-
『楽園のカンヴァス』 原田マハ (新潮社)2012.12.24 Monday
-
素晴らしい小説に出会った時の喜びは本好きにとっては至福の瞬間ですよね。
事実、この作品を読み終えしばらくは余韻に浸ってしまい次に読む作品にとりかかることが出来なかったのです。
作中で「永遠に生きる」という言葉がモチーフとして使われています。
何回も表紙のルソーの絵(「夢」)を見ながらそこに永遠に生きているヤドヴィガを観てため息をつきました。
読者ひとりひとりにとってもこの物語は作者の息づかい、すなわち作者の情熱がひしひしと伝わって来ます。
最終的には物事をまっすぐに見つめた人が勝利をつかむみたいな着地点のつけ方が心地よく、月並みな言葉ですが“胸を打つ”小説です。
この物語を通して人を愛することの尊さを学ぶのです。
ルソーとヤドヴィガ、ティムと織絵、そしてバトラーと孫娘そして亡き妻・・・
物語はルソーの最高傑作と言われている「夢」に似た「夢をみた」の真贋を鑑定するためにMoMAのアシスタントキュレーターとルソー研究者オリエ・ハヤカワが対決します。
こんな素敵なラブストーリー、作者から幸せをお裾分けされた気分に浸れた読書となりました。
あとは読んでのお楽しみですが作中に出てくる小説が素敵で若きピカソも出てきます。
史実に基づいたフィクションというのが凄く親近感があっていいですよね。
普段、美術には疎くてほとんど興味がなかったのですが、この物語を通してネットでルソーやピカソの主要作品を観ました。
300ページ弱の作品ですが、倍ぐらいの時間がかかりましたが読みごたえはもちろん十分。
作者の原田さんは以前MoMAでキュレーターをしていました。その時の情熱が乗り移った作者の“作家冥利に尽きる最高傑作”と言えると思います。
(読了日12月11日)
評価10点。
-
『下町ロケット』 池井戸潤 (小学館)2012.12.23 Sunday
-
他の池井戸作品同様スカッとする小説ですが、仕事に明け暮れる魅力的な男性像だけでなくもっと根本的な男としての“夢とプライド”に焦点を当てているところがポイントなのでしょう。
窮地に追い込まれながらもそれを切り抜けていくシーンは他の作品と同様だと思いますが、登場人物ひとりひとりのキャラ立ちが的確で読者にも伝わってきます。
とりわけ佃社長と対照的な現実的な若手社員の描写と最後に明らかになる社長の取った行動には度肝を抜かれました。
銀行からの出向者(殿村さん)がいますが、それほど銀行を舞台としていないところが少し開放感があって良かったのかもしれません。
作中の名言を借りれば、現実は一階建ての家に住んでいる気持ちで仕事している人が多いのでしょうが(笑)、二階から見下ろせるようなハラハラしつつも余裕を持った感覚で読み進めることが出来、まさに“池井戸品質”を堪能できる作品と言えるでしょう。
殿村さんは良い会社に出向出来て良かったですね、現実に目を向けるとロケットが飛んだことよりも嬉しいような気持ちになりました。
個人的にはこの作品の感動を倍増させてくれた殿村さんの存在でした。
ご存じの方も多いと思いますが、WOWOWでドラマ化されています。原作では弁護士役が男性でしたがドラマでは寺島しのぶが好演、原作よりもクローズアップされています。
原作に負けず劣らずの出来栄えです。
(読了日12月7日)
評価9点。
-
『茗荷谷の猫』 木内昇 (文春文庫)2012.12.23 Sunday
-
その時代に応じて不器用に生きる人たちを描きながら、実はその人達が精一杯生きていたとわかるのは後の時代にたってからだということです。
その時は本当に小さくて薄っぺらい出来事でも、実は時が流れると他人の目にはとっても奥行きがあるものに映ります。
この人の作品を読むと人生は儚いけど素晴らしいものであるということを教えてくれますね。
背中に重いものを背負っているのは決して自分だけじゃありません。
読み進めて行くうちに、前の話が少しずつリンクされて行きニヤッとさせられます。
冒頭の「ソメイヨシノ」の話が一番記憶に残りそうですが、「隠れる」での偏奇館の小部屋での勘違いな受け取り方の逸話と「庄助さん」での映画好きの青年が突如休んだ理由などが印象的です。
木内さんは滑稽さと切なさとのバランスが実に巧妙な作家で余韻に浸れる読書を約束出来る作家だと思います。
