Search
Calendar
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< January 2014 >>
Sponsored links
徘徊ブログ
読書メーター
トラキチの今読んでる本
あわせて読みたい
あわせて読みたいブログパーツ
最近読んだ本
トラキチの最近読んだ本
鑑賞メーター
トラキチの最近観たDVD
New Entries
Recent Comment
Recent Trackback
Category
Archives
Profile
Links
mobile
qrcode
RSSATOM 無料ブログ作成サービス JUGEM
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

posted by: スポンサードリンク | - | | - | - |-
『起終点駅(ターミナル)』 桜木紫乃 (小学館)
初出「STORY BOX」 加筆改稿あり。著者お馴染の北海道を舞台とし「無縁」をテーマとした短編集。
桜木作品にハズレはありません。本作においてはいつもの桜木作品以上に孤独に苛まれつつも、強く生きていく人達の“再生”の姿がドラマティックに描かれています。

悲惨な状況におかれつつもなんとか希望を見出し前を向く姿が痛々しいけど切なく読者に伝わります。作品集のタイトル名どおり、それぞれの主人公たちが過去を振り返りつつも清算を行い、そして新たなスタート地点に立つ物語群なのですが、人によっては本当に残りわずかである人もいます。残りわずかである人ほど読者にとっては感動度の増す物語として吸収することが出来るような気がします。そして桜木作品を読んだ喜びというか満足感の結果として凄く体内にポカポカとして消化して行ってるような気持ちにさせられます。

とりわけ印象的なのは表題作の国選弁護士である鷲田弁護士と依頼人の心を通わす過程、そしてラストの32型テレビをプレゼントされたひらがなしか書けないたみ子さん、人生に覚悟は必要ですよね。あとは二つの物語で主役を張る若い新聞記者の山岸里和、紺野との確執や恋人圭吾との行く末も気になりますね。
釧路や札幌以外のスポットも出てきて、地名を地図で場所を調べるとより充実した読書を楽しめるような気もします。

余談ですが、時代小説の大家である山本周五郎や藤沢周平の作品を読み進めようと思っていても、私自身の心の中で葛藤が始まりどうしても桜木作品の未読のものを優先して手に取ってしまいます。
それは2人の作家と同じように読者の心に訴えかける作品を著者が世に送り出していると私自身が判断しているからである。これからも読者の心を揺さぶり人生の糧になる作品をずっと書き続けて行ってもらいたいものだと切に願っています。

評価9点。
posted by: トラキチ | 桜木紫乃 | 15:00 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ポトスライムの舟』 津村記久子 (講談社文庫)
芥川賞を受賞した表題作を含む2編からなる中編集。今回、続編が出たので再読したのであるが、文庫本の安藤礼二氏の洞察力の深い解説を読んでみて、自分自身が全然読みきれてないわという落胆した読書となったのも事実。
淡々と綴っているように見える津村作品であるが、奥が深いと言えば深いですね。
私的には表題作の方が津村作品のどちらかと言えば非主流作品、「十二月の窓辺」は王道的な津村作品だと分類しています。

どちらも、今を生きそして働く人たちの気持ちを代弁し、そして応援歌的な部分は確かにあると思います。ただ表題作の方は凄く現実的なんだけど夢を追いかけている部分というのが物語の根底に見え隠れしていて、逆に「十二月〜」の方はどっぷり現実的な部分を投げつけることによってやるせなさを訴えかけているような気がしました。
そのあたり凄く解釈が難しい作品で、発売されて五年経っているということも踏まえて考えてみるとあくまでも当時の世相を反映しているのだろうけど、幸せをもがきながらも模索している作品だということには変わりなくいつまでも色褪せることなく読み継がれていくのでしょう。ただ、やはり今回再読してみて主人公世代の女性向けの共感小説なのかなと改めて感じましたが、まあ当たり前だと言えばそうなりますね(笑)ただし、津村作品特有の字余り的な文章の長さはひとつのスタイルとして楽しめます。

読者にとってどちらが痛いかと言えば、人間関係の難しさを描いた「十二月の〜」だと思われます、会社を辞めるに至る経緯が描かれていて、似たようなことが実際ありますしそれだけ心に響く部分があると思います。
表題作は、世界一周旅行の代金(163万円)=年間手取り金額ということから発想を得て書かれた作品で、やはり根底にはロスジェネ世代の世相の象徴的作品として捉える事が出来るのだと思われます。それと主人公格のナガセを含む仲間たち同志のの距離感を味わう作品だとも言えます。
5年後を描いた続編が気になります、それは作者自身の変化を知るチャンスでもあると捉えています。

