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『アイネクライネナハトムジーク』 伊坂幸太郎 (幻冬舎)2014.11.26 Wednesday
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登場人物が微妙いや巧妙に繋がっていて、相関図がなく読み進めていくのが却って物語に集中する結果となったのは良かったように思われる。すべての人物が個性的な魅力に包まれているのであるが、やはり織田夫妻の夫妻たる所以が滑稽であり物語全体の“楽観的な”モードを支配しているように感じられた。
あとは斎藤さんの登場のさせ方が面白く、まあその当たりは本作が書かれた経緯と関連するものであり、作者の思い入れが詰まった部分でもあるのであろうが、後半に登場する口パクをすすめられた漫才師のエピソードも印象的であり、まあ日本人のヘビー級チャンピオン自体が現実的ではないのだけれど、楽しいお話だからいいじゃないという気持ちにさせられるのは作者の力量以外にはありえない。
そしてゴールド免許を持っていたり、トイストーリーを観ていない読者は良い宿題を与えられたのだけど、それもすべてが心地よい読書を受け入れ、伊坂ワールドを満喫した証拠であると考えるのであるが、もう少し余韻に浸っていたい気もするのは私だけであろうか。そう、ゴングの前か後かなんかどうでもいい話ですよね。
評価9点。
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『不自由な絆』 朝比奈あすか (光文社)2014.11.25 Tuesday
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そしてその二本の柱を描きつつも、読み終えた後に女性の友情と生き方についてもじっくりと考えさせられホッとされた読者も多いような気がします。
子供は親を選べませんが、親の方は子供を育てる義務があって本作は高校の同級生であるリラと洋美、それぞれの子供である光鳥と敏光がいじめられる側といじめる側で勃発し、二人の友情が崩れます。
本作の上手いと思われる点は、いじめる側の洋美サイドの苦悩を描いている点があげられると思います。そして大変な母親と対比する存在としてのそれぞれの父親たちの描かれ方も特筆すべき点でしょう。とりわけリラの夫のだらしなさが印象的でそれによって母親の自立が促された点は読み逃してはけない。そう女性の自立→成長の物語でもあるのです。現在進行形で子育てをしている女性が読まれたら苦しい読書となるかもしれませんが、是非旦那さんにも読ませてあげてください。辛いのは男だけじゃない、作者からの熱いメッセージだと受け取っています。
評価8点。
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『男ともだち』 千早茜 (文藝春秋)2014.11.21 Friday
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ハセオという2歳年上の男ともだちとの関係について、読書によっては羨ましく思ったり、あるいは蔑んだりその当たりはとりわけ女性読者にとっては自分の過去や経験と照らし合わせることによって捉え方が違ってきて、そこが主人公に対する共感度に差異が生じるとは思いますが、少なくともハセオに対して大いなる影響を受けてきたのは事実であって、少し達観した気持ちで読み進めると作者の卓越した文章力も含めてそれなりに楽しめる作品と言えるのかなと思う。
男女の友情は成り立つのかという究極の問いには答えが見つけれてない読み取りになってしまったのだけど、恋愛も含めてかなりの忍耐力を要することが理解できる。
そのあたり、主人公の神名は恵まれていて途中で登場する美穂と比べることによってどちらが幸せかを語れば神名に軍配を上げたいと個人的には思うのである。そしてそれにはハセオの存在が非常に大きくて、私的には友情と愛情の両方が満ちあふれた関係であると捉えている。
この先2人がどうなるかは作者にもわからないかもしれないけど(笑)、お互いがプラスの存在であって、ただお互いに割り切れない部分があり肉体関係まで進まないけど、常にお互いが代用の効かない相手として認めているところが読み取れたのは収穫であった。
正直、男性中年読者とすれば共感できる小説ではないけれど、小説でしか体験できない世界をどっぷりと味わうことができる作品だとは感じたのである。そしてラストの終わり方は非常に作者の才能を感じた。直木賞受賞も近いんじゃないかと思われる。
評価8点。
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『平成猿蟹合戦図』 吉田修一 (朝日文庫)2014.11.18 Tuesday
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やはり読ませどころは後半の主人公格である純平が衆議院選挙に出て、それに向かって他の主要人物が力を合わせる所であろうか。その力の合わせ方が東京歌舞伎町から秋田へと舞台が変わるのはもちろんのこと、それぞれの人物がいろんな過去や経験や鬱屈を踏みつつも力を合わせてゆく過程がやはり心地よいと感じます。とりわけ高坂さんの奮闘ぶりは印象的でした。
あと描かれている女性陣(夕子、美姫、友香、美月、サワ)が繊細というよりも力強く素敵でそれぞれのサイドストーリーを読んでみたいなという気持ちにさせられます。
本作を作者の代表作だと思われる方は少ないと思いますが、単行本の発売順で言えば『横道世之介』や『太陽は動かない』の間に出せれた作品で、芥川賞作家としての称号とイメージが付き纏った作者がよりエンターテイメント小説作家としての磨きをかけるためにいろんな挑戦を試行錯誤している時期だったと感じられます。
そこに代表作である『悪人』からもっと良質な作品をと努力を惜しまない作者の意気込みを感じたのは私だけでしょうか。
評価8点。
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『水声』 川上弘美 (文藝春秋)2014.11.12 Wednesday
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都と陵、2人の姉弟の読者が決して真似の出来ない愛の物語なのだが、作者が描くと緊張感とほんわか感がミックスされていて心地よく読者の胸に響くから不思議なものだ。
物語は姉妹の愛の形の行方と、彼らの両親の生い立ちというか真実の究明という2つの軸で進められていく。時間軸が過去に遡ったり現代に戻ったりで少し混乱させられたのは事実であるが、親の存在感が人格形成に影響するということや、誰しもが訪れる死というか死を見据えた人生の過ごし方、不思議な物語の中にも勉強することが多く盛り込まれています。
読ませどころはやはり、父親に関する真実を知りそれを自分自身で上手く吸収して生きて行くところでしょう。
母親が亡くなった年齢を過ぎて、育ての父親に同居しようと提言するところがこの物語の根幹をなしている姉弟の強い絆のように感じられましたが、読み違いかもしれません。
とにかく作者独自の世界に浸れたと感じたことは充実した読者だったという証だと思います。
評価8点。
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