-
2015年間ベスト102015.12.31 Thursday
-
2015年間ベスト10
恒例の年間ベストテン発表です。初読の本限定でひとりの作家で一作品のみとします。
1 『世界の果てのこどもたち』 中脇初枝(講談社)
2 『ストーナー』 ジョン・ウィリアムズ (作品社)
3 『永い言い訳』 西川美和 (文藝春秋)
4 『低地』 ジュンパ・ラヒリ (新潮社)
5 『ナオミとカナコ』 奥田英朗 (幻冬舎)
6 『昨夜のカレー、明日のパン』 木皿泉 (河出書房新社)
7 『霧 ウラル』 桜木紫乃 (小学館)
8 『下町ロケット2』 池井戸潤(小学館)
9 『晴れたらいいね』 藤岡陽子 (光文社)
10 『絶叫』 葉真中顕(光文社)
それでは良いお年を、来年も良い本に出会えますように。
-
『はぶらし』 近藤史恵 (幻冬舎文庫)2015.12.29 Tuesday
-
脚本家として生活する鈴音の下に高校時代の友達である水絵から突然電話がかかってくることから物語が始まる。
水絵は離婚し子連れでリストラにあったばかりで、一週間だけ泊めて欲しいと泣きついてくる。しぶしぶ承諾したところから物語が動き出すのであるが、予想通りの展開と言えばそれまでですが、やはり秀逸なのはタイトル名となっている“はぶらし”に関するエピソード。これは読んでのお楽しみであるけれど、節操のない水絵の心情を最も表わしたエピソードで、読者並びに鈴音は開いた口が塞がりません。
その後はお決まりのパターンと言えばそれまでなのですが、予定通りに滞在が延期されます。読んでいてやはり子供(耕太君C)が可哀想ですね。あとは女性読者がどちらに共感というか同情するかによって捉え方も違ってくるのでしょう。リストラ、DVもっと言えば結婚して子供を持つことの意義について考えさせられます。一見、鈴音が利用されたようにも見受けれますが、やはりそれほど親しかったわけでもないのに、ずるずるひきずって同居を許した親切心が問題を大きくしていると感じる。
鈴音に対するイライラと同情は男性読者や独身女性の共感を呼ぶのでしょうか。いずれにしても、水絵が完全な悪人でないところが物語に奥行きを与えているようです。耕太君が普通に育っているところが印象的で、子供の持つことの責任の重さを再認識した読者も多いと思います。ラストは予想よりも爽やかで、ドラマがどう描かれるか楽しみにしたいなと思います。
評価8点。
-
『モラトリアムな季節』 熊谷達也 (光文社文庫)2015.12.25 Friday
-
本作に至っては凄く自由奔放に書かれた印象が強く、ところどころに作家となった現在からその当時の時代を振り返ったシーンが散りばめられていて前作以上に私小説度が上がっていることが最大の特長だと感じます。
感動的なのはやはりナオミとの劇的な再会でしょう、彼女が登場しなければ小説も成り立たず、読み手の興味も削がれたことでしょう。彼女とカーコとの三角関係に悩むシーンがリアルで青春を満喫できます。
ただ和也という主人公ですが、悪く言えば少年時代(第一作)の正義感溢れる性格から優柔不断な性格に変貌されていて、浪人生の本分をわきまえていない所が目立っているような気がします。
自伝的作品なためにやむをえないのでしょうが音楽喫茶に嵌ったり、小説を書いたり、予備校をサボったり。勉強に身が入らずこれでは受験の神さまがなかなか微笑んでくれませんよね。あとは安子ネエが本作でも重要な役割を演じていますがユキヒロの登場が少なかったのが残念でもあったけれど。
先日、仙台を観光した際にカーコと分かれた勾当台公園を訪れたのであるが、若き日の作者がこのあたりを彷徨っているのをイメージしたのであるが、作品としてのインパクトや完成度は決して高くはないけれど、熊谷達也という作家をこれから何冊か読もうと思っている読者には必読書だと言えよう。なぜなら作者の仙台という街に対する愛情が詰まっているからである。
評価8点。
-
『感情8号線』 畑野智美 (祥伝社)2015.12.23 Wednesday
-
畑野作品の御多分に漏れず、女性読者を念頭にして書かれていて各章ごとに違った価値観の女性を登場させていて、まるで若い読者にとっては自分探しの物語のようにも見受けられる。そこに夢が決してないわけではないけれど、三角関係、DV、不倫など常に現実を見据えて生きてゆくことを余儀なくされている女性たちが微笑ましくもあります。
タイトル名は環状八号線のもじりであり、直線は近いけれど電車で行くと遠いという本作の内容をも表わしています。
テーマとしては“ままならない恋愛”を描いているのでしょう、恋愛は決して楽しいことばかりじゃありません。その中で経験するビターな部分を読者がどう捉えるによって評価が分かれてくるのでしょう。個人的には最初と最後に出てくる世間知らずのお嬢さんの麻夕ちゃんのその後が気になります。女性読者の失笑を買うでしょうけれど(笑)
評価7点
-
『5人のジュンコ』 真梨幸子 (徳間書店)2015.12.20 Sunday
-
漢字は違えど、ジュンコと発音する5人の女たちのドロドロな物語が展開されます。中心となるのは、「伊豆連続不審死事件」の犯人である佐竹純子。彼女を起点として他のジュンコたちがどういうふうに繋がっていくか、いわゆる不幸の連鎖が語られます。そしてラストでどんな結末が待っているのか捲るページが止まりません。個人的には最も不幸なのは久保田芽以の娘のような気がしますがどうでしょうか。
ドラマもかなり面白く、その原因の一つとして出演者(ジュンコ達)が女優だけあって容姿が整っているために、原作で暗に仄めかされているなぜこんな女に男たちが騙されるのだろうかという疑念がほとんど生じなくて、リアルではないけれどハラハラゾクゾクしながら視聴することが出来ます。真梨作品、続けて読むのは辛いけれどたまに手に取るには精神衛生上そんなに悪くもないかなと思ったりします。
それはやはり人間誰しも、人を羨んだり蔑んだりする気持ちを持っているからかもしれず、小説の登場人物のように行動を起こすことはご法度ですが読んで楽しむのぐらいは許されるのでしょう(笑)
評価8点。
-
『七夕しぐれ』 熊谷達也 (光文社)2015.12.12 Saturday
-
通常は小学五年生の男の子が主人公の話となれば、ほろ酸っぱい成長物語という物語が用意されていると思われがちであるが、作者は容赦なく大人が目を背けているというか関わらずにおこうとしているシリアスな問題を主人公に投げかける。
作者は本作においてイジメと差別との違いを読者に説いていて、それは学校内においてのノリオたちの行動から終盤の先生たちの行動までを非難し、読者に正義を貫くことの大切さを説いている。
それと本作を語るのに忘れてはならないのは昭和というノスタルジックな雰囲気がもたらしたということと、ちょうど仙台の七夕(通常の一か月遅れ)に物語が終焉を迎えるということが読者に大きなインパクトを与えます。
読者の根底には子供たちに罪はないということが常にあり、ユキヒロとナオミと次第に仲良くなる和也の姿が微笑ましいを超えて感動的である。『邂逅の森』などの力強い作品が目立っている作者であるが、繊細なタッチの作品も非常にうまいということを付け加えておきたいなと思う。
そして、ラストで父親が原因で和也が友達2人と離れ離れになったのであるが、それはあらたなる物語できるためのスタートでもある。和也とナオミとの再会がとっても楽しみである。
評価8点。
< 前のページ | 全 [1] ページ中 [1] ページを表示しています。 | 次のページ > |