評価7点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 01:27 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『誰もいない夜に咲く』 桜木紫乃 (角川文庫)
桜木さんの独立した短編集は初めて読みますが、長編及び連作短編同様ひしひしと読者に訴えかける内容は健在です。桜木作品は本作で6作品目となりますが、どの作品を手にとっても並みの作家ならそのどれもが代表作と言えそうなクオリティの高さが味わえます。決して爽快感を味わえる読書とならないことはわかりながらもむさぼるように読む桜木作品。やはりその魅力はひたむきに生きる人間というものを他の作家よりも深く描けているからだと思います。

さて本作ですが全7編からなりますが、桜木作品のご多分に漏れず北海道が舞台となっています。異色なのは冒頭の「波に咲く」で嫁不足に悩む農村で中国人の女性を嫁とした男性主人公が描かれています。嫁の花海の芯の強さももちろんのことストーリー展開は本作中もっとも面白かったし男性をも巧みに描いていることに舌を巻かれた読者も多いだろうと思います。あとの6篇は女性主人公が続きますが冒頭の花海から引き継いだような力強い女性のオンパレード。3編目の「プリズム」がもっとも救いのない話でぐったりさせられますが各編の女性の生きざまを比べて読むとどっぷりとした読書を楽しむことができます。誰もがしたたかさとは縁遠い女性たちなのが桜木作品の特徴でもあると思われ唸らされます。
その中でも書き留めておきたいのはラストの「根無草」の主人公の母親の生きざまのすさまじさ。これはもう客観的に見て物悲しい人生なのですがドラマティックを通り越して力強すぎます。彼女の芯の通った生きざまが最後に娘であり主人公でもある六花の未来を明るくしたエンディング、印象に残りました。さて読み残しが少なくなってきた桜木作品、なんだか寂しくなってきました(苦笑)

桜木作品を読むと幸せと不幸せは背中合わせというか紙一重だということにハッとさせられ、そのハッとさせられるところが桜木作品が読者を虜とする所以であると思います。
尚、本作品集は単行本『恋肌』を大幅に加筆修正を施し「風の花」を追加して文庫化されたものだそうです。

評価9点。
posted by: トラキチ | 桜木紫乃 | 09:02 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『雪まろげ 古手屋喜十為事覚え』 宇江佐真理 (新潮社)
初出「小説新潮」、待望のシリーズ第二弾。前作『古手屋喜十為事覚え』 のラストで子供に恵まれない日乃出屋夫婦に捨子という形ですが子供(養子)を持つことができます。本作はその捨吉(赤ん坊)の登場で物語全体が和やかで微笑ましい雰囲気に包まれ、読者もより楽しく読めるようになっています。冒頭が捨子家族の実態を描いていてもっともやるせなく感動的な話となっていて、それにより喜十夫婦に育ててもらえるようになった子供の幸せさを際立たせる効果をもたらせているように感じられます。そのことは最終章で伯父の元で養われていた捨吉の姉や兄(幸太)たちとの対比で凄くあからさまになり、読者は満足して本を閉じることができます。

あとは、喜十が捨吉を連れて事件解決に奔走するシーンのエピソードなどが印象的ですが、結論として捨吉の登場により前作ではキャラが立ってなかった主人公である喜十の存在感というか人格が増したように感じられました。実の子以上に子供をかわいがることによって夫婦の絆はより深まって行きます。そして季節が移ろい行きますがこんな人生もいいものだと思わずにはいられません。あとラストの上遠野がおそめに一両を渡すシーンがもっとも印象的で、捨吉の姉たちのこれからの幸せを暗示しているかのようであり今回は前作以上に安堵感の高い読書を満喫させていただきました、作者に感謝です。

評価8点。
posted by: トラキチ | 宇江佐真理 | 14:53 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『リアスの子』 熊谷達也 (光文社)
評価:
熊谷 達也
光文社
¥ 1,785
(2013-12-14)