私的には他の作家と比べて読みやすさという観点からエンターテイメント度では見劣りするかもしれませんが、作品全体に芸術性が漂っている完成度の高い作品だと思います。
2度読めばより感慨深い作品だと確信しています。
(読了日12月3日)
評価8点。
-
2012年11月に読んだ本。2012.12.01 Saturday
-
2012年11月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2772ページ
ナイス数:561ナイス
この君なくばの感想
初出 小説トリッパー。時は激動の幕末から明治、九州の日向にある伍代藩を舞台に蘭学に秀でた楠瀬譲と譲のかつての恩師の娘である栞の恋愛模様を軸とした人間の生き方を問う傑作長編小説。 どちらかと言えば歴史小説よりも時代小説の方が好きな私ですが、葉室作品は一冊読んで二冊分楽しめます。 なぜなら読みやすい文章はもちろんのこと、“史実を踏まえ、とりようによったら歴史小説と呼んでも良い体裁の下にしっとりと時代小説を描いているからです。 この作品でも譲が大久保利通や榎本武揚と話すシーンが盛り込まれています。
読了日:11月26日 著者:葉室 麟
七緒のためにの感想
初出「七緒のために」群像2010年1月号、「水の花火」群像2001年11月号。 表題作を読み終わった後、ため息が出た。美しい文章が特長の島本作品なのだが、14歳の多感で依存心の強い女の子2人の友情の物語と言えば聞こえが良いが、実は虚言癖のある女の子に振り回される女の子の話でかなり重くて辛くかつ共感し辛い話である。 たとえ少数派であろうが、正しくないかどうかにはかかわらず、主人公の気持ちに共感できるというのが島本作品の魅力ではあったのであるが、少なくとも以前は。 この世界を理解できるのは胸がざわつく→続く
読了日:11月23日 著者:島本 理生
夜行観覧車の感想
初出 小説推理 加筆修正あり。 『告白』に続き2冊目の湊作品、連ドラ化決定のために急遽手に取りました。 ラストが予想を裏切るほど平穏だったのが印象に残ります。 高級住宅地で勃発したエリート医師殺人事件(高橋家)を通して、残された家族の事件後のあり方、そして向かいに住む遠藤家親子3人の行く末。悲惨な事件でありながら小説としては身の毛のよだつような内容ではなく、時にコミカルにも読めます。 図式的には高橋家→裕福な家庭、遠藤家→一般的な家庭といった感じでとっても対照的なのがこの作品の大きなポイントとも言えます。
読了日:11月20日 著者:湊 かなえ
あと少し、もう少しの感想
書き下ろし作品。 山深い場所にある市野中学校を舞台とした大きな不安を抱える中学生の気持ちと人と人とのつながりの大切さを謳った駅伝を通しての青春小説の傑作。 本作にて作者は中学はいくら失敗しても良い場所という暖かい気持ちをベースにして中学生を描いています。 大半の読者が過去のこととなっている中学時代、思い起こせば言いたいことが言えそうで言えない年頃ですよね。中心的存在と言っていいのでしょう、部長である桝井君のある言葉にはドキッとさせられますが、それに動じない上原先生の見事な教師ぶり、頼りなさげですが→続く
読了日:11月17日 著者:瀬尾 まいこ
最果てアーケードの感想
連載コミック「最果てアーケード」の原作として書き下ろされた連作短編集。 世界で一番小さなアーケードを舞台として大家であった亡き父の娘が少女の頃から配達人となった現在に至るまでを語っていきます。 それぞれの話の店主や登場人物は個性的ですが中には事情があってハッとさせられる物語も含まれています。 小川さんにかかると本当に物語は変幻自在に操られます。 解明されないようなこともあるのでしょうが、それも含めて小川ワールドなのでしょう。 でも一貫しているところはやはり“愛しさ”と“優しさ”が詰め込まれているところ。
読了日:11月14日 著者:小川 洋子
空の拳の感想
角田さんの新境地開拓作品と呼んでよさそうなボクシングを題材とした作品。 百田さんの『ボックス!』は未読ですが(宿題ですね)、想像するにボックス!ほど熱い作品ではないであろうと思っています。 敢えて女性読者の多い角田さんはそのあたりは想定済みですよね。 だから本作は主人公を出版社に勤務する“文科系”のオトコである空也の目を通している点がこの作品のポイントであると思います。 ひたすら一般的な読者レベルに近い視点で語ることによってボクシング自体わかりやすく語られているのです。
