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『妻が椎茸だったころ』 中島京子 (講談社)2014.04.28 Monday
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個人的には『のろのろ歩け』テイスト(直球的と言ったらよいのでしょう)のほうが好みですが、作家も書き分けが必要なのでしょう。
一番ゾッとさせられたのは冒頭の海外留学していたリデル通りの話、エンディングの締め方は素晴らしいですね。あとは表題作でしょうか、読み終えて亡くなった妻に対する愛情がじわっと伝わる部分はうまく書けていると思います。
実は本作「日本タイトルだけ大賞」を受賞しているのであるが、タイトル名ほど奇抜には感じなかったのである。原因として直前に本谷有希子さんの『嵐のピクニック』を読んだことと、あとは中島さんの文体自体が至って普通に読みやすくって美しいことがあげられる。
本谷さん→ぶっ飛んでいる(いい意味で)、中島さん、→大人のおとぎ話的だと捉えるべきなのでしょう。
普通の人が不思議な話に出くわしているので、読者との距離感が近いのでしょうね。好みの分かれる作品で個人的には「小さいおうち」を未読の人には勧めようとは思いませんが、中島作品は一貫して丹念に書かれているなとは再認識しました。機会があれば未読の作品を手にしたいと思っている。
評価7点。
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『嵐のピクニック』 本谷有希子 (講談社)2014.04.27 Sunday
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13編のショートストーリー集ですが、読んでいてずっと翻訳本を読んでいるような気持でした。以前読んだ、ミランダ・ジュライのように奔放で、そしてミルハウザーのように幻想的な文章そして内容です。
本作の素晴らしさは作者の発想の豊かさに尽きると思われます。私たち読者は得てして、真実は一つだけだと思い込んでますが、作者にかかれば真実はいくつにも広げられます。
作者の作品は概して、ある年齢層より下の女性に広く受け入れられやすいのでしょうが、本作を読む限り以前読んだ作品(『生きてるだけで、愛』)よりもっと突き抜けた感がし、ある一定以上の年齢の読者が読んでも楽しめるんじゃないだろうかと思います。
とはいえ、何編かは一読ではわかりづらいものもあるのですが、逆にその研ぎ澄まされた感性が見事開花したようなものにも邂逅することが出来ハッとさせられたのも事実です。
心に残ったのは冒頭のピアノレッスンの話「アウトサイド」、妻がボディビルに励む「哀しみのウエイトトレーニー」、ラストの試着室の話「いかにして〜」あたりで作者の柔軟性があって奇抜な展開は読者の想像を超えています。
くしくも村上春樹の『女のいない男たち』を読み終えたあとに読んだ本作であるが、村上氏の作品のように海外で売れる作家が続々と出て業界全体がもっと活性化されることを強く望んでいます。
多分本作のような作品は日本でよりも海外のほうが評価されるのかもしれませんね。
評価8点。
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『女のいない男たち』 村上春樹 (文藝春秋)2014.04.25 Friday
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どちらかといえば、長編に関しては多少なりともわかりづらいというか奥が深いというか、読者側の読解力にも問題があるのだろうが、評価の分かれる作品が多いともけど、本作だけでなく短編集においては旧作も含めて手に取りやすい作品となっている。
それはやはり長編よりも少なくとも読者にとって”サラッと読め普遍的”な内容となっているところが要因であろうと思われます。言い換えれば決して難解ではなく心にスッと落ちていき溶け込む内容なのである。
だから、個人的にはこれか村上氏の作品を読む読者には本作のような作品集を先にオススメしたいなと思っている。なぜなら喪失感はもちろんのこと、『ノルウェイの森』や『1Q84』では味わえない身近さとお洒落さを兼ね備えているからである。もっと簡単に言えば博識で柔軟性のある頭脳から繰り出される村上氏の短編は繰り返し読めば読むほど味わい深いものとなっていると考える。
6つの世界観が味わえるために6編とも素晴らしい。
過去の作品よりもやはり年輪を感じさせ、男性側に悲哀感が漂っているのであるが登場人物それぞれが作者を想起させるのであるが、特に際立っているのは『木野』である。
この物語は妻に裏切られて離婚してバーを経営する木野という男が描かれているのであるが、カミタという風変わりな人物の描写や、木野の達観した姿が描かれ終盤に妻を許すシーンが印象的であった。
少し深読みかもしれないけど、世間一般的には男というものは身勝手な生き物という認識が強いけど、決してそうではなく全体を通して恋煩いに苦しみ男など、男の諸事情を説明している悲哀さが詰まった短編集なのであるという認識で本を閉じたのであるが、再読したらまら新たな発見があると思います、それがきっと村上春樹の魅力なのでしょう。
評価9点。
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『珈琲屋の人々』 池永陽 (双葉文庫)2014.04.22 Tuesday
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主人公で珈琲店のオーナー行介は過去に人を殺めた前科があり、出所後もずっと引きずって生きています。
ただ彼を取り巻く人たちはその事件の経緯を知っていて、どうしても彼を容認というか弁護してしまいます。
物語のバックグラウンドとしてその気持ちがあるので読者もやはり主人公に同情的な気持ちをもって読み進めてしまいます。
各編いろんな人が登場し、いろんな悩みを抱えていますが、主人公のその後の生き様を自分自身の教科書的な存在として捉え、自身の人生を次のステップに進めます。
他の作家と比べるとやはり人生の年輪を感じさせる内容となっていると思います。展開的には少し強引なところも目立ちますが、まるでビターな珈琲を飲んでいる感覚で楽しめます。
個人的には「決着をつけたがる」男たちよりも、手切れ金を欲しがる千香や私が結婚するまで行介に結婚させたくないと言い張る朱美の気持ちのほうが印象に残りました。
やはり男は滑稽に描かれますよね(笑)