初出「小説宝石」、加筆修正あり。
教師体験のある作者の半自伝的及び作者の理想像を主人公の和也に投影した作品。1990年のバブル景気真っ只中の宮城県仙河海市の中学校が舞台の物語であるが、主人公和也の受け持つクラスに風変わりなスケバン風な転校生早坂希がやって来ます。爽やかで感動的なスポーツを絡めた教師と生徒との交流及び再生の物語なのですが、和也の成長物語として読むのが本来は正しい読み方だと言えそうです。というのは読む前は気付かなかったのですがどうやらシリーズ物らしくってずっと和也が主役を張っているみたいなのです。(「七夕しぐれ」(幼年期)→「モラトリアムな季節」(青年期))最初から読めば良かったとも思いましたが本作で出てくる初恋のナオミ先生、本作では距離を置いていますが恋していた青春時代を描いた第二作、あるいは31歳の和也の人格を形成したであろう幼年時代を描いた第一作、早く手に取ろうと思っています。

作者の代表作である『邂逅の森』で直木賞を受賞して今年で10年となる。受賞後、どちらかと言えば地道に執筆活動を過ごされたというイメージも強いのであるが、今回久々に作者の作品を手にとって、良い意味でやはり誠実な作品を書く作家だと思ったりする。
『邂逅の森』の頃は力強い作品を書く作家だというイメージが強かったのであるが、久々に熊谷作品を手にとって繊細で優しい作品を書くと感じ、他の作品も読んでみたいという衝動に駆られている。
それは他の大半の作家の作品が読者の“背中を押してくれる”作品群であるのに対して、作者のそれは読者の“背筋を伸ばしてくれる”作品であると感じ、それがとっても心地良いからである。
本作を読む限り、確かにエンターテイメント性では少し落ちるかもしれないけど、読者の心の底に染み渡るような内容の作品を書きはります。それはやはり創作上作者独自のスタンスを貫いていると言って良い部分であると思えますし、逆に熊谷作品に身を委ねて楽しめる読者はそれなりの誇りを持っていいのではないかと思ったりもします。

評価9点。
posted by: トラキチ | 熊谷達也 | 16:04 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ワン・モア』 桜木紫乃 (角川書店)
評価:
桜木 紫乃
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,575
(2011-11-29)

初出 「野生時代」&書き下ろし。6編からなる連作短編集。

桜木作品の力強さは数作品読まれた方なら誰しも感じられることだと思い、改めてこの場で説明の必要のないものだと思われますが、本作は他の作品では味わえないような爽やかさを堪能できる作品だと言えそうです。
最も重苦しいのは冒頭の「十六夜」で離島の診療所で働くヒロインと言える柿崎美和の姿が描かれているのであるが、自堕落と言ったら良いのでしょうか他人を傷つけやりきれない毎日を過ごしていますが、旧友であり不治の病に冒されている滝澤鈴音からの一本の電話で物語が動き始めます。本作を2人の女性の“究極の友情の
物語”そしてヒロイン美和の“再生の物語”として読めば二倍楽しめるのではなかろうかと思います。

2編目からは語り手が変わります、再生されるのは美和だけでなく鈴音の周囲を取り巻く人々が登場し読み手を飽きさせません。レンタルショップの店長の話は少し特殊ですが、それ以外に登場する(看護師、レントゲン技師、鈴音の元夫など)は大人としての立場をわきまえつつも前を向いて生き運命を切り開いて行きます。

本作において最終章の役割は大きく、爽やかなラストが胸を打ちます。他の桜木作品ほどどっしりと響く作品ではないのかもしれませんが読後感の良さは際立ったものだと思います。タイトル名も読者の背中を押してくれる作品であるのですが、鈴音の死を迎えるものの最終章の大団円は、鈴音の死を悲しむ以上に残されたものの幸せが目に焼き付いて離れないのですが、それは鈴音の人徳のなせるわざであることは明らかです。その最たるものはやはり美和の読者サイドからみた変化でしょう。自分を取り戻した美和の人物造形の巧みさを未読の方も是非味わってほしいなと思う次第である。

評価9点。
posted by: トラキチ | 桜木紫乃 | 22:47 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『円卓』 西加奈子 (新潮文庫)
評価:
西 加奈子
文藝春秋
¥ 494
(2013-10-10)