読了日:11月13日 著者:角田 光代
ロスジェネの逆襲の感想
オレバブシリーズの3作目にあたり主人公でありバブル世代の半沢が出向先で活躍します。タイトルがロスジェネなのは相方を演じる森山がロスジェネ世代であるということからだと思われます。 ロスジェネ世代の森山がバブル世代の半沢をリスペクトして行く過程も読ませどころのひとつ。 すべてが予定調和ですっぽりと収まってくれるので日頃の仕事の疲れを取るのには本当にオススメ。 現実はある程度は長いものに巻かれなければ生きていけなくて真似はできませんが、小説内の半沢には男として理想的で大きく共感できます。
読了日:11月9日 著者:池井戸 潤
五辧の椿 (新潮文庫)の感想
昭和34年講談社から単行本刊行。他の山本作品とは一線を画するミステリー調のサスペンス作品。 こんな教訓的でない山本作品には驚いたのですが、復讐を実行してゆく主人公のおしのの気持ちに入れ込んでしまうほど熱中して読めることは請け合いです。 人生における罪や罰、そして人生の掟というテーマなので、殺す必要があったのかどうかを深く考えて読むと他のテーマよりは難しいし前向きな答えが出にくいので、娯楽作品として楽しむべきだとも思います。 なぜならどう考えても正しかったという結論は出しにくいですから。
読了日:11月5日 著者:山本 周五郎
ポニーテールの感想
初出 小説新潮 大幅に改稿。 両親がお互いに再婚して新たに姉妹となった女の子の物語。 父親方が主人公格の小学4年生のフミで母親と死別、母親方が小学6年生のマキで父親と離別。 この年頃の2歳差って大きいですよね。 フミの新しいお母さんでマキの実のお母さんの言葉を借りれば“マキはちょっとヘンクツで無愛想だけど、フミは、とっても素直で、とっても意地らしいっ”と表現しています。 実際二つの家族がひとつの家族になるのは難しいです。 いろんなエピソードを通して、人生に正解はないのかもしれませんが→続く
読了日:11月2日 著者:重松 清
読書メーター
毎月のことですが感想がコメントまで入り込んでいるので途中で切れています。
各本の10点満点評価は次のようになります。
『ポニーテール』 重松清 8点
『五辦の椿』 山本周五郎 8点
『ロスジェネの逆襲』 池井戸潤 9点
『空の拳』 角田光代 8点
『最果てアーケード』 小川洋子 8点
『あと少し、もう少し』 瀬尾まいこ 10点
『夜行観覧車』 湊かなえ 8点
『七緒のために』 島本理生 5点
『この君なくば』 葉室麟 9点
MONTHLY BESTは『あと少し、もう少し』ですが僅差で『ロスジェネの逆襲』と『この君なくば』が続きます。
いよいよ締めくくりの12月ですが『64』と『ソロモンの偽証』まで手がまわるかどうか、山本周五郎の『ながい坂』や『光圀伝』も控えています。
まあ頑張って時間を見つけて読んでいきたいと思います。
-
『この君なくば』 葉室麟 (朝日新聞出版)2012.12.01 Saturday
-
時は激動の幕末から明治、九州の日向にある伍代藩を舞台に蘭学に秀でた楠瀬譲と譲のかつての恩師の娘である栞の恋愛模様を軸とした人間の生き方を問う傑作長編小説。
どちらかと言えば歴史小説よりも時代小説の方が好きな私ですが、葉室作品は一冊読んで二冊分楽しめます。
なぜなら読みやすい文章はもちろんのこと、“史実を踏まえ、とりようによったら歴史小説と呼んでも良い体裁の下にしっとりと時代小説を描いているからです。
この作品でも譲が大久保利通や榎本武揚と話すシーンが盛り込まれています。
そして攘夷、倒幕、佐幕などに揺れ動きながらも、時代に翻弄されずに自分自身の気持ちには忠実に生きていく姿に胸を打たれない読者はいないと確信します。
本作には主人公2人以外に大きな2人の存在があると思います。
ひとりは当初三角関係となるであろうと目された五十鈴、もうひとりは栞にいつまでもつきまとう佐倉健吾。
健吾は最後までハラハラ感を演出してくれます(笑)
それにしても男性読者視点からしたら、譲って幸せ者です。