ドラマとは基本的に設定が違っていて(小説では過去の恋人、ドラマでは被害者の妻)、小説では冬子がどちらかと言えば脇役的な存在となっていると感じられます。
ただ行介自身の目を見張る更生ぶりは冬子の存在なしにはありえず、彼の冷静さをさせているところが素晴らしいですし、いわばそれを理解するのが読者にとって一番の読ませどころだと感じます。
多分ドラマは本作の話だけで終わるでしょうが、続編もぜひ手に取りたいと思っています。
評価8点。
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『霧の果て 神谷玄次郎捕物控』 藤沢周平 (文春文庫)2014.04.21 Monday
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正直言って他の藤沢作品ほど心に響くものは到底ないのだけど、捕物と母や妹そして父親の死の謎解き要素とを割り切って読むエンターテイメント作品としてばそれなりには楽しめる作品となっている。
全8編からなります本作はひとつひとつのエピソードは面白く、また藤沢氏特有の読むやすくて端正な文章は健在であるが、調べてみると雑誌掲載が75年6月号より80年5月号までと断続掲載されていて、やはり一気に書き切っている他の著名作品と比べて内容・構成ともにやや散漫な印象は拭えないような気がします。
やはりもう少し人情を絡ませるのと、お津世との恋愛模様をクローズアップさせるべきだったと思われるのですが、藤沢氏も人の子だったので安心した面もあります(笑)
ドラマ版はまだ途中だが視聴者のツボを押さえたかなり内容自体が脚色されていて工夫されていると感じられる。
個人的には本作よりも名前の似た『風の果て』のほうをお勧めしたいし同じハードボイルド系ならば「彫師伊之助捕物覚えシリーズ」の方をお勧めしたい。
いずれにしてもドラマ化を機に藤沢作品が一人でも多くの方に読まれることを切望しています。
評価7点。
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『ワンナイト』 大島真寿美 (幻冬舎)2014.04.15 Tuesday
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ステーキハウスのオーナー夫妻が妹の結婚を危惧して開いた合コン、そこに登場する男女6人の人間模様がどちらかと言えばコメディタッチに語られます。
初めは変わり者の妹である歩が中心となって語られるのかと思ってましたが語り手がバトンタッチされて行き楽しさが倍増されています。
語り手が変わるためにいろんな結婚観や恋愛観を楽しめる作品となってますが、とりわけ男性陣で既婚者なれど参加した米山が最も滑稽に描かれていて女性読者側から見れば痛快な話に仕上がっています。
登場人物の年齢設定が35歳過ぎとなっていて、そうですね近年の晩婚全盛時代から言えばちょうど適齢期の年代と言っても過言ではないのかな、結婚はもちろんのこと、人生においてのターニングポイントとなった6人の顛末を楽しみにして読まれたら面白いのでしょう。
ラストに歩の姪が登場し、合コンから数年後が描かれています。いろんな人生がありますが、まるで読者に悔いのない人生をともっと言えば男性選びは慎重にと説き伏せてくれているかのように感じられました。
評価7点。
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『風葬』 桜木紫乃 (文藝春秋)2014.04.10 Thursday
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舞台は道東の釧路及び根室で2組の家族(書道教室を営む篠塚夏紀と元小学校教師の沢井優作)が描かれているのであるが、その2組の家族(それぞれの母と父)の接点がこの物語のすべてと言って過言ではないのであろう。
認知症を患っている母親の“ルイカミサキ”という言葉を聞いて夏紀が涙香岬を訪れ物語が進みだします。
拿捕事件という北海道特有の題材も使われており作者の郷土に対する深い愛情を感じずにいられません。
物語全体ミステリー&サスペンスタッチな面もあり、他の桜木作品と比べて異色と言えばそう言えるのかもしれませんし、初期作品(成長過程作品)ということだと納得が行くのでしょう。
桜木作品の特徴はやはり読んだ後に心に沁みる部分が大きいことだと思いますが、本作も運命に抗えない辛さが根底にあるのですがやはり哀しすぎるのと、あと他作では感じなかった読者として消化しきれないやるせなさを感じたのです。
原因として本作はわずか200ページあまりの作品ですが詰め込み過ぎたことがあげられると思います。
決して薄っぺらいということはないんだけど、深い愛を掴みとることが出来なかったような気がします。
気になったことを書きとめておくと優作の妻の風美、是非幸せを掴みとって欲しいです。
評価7点。
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『怒り』(上・下) 中央公論新社 (吉田修一)2014.04.06 Sunday
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いろんな楽しみ方が出来る作品だとも言えそうですが、個人的には作者の代表作だと言われている『悪人』ほど完成度の高さを感じることが出来ませんでした。それはやはり犯人の動機が曖昧というか救いが見いだせず読者にとって納得し辛いレベルのものだったような気がするからです。ただ読物としてはミステリー要素に満ちていて3人のうち誰が犯人であるかどうかが楽しめますのでエンタメ作品としてまずまずでしょう。作家側の立場から見れば、誰が犯人であっても着地点をつけれたと思うし楽しく書けた作品ではあると思います。どちらかと言えば3人の男たちの周りにいる人達の人を“信じること”とか人を“大切にする気持ち”を感じ取る作品だと思います。
タイトル名となっている“怒り”という言葉が上手く収斂されていないのが残念ですが、逆に辰哉の怒りが最も如実に出ていたような気がします。犯人以外の2人の男や北見刑事も含めて登場人物すべての幸せを願って本を閉じました。そういった意味合いにおいては読者サイドが“救い”を与える作品だとも言えそうです。作者にはこれからもいろんな人の人生を描いて欲しいと思います。映像化希望。
評価8点。
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