに作者のエンターテイメント精神にも頭が下がる思いである。 あと印象的なのは酒井雅楽頭との対面シーンというか対決シーンですね。 それと宇乃です、彼女を本当に大事にしているのが甲斐の大きなイメージアップというかこの小説自体の大きなバックボーンとなっているような気がします。 いろんな人物の思惑が入り混じり、本当に読ませる作品であるのですが、最終的にどういった形で収斂させるのか興味がつきません。いよいよ下巻で
読了日:07月30日 著者:山本 周五郎
樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)
いわゆる伊達騒動を描いたものでかなり登場人物が多く複雑で頭の中を整理しながら読むことを余儀なくされます。 主人公と目される原田甲斐だけでなく、それぞれの登場人物の人間ドラマが描かれているところが特徴となるのでしょう。 作者のひとりひとりの人物造形の巧みさが十分に表現されていて読者に伝わり本当に楽しめます。 特に殺された遺族である宇乃姉弟と新八が気になりました。あとは妻の律が不憫でしたね。さあ中巻、どんな展開が待っているでしょうか。
読了日:07月27日 著者:山本 周五郎
僕らのご飯は明日で待ってる僕らのご飯は明日で待ってる
単なる青春・恋愛小説かなと思いきや、一筋縄ではおさまりません。 そうですね、生き方と言うか価値観を問う再生小説と言ったら良いのでしょう。 えみりには悪いのだけど、えみりとのつき合いを通して葉山と上村の絆がより深まったと言えるのでしょう。 そう二人は、どんな困難にも耐え抜ける最強のカップルなのですね。 最終章は本作を読んだ読者のハッピーエンドを祈りつつ、作者が二人に試練を与えてくれたのでしょう。 私は理想の夫婦像を二人の中に垣間見ました。 生きるってちょっと苦しいけれどそれ以上に素晴らしいものですよね。
読了日:07月23日 著者:瀬尾まいこ
青べか物語 (新潮文庫)青べか物語 (新潮文庫)
作者が昭和の初めに“蒸気河岸の先生”として住んだ漁師町・浦粕(浦安)を舞台とした作者の体験に基づく短編集。 短編集と言うよりエピソード集と言った方が適切なのかもしれません。 それほどいろんな人間が多彩に描かれています。 作者の時代小説に登場する人情家ばかりじゃないところが却って新鮮に感じられ距離感が縮まったような気がします。 いうまでもなく、後日談(30年後)がこの作品をより鮮烈なものとしています。長と再会した場面は実に感動的でした。 文庫解説の平野謙氏の文章の奥の深さにも感嘆しました。
読了日:07月22日 著者:山本 周五郎
ブルックリン・フォリーズブルックリン・フォリーズ
柴田元幸訳。読者自身、読んだ後ホッとさせられ自分自身が再生された気持ちになるポールオースターのストーリーテラーぶりが堪能できる究極の物語。幸せって永遠に続かないものだって誰でもわかっていながら、その時々によって今が幸せかどうかさえわからない時があります。 それだけ人間って贅沢な生き物なのでしょう。 一寸先は・・・という言葉通り人生いろんな紆余曲折がありますよね。 本作はいろんな人物が登場し愚行を重ねる群像劇的な作品で、主人公であり語り手であるネイサンは凄く暖かな視点の持ち主です。
読了日:07月18日 著者:ポール オースター
私たちがやったこと (新潮文庫)私たちがやったこと (新潮文庫)
『体の贈り物』とは違った角度で楽しめる幻想的な短編集。 冒頭の「結婚の悦び」と次の表題作は悪く言えば狂気じみてて非日常的、まさしく度肝を抜かれる強烈な作品ですね。 正直少し入り込めないなという気持ちがあったのですがその後(3〜7編目)は少しづつ落ち着いてきてホッとしたのも事実。 作品の根底にはやはり強い愛と言うのがあるんだろうけど、閉ざされ過ぎててあまりにシュール過ぎるのでしょう。 おとぎ話的に読めたらいいのでしょうけどね(笑) 皮肉なもので『体の贈り物』のような向き合う話の「よき友」が一番心に沁みた。
読了日:07月13日 著者:レベッカ ブラウン
最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
どこの国かは明らかにされないが、主人公が兄を捜すために訪れた国の描写が魅力的。 その国はタイトル通り“最後の物たちの国”いわば“滅びゆく国”。極限の状態の中でも生きる希望を失わずに前向きに生きるアンナ。 アンナは出会いを通してさまざまな辛いことを乗り越え、周りの人々と力を合わせ、それが愛と言っていいのでしょう、わずかですが希望が芽生えた時点で物語がエンディングとなっています。 書簡形式で語られる本作、読んでもらえるかわからないけど書くという行為を通して希望を大きくふくらませているところが感動的。
読了日:07月08日 著者:ポール・オースター
曾根崎心中曾根崎心中
近松門左衛門の名作を翻案したもの。それにしても角田さん、小説だけでなく翻訳から翻案まで凄いマルチな才能ですよね。 現代に生きる私たちには決して真似をすべきでないものだけど、江戸時代であれば究極の恋愛の姿として幅広く受け入れられたのでしょう。 どれだけアレンジしているかは定かではないですが、わかりやすい角田さんの文章でお初の遊女でありながら一途で純粋な気持ちがが描かれています。 男性読者として多少なりとも徳兵衛に対して疑い深い気持ちも湧きますが、駄目男ほどもてるのでしょうね(笑) 他の先輩の遊女のなれのはて
読了日:07月04日 著者:角田 光代,近松 門左衛門
君は永遠にそいつらより若い (ちくま文庫)君は永遠にそいつらより若い (ちくま文庫)
太宰治賞受賞作品。 津村さんはやや支離滅裂的な文章の運びながら読む者を物語の虜にしてくれるのですが、本作の主人公で京都に住む大学四年生のホリガイ、とっても魅力的な女性と言うか人物として描かれています。 ちょうど再生と自分探しの物語の中間的な内容で、過去に出会った人々を通して成長を遂げて行くホリガイさんを確かめられることはデビュー作ながら問題意識を読者に提起しつつ確かな筆さばきを披露してくれています。 読ませどころは主人公も含めた登場人物の人を想う気持ちの大切さだと思います。 サラッと書いているところがおそ
読了日:07月02日 著者:津村 記久子

2012年7月の読書メーターまとめ詳細
読書メーター


MONTHLY BESTは『ブルックリン・フォリーズ』次点は瀬尾まいこ、『樅の木は残った』は一冊残ったので8月対象です。
posted by: トラキチ | 月刊読了本&予定本 | 11:22 | comments(2) | trackbacks(0) |-