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『ビターシュガー 虹色天気雨2』 大島真寿美 (小学館文庫)2015.06.29 Monday
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今回は前作よりも物語に変化が起こるのですが、そこにはやはり市子という人物の良い意味での人柄というものが影響しているように感じます。奈都が美月を預けたりするのも彼女のおおらかな人柄に安心して委ねることが出来るのでしょう。そこには長い年月に培われた友情というものがどっかりと座っていて、読者サイドにとっては市子と友人であることが奈津にとっては凄く誇らしく感じていることが伝わってきます(これはまりが市子に対する気持ちにも通じると思います)
彼女たち3人の関係って理想的なものに近いのでしょう。女性読者に聞いてみたいです。男性目線でも彼女たちの関係はお互いの距離感が素晴らしいが故、これからも続いて行くのでしょう。
そしてまりについて付け加えると、今回は新たな恋を進行中で人間的にグッと成長したように感じ物語に幅を持たせてくれていると感じます。これからは是非幸せをつかんでほしいですね。そして市子側が3人を中心として連帯感を持って生きていて読み手にとっては凄く心地よいのですが、対極をなす房恵の存在も忘れてはなりません。現実にも彼女のような無意識なようでしたたか(取りようによってはしたたかなようで無意識)な存在はきっといますよね。女性の現実と理想ってかけ離れているのでしょうか。少しでも模索して生きたいという人たちに送る応援歌のような小説です。美月が彼女の母親やその友達たちに囲まれ、そして母親に似た道を進んで行く所は微笑ましくもあれど焦れったくもありますが、母親以上にしあわせいっぱいに生きて欲しいな。それが現実的な私の願いでもあります。
評価7点。
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『虹色天気雨』 大島真寿美 (小学館文庫)2015.06.28 Sunday
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男性読者サイドで言わせてもらえば、かなり肩身の狭い読書を強いられるのだけれど(苦笑)、それがなかなか楽しいのはやはり滑稽に見える男性陣と、女性の友情の深さを体感できたからではないかと思うのである。
唯一の既婚者である奈津から夫が失踪したので娘を預かってほしいと主人公格の市子に連絡が入るところから物語が始まるのであるが、やはり女性たちは弱々しいようで逞しい。
そして失踪した憲吾はだらしないことこの上ないがそれは本作にとっては決まりごとのように感じる。途中で房恵という3人とは違ったタイプの女性を登場させ、憲吾の失踪の謎についてよくない疑念が浮かび上がるけれど、その真相が明らかになるところが驚かされるんだけれど、彼女たちの友情をより深めた事件でもあったように捉えるのは読み間違いなのだろうか。
いずれにしても、男性間の友人では味わえない女性間(これも幼いころからお互いに知っているからだと思いますが)の結託の強さに少し呆れつつもかなり感心せざるをえなかった。これが理想的な女性観の友情なのでしょう。そして奈津の娘である小学生である美月がこのまま素敵な大人に成長することを願って本を閉じた読者が大半であると思われる。それでは続編も続けて読みます。
評価7点。
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『小暮写真館(上・下)』 宮部みゆき (講談社文庫)2015.06.26 Friday
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現代ものと時代ものをほぼ交互に書き分ける技量はお馴染みのものであるが、やはり現代ものにおいては少年の描き方がとっても卓越していて読者を唸らされてしまう。以前写真館だった古家に引っ越してきた花菱家でおこる心霊写真の謎解きものとして物語は進められていきますが、本作も他の宮部作品の例外ではなく、主人公である高校生の花ちゃんがとっても高感度の高い少年であり読者を物語の中に誘います。もちろん彼を取り巻く家族(特に弟)や友人たち(テンコにコゲパン)、そして不動産屋の面々も十分に個性的であり、社会派現代ものでは味わえないほっこり感がいいのでしょうか。
二つの事件の真相に現代社会の裏側を抉ったりあるいは人間の奥底に潜む本能というか個人事情と言った方がいいのかな、そういうものも読み取れますが、基本的には花ちゃんをとりまく青春物語として読み進めていった方が楽しめるのだろうかなと思ったりします。推測ですが下巻で亡くなった妹風子の話が語られ、泣かせてくれるのを期待したいなと思っている。
下巻にも二つの物語が語られている。上巻がいわば心霊写真についての謎解き要素が強かったのであるが、下巻は花ちゃん含めて登場人物たちの過去を語り、それぞれの成長を含めた人となりが描かれます。
前半の小暮おじさんの満州での体験談、現実にもあったことで目を背けてはいけません。そして脇役ですけれどコゲパンの恋の行方も楽しかったです。
そして風子の死の件のエピソード、やはり盛り込まれてました。本作の奥の深さの一番の要因となっています。
特筆すべきは陰の主人公だと言える垣本順子、上巻の登場時はどちらかと言えば鬱陶しい変わった女の子だという認識しかなかったのですが、そこはさすが宮部みゆきですよね。ページを進めるに連れて花ちゃんだけでなく読者にとってもとっても気になる存在となっていきます。いろんな読解の仕方がありそれが読書の楽しみでもあるのですが、個人的には本作は“英一の成長と順子の再生の物語”だと捉えている。小暮おじいさんが満州で体験したシーンが凄く読者に響き、決して会えないんだけれど英一や光を中心として彼らの心の礎となり光を照らす効果覿面です。
人間誰しも抱え持っている辛い過去や現在のこと、それを未来を見据えて生きていくことの大切さを教えてくれている本作は、登場人物たちは一見個性的にも見えますが、実は現代社会においては結構ステレオタイプなんじゃないかと思います。作者が主人公である英一を優しい少年から素敵な一人の男として成長させたのは、順子に対する恋心だけでなく弟や亡き妹に対する愛情を常に携えているからだと考えます。決して楽しいことばかりではないけれど、彼らの行く末をずっと見守っていきたいと感じました。たかがフィクション、されどフィクション、さすが宮部みゆきですよね。
読み終えた後に表紙写真を見ましたが、やはり胸が一杯で良い読書体験をしたということなのでしょうね。
評価9点。
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『藁の楯』 木内一裕 (講談社文庫)2015.06.03 Wednesday
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救いのない殺人鬼を守るために5人の警察管に福岡から東京までの移送が命じられるのであるが、いつどこで10億を狙って襲撃が行なわれるか結構ハラハラしてページを捲ることが出来ます。
主人公でもあるSP銘苅のひたすら任務を遂行しようという強い気持ちにある時は偉いなあと思い、ある時はそこまでしなくともと思いますが、その心の葛藤が読んでいて一番の心地良さでもあると感じる。正義を貫くことはとっても難しいし、この相手に対して貫く必要があったのだろうか考えずにいられない。あとは残りの4人の警察官ひとりひとりの考え方の違いが披露されるのであるが、それぞれに対して共感が出来ます、それはやはり犯人があまりにも救いがないということと相まっているように感じます。
ラストは結構モヤモヤ感もありますが、ありえない設定の上でそれなりに楽しめる作品であったというのが正直な感想であります。
評価7点。
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