一途な栞だけじゃなく、気丈で凛とした五十鈴にも想われたのですから。
五十鈴の途中で取った決断は本当に英断であり、凄くある意味“献身的”とも言えるような気がします。
読み終えて物語の本筋から少し離れますが、個人的には凄く印象深い行動として残りますね。
“さようです。何のあてもない日々でございましたが、あなたが必ず来てくださる、そう思うことで心に張りが持てました。それとともに日々、目にいたすものが、いまよりも、もっと美しく見えていたのを思い出しました”(本文より引用)
葉室さんの作品は恥ずかしながら『いのちなりけり』しか読んでませんでした。
年間5〜6冊刊行されています。おそらくクオリティの高さでは現役最高といっても言い過ぎではなさそうです。
少しずつですが読んで行こうと思っています。
山本周五郎や藤沢周平に肩を並べるのはこの人しかいないかなと思っております。
(読了日11月26日)
評価9点。
-
『七緒のために』 島本理生 (講談社)2012.12.01 Saturday
-
表題作を読み終わった後、ため息が出た。美しい文章が特長の島本作品なのだが、14歳の多感で依存心の強い女の子2人の友情の物語と言えば聞こえが良いが、実は虚言癖のある女の子に振り回される女の子の話でかなり重くて辛くかつ共感し辛い話である。
たとえ少数派であろうが、正しくないかどうかにはかかわらず、主人公の気持ちに共感できるというのが島本作品の魅力ではあったのであるが、少なくとも以前は。
この世界を理解できるのは胸がざわつく可能性が高いお若い方かもしくは女性しか無理なのかなと思ってもどかしい読書となった。
その理由としていつもはわかり辛ければもう一度読むのであるが、それをも拒否してしまう自分がいるのである。
決して島本さんの集大成的な作品とは呼びたくはない自分がいて、成長過程の上での変化として捉えたい作品である。
もう一編の「水の花火」、これは2001年の作品で登場人物も高校生でこちらは心に響く部分が多かったように思えます。
いなくなった友人をひきずっている所が緊張感を醸し出しているのが心地よい。
少し総括すると高校生の頃にこのレベルの作品を書けた作者が、表題作を読むとファンの一人としてその方向性に対して少し残念な気がしました。
(読了日11月23日)
評価5点。
-
『夜行観覧車』 湊かなえ (双葉社)2012.12.01 Saturday
-
『告白』に続き2冊目の湊作品、連ドラ化決定のために急遽手に取りました。
ラストが予想を裏切るほど平穏だったのが印象に残ります。
高級住宅地で勃発したエリート医師殺人事件(高橋家)を通して、残された家族の事件後のあり方、そして向かいに住む遠藤家親子3人の
悲惨な事件でありながら小説としては身の毛のよだつような内容ではなく、時にコミカルにも読めます。
図式的には高橋家→裕福な家庭、遠藤家→一般的な家庭という図式が当てはまりとっても対照的なのがこの作品の大きなポイントとも言えます。
私的には結果としては悲惨なのはもちろん高橋家なのですが高橋家→贅沢な悩み、遠藤家→背伸びした代償みたいにも受け取れるでしょうか。
高橋家の三人の兄弟にもいろんな問題があるのですが、なぜかしら遠藤家の家庭での問題の方が同情ではないが気にはなった読書である。
というのは全登場人物中、遠藤家の娘がもっとも修正がきかないような気がするのである。
その当たり作者の狙いであるかどうかは定かではないが、身の丈に応じた暮らしをしなさいと促されているような気もします。
私の読解力不足かもしれませんが謎的な部分が少し残る物語でもであります。
でもモヤモヤ感もない、それはやはり作者がエンターテイメント性に長けている証しだと思ったりするのですね。
タイトル名でもある“夜行観覧車”、もうすぐ出来るみたいですがこれは“家族の絆”を示唆した言葉だと思います。
作中の登場人物だけじゃなく私ちも落ち着いたところから私たち自身の景色を見直す機会というのも必要なのでしょう。。
“目の前のことに追われ過ぎていることに落とし穴が待っている”、決して他人事ではない物語なのでしょう。
(読了日11月20日)
評価8点。
-
『最果てアーケード』 小川洋子 (講談社)2012.12.01 Saturday
-
世界で一番小さなアーケードを舞台として大家であった亡き父の娘が少女の頃から配達人となった現在に至るまでを語っていきます。
それぞれの話の店主や登場人物は個性的ですが中には事情があってハッとさせられる物語も含まれています。
小川さんにかかると本当に物語は変幻自在に操られます。
解明されないようなこともあるのでしょうが、それも含めて小川ワールドなのでしょう。
でも一貫しているところはやはり“愛しさ”と“優しさ”が詰め込まれているところでしょうね。
印象に残った話はRちゃんの百科事典の話、輪っか屋さんと元オリンピック選手との話、そしてラストの父との映画を観る約束の話あたりでしょうか。
正直評価の分かれる作品だとは思います。それは小川洋子というトップブランドと言っても過言ではない作家に対する“面白くて、そして良かって当然”という読者の先入観がもたらされているからだと思います。
個人的にはよっぽど読解力のある人はともかく、じっくり何回か噛みしめて読み込んでいく作品なのだと思いますが、本好きは次々読まなくてはいけないので(笑)なかなかそれができませんよね。
書き忘れてしまいますが、本作での愛犬“ラブ”の変化も物語に大きな彩りを与えています。
父親だけへの愛情が目立ちますが愛犬に対しても気配りを含めた愛情が溢れています。
切なさが増す読書となったような気がします。
(読了日11月14日)
評価8点。
-
『ロスジェネの逆襲』 ダイヤモンド社 (池井戸潤)2012.12.01 Saturday
-
オレバブシリーズの3作目にあたり主人公でありバブル世代の半沢が出向先で活躍します。タイトルがロスジェネなのは相方を演じる森山がロスジェネ世代であるということからだと思われます。
ロスジェネ世代の森山がバブル世代の半沢をリスペクトして行く過程も読ませどころのひとつ。
すべてが予定調和ですっぽりと収まってくれるので日頃の仕事の疲れを取るのには本当にオススメします。
現実はある程度は長いものに巻かれなければ生きていけなくて真似はできませんが、小説内の半沢には男として理想的で大きく共感できます。
内容的には企業買収の話で親会社と子会社との関係も面白いですが、個人的にはロスジェネ世代の森山と買収されそうになる東京スパイラルの瀬名社長との友情も素晴らしいですね。
恋愛模様が全然描かれなくてもこれだけ読ませるのは池井戸氏の筆力の高さ意外には考えられません。
まさに働く男たちの背中を押してくれる痛快な一冊。
コンプリートはともかく、主な作品は必ず押さえておきたい作家です。
(読了日11月9日)
評価9点。
-
『ポニーテール』 重松清 (新潮社)2012.12.01 Saturday
-
両親がお互いに再婚して新たに姉妹となった女の子の物語。
父親方が主人公格の小学4年生のフミで母親と死別、母親方が小学6年生のマキで父親と離別。
この年頃の2歳差って大きいですよね。
フミの新しいお母さんでマキの実のお母さんの言葉を借りれば“マキはちょっとヘンクツで無愛想だけど、フミは、とっても素直で、とっても意地らしいっ”と表現している。
実際二つの家族がひとつの家族になるのは難しいです。
いろんなエピソードを通して、人生に正解はないのかもしれませんが、重松氏は常に暖かいまなざしで良き解答例を導き出して読者に提供してくれます。
そして大変なのは子供たちだけじゃありません。
両親の心の葛藤も十分に描かれ伝わります。
そして読者は気付きます、この両親ならば紆余曲折はあろうがきっと安心であるということを。
読んでみて当たり前ですが、血のつながった親子同志は屈託がありません。
そして血のつながってない親子同志は遠慮をしそして気を使っています。
タイトルとなっているポニーテールは姉妹の絆の印となっているかのようです。
本来は結構深刻な話で描くのが難しい題材ですが、重松氏にかかると微笑ましく感じるから不思議ですね。
たまにみられるマキの優しさも意地らしいのですが何と言ってもフミの健気さには恐れ入ります。
最後の着地点のつけ方が重松氏らしく前向きであり、単に幸せな気分にさせられただけでなく、まるで読者も成長したかのような気分にさせられる読書でした。
(読了日11月2日)
評価8点。
< 前のページ | 全 [1] ページ中 [1] ページを表示しています。 | 次のページ > |