西作品を“独自の世界を構築している”と形容すれば有り体過ぎるもしれないが、それ以外に的確な表現が見当たらないのも事実である。
近年の傑作と言われている『ふくわらい』に通じる奇想天外な部分もあるのであるが、いい意味で少しこじんまりとまとめてくれているところが読者にとって距離感の近さを感じさせてくれる作品である。誰もが失なわれつつある“童心に帰る”という大切な気持ちを大阪弁を交えて語ってくれているのですが、なにわともあれタイトルとなっている“円卓”という言葉が素晴らしく胸に響きます。これは実際に8人家族の渦原家に置いてあるテーブルなのですが、物質的なものよりも一家の精神的支柱としての役割が大きい。
物語は主人公のこっここと琴子を中心に語られ、いろんな出来事を通して成長して行く姿が微笑ましい限りであるが、彼女の自由奔放さを取り巻く幼馴染のぽっさんや三つ子の姉たちなど個性あふれる面々によってシリアスな面も含めながら楽しく語られていることを忘れてはならない。
本を閉じ終える頃、私は家族がもう一人増える時に円卓も新しい住家に持って行って欲しいなと切に感じました。

本作品は芦田愛菜主演で映画化が決定しているのであるが、西作品の世界を実写化するのは本当に難しいと思ったりする。
原作の良さを損なわずにどうか楽しい映画に仕上がって欲しいなと思う。文庫本の解説は津村記久子さんが担当しているのであるが、西さんと親交の深い津村さんならではの解説文はさすがのひと言である。
私たち読者も西さんのように三つ目の目を持ったような視野の広い感覚で楽しく人生を旅したいものであると感じた。

評価8点。
posted by: トラキチ | 西加奈子 | 14:25 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『伊藤くん A to E』 柚木麻子 (幻冬舎)
評価:
柚木 麻子
幻冬舎
¥ 1,365
(2013-09-27)

初出 「GINGER L」加筆修正あり。
直木賞候補作品。今もっとも脂に乗っている作家のひとりといって良さそうな柚木さんですが、遂に直木賞候補となりました。
柚木作品のイメージは、他の作家よりも読みやすい躍動感溢れる文章で女性特有の奥底にある部分をあぶりだすのに長けた作家さんだという印象です。

ターゲットが若い女性読者の為に、登場する自己中心的な伊藤君が不甲斐なく滑稽に語られるのは仕方がないところであるし、現に不甲斐ないのですが、彼にうつつを抜かしている女性陣が男性読者視点からすれば滑稽でもあるが健気にも映ります。

コメディタッチの作品なのでご都合主義に溢れた作品が多い中、本作はピリッとスパイスの効いたところが特徴でもあります。
伊藤君が女性を翻弄しているようにも見えないことはないが本作に関しては登場する5人の女性主人公たちの生きざまに女性読者自身が自分を見つめ直す機会を与えられたとして読むべき作品なのであると考えます。
普通、こんな男にひっかるなんてという気持ちを強めて読んでしまうのですが、それぞれの女性が彼を土台というか踏み台にして前を向くところで各編が終わります。それによりが伊藤君が憎めなく感じられた方も多いかも。
逆を言えば、なんで伊藤君になんか熱をあげるのと思った読者は作者の術中にまんまと嵌っているのです(私もそうですが)。整合性を求める作品ではありませんので(笑)

今回直木賞の候補にあがったことで、本作を読み終えて他の柚木作品を手に取る方も多いと思います。より売れっ子作家として階段を駆け上がって行くことでしょう。
直木賞候補作品としてはあと一歩という予想はしていますが、最終章で描かれるEさん、他章よりも年を取った女性の落ちぶれたところから這い上がって行くであろう姿が結構リアルというかコメディタッチを超越しているところが印象的です。最終章があるから少なくとも引き締まった作品になったような気がします、未読の方、是非確かめてください、そして部屋を片付けましょう(笑)

評価7点。
posted by: トラキチ | 柚木麻子 | 14:59 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『あとかた』 千早茜 (新潮社)
評価:
千早 茜
新潮社
¥ 1,470
(2013-06-21)

初出「小説新潮」。6編からなる連作短編集。
読者の体をもちくりちくりと刺すような感覚で読んでしまいます。刺されて痛いんだけど結構何と言ったらいいのだろう、自分自身と向き合うための痛みと言ったら良いのでしょうか、貴重な読書体験をしたと感じます。最初の自殺する中年男性から群像劇的に繋がって来ます。正直、最初はつまらないと思って読んでいましたが杞憂に終わりました。2編目からはその中年男性に関連する人達が出てくるのですが、まるでその中年男性の存在感をあぶり出してくれるかのごとく作者の描写は輝き始め、いつしか読む終わるのが惜しいような気持ちにさせられます。

それぞれの登場人物、心に傷や他人には知られたくない秘密ごと持っているどこか自然体で生きれないといっても言い過ぎではないような人達が登場し、彼らの時に弱い行動にため息をつき、少し前向きな気持ちになっている彼らに胸をなでおろします。
作品を通して、中年男性の死を無駄にしてはいけないという気持ちが貫かれている点がやはり素晴らしいのでしょうか。登場人物も読者層に合わせて、後半登場する若い男女(松本とサキ)や不倫をしている人妻やそれに気づかない夫などバラエティに富んでいますが、個人的には最後の恋人に過去の堕胎を隠しているフィドル弾きの女性が一番印象に残りましたが、若い読者が読まれたらサキと松本の重いけど前向きな話が印象に残ると思います。
作者のイメージからしてもっと幻想的な作品かなと思っていましたがそうでもなく、身につまされるとまではいいませんが、生きていく上で何が必要か考えさせてくれる作品であると思います。本を閉じたあと、スッキリとした気持ちに包まれました。

作者の千早さんの作品は今回初めて読みますが、北海道出身で幼少期をザンビアで過ごした経歴を持ち立命館大学を卒業後、デビュー作「魚神」で小説すばる新人賞及び泉鏡花賞を受賞しています。
本作は島清恋愛文学賞をも受賞され今回直木賞の候補作となっています。本作での受賞は多分厳しいとは思いますが持っているポテンシャルは極めて高い作家であると言えましょう。

評価8点。
posted by: トラキチ | 千早茜 | 23:39 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『ピエタ』 大島真寿美 (ポプラ社)
評価:
大島 真寿美
ポプラ社
¥ 1,575
(2011-02-09)

著者の代表作と言える2012年度本屋大賞3位作品。まさに読書をするよろこびはここにある美しい作品です。『三月』に続いて2作品目の著者の作品であるが、繊細な中にも慈愛に満ちた内容は他の作家では味わえない領域に達している作品だと感じます。個人的には大賞を受賞しても遜色ないと思いますし、それほどひとりでも多くの方に手にとって頂けたらと思いが強いですね。

この作品の優れたところを簡単に述べると、舞台が海外(バロック時代の水の都ヴェネェツィア)で史実に基づいた作品でありながらミステリー要素を織り込み、読みやすく読者を導き、終盤に感動的な場面をこれでもかというように畳み掛けている点に尽きると思います。
ピエタというのは実在した孤児院の名前であって、主人公であり語り手のエミーリアも赤ん坊の時に捨てられてピエタで育っています。物語はピエタで長年指導をしていた“四季”で著名な作曲家ヴィヴァルディがウィーンで亡くなったという知らせが届いた時点でスタートします。

ヴィヴァルディが亡くなったことによって、彼に返したはずの一枚の楽譜、この楽譜が後々大きな感動をもたらすのですが(読んでのお楽しみですね)、物語は主人公の周囲のピエタ及びヴィヴァルディに関わる人達との過去及び現在の関わりを描くことによって緩やかに進んで行きます。

当初、その緩やかさにいささか退屈な物語かと思った読者も多いでしょう、ところが中盤に本作のキーパーソンであるクラウディアの登場によって一気に物語が読者サイドにたなびいてくるのです。彼女の登場はヴィヴァルディ自体を読者に対して身近なものとして、あたかも1700年代のヴェネツィア共和国に居合わせているかのような感覚にさせられます。作品を通して感じた著者の素晴らしいところは、作品全体にヴィヴァルディに対してリスペクトした気持ちを漂わせているということを根底として、やはりこの世に生を受けたものに対する命の尊さが十分に読者に対して伝わってくる点だと思います。
主人公の出自も含めて、これは誰もが強くそして深く読みとれることだと思います。
それにしても、後半のクラウディアの病気に対する看病の場面やロドヴィーゴさんの歌の場面等、凄く印象的でいつまでもくっきりと読者の脳裏に焼き付いて離れないシーンが盛りだくさんの作品です。人と人との繋がりの大切さを思い起こさせてくれる本作、名作という名にふさわしい作品であると確信しています。それとともに巻末の参考文献の多さ、著者に本作を書きあげた敬意を改めて表したいと思う。

(読了日2013年12月28日)

評価10点。
posted by: トラキチ | 大島真寿美 | 14:59 | comments(0) | trackbacks(0